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04・おつかい猫のしましまさん
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「あっつぅ……」
西日で煮えた部屋の熱が消え、涼しい風が入るような頃になって、やっと帰宅できた。
車の鍵を棚上に置き、
「うわぁぁっ! って、しましまぁ!?」
「にゃあ」
棚上に置物のように、しましまがすまし顔で座っていた。
「おま、ドコから入ったんだ?」
窓は網戸だが、きちんと閉まっていた。
こいつの神出鬼没っぷりはこの半年で慣れたが、やっぱり驚く。
ベッドに目を向ければ、枕の上にはいつも通りの一通の白い封筒。宛名は無いが、差出人は、“総司”、と、よく知った角ばった右上がりのクセのある文字が書かれてあった。
半年前に亡くなったはずの、幼馴染の名前が。
封のされてない封筒から出した便箋は細長い一筆箋。そこには、
『ゴロゴロマンゴーゼリーを食べたがってる』
だけ。
「……」
誰が? なんて問う必要もない。
クチを開けたまま、テレビのコマーシャルをガン見する姿が想像できるから。
「分かった、明日買ってくる」
しましまは“分かればいい”と云うように目を細め、もう用はないと立ち上がり窓際へ、網戸を開けてやろうとすれば、
タン!
しましまは網戸に爪をかけ、勢いよく引き開けやがったのだ。
「えー……」
飛び降り、振り返ることもなく暗がり消えたしましま。
「自分で開けれるのかよ……」
しましまが届けるのは総兄の言葉。
死んだはずの人間から手紙が来るなんて、誰にも言えやしないけれど。
誰も信じやしないし、オレも誰にも言うつもりもない。
この半年、引き出しの中には総兄から届いた手紙がある。
初めて届いたのは、半年前のあの日、珍しく定時上がりした金曜日の夕方。
部屋に入ると、朝閉めたはずの窓が開いており、そこからノラ猫が出て行く姿を見た。
部屋を荒らされた様子はなかったが、ベッドに差出人が“総司”と書かれた封筒が一通、置かれていた。
久しぶりに見るがよく知った、クセのある総兄の字。
『雪を連れ戻して、後を追わないように、側にいて、雪を死なせないでくれ』
“雪を死なせないでくれ”この言葉に身体が冷えた。
冗談ならそれでいい、誰かのイタズラならそれでもいい、冗談であってほしいと、そう願い、総兄にも、ユキにも繋がらないスマホを握ったまま、車を走らせていた。
この手紙を信じたから間に合った。信じて、追いかけたからユキを連れ戻すことができた。
総兄の両親も、ユキの両親も今はもうこの町には住んでいない、身内でもないオレが総兄の事故を知るのは、きっともっと後だっただろう。
意識のない総兄が、この手紙を書くことも、届けることも出来ないのは分かっていても、オレは総兄からの手紙だと信じてる。
こんなこと、誰も信じないだろうし、信じなくていい。
オレだけが信じていれば。
総兄は今でもユキを見守っている。
「ゴロゴロマンゴーゼリーかぁ……」
やっと見せるようなった笑顔を思い出すと、車の鍵を手にした。
結果、市内のコンビニを五件もはしごする羽目になったのだが……。
西日で煮えた部屋の熱が消え、涼しい風が入るような頃になって、やっと帰宅できた。
車の鍵を棚上に置き、
「うわぁぁっ! って、しましまぁ!?」
「にゃあ」
棚上に置物のように、しましまがすまし顔で座っていた。
「おま、ドコから入ったんだ?」
窓は網戸だが、きちんと閉まっていた。
こいつの神出鬼没っぷりはこの半年で慣れたが、やっぱり驚く。
ベッドに目を向ければ、枕の上にはいつも通りの一通の白い封筒。宛名は無いが、差出人は、“総司”、と、よく知った角ばった右上がりのクセのある文字が書かれてあった。
半年前に亡くなったはずの、幼馴染の名前が。
封のされてない封筒から出した便箋は細長い一筆箋。そこには、
『ゴロゴロマンゴーゼリーを食べたがってる』
だけ。
「……」
誰が? なんて問う必要もない。
クチを開けたまま、テレビのコマーシャルをガン見する姿が想像できるから。
「分かった、明日買ってくる」
しましまは“分かればいい”と云うように目を細め、もう用はないと立ち上がり窓際へ、網戸を開けてやろうとすれば、
タン!
しましまは網戸に爪をかけ、勢いよく引き開けやがったのだ。
「えー……」
飛び降り、振り返ることもなく暗がり消えたしましま。
「自分で開けれるのかよ……」
しましまが届けるのは総兄の言葉。
死んだはずの人間から手紙が来るなんて、誰にも言えやしないけれど。
誰も信じやしないし、オレも誰にも言うつもりもない。
この半年、引き出しの中には総兄から届いた手紙がある。
初めて届いたのは、半年前のあの日、珍しく定時上がりした金曜日の夕方。
部屋に入ると、朝閉めたはずの窓が開いており、そこからノラ猫が出て行く姿を見た。
部屋を荒らされた様子はなかったが、ベッドに差出人が“総司”と書かれた封筒が一通、置かれていた。
久しぶりに見るがよく知った、クセのある総兄の字。
『雪を連れ戻して、後を追わないように、側にいて、雪を死なせないでくれ』
“雪を死なせないでくれ”この言葉に身体が冷えた。
冗談ならそれでいい、誰かのイタズラならそれでもいい、冗談であってほしいと、そう願い、総兄にも、ユキにも繋がらないスマホを握ったまま、車を走らせていた。
この手紙を信じたから間に合った。信じて、追いかけたからユキを連れ戻すことができた。
総兄の両親も、ユキの両親も今はもうこの町には住んでいない、身内でもないオレが総兄の事故を知るのは、きっともっと後だっただろう。
意識のない総兄が、この手紙を書くことも、届けることも出来ないのは分かっていても、オレは総兄からの手紙だと信じてる。
こんなこと、誰も信じないだろうし、信じなくていい。
オレだけが信じていれば。
総兄は今でもユキを見守っている。
「ゴロゴロマンゴーゼリーかぁ……」
やっと見せるようなった笑顔を思い出すと、車の鍵を手にした。
結果、市内のコンビニを五件もはしごする羽目になったのだが……。
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