11 / 25
11・おつかい猫のしましまさん
しおりを挟む
いつか二人で。と、叶わない夢になっていたユキと二人で行く天神祭。
叶っても、一人になれば気持ちは重いままだった。シャワーを浴びてもスッキリしない。
目に焼き付いて消えないのは、ユキの髪に咲いていた朝顔の髪留め。
今朝、しましまが拾って来たのは銀の髪留めだった。
アレをバレッタと云うのだと初めて知った。
名前なんて知らずに買ったものだから。
総兄とオレは良い意味でも悪い意味でも似ていた。
趣味も好みも。
好きになった人も。
引き出しを開け、取り出すのは、捨てられなかった六年前の誕生日プレゼント。
青い朝顔が三つ並んだバレッタは、さっきまでユキの髪に咲いていたものと全く同じで、リボンとカードが付いたまま袋に入っていた。
ユキの、青い朝顔の浴衣に合わせて買った髪留め。
誕生日には早いけれどと、天神祭の日に渡すつもりだった。
後悔は、あの日、待ち合わせの時間に数分早く行っていれば、の思い。
総兄と考えることが丸かぶりだとは思わなかった。
あの日、ユキの長い髪を纏めた髪飾りは、オレが手にしている物と同じで、
「えへへ、総司くんにもらったの、似合う?」
浴衣と同じ、青い朝顔がユキの髪で咲いていた。
似合ってた。絶対似合うって、オレもこれしかないと思っていた物だから。
「浴衣とお揃いので、よく似合ってる」
用意した青い朝顔の髪留めは渡せず、そんな言葉を返し、誕生日当日には別の物を渡した。
総兄とオレはよく似ている。
あの日、待ち合わせの場所にオレが先に着いていれば、ユキの髪を飾ったのはオレの朝顔で、その年、ユキが手を取ったのは総兄ではなく……、と、何度思ったか、捨ててしまおうと、何度も思い、それでも捨てられず、見るたびに引きずりまくった想いを、自分の女々しさを直視して頭を抱えてしまうのだけど……。
「にゃあ」
「うわあっ!?」
気配を消して、棚の上、置物のように伏せているのはしましま!
「おま、また、しましま! お前、ドコから入って来たんだよ!」
網戸は閉まっているのに、一体ドコから入って来るのか、相変わらず神出鬼没っぷりなしましまだ。
そして、やっぱり、ベッドの枕の上には一通の封筒。差出人の字はいつもより尖っているように見え……、恐る恐る便箋を開けば、
『一年間は待てっていったよな』
「うわぁ……」
思わず手紙を放り頭を抱えてしまった。
たしん!
顔を上げれば、たしん! と、しましまのしっぽが棚を打った。
たしん! たしん!
しましままで半眼で、責めるているようだ。
「うわぁぁぁ……」
履きなれない下駄に躓いたユキを抱きとめた時、一瞬、何も考えられなくなった。
清潔な、いい匂いがした。ユキが石鹸派なのは今も変わってなかった。
いつもより色づいた唇から目が離せなくなって……。
たしんっ!
「はい、すみません、ごめんなさい。あと半年は何もしませんっ!」
見てた。見てたんだよ。あの人はっ、あの時、いきなり割れたバレッタは、総兄が邪魔したものだったんだ!
たしん!
総兄はオレにユキとの将来を託してくれた。
たしん!
ただ……。
たしん! たしん!
一年間、つまり総兄の一周忌を終えるまで手をすな。と、ユキの気持ちを無視するな、と。
たしん!
解禁まであと半年。だが、問題はユキだ。
「にっぶいんだよなぁ……、あいつ」
総兄が、たぶん初めて、ユキに告白したのは中学生になった年。学校が別れることで焦っての行動だったのだろう。
「僕は、ユキが好きなんだっ」
耳まで真っ赤になった総兄に、傍から見ても本気が見えて、正直、先を越されたと焦ったのに、なのに、当の本人は、へらりと笑って、
「うん! 私も総司くん好きだよー、あ、もちろん、桐矢くんも好きよー! へへへ」
しばらく部屋から出てこなくなった総兄を、機嫌が悪くなった理由も分からずでも、おやつで釣って必死に機嫌を取ろうとするユキの姿に、オレは小学五年生ながらも胸を痛めた思い出がある。
総兄の気持ちは、たぶん、プロポーズするまでユキに通じていなかった。
今のオレも、きっと、……絶対に、家族のようにしか思われていないだろう。
「ユキに、男として意識されるまでが難しいんだよなぁ……」
朝顔のバレッタを見つめて出るは深い深いため息。
とっと、棚から飛び降りたしましまは、
ガリッ
「痛ッ! あっ!」
引っ掻かれ、落としたバレッタを銜えしましまは窓際へ、
「ちょっ!」
タンッ!
器用に爪をかけ、網戸を引き開け庭に飛び降りた。
「ちょっ、ちょーっ!?!?」
しましまは、朝顔のバレッタを銜えたまま、暗がりを駆けて行きやがった。
「え、あいつ、まさか……」
カードを見れば、六年前の物だと、オレからだと、しっかり分かるモノ。
後悔と未練だだ漏れなあのバレッタを、
「ユキに、届ける気か……?」
目の前が暗くなるとは、こういう事なのだろう。
オレは、しましまが消えた暗がりを、いつまでも、いつまでも眺めていた。
叶っても、一人になれば気持ちは重いままだった。シャワーを浴びてもスッキリしない。
目に焼き付いて消えないのは、ユキの髪に咲いていた朝顔の髪留め。
今朝、しましまが拾って来たのは銀の髪留めだった。
アレをバレッタと云うのだと初めて知った。
名前なんて知らずに買ったものだから。
総兄とオレは良い意味でも悪い意味でも似ていた。
趣味も好みも。
好きになった人も。
引き出しを開け、取り出すのは、捨てられなかった六年前の誕生日プレゼント。
青い朝顔が三つ並んだバレッタは、さっきまでユキの髪に咲いていたものと全く同じで、リボンとカードが付いたまま袋に入っていた。
ユキの、青い朝顔の浴衣に合わせて買った髪留め。
誕生日には早いけれどと、天神祭の日に渡すつもりだった。
後悔は、あの日、待ち合わせの時間に数分早く行っていれば、の思い。
総兄と考えることが丸かぶりだとは思わなかった。
あの日、ユキの長い髪を纏めた髪飾りは、オレが手にしている物と同じで、
「えへへ、総司くんにもらったの、似合う?」
浴衣と同じ、青い朝顔がユキの髪で咲いていた。
似合ってた。絶対似合うって、オレもこれしかないと思っていた物だから。
「浴衣とお揃いので、よく似合ってる」
用意した青い朝顔の髪留めは渡せず、そんな言葉を返し、誕生日当日には別の物を渡した。
総兄とオレはよく似ている。
あの日、待ち合わせの場所にオレが先に着いていれば、ユキの髪を飾ったのはオレの朝顔で、その年、ユキが手を取ったのは総兄ではなく……、と、何度思ったか、捨ててしまおうと、何度も思い、それでも捨てられず、見るたびに引きずりまくった想いを、自分の女々しさを直視して頭を抱えてしまうのだけど……。
「にゃあ」
「うわあっ!?」
気配を消して、棚の上、置物のように伏せているのはしましま!
「おま、また、しましま! お前、ドコから入って来たんだよ!」
網戸は閉まっているのに、一体ドコから入って来るのか、相変わらず神出鬼没っぷりなしましまだ。
そして、やっぱり、ベッドの枕の上には一通の封筒。差出人の字はいつもより尖っているように見え……、恐る恐る便箋を開けば、
『一年間は待てっていったよな』
「うわぁ……」
思わず手紙を放り頭を抱えてしまった。
たしん!
顔を上げれば、たしん! と、しましまのしっぽが棚を打った。
たしん! たしん!
しましままで半眼で、責めるているようだ。
「うわぁぁぁ……」
履きなれない下駄に躓いたユキを抱きとめた時、一瞬、何も考えられなくなった。
清潔な、いい匂いがした。ユキが石鹸派なのは今も変わってなかった。
いつもより色づいた唇から目が離せなくなって……。
たしんっ!
「はい、すみません、ごめんなさい。あと半年は何もしませんっ!」
見てた。見てたんだよ。あの人はっ、あの時、いきなり割れたバレッタは、総兄が邪魔したものだったんだ!
たしん!
総兄はオレにユキとの将来を託してくれた。
たしん!
ただ……。
たしん! たしん!
一年間、つまり総兄の一周忌を終えるまで手をすな。と、ユキの気持ちを無視するな、と。
たしん!
解禁まであと半年。だが、問題はユキだ。
「にっぶいんだよなぁ……、あいつ」
総兄が、たぶん初めて、ユキに告白したのは中学生になった年。学校が別れることで焦っての行動だったのだろう。
「僕は、ユキが好きなんだっ」
耳まで真っ赤になった総兄に、傍から見ても本気が見えて、正直、先を越されたと焦ったのに、なのに、当の本人は、へらりと笑って、
「うん! 私も総司くん好きだよー、あ、もちろん、桐矢くんも好きよー! へへへ」
しばらく部屋から出てこなくなった総兄を、機嫌が悪くなった理由も分からずでも、おやつで釣って必死に機嫌を取ろうとするユキの姿に、オレは小学五年生ながらも胸を痛めた思い出がある。
総兄の気持ちは、たぶん、プロポーズするまでユキに通じていなかった。
今のオレも、きっと、……絶対に、家族のようにしか思われていないだろう。
「ユキに、男として意識されるまでが難しいんだよなぁ……」
朝顔のバレッタを見つめて出るは深い深いため息。
とっと、棚から飛び降りたしましまは、
ガリッ
「痛ッ! あっ!」
引っ掻かれ、落としたバレッタを銜えしましまは窓際へ、
「ちょっ!」
タンッ!
器用に爪をかけ、網戸を引き開け庭に飛び降りた。
「ちょっ、ちょーっ!?!?」
しましまは、朝顔のバレッタを銜えたまま、暗がりを駆けて行きやがった。
「え、あいつ、まさか……」
カードを見れば、六年前の物だと、オレからだと、しっかり分かるモノ。
後悔と未練だだ漏れなあのバレッタを、
「ユキに、届ける気か……?」
目の前が暗くなるとは、こういう事なのだろう。
オレは、しましまが消えた暗がりを、いつまでも、いつまでも眺めていた。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる