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12・しましまさんと内緒の思い出ー1
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「にゃー」
いつもの朝、身支度を終えた頃、しましまさんに呼ばれ縁側の戸を開けた。
「おはよ、しましまさん!」
しゅるんと足に身体をすり寄せてから、定位置の縁側のお座布へごろん。
今日も良い天気だ、今朝は朝顔が四つ、開いていた。
「今日は何、拾ってきたの?」
覗き込めば、お座布から転がってきは大きめのハンコだった。
あれ、これ、見たことがあるような……と、ゴムの印面のを見れば、手作りだと分かる。拙いが、鳥の翼の片側が彫ってあった。
「あ、これ小学校で作ったものだ、わぁ、懐かしー」
図工の授業で作ったハンコだったのを思い出した。
私、なに彫ったんだっけ? 友達とお揃いで何か彫った覚えがあるのだけど、思い出せず首を傾げてしまう。ただ、ハンコ作りが楽しくて、しばらく消しゴムに彫ることがクラスで流行ってた。
「にゃあーん」
ゴロゴロスリスリしましまさんのごはん催促。
「はいはい、今あげるね」
「ユキちゃんっ! おはよっ! しましま、何持って来た!?」
「桐矢くん、どうしたの?」
桐矢くんは肩で息をするほど急いで来たらしい。
カゴを覗き込む、焦った様子にハンコだと伝えれば、「ハンコかぁー……」と、脱力して息を吐いた。
「どうしたの?」
問えば、たしん! 横でしましまさんの自慢のしっぽが床を叩いた。
たしん、たしん!
つん、と、胸を反らせて行儀よく座っているしましまさん。
「しましまぁ~……」
伸ばした手をするりと避けて私にくっつくしましまさん。
「ねぇ、どうしたの?」
しましまさんの喉を撫でながら聞いても、「なんでもない……」と、眉間にしっかりシワ寄せて、なんでもある顔して桐矢くんは台所へ入っていってしまった。
「しましまっ、じゃっま!」
「にゃっ!」
しましまさんのしっぽを踏んで文句言う桐矢くん。
今日の朝ごはんは、具沢山の味噌汁と、厚切りのハムは両面コンガリで、しらす入りの卵焼きと、トマトとキュウリ。
『いっただきます!』
「にゃ」
「ユキちゃん、足、大丈夫か?」
「ヘーキ、昨日はありがとねー」
何度も躓いた下駄の先は、黒い塗装が剥げて傷だらけになってしまったけれど、足は何ともなかった。
支えてもらわないと、まともに歩くとこともできなかった昨日のことを思い出すと、申し訳なくなる。
「浴衣に合うサンダルもあるらしいから、次はそれがいいかもな」
「そ、だねー」
来年を言われると、考えないようにしていた先を突きつけられ、お腹に重いものが溜まっていく……。
「にゃぁ」
しましまさんの丸い手がちょこんと触れた。
「ユキちゃん、どうした?」
「ううん」
総司くんがいなくなって、先を考えるのが怖くなった。
「にゃあ」
腕に乗せられた、ぷにぷに肉球が、大丈夫だよと言ってくれてるみたいで、力が抜ける。
「しましまさん、ずっと側にいてね」
「にゃん」
任せて、と返事をしてくれたようで心が軽くなる。
「なんで、それ、しましまに言うかなー……」
「え?」
なぜか疲れたような顔でため息の桐矢くん。食後のお茶を片手に立ち上がり、しましまさんの拾いものの入ったカゴをまた覗きに行った。
「ハンコ懐かしいな、五年の時作ったやつだ」
「桐矢くん、何作ったか覚えてる?」
「……はっ!? え! あ、いや、お、覚えて、ないなっ!」
「……」
目を背ける桐矢くん。
今の質問に何をそんなに慌てることがあった? あー、そうか、と、気づきニンマリしてしまった。
「もしかして、好きな子の名前彫っ」
「いやいや! そんな、するわけないだろっ、授業で作るもんなんだからっ」
被せ気味に言われたが、慌てた様子が図星のようで、にまにましてしまった。
しましまさんも目を細めて、しっぽを揺らしながら、面白そうに桐矢くんを見ている。
十五、六年も前の話なのに、そんなに慌てなくてもいいのに。と、思いつつもこれ以上突くとハブてて部屋から出てこないから、って、それは子供の頃の話だけど、突くのを止めておいた。
「ほら、買い物行くんだろ、車まわしてきたから」
「うん、ありがと! 着替えてくるね」
週に一度、買い出しに桐矢くんは車を出してくれる。
今日はワンピースを着てみた。お化粧はほんの少し、見苦しくないように、隠したいものを隠すだけで、髪は結わずに、そのままブラシを入れただけにした。
準備を終えた後は大事な日課。総司くんと一緒の写真が飾ってある棚から、便箋を取り出した。
『総司くんへ
今日の拾い物は小学校の図工の時間に作ったハンコだったんだよ、懐かしいよね、総司くんは何を作ったか覚えてる?』
桐矢くんの慌てた姿を見て、総司くんの作ったハンコが気になってしまったのだ。
いつもの朝、身支度を終えた頃、しましまさんに呼ばれ縁側の戸を開けた。
「おはよ、しましまさん!」
しゅるんと足に身体をすり寄せてから、定位置の縁側のお座布へごろん。
今日も良い天気だ、今朝は朝顔が四つ、開いていた。
「今日は何、拾ってきたの?」
覗き込めば、お座布から転がってきは大きめのハンコだった。
あれ、これ、見たことがあるような……と、ゴムの印面のを見れば、手作りだと分かる。拙いが、鳥の翼の片側が彫ってあった。
「あ、これ小学校で作ったものだ、わぁ、懐かしー」
図工の授業で作ったハンコだったのを思い出した。
私、なに彫ったんだっけ? 友達とお揃いで何か彫った覚えがあるのだけど、思い出せず首を傾げてしまう。ただ、ハンコ作りが楽しくて、しばらく消しゴムに彫ることがクラスで流行ってた。
「にゃあーん」
ゴロゴロスリスリしましまさんのごはん催促。
「はいはい、今あげるね」
「ユキちゃんっ! おはよっ! しましま、何持って来た!?」
「桐矢くん、どうしたの?」
桐矢くんは肩で息をするほど急いで来たらしい。
カゴを覗き込む、焦った様子にハンコだと伝えれば、「ハンコかぁー……」と、脱力して息を吐いた。
「どうしたの?」
問えば、たしん! 横でしましまさんの自慢のしっぽが床を叩いた。
たしん、たしん!
つん、と、胸を反らせて行儀よく座っているしましまさん。
「しましまぁ~……」
伸ばした手をするりと避けて私にくっつくしましまさん。
「ねぇ、どうしたの?」
しましまさんの喉を撫でながら聞いても、「なんでもない……」と、眉間にしっかりシワ寄せて、なんでもある顔して桐矢くんは台所へ入っていってしまった。
「しましまっ、じゃっま!」
「にゃっ!」
しましまさんのしっぽを踏んで文句言う桐矢くん。
今日の朝ごはんは、具沢山の味噌汁と、厚切りのハムは両面コンガリで、しらす入りの卵焼きと、トマトとキュウリ。
『いっただきます!』
「にゃ」
「ユキちゃん、足、大丈夫か?」
「ヘーキ、昨日はありがとねー」
何度も躓いた下駄の先は、黒い塗装が剥げて傷だらけになってしまったけれど、足は何ともなかった。
支えてもらわないと、まともに歩くとこともできなかった昨日のことを思い出すと、申し訳なくなる。
「浴衣に合うサンダルもあるらしいから、次はそれがいいかもな」
「そ、だねー」
来年を言われると、考えないようにしていた先を突きつけられ、お腹に重いものが溜まっていく……。
「にゃぁ」
しましまさんの丸い手がちょこんと触れた。
「ユキちゃん、どうした?」
「ううん」
総司くんがいなくなって、先を考えるのが怖くなった。
「にゃあ」
腕に乗せられた、ぷにぷに肉球が、大丈夫だよと言ってくれてるみたいで、力が抜ける。
「しましまさん、ずっと側にいてね」
「にゃん」
任せて、と返事をしてくれたようで心が軽くなる。
「なんで、それ、しましまに言うかなー……」
「え?」
なぜか疲れたような顔でため息の桐矢くん。食後のお茶を片手に立ち上がり、しましまさんの拾いものの入ったカゴをまた覗きに行った。
「ハンコ懐かしいな、五年の時作ったやつだ」
「桐矢くん、何作ったか覚えてる?」
「……はっ!? え! あ、いや、お、覚えて、ないなっ!」
「……」
目を背ける桐矢くん。
今の質問に何をそんなに慌てることがあった? あー、そうか、と、気づきニンマリしてしまった。
「もしかして、好きな子の名前彫っ」
「いやいや! そんな、するわけないだろっ、授業で作るもんなんだからっ」
被せ気味に言われたが、慌てた様子が図星のようで、にまにましてしまった。
しましまさんも目を細めて、しっぽを揺らしながら、面白そうに桐矢くんを見ている。
十五、六年も前の話なのに、そんなに慌てなくてもいいのに。と、思いつつもこれ以上突くとハブてて部屋から出てこないから、って、それは子供の頃の話だけど、突くのを止めておいた。
「ほら、買い物行くんだろ、車まわしてきたから」
「うん、ありがと! 着替えてくるね」
週に一度、買い出しに桐矢くんは車を出してくれる。
今日はワンピースを着てみた。お化粧はほんの少し、見苦しくないように、隠したいものを隠すだけで、髪は結わずに、そのままブラシを入れただけにした。
準備を終えた後は大事な日課。総司くんと一緒の写真が飾ってある棚から、便箋を取り出した。
『総司くんへ
今日の拾い物は小学校の図工の時間に作ったハンコだったんだよ、懐かしいよね、総司くんは何を作ったか覚えてる?』
桐矢くんの慌てた姿を見て、総司くんの作ったハンコが気になってしまったのだ。
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