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10・しましまさんの縁結びー6
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「っと、ユキちゃん、前見て」
躓くのはこれで何度目か。
危ないからと、繋いでいた手は桐矢くんに縋るように腕を組まされた。
私はまだ、人混みの中に総司くんを探していた。
夢、幻、なんでもいい、もう一度、会いたい。
「うにゃーん」
「っ!」
振り向けば、金魚すくいの水槽に引っ付いているしましまさんの姿があった。
「うわっ、しましま、ダメだ! 餌じゃないからな!」
「きゃー、おいで、しましまさんっ」
引き離されても視線は名残惜しそうに水槽へ。
とりあえずしましまさんを抱えて、金魚すくいの屋台から離れた。
「ねこちゃーん」「あ、トラまるー」しましまさんは意外と顔見知りが多いようで、すれ違う人にいろんな名前で呼ばれていた。
「しましま、浮気者だな」
まるで違うと言うように、しましまさんは私の頬に擦り寄った。
何ソレかわいい! 大丈夫よ、しましまさん、私が一番だと信じてるから!
「ユキちゃん、何食べようか」
「うーん」
悩む。
どれも食べたい。香ばしい香りに目移りしてしまっていつも決められない。
キョロキョロしていると屋台から離れたベンチに座らされた。
「しましまと待ってて、適当に買ってくるから」
「はーい」
しましまさんが喉を鳴らしながら、黒目をまん丸にして見上げてくる。
柔らかな毛を撫でて思い出す。今までもそうだった。アレもコレも食べたいけど、全部食べれないから悩んで、総司くんと桐矢くんが一つずつ買ってきたものを三人で分けていたことを。
食べるのは少量だから三人で全ての屋台を制覇、なんてしていた。
六年前までを思い出しながら、それでも目は自然と、人混みの中に総司くんを探していた。
「ただいま」
「おかえり、わぁいい匂いっ」
たこ焼き、焼きそばが一パックずつ、焼き鳥が四本、フランクフルト一本、そしてペットボトルのお茶が二本。お金を渡そうとしたけど断られた。桐矢くんが大人になってしまった。ここは素直に感謝して、いただきますと手を合わせた。
「あちっ、おいし!」
「にゃー」
たこ焼きは外はカリカリ中トロトロで美味しかった。
「しまった、ビール買ってくれば良かった」
「うにゃー」
しましまさんのお強請りアピールを無視して、桐矢くんは二本目の焼き鳥を囓った。
「にゃん!」
お祭りで食べるのはまた各別だ。
しましまさんが何度も桐矢くんの食べ物だけに手を出していたけど、とうとう爪がフランクフルトを捕らえ、咥えて物陰に行ってしまった。
「しましまぁ~……」
「ふふふ」
お腹も膨れて、私たちはかき氷をつつきながら神社を目指した。
「はぁ、やっと着いたぁ……」
神社までの長い石段は運動不足には辛かった。
何度も躓き、桐矢くんに引っ張られるように上がってきた。
もう足が痛い、座りたいけれど、賽銭箱にお賽銭を入れ、鐘を鳴らし拝んで、暗がりの石のベンチへ向かった。
下駄はやっぱり失敗だった。
やっと座れると、気が緩み、また躓いた。
「わっ、ごめん、ね?」
抱き留められ、見上げた桐矢くんの顔が近かった。
桐矢くんは私を抱き留めたままで動かない。
「桐矢くん?」
さっきより、もっと近くなったような気が?
あ、れ……、まって、顔、近すぎじゃ?
「とう……」
ガチンッ
「きゃっ!」
「え!?」
耳元の金属音と、足下に何か落ちた音。そして、いきなり軽くなった頭と、胸元に流れてきたまとめたはずの髪。
「割れてる」
桐矢くんが拾い上げたのは、二つに割れたバレッタだった。
「ウソっ、あ、あー……、壊れてる……」
バネが飛んだバレッタは、朝顔の飾りのついてない裏側が真っ二つに割れていた。
「……六年も前のだもんね、バネが劣化してたのかなぁ……。桐矢くん? どうしたの?」
桐矢くんは両手で顔を覆ったまま、しゃがみこんでいた。
「総兄に邪魔された気する……」
「え? なに?」
「なんでもない」
「にゃあーん」
「あ、しましまさん」
足元で喉を鳴らして擦り寄るしましまさんをもふもふ撫でまくる。
「休憩したら帰ろうか」
「うん」
「にゃーん」
帰りに買うのは総司くんへのお土産のりんご飴。
私たちも六年前までのように、りんご飴を齧りながら帰った。
「誘ってくれてありがと、楽しかったし、美味しかった!」
「次は下駄じゃなくてサンダル、用意しないとなー、じゃ、おやすみー」
「うん、おやすみ」
桐矢くんの背が玄関の外灯から見えなくなるまで見送った。
「次……かぁ」
来年の天神祭、私は誰と行くんだろう……。
灯りをつけて、縁側のしましまさんのお座布に置かれた封筒に気づいた。
出かける前に全ての戸締りは確認して出たが、それはしましまさんが届けてくれた総司くんからの手紙だった。
『雪へ
浴衣、よく似合ってたよ、でも来年はサンダルにした方がいいですね』
やっぱり居たんじゃない!
少し乱暴に仏間に続く襖を開けた。
「チラ見せじゃなくて、ちゃんと出てきてよ! 総司くんなら、お化けでもっ、足無くても、いいからさぁ……」
額縁の中の彼は緩い笑顔のまま何も答えてくれない。
「にゃあーん」
すり寄るしましまさんを抱きしめ、ふかふかな背に顔を埋めた。
「ふ……ぅ……」
泣かないって約束した。
「にゃあ」
「う……」
総司くんと約束した。
「にゃぁぁ」
大丈夫、泣かない。泣かない。
「にゃう」
慰めてくれてるのか、頬をざりざりした舌で何度も舐めてくれた。
「ごめんね、総司くん、もらったバレッタ、壊れちゃった……、浴衣とお揃いのだったのに……」
六年前、誕生日のプレゼントでくれた、浴衣とお揃いの青い朝顔のバレッタ。
ソレは、その日、その時の彼の表情、声を、記憶の引き出しから開ける鍵と同じようなものだった。
総司くんから貰ったものが壊れるのは、まるで、思い出す鍵を失くしてしまったような気がして、どんどん思い出せなくなってしまいそうで、自分の中から総司くんが消えてしまいそうで、怖くなる。
「私、来年も天神祭に行けるのかなぁ……」
「にゃう」
しましまさんは、慰めるように頬に額を擦り寄せてくれた。
躓くのはこれで何度目か。
危ないからと、繋いでいた手は桐矢くんに縋るように腕を組まされた。
私はまだ、人混みの中に総司くんを探していた。
夢、幻、なんでもいい、もう一度、会いたい。
「うにゃーん」
「っ!」
振り向けば、金魚すくいの水槽に引っ付いているしましまさんの姿があった。
「うわっ、しましま、ダメだ! 餌じゃないからな!」
「きゃー、おいで、しましまさんっ」
引き離されても視線は名残惜しそうに水槽へ。
とりあえずしましまさんを抱えて、金魚すくいの屋台から離れた。
「ねこちゃーん」「あ、トラまるー」しましまさんは意外と顔見知りが多いようで、すれ違う人にいろんな名前で呼ばれていた。
「しましま、浮気者だな」
まるで違うと言うように、しましまさんは私の頬に擦り寄った。
何ソレかわいい! 大丈夫よ、しましまさん、私が一番だと信じてるから!
「ユキちゃん、何食べようか」
「うーん」
悩む。
どれも食べたい。香ばしい香りに目移りしてしまっていつも決められない。
キョロキョロしていると屋台から離れたベンチに座らされた。
「しましまと待ってて、適当に買ってくるから」
「はーい」
しましまさんが喉を鳴らしながら、黒目をまん丸にして見上げてくる。
柔らかな毛を撫でて思い出す。今までもそうだった。アレもコレも食べたいけど、全部食べれないから悩んで、総司くんと桐矢くんが一つずつ買ってきたものを三人で分けていたことを。
食べるのは少量だから三人で全ての屋台を制覇、なんてしていた。
六年前までを思い出しながら、それでも目は自然と、人混みの中に総司くんを探していた。
「ただいま」
「おかえり、わぁいい匂いっ」
たこ焼き、焼きそばが一パックずつ、焼き鳥が四本、フランクフルト一本、そしてペットボトルのお茶が二本。お金を渡そうとしたけど断られた。桐矢くんが大人になってしまった。ここは素直に感謝して、いただきますと手を合わせた。
「あちっ、おいし!」
「にゃー」
たこ焼きは外はカリカリ中トロトロで美味しかった。
「しまった、ビール買ってくれば良かった」
「うにゃー」
しましまさんのお強請りアピールを無視して、桐矢くんは二本目の焼き鳥を囓った。
「にゃん!」
お祭りで食べるのはまた各別だ。
しましまさんが何度も桐矢くんの食べ物だけに手を出していたけど、とうとう爪がフランクフルトを捕らえ、咥えて物陰に行ってしまった。
「しましまぁ~……」
「ふふふ」
お腹も膨れて、私たちはかき氷をつつきながら神社を目指した。
「はぁ、やっと着いたぁ……」
神社までの長い石段は運動不足には辛かった。
何度も躓き、桐矢くんに引っ張られるように上がってきた。
もう足が痛い、座りたいけれど、賽銭箱にお賽銭を入れ、鐘を鳴らし拝んで、暗がりの石のベンチへ向かった。
下駄はやっぱり失敗だった。
やっと座れると、気が緩み、また躓いた。
「わっ、ごめん、ね?」
抱き留められ、見上げた桐矢くんの顔が近かった。
桐矢くんは私を抱き留めたままで動かない。
「桐矢くん?」
さっきより、もっと近くなったような気が?
あ、れ……、まって、顔、近すぎじゃ?
「とう……」
ガチンッ
「きゃっ!」
「え!?」
耳元の金属音と、足下に何か落ちた音。そして、いきなり軽くなった頭と、胸元に流れてきたまとめたはずの髪。
「割れてる」
桐矢くんが拾い上げたのは、二つに割れたバレッタだった。
「ウソっ、あ、あー……、壊れてる……」
バネが飛んだバレッタは、朝顔の飾りのついてない裏側が真っ二つに割れていた。
「……六年も前のだもんね、バネが劣化してたのかなぁ……。桐矢くん? どうしたの?」
桐矢くんは両手で顔を覆ったまま、しゃがみこんでいた。
「総兄に邪魔された気する……」
「え? なに?」
「なんでもない」
「にゃあーん」
「あ、しましまさん」
足元で喉を鳴らして擦り寄るしましまさんをもふもふ撫でまくる。
「休憩したら帰ろうか」
「うん」
「にゃーん」
帰りに買うのは総司くんへのお土産のりんご飴。
私たちも六年前までのように、りんご飴を齧りながら帰った。
「誘ってくれてありがと、楽しかったし、美味しかった!」
「次は下駄じゃなくてサンダル、用意しないとなー、じゃ、おやすみー」
「うん、おやすみ」
桐矢くんの背が玄関の外灯から見えなくなるまで見送った。
「次……かぁ」
来年の天神祭、私は誰と行くんだろう……。
灯りをつけて、縁側のしましまさんのお座布に置かれた封筒に気づいた。
出かける前に全ての戸締りは確認して出たが、それはしましまさんが届けてくれた総司くんからの手紙だった。
『雪へ
浴衣、よく似合ってたよ、でも来年はサンダルにした方がいいですね』
やっぱり居たんじゃない!
少し乱暴に仏間に続く襖を開けた。
「チラ見せじゃなくて、ちゃんと出てきてよ! 総司くんなら、お化けでもっ、足無くても、いいからさぁ……」
額縁の中の彼は緩い笑顔のまま何も答えてくれない。
「にゃあーん」
すり寄るしましまさんを抱きしめ、ふかふかな背に顔を埋めた。
「ふ……ぅ……」
泣かないって約束した。
「にゃあ」
「う……」
総司くんと約束した。
「にゃぁぁ」
大丈夫、泣かない。泣かない。
「にゃう」
慰めてくれてるのか、頬をざりざりした舌で何度も舐めてくれた。
「ごめんね、総司くん、もらったバレッタ、壊れちゃった……、浴衣とお揃いのだったのに……」
六年前、誕生日のプレゼントでくれた、浴衣とお揃いの青い朝顔のバレッタ。
ソレは、その日、その時の彼の表情、声を、記憶の引き出しから開ける鍵と同じようなものだった。
総司くんから貰ったものが壊れるのは、まるで、思い出す鍵を失くしてしまったような気がして、どんどん思い出せなくなってしまいそうで、自分の中から総司くんが消えてしまいそうで、怖くなる。
「私、来年も天神祭に行けるのかなぁ……」
「にゃう」
しましまさんは、慰めるように頬に額を擦り寄せてくれた。
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