しましま猫の届け物

ひろか

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08・しましまさんの縁結びー4

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 総司くんがいなくなって半年。
 六年ぶりの天神祭は、桐矢くんと二人で行くことになったのだけど……。

 デート……?

 昨日、総司くんに自分で言っときながらも、ものすごく違和感あった。

「なんか、うーん、なんか、違うんだよね、桐矢くんだし……」

 なんなんだろう、桐矢くんも総司くんも同じ家族のような存在だからかな?

 収まりのない気持ちに首が右に左にと傾く。

「うにゃーん」

 しましまさんの開けてーの声に、深く考えることを止めて戸を開けた。

「おはよう、しましまさん」

 身体をすり寄せるように入って来たしましまさんは、今日も拾い物を定位置のお座布の上に。

「今日はなーに? あら、キレイね」

 今日の拾い物は鳥が三羽連なった、シルバーのバレッタだった。
 くすんでいるが壊れていないのを確認してカゴに入れた。

『良かった、よく似合ってる』

 バレッタから、記憶の引き出しが開かれ、総司くんの声を思い出した。

「そうだ……」

 それは鏡台の引き出しにしまっておいたはず。
 総司くんから、誕生日プレゼントでもらった朝顔のバレッタ。
 浴衣と同じ青い朝顔が咲いたバレッタを、誕生日には少し早いけどと、天神祭の日にプレゼントしてくれた。
 浴衣とお揃いの朝顔のバレッタは、浴衣の出番と共に六年前が最後になってしまったけれど。

「あった」

 六年前にもらった時のまま、くすみもなく、鮮やかな青色の朝顔が三つ連なったバレッタを取り出した。

「よかった、どこも壊れてない」
「にゃあーん」

 たしたしと前足でごはんを催促された。

「はいはい、ごはんねー」

 浴衣を着るなら髪はアップにして、このバレッタを付けて行こう。6年前のように。

「ユキちゃん、おはよう」
「桐矢くん、おはよ」

 勝手知ったる~で、桐矢くんは玄関からまっすぐ台所へ入ってくる。

「これトマトとキュウリな、あとジャガイモ」
「にゃーん」
「ありがとう、トマトとキュウリはサラダにしよっか、レタスもあるし」
「うるにゃ」
「じゃ、これ切るよ」
「うにゃああーん」
「うん」
「しましまじゃっま!」
「にゃんっ!」

 今日の朝ごはんは卵焼きとウインナー、サラダに味噌汁、納豆。
 納豆は一パックを桐矢くんと半分こにした。

『いただきます!』
「にゃん」

「しましまぁー……、お前のごはんはあっちだろ?」

 しましまさんは今日も私と桐矢くんの間で胸を反らせて座っていた。
 そんなしましまさんの目の前で、ウインナーを見せびらかす桐矢くん。

「あっ」
「桐矢くん、何してんの?」

 桐矢くんのウィンナーはしましまさんに奪われていた。

「しましまぁ!」

 見せびらかして、揶揄っていたのだから自業自得だけど。

 しょうがないなーと、自分のウィンナーを一本、桐矢くんの皿に移した。
 桐矢くんはすぐに「ごめん」と両手を合わせてウィンナーをひと口で頬張った。

 ごはんを食べながら、昨日、しましまさんが拾った手紙を沖野さんに渡せたことを話した。

「あー三島かぁ、あいつ未だに初恋こじらせてるからなー」
「え、え、そうなの? じゃあ、それって」

 しましまさんが拾った手紙。じゃあきっと……。

「ユキちゃん、顔にやけてる」
「え、あはは、だって、ドキドキしちゃうじゃない? 届いた七年前のデートの誘い、なんて」

 くふふふ、なんて変な笑いが出てしまう。

「じゃ、今日はオレにドキドキしてよ、十六時に迎えに来るから」
「へ?」

 ん? んん? 今、何、言った?

「しましま、今日は何を拾ってきたんだー?」

 固まってる間に、桐矢くんは食後のお茶片手に、しましまさんのカゴを覗きに行ってしまった。

「にゃあ」
「あ、今日はバレッタだよ」
「バレッタ?」

 首を傾げる桐矢くんに、銀の鳥の髪留めだよと伝えた。
 男の人は馴染みのない物だから、分からなかったようだ。

「あー、そっか、これ、バレッタって言うのか……」

 そのまま、バレッタを片手にずいぶん長く眺めているから、

「ソレ、桐矢くんの?」
「は? オレが頭につけるの?」

 くりっと振り向き半眼で言われた。

「ぶふっ」

 桐矢くんに関わりがあるものかなーと思って聞いたんだけど、桐矢くんが髪につけた姿を想像してしまい、腹筋が震えた。

「ユキちゃん?」

 半眼の桐矢くんから目を背けるが、肩が震えたままだった。




 桐矢くんは仕事へ行き、私は引き出しから便箋を取り出した。

『総司くんへ
 天神祭には、総司くんからもらった朝顔のバレッタもつけて行くよ。お土産にりんご飴買ってくるね』

 総司くんは祭りの帰り、必ずりんご飴を齧りながら帰っていた。
 そんな彼の拘りに、つられて私と桐矢くんも“締めはりんご飴”が定番になったのだ。



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