しましま猫の届け物

ひろか

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01・しましまさんの拾い物ー1

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「うん、いい味に漬かってる」

 カリカリと歯ごたえの良いキュウリと塩こぶの浅漬け。
 おすそ分けしてもらったものを昨夜のうちに漬けたら、立派に朝ごはんのお供になった。

「あ、そうだ」

 奥に入り、引き出しから目に涼しい青空色の便箋を取り出した。

総司そうじくんへ
 昨日キュウリと塩こぶの漬物を作ったんだよ、すごくおいしくできました』

 封筒にしまうと、外から「にゃあーん」と呼ばれた。

「しましまさん、おはよ!」

 戸を開ければ、するりと麦色の猫が入って来た。
 私の足に体をすり寄せ、いつものように銜えてきた物をお座布の上に置くと、ごはんをねだりに甘えに来た。
 麦色に黒い縞を持つ大人のオス猫。首輪はないけれど、どこかで飼われているのか、飼われていたのか、とても人懐っこい。縞模様から、私は勝手に“しましまさん”と名前をつけて呼んでいる。
 ゴロゴロスリスリと朝の挨拶にわしゃわしゃ撫でくりまわす。

「今日は何を拾ってきたの?」

 丸っこい手でちょいちょいつつくのは、釣りに使う魚型の道具、ルアーだった。所々色が剥げているけれど、緑と青が鮮やかなもの。

「ふふ、しましまさん、魚だけどそれは食べれないよ?」

 しましまさんは毎日いろんなものを拾ってくる。籐のカゴには他に、ビー玉に何とかレンジャーのソフトビニール人形、小さな車に変形した缶バッチなどが入っている。
 ここに来て半年。しましまさんは私が引っ越したその日の夜に家へ来た。
 何をしたらいいのか分からず、何をしなければいいのかも分からず、ただ、与えられるままに食べて眠っていた私はこの町に連れ戻されて、とても忙しくなった。

「うなーん」
「はいはい、ごはんねー、しましまさん、その魚は食べれないけど食べれる魚をあげるね」

 忙しくなった原因の一つはしましまさん。半年経てば、ごはんを強請るしましまさんの鳴き声もわかるようになるのだから不思議だ。
 むっちゃむっちゃと、焼いて解しておいた魚を食べる姿は癒される。

「ユキちゃん、おはよー」
桐矢とうやくんおはよー」

 忙しくなった原因のもう一つは幼馴染の桐矢くん。

「はい、ばーちゃんから、かしわの煮物」
「わぁ、ありがとう!」

 受け取った小鉢には鶏肉かしわとシシトウの煮物が入っていた。私の好物で頬が緩んでしまう。
 いつものように一緒に食卓につき、朝ごはんを食べる。

『いっただきます!』

 おかずは目玉焼きに厚切りベーコン、ワカメと厚揚げのお味噌汁、キュウリの漬物と鶏肉かしわの煮物。

「んん~」

 甘辛く煮た鶏肉が美味しい! 私と総司くんと桐矢くんは幼馴染で、子供のころから寝るのも遊ぶのも三人一緒だったから、桐矢くん家のおばあちゃんの味も馴染みの味なのだ。
 うまうまとお肉を頬張る私を、桐矢くんは箸もつけないまま、ポヤンと眺めてた。

「どうしたの? あ、昨日もらったキュウリ、美味しくできたんだよ」 
「あ、うん、ホントだ、美味しく漬かってる」

 慌てたように箸をつけ、陽に焼けた顔に、にぱっと浮かべた彼の笑顔は子供のころから全く変わらない。

「ユキちゃん、これ新作だって」
「わ、わ、ありがとぉー!」

 食後に渡されたのはコンビニのスイーツ!

「わぁ! ゴロゴロマンゴーゼリーだぁ! 嬉しい、食べてみたかったんだー」
「うん、新作だしね」

 新作好きはバレバレのようだ。早速フタを開け、プラスチックのスプーンですくい、一口、桐矢くんへおすそ分け。

「はい、どーぞ」
「へ」

 差し出されたスプーンに固まる桐矢くん。

 ぺし。

 しましまさんにスプーンごとはたき落とされてしまった。

「しましまぁ……」

 私と桐矢くんの間にどんと座った半眼のしましまさん。
 あぁ、もったいないー、と、拭きとる私に「子供のころから全然変わってないよな」と桐矢くんの呆れた声。
 目を向ければ、彼は耳まで赤くして口元を押さえたまま項垂れていた。
 ああ、そっか、あーんなんて、分けっこが当たり前だった子供の頃のようにやってしまったけど、いい大人にもなってじゃ、恥ずかしいよね。
 今までもずっと総司くんと分けっこをしていた私には、それが当たり前になっていたから、やってしまった。

「なんか、ごめん……」
「いや、ユキちゃんは変わらないままの方がいいよ」
「え、そう?」

 誤魔化すように笑い合えばぺしんと、桐矢くんの腕をしましまさんの尻尾が叩いた。

「しましまさん、桐矢くんが好きねー」
「いや、ぜったい邪魔してるってコイツ」

 撫でようと伸ばした手も、しましまさんにぺしんと叩かれる。

「な?」
「あれ?」
「邪魔者扱いだよ、まったく、はぁ……じゃ、そろそろ行ってくるよ」
「うん、いってらっしゃい」
「にゃ!」

 毎朝ここでご飯食べて、桐矢くんは仕事へ行く。それがこの町に連れ戻されてからの、私の日課になっていることなのだ。
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