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5話 ゴブがいるならコボもいる
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時は少しばかり遡り……ここは魔王城・城内・難易度ノーマル担当魔物待機所
『あ~あ~、テステス、あ~あ~、テステス。“まいく”テステス。
只今より勇者一行が城内に入るゴブ。難易度は“のーまる”、難易度は“のーまる”。
担当各員は速やかに持ち場に着くゴブ。
全員ケガをしない様、安全確認は各自徹底するゴブ。
今月は、“安全強化月間”ゴブ。
合言葉は“注意一秒怪我一生” 合言葉は“注意一秒怪我一生”ゴブ。
では、今日もお勤めに精をだすゴブ』
「おうっ! ヤロウ共! お勤めの時間だ! 各自所定の場所に移動後、待機!
勇者共と遭遇したら、自分の判断で戦闘を始めろっ! 派手に散って来い!」
「「「イエッス・サァー!!」」」
「新人っ! テメェーはオレに着いて来いっ!」
「うッス! 了解しましたッス! って、待って下さいッスよ~隊長!」
詰め所で待機していた先輩方は、手馴れた動作で準備を済ますと、すごい速さで部屋を出て行ったッス。
俺ッチが隊長に敬礼している間に、みんないなくなっちまったッスよ……
隊長も流れに乗って詰め所を出て行こうとするもんッスから、俺ッチは装備の準備もそこそこに慌てて隊長の後を追ったっス。
今日が、俺ッチの初出動の日ッス! 気合が入るッス!!
魔王サマに拾って頂いて早、数十日……
今まで特に何もない日が続いて、待機と掃除ばかりのだったッスけど、ようやくお勤めを果たせる日が来たッス。
俺ッチは、わくわくしながら隊長の後を着いて行ったッス。
「おうっ、新入り! そういや、お前名前なんつったか?」
「うッス、俺ッチはコーボルティウス・コーボルタージュって言うッス!
隊長と同じコモンコボルトッス!」
隊長がそんな事を聞いてきたのは、俺ッチたちの担当場所である魔王城・入り口部分へと向かう途中の事だったッス。
魔物待機所には色んな種類の魔物がいたッス。みんな種族がバラバラだったッス。
初めて、“ノーマル組”のみんなを紹介された日に、少しばかり面食らった事を思い出したッス。
スライム・ゴブリン・トロール……もちろん、コボルトもいたッス。
でも、コボルト・ファイターにコボルト・ウォーリア、コボルト・ソーサラーとみんな“エリート種”ばかりで普通のコボルトはいなかったッス。
疎外感を感じている中、最後に紹介されたのが隊長だったッス。
俺ッチは隊長を見たとき、正直、驚いたッスよ!
だって、隊長は俺ッチと同じコモンコボルトだったんスから!
#ただ__・・_#のコボルトが隊長を務めているっていう事実に、俺ッチはモウレツに感動したッス。
コモンコボルトでも、がんばれば隊長になれるんだって希望が持てたッス!
「んなこたぁ、見れば分かるんだよ!
テメェにとっては、ある意味今日が#初日__・・_#みてぇなモンだ!
オレらの“仕事”ちゃんと分かってんだろうなっ!」
「うッス! “教本”は毎日熟読してるッス!
俺ッチたちの仕事は、魔王城に“来城”した勇者や冒険者と戦ってやられる事ッス!」
俺ッチは、初日に渡された“魔王城内・魔物教本”に書かれている事を思い出しながら、意気揚々と隊長に答えたッス。
もう、穴が開くくらい読みまくったッスから、自信を持って答えたッスよ。
でも、隊長は難しい顔のままだったッス。
「ああ、そうだな。だが、それは俺らの仕事じゃねぇ……あくまで結果だ」
「???」
隊長が難しい顔をしたまま、何やら難しい事を言い出したッス。
「俺らぁの仕事ってのはな、魔物が魔物らしく戦って、勇者たちを勇者らしく勝たせる事だ。
ただ、戦って負けりゃいいってモンじゃねぇんだよ……そんなんじゃ、“浪漫”がねぇんだよ……」
「はぁ……ロマン……ッスか……よく分からないッス……」
「オメェみたいな若造には、まだ分かんねぇだろうな……それが“分かる”ようになって初めて一人前だからよぉ」
隊長は、俺ッチの背中をバンバン叩いて、シミジミとそんな事を言っていたッス。
……背中、痛いッスよ隊長。
「にしても新入り……オメェちぃと若すぎやしないか? オメェみたいな小僧をこの部署に置くなんて、魔王様は一体何を考えてるんだかなぁ……普通だったら、農場組だうに……」
隊長の言うことは、最もッス。
通常、この城内戦闘担当の魔物は体が大き者・見た目的に派手な者が優先的に採用されていたッス。
俺ッチは、ごく一般的なコモンコボルトな上に、コボルト的に一人前と判断される年齢にもまだ達していない、小僧ッス。
おかげで、ただでさえ他の種族より体が小さいコモンコボルトなのに余計に小さく見えるんスよ。
同じ、コモンコボルトの隊長と比べたって、一周りも二周りも俺ッチは小さかったッス。
「あっ、それは、俺ッチが魔王サマに頼んで斡旋して貰ったからッスよ」
「魔王様に……?」
「うッス! “実入りのいい職場を紹介して欲しい”と頼んだら、ここを斡旋してくれたッス」
「実入りってオメェ……そんなに金に困ってるのか?」
「ハハハ……お恥ずかしい話ッス……」
隊長が、なんだか気まずそうに俺ッチを見ていたッス。
極端な例ッスけど、ここ魔王城に至っては生活する上で殆どお金なんて必要としていなかったッス。
魔王サマからの仕事をこなしてさえいれば、食べ物だって、寝る所だって、着る物だって用意してくれたッス。
けど、それはあくまで一人分だったんス……俺ッチ、一人分だけなんス。
それだけじゃ、足りないんス……全然、足りないんス……
「その……俺ッチにはおっかぁとまだ小さい妹たちがいるんスけど……
おっかぁは、昔から病気がちで体が弱くて働けない上、妹たちもまだ小さいんで面倒も見なくちゃいけないんスよ……
だから、俺ッチがしっかり稼がないといけないんスよ」
「……親父さんはどうした?」
「……冒険者に殺されたッス……」
「……そうか……悪いことを聞いたな。
しかし、このご時勢に冒険者と戦ったくらいで死じまうとは珍しいな……」
隊長の歩調が少しだけゆっくりになった気がしたッス。
気でも使ってくれいるんスかね……顔はすんごくおっかないくせに。
「実は、俺ッチ、魔王サマに拾われてここに来る以前は、辺境ではぐれ魔物の村に住んでたんスよ」
「ああ……それでか……」
隊長は全てを納得したように頷いていたッス。
「うッス。俺ッチが住んでた村、辺境でもかなり奥まった所にあったおかげでずっと平和だったんスけど、突然冒険者の一団が襲ってきて……とーちゃんはその時に、俺ッチたちを逃がすために冒険者に立ち向かって行って……それで……」
「そうかい……魔王様は偉大だが、そのお力だって世界中の全ての魔物に行き渡るほど全能じゃねぇからな……
なんつったらいいか分からんが、大変だったな……」
「うッス……
魔王城に来たばっかりの頃は、みんな泣いてばっかりだったッスけど、今はだいぶ落ち着いたッス。
妹たちなんて、魔王サマがやってる“学校”とか言うのに興味があるらしいんスよ。
通わせてやりたちとは思うんスけど、幾らかお金が必要なんスよね……
おっかぁにも、もっと良い薬とか買ってやりたいッスし……」
「そうかい……若けぇのに立派じゃねぇか。
今は、新入り! お前がとーちゃんの代わりに、しっかりかーちゃんと妹たちを守ってやるんだぞ!
そのためにもしっかり働かねぇとなっ!」
「うッス!」
隊長は鼻をズズッと啜ると、また俺ッチの背中をバンバン叩いたッス。
だから、痛いッスよ隊長。
俺ッチは魔王城に来てからというもの、毎日が驚きの連続だったッス。
まず、驚いたのが魔物の数の多さッス。多種多様な魔物が魔王城で働いているッス。
戦闘向きな魔物から、そうじゃない魔物まで沢山ッス。
戦闘向きの魔物は、こうして(俺ッチは全然戦闘向きじゃないッスけど)勇者や冒険者の相手をして、そうじゃない魔物たちは農場で作物や薬草を作ったり、アイテム製作をしたりしてるッス。
どう考えても、魔王城に入りきらない数の魔物が魔王城の中で暮らしてるんスよ。
そうそう! これにも驚いたッス!
この魔王城、見た目以上に中が広いッス!
魔王サマの話だと“くうかんを歪めている”とか言ってたッスけど、俺ッチにはよく分からなかったッス。
ただ、扉を開けたら見渡す限りの穀倉地帯とか、地平線が見える海だとか、はたまた森の中だったりとか……とにかく、ここは色々ぶっ飛んでるッス。
その中でも、魔王城に来て一番驚いたのが魔王サマが開発した“そーてんい魔法”と言う奴ッス。
俺ッチは魔法の事はよく分からないッスけど、とにかくすごい魔法なんスよ!
死ななくなる魔法ッス! いや、死ぬ時は死ぬらしいッスけど、滅多に死ななくなる魔法ッス!
その“そーてんい魔法”が、魔王サマ配下の魔物には全員にかけられているそうッス。
勿論、俺ッチにもかけられているッスよ。
“そーてんい魔法”の能力は、“置き換え”らしいッス。魔王サマがそう言っていたッス。意味は良く分からないッス!
“死ぬほどの重症”だったり“即死級のダメージ”を受けた場合に発動して、魔王城の地下にあるエルクシルの泉に沈められている魔石と、自分の居場所を入れ替える魔法だって説明されたッス。
この魔法が発動した傷ついた魔物は、エリクシルの泉の中に転送されて完全回復。魔物のいた場所には魔物と場所を置き換えた魔石が残される、そういう仕組みらしいッス。
身代わりになる魔石は、魔物の強さに比例して大きくなったり、必要な量が増えたりするらしいッス。
俺ッチたち、ノーマル難易度程度の魔物だと小指の先っぽくらいの欠片みたいな魔石で十分らしいッスけど、難易度が上の強い魔物たちだと、“置き換え”にでっかい魔石や沢山の魔石が必要になるらしいッス。
この魔石っていうのは、魔力が結晶化した物で人間の世界では結構な高額で取引されている物らしいッス。
まぁ、俺ッチたちノーマル難易度の魔物から手に入る魔石なんてクズ同然の物っスけどね。
実は、俺ッチの住んでいた村が冒険者に襲われたのは、この魔石の所為かもしれないって魔王サマに言われたッス……
『緊急事態 緊急事態
近域ニテ超高出力ノ魔力反応ヲ確認。
コレヨリ城内は“対神戦級戦闘体制”ヘ移行シマス。
近域ニテ超高出力ノ魔力反応ヲ確認。
コレヨリ城内は“対神戦級戦闘体制”ヘ移行シマス。
低れべるノ魔物ハ、速ヤカニ避難しぇるたーニ退避シテ下サイ。
高れべるノ魔物ハ、各自警戒態勢デ持チ場ニ待機シテ下サイ。
繰リ返シマス……』
「なっ、なんスかっ!」
「分からねぇ……こんな事オレだって初めてだ……」
持ち場へと向かう途中、城内に突然そんなアナウンスが流れたかと思うと、廊下の壁のあっちこっちがパカパカ開いて、中から剣や槍、斧なんかを持ったごっいつ鎧がわらわらと出てきたッス!
「なっ! なんなんッスか、こいつら!?」
「落ち着け。こいつは城の防衛機構の一つ、殲滅魔道鎧だ。
なに、オレたちには危害を加えたりしない……が、この状況、一体どうなってやがる?」
隊長は俺ッチに一時退避の命令を出したッス。
状況が分からない以上、アナウンスに従った方がいいだろう、という判断だったッス。
隊長は、俺ッチを連れて殲滅魔道鎧が出てきた穴に入って行ったッス。
殲滅魔道鎧が格納されていた部屋は、殲滅魔道鎧出動後は避難シェルターになると隊長が教えてくれたッス。
隊長が壁際に設置されていた石版をピポピポ操作すると、室内に明かりが点いたッス。
「とりあえず、魔王様に連絡を取るか……」
隊長がそう言って更に操作を続けようとした時、またしても城内アナウンスが流れたッス。
『あ~、城内にる者たちに告げる。
今の警報は誤報だ。城の防衛機構が誤作動を起こして発生したもので、原因も判明した。
アナウンスにあったような脅威はない。
ただ……警戒態勢の解除に手間取った所為で、結構な数の殲滅魔道鎧が出動してしまった。
しかも、一斉帰還コマンドがなぜか受け付けない所為で回収できない状態にある。
一体づつの単体命令なら受け付けるようだから、個別に回収していくが、如何せん数が多い。
そこで、レベルに関係なく城内で手が空いている者は殲滅魔道鎧の回収に協力して欲しい。
ああ、あと、勇者一行が入城する予定になっていたが、この状況だ。
現在、一時中断して城外で待機してもらっている。
大切なお客人だ、さっさと済ませて出迎えてやれ。
尚、殲滅魔道鎧の帰還コマンドの単体設定の方法は、格納庫に備え付けられている端末の“手引書”の項目に載っている。
各員、手引書の手順に従って作業をするように。
殲滅魔道鎧の居場所については、こちらでモニターしている。
データは端末とリンクさせるから、各員近くにいる殲滅魔道鎧から速やかに回収対応をして欲しい。
では、各員の奮闘に期待する』
今の声は魔王サマッスね。
「聞いたか、新入り?」
「はいッス! 要は、あのでっかい鎧を捕まえて元の場所に帰せばいいんスよね?」
「そういうことだ……」
隊長は壁に張り付いていた石版をポッコと取り外したッス。
……外れるんスね、それ。
「検索・殲滅魔道鎧・帰還設定・方法」
と、隊長は持っていた石版に話しかけ始めたッス!
「なっ、なに石版に話しかけてるんスか隊長?」
「ん? さっき魔王様が言ってたろ? “設定の方法は端末で調べろ”ってよ」
「その石版が“タンマツ”……とか言うものなんスか? ただの石版にしか見えないッスけど……
でも、なんで話しかけてるんんスか?」
「ん? 音声入力だからだよ」
……ああ、っと隊長は何かに気付いたような顔をして言葉を付け足したッス。
「こいつは石版に見えるかもしれないが、石版じゃねぇんだよ。
新入り、お前字読めるか?」
「無理ッス!」
「まぁ、だろうな」
「隊長は読めるんスか?」
「当たり前だ。魔王城に勤めてる魔物ならスライムだって字くらい読めるぞ?」
俺ッチはスライム以下ッスか……
「これはな、新入り。オメェみたいに字が読めない奴や目がない奴でも扱えるようになってんだよ。
モノは試しだ、使って見ろ」
「う……うッス……」
隊長はそう言って、持っていた石版を俺ッチに渡したッス。
渡されて気付いたッスけど、これ全然普通の石版じゃないッス。
だって、石版の表面がなんだかピカピカ、テカテカしてるッスよ。
しかも、石版の文字が動いたり光ったりしてるッス……。
不思議な石版ッスね。
「えっ……と……どうしたらいいッスかね……」
「とりあえず、オレがやったようにしてみろ」
「……うッス……
え、え~っと……殲滅魔道鎧っていうモノの設定の方法が知りたいッス……」
俺ッチが、石版に向かってそう言うと石版の表面がペカペカ光って、今までと全く別のもの映し出したッス。
「たっ、隊長!! なんか石版の表面が変わったッスよ!」
「ンな事で慌てるな! ほれっ、続けろ!」
「続けろったって……俺ッチ字が読めないって言ったじゃないッスか……」
俺ッチが隊長と話していると、またしても石版の表面がペカペカしだしたッス。
『使用者ガ文盲モシクハ、盲目デアル可能性ガアルタメ、対話もーどニ切リ替エマス。
検索条件・殲滅魔道鎧ノ設定ニツイテ。
該当項目複数有リ。更ナル詳細ヲ希望シマス』
「うわぁ! せっ、石版がしゃべったッスよ!!」
「だから、ンな事でいちいち騒ぐんじゃねぇ!」
“ンな事”って! しゃべったんスよ!? 石版が! そりゃ、驚くってもんスよ!
あまりに突然、石版がしゃべり出すもんッスから、俺ッチ危うく石版を落っことしそうになったッスよ。
「ほれほれ、さっさと続けろ。ンなちんたらしてっと日が暮れっぞ!」
「無理言わないで欲しいッスよ……俺ッチこんなの見るのも初めてなんスから……」
……えっと……石版は何て言っていたッスかね……確か詳細って言っていたッスね……
“詳細ヲ希望”とかなんとか……ってことはッスよ……
「えっと……出て行っちゃった殲滅魔道鎧を元の位置に戻す方法が知りたいッス」
『……該当アリ。
“殲滅魔道鎧単体帰還設定・帰還指令ノ入力方法ニツイテ”ノ項目ヲ表示シマス。
自動読ミ上ゲ機能ヲ利用シノスカ?』
「おっ、お願いするッス……」
どうやら、うまく行ったみたいッスね。
なんとなく……ッスけど、この石版の使い方が分かってきた気がするッスよ。
『殲滅魔道鎧単体帰還設定・帰還指令ノ入力方法ニツイテ。
マズ初メニ、殲滅魔道鎧ノ背面ハッチヲ開放シマス。
開放ノ方法ハ下図ノ手順ニ従って……』
俺ッチがそう言うと、石版は急に長々としゃべりだしたッス。
そんなに一辺に言われても、俺ッチの頭じゃ覚えられないッスよ!
俺ッチ、自慢じゃないッスけど記憶力にまったく自信がないッス!
俺ッチが石版相手にワタワタしていると、ようやく隊長が助け舟を出してくれたッス。
「よし。そこのページが開けたらとりあえず次だ。
その端末を使って、殲滅魔道鎧の場所を探し出してみろ」
「探せって言われても……」
「いいから、とりあえずやってみろ」
「うッス……」
俺ッチは、隊長の指示に頷きつつ、未だにしゃべり続けている石版に話しかけたッス。
「ちょっと、ストップッス!
えっと……今度は、殲滅魔道鎧が今何処にいるか知りたいッス」
俺ッチが、石版に向かってそう言うと、今までペラペラしゃべっていた石版がピタリと停まり、石版の表面の絵柄が変わったッス。
『……該当項目ガ複数有リマス。詳細ヲ希望シマス』
「えっと……それじゃあ、“今、動いている殲滅魔道鎧の場所”が知りたいッス」
『……現在、稼動ガ確認サレテイル殲滅魔道鎧ハ、2834体アリマス。
詳細情報ヲ希望スル場合ハ、機体ノ固体識別こーどノ入力ヲオ願イシマス』
「えっと……ここから一番近い奴の居場所が知りたいッスよ」
そう言うと、石版の表面がまた変わったッス。
今回映し出されたのは地図ッスね。
それも魔王城の城内の地図ッス。
流石の俺ッチも、それは一目で分かったッスよ。
『検索条件・直近ノ稼動中ノ殲滅魔道鎧。
魔王専用さーばー・共有でーた内ニ関連でーたヲ確認。表示シマス』
石版はそう言うと、その地図の上に緑色のペカペカする点が一つ映し出されたッス。
緑色の点は、ゆっくりと動いていたッス。
つまりこの緑色の点が、ここから一番近い所にいる殲滅魔道鎧だという事ッスかね……
確かに、今俺ッチたちがいる所からは目と鼻の先の所にみたいッス。
俺ッチは、じぃーっとその緑の点を見ていたら、急にその点がパッと消えちまったッス!
で、全然別の所でまた緑色の点がペカペカしだしたんスよ。
で、またその点も少しすると消えて、別の所がペカペカし出す……どーなってんスかこれ?
殲滅魔道鎧は瞬間移動でも出来るんスか!?
俺ッチは、石版を隊長に向けて聞いててみたッス。
「違げーよ。そいつはオメェの聞き方が悪りぃんだよ。
一番近くなんて一体しかいないに決まってんだろが?」
あっ……言われて見ればその通りッスね……
俺ッチは、石版に“近くに居る稼動中の殲滅魔道鎧”という新しい条件で、探しなおしてもらったッス。
そしてら、石版の表面が無数の緑の点で埋め尽くされてしまったッス。
「こりゃ……多いな……」
石版を覗き込んでいた隊長も、引きつった顔で呟いていたッス。
「うッス……」
「よしっ!! とにかく始めなきゃ始まらねぇ!!
気合入れていくぞ、新入り!」
「うっ、うッス!!」
隊長は。そう言うと勢いよく部屋を飛び出して行ったッス。
そんな隊長を俺ッチは、石版を抱えて後を追っかけたッス。
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豆知識その4
魔王城について
魔王城は一見、ただ大きな城にしか見えませんが中は魔王と魔女の空間操作魔法によってかなり拡張されています。
ノーマル難易度は入り口から魔王の間まで一階層で到着しますが、ヘルになると地上100層・地下500層分の巨大迷宮になります。
スペシャル以上は魔王が趣味で作ったダンジョンであるため、難易度度外視のムチャ設定になっています。
未だ踏破した猛者はいないとか……
『あ~あ~、テステス、あ~あ~、テステス。“まいく”テステス。
只今より勇者一行が城内に入るゴブ。難易度は“のーまる”、難易度は“のーまる”。
担当各員は速やかに持ち場に着くゴブ。
全員ケガをしない様、安全確認は各自徹底するゴブ。
今月は、“安全強化月間”ゴブ。
合言葉は“注意一秒怪我一生” 合言葉は“注意一秒怪我一生”ゴブ。
では、今日もお勤めに精をだすゴブ』
「おうっ! ヤロウ共! お勤めの時間だ! 各自所定の場所に移動後、待機!
勇者共と遭遇したら、自分の判断で戦闘を始めろっ! 派手に散って来い!」
「「「イエッス・サァー!!」」」
「新人っ! テメェーはオレに着いて来いっ!」
「うッス! 了解しましたッス! って、待って下さいッスよ~隊長!」
詰め所で待機していた先輩方は、手馴れた動作で準備を済ますと、すごい速さで部屋を出て行ったッス。
俺ッチが隊長に敬礼している間に、みんないなくなっちまったッスよ……
隊長も流れに乗って詰め所を出て行こうとするもんッスから、俺ッチは装備の準備もそこそこに慌てて隊長の後を追ったっス。
今日が、俺ッチの初出動の日ッス! 気合が入るッス!!
魔王サマに拾って頂いて早、数十日……
今まで特に何もない日が続いて、待機と掃除ばかりのだったッスけど、ようやくお勤めを果たせる日が来たッス。
俺ッチは、わくわくしながら隊長の後を着いて行ったッス。
「おうっ、新入り! そういや、お前名前なんつったか?」
「うッス、俺ッチはコーボルティウス・コーボルタージュって言うッス!
隊長と同じコモンコボルトッス!」
隊長がそんな事を聞いてきたのは、俺ッチたちの担当場所である魔王城・入り口部分へと向かう途中の事だったッス。
魔物待機所には色んな種類の魔物がいたッス。みんな種族がバラバラだったッス。
初めて、“ノーマル組”のみんなを紹介された日に、少しばかり面食らった事を思い出したッス。
スライム・ゴブリン・トロール……もちろん、コボルトもいたッス。
でも、コボルト・ファイターにコボルト・ウォーリア、コボルト・ソーサラーとみんな“エリート種”ばかりで普通のコボルトはいなかったッス。
疎外感を感じている中、最後に紹介されたのが隊長だったッス。
俺ッチは隊長を見たとき、正直、驚いたッスよ!
だって、隊長は俺ッチと同じコモンコボルトだったんスから!
#ただ__・・_#のコボルトが隊長を務めているっていう事実に、俺ッチはモウレツに感動したッス。
コモンコボルトでも、がんばれば隊長になれるんだって希望が持てたッス!
「んなこたぁ、見れば分かるんだよ!
テメェにとっては、ある意味今日が#初日__・・_#みてぇなモンだ!
オレらの“仕事”ちゃんと分かってんだろうなっ!」
「うッス! “教本”は毎日熟読してるッス!
俺ッチたちの仕事は、魔王城に“来城”した勇者や冒険者と戦ってやられる事ッス!」
俺ッチは、初日に渡された“魔王城内・魔物教本”に書かれている事を思い出しながら、意気揚々と隊長に答えたッス。
もう、穴が開くくらい読みまくったッスから、自信を持って答えたッスよ。
でも、隊長は難しい顔のままだったッス。
「ああ、そうだな。だが、それは俺らの仕事じゃねぇ……あくまで結果だ」
「???」
隊長が難しい顔をしたまま、何やら難しい事を言い出したッス。
「俺らぁの仕事ってのはな、魔物が魔物らしく戦って、勇者たちを勇者らしく勝たせる事だ。
ただ、戦って負けりゃいいってモンじゃねぇんだよ……そんなんじゃ、“浪漫”がねぇんだよ……」
「はぁ……ロマン……ッスか……よく分からないッス……」
「オメェみたいな若造には、まだ分かんねぇだろうな……それが“分かる”ようになって初めて一人前だからよぉ」
隊長は、俺ッチの背中をバンバン叩いて、シミジミとそんな事を言っていたッス。
……背中、痛いッスよ隊長。
「にしても新入り……オメェちぃと若すぎやしないか? オメェみたいな小僧をこの部署に置くなんて、魔王様は一体何を考えてるんだかなぁ……普通だったら、農場組だうに……」
隊長の言うことは、最もッス。
通常、この城内戦闘担当の魔物は体が大き者・見た目的に派手な者が優先的に採用されていたッス。
俺ッチは、ごく一般的なコモンコボルトな上に、コボルト的に一人前と判断される年齢にもまだ達していない、小僧ッス。
おかげで、ただでさえ他の種族より体が小さいコモンコボルトなのに余計に小さく見えるんスよ。
同じ、コモンコボルトの隊長と比べたって、一周りも二周りも俺ッチは小さかったッス。
「あっ、それは、俺ッチが魔王サマに頼んで斡旋して貰ったからッスよ」
「魔王様に……?」
「うッス! “実入りのいい職場を紹介して欲しい”と頼んだら、ここを斡旋してくれたッス」
「実入りってオメェ……そんなに金に困ってるのか?」
「ハハハ……お恥ずかしい話ッス……」
隊長が、なんだか気まずそうに俺ッチを見ていたッス。
極端な例ッスけど、ここ魔王城に至っては生活する上で殆どお金なんて必要としていなかったッス。
魔王サマからの仕事をこなしてさえいれば、食べ物だって、寝る所だって、着る物だって用意してくれたッス。
けど、それはあくまで一人分だったんス……俺ッチ、一人分だけなんス。
それだけじゃ、足りないんス……全然、足りないんス……
「その……俺ッチにはおっかぁとまだ小さい妹たちがいるんスけど……
おっかぁは、昔から病気がちで体が弱くて働けない上、妹たちもまだ小さいんで面倒も見なくちゃいけないんスよ……
だから、俺ッチがしっかり稼がないといけないんスよ」
「……親父さんはどうした?」
「……冒険者に殺されたッス……」
「……そうか……悪いことを聞いたな。
しかし、このご時勢に冒険者と戦ったくらいで死じまうとは珍しいな……」
隊長の歩調が少しだけゆっくりになった気がしたッス。
気でも使ってくれいるんスかね……顔はすんごくおっかないくせに。
「実は、俺ッチ、魔王サマに拾われてここに来る以前は、辺境ではぐれ魔物の村に住んでたんスよ」
「ああ……それでか……」
隊長は全てを納得したように頷いていたッス。
「うッス。俺ッチが住んでた村、辺境でもかなり奥まった所にあったおかげでずっと平和だったんスけど、突然冒険者の一団が襲ってきて……とーちゃんはその時に、俺ッチたちを逃がすために冒険者に立ち向かって行って……それで……」
「そうかい……魔王様は偉大だが、そのお力だって世界中の全ての魔物に行き渡るほど全能じゃねぇからな……
なんつったらいいか分からんが、大変だったな……」
「うッス……
魔王城に来たばっかりの頃は、みんな泣いてばっかりだったッスけど、今はだいぶ落ち着いたッス。
妹たちなんて、魔王サマがやってる“学校”とか言うのに興味があるらしいんスよ。
通わせてやりたちとは思うんスけど、幾らかお金が必要なんスよね……
おっかぁにも、もっと良い薬とか買ってやりたいッスし……」
「そうかい……若けぇのに立派じゃねぇか。
今は、新入り! お前がとーちゃんの代わりに、しっかりかーちゃんと妹たちを守ってやるんだぞ!
そのためにもしっかり働かねぇとなっ!」
「うッス!」
隊長は鼻をズズッと啜ると、また俺ッチの背中をバンバン叩いたッス。
だから、痛いッスよ隊長。
俺ッチは魔王城に来てからというもの、毎日が驚きの連続だったッス。
まず、驚いたのが魔物の数の多さッス。多種多様な魔物が魔王城で働いているッス。
戦闘向きな魔物から、そうじゃない魔物まで沢山ッス。
戦闘向きの魔物は、こうして(俺ッチは全然戦闘向きじゃないッスけど)勇者や冒険者の相手をして、そうじゃない魔物たちは農場で作物や薬草を作ったり、アイテム製作をしたりしてるッス。
どう考えても、魔王城に入りきらない数の魔物が魔王城の中で暮らしてるんスよ。
そうそう! これにも驚いたッス!
この魔王城、見た目以上に中が広いッス!
魔王サマの話だと“くうかんを歪めている”とか言ってたッスけど、俺ッチにはよく分からなかったッス。
ただ、扉を開けたら見渡す限りの穀倉地帯とか、地平線が見える海だとか、はたまた森の中だったりとか……とにかく、ここは色々ぶっ飛んでるッス。
その中でも、魔王城に来て一番驚いたのが魔王サマが開発した“そーてんい魔法”と言う奴ッス。
俺ッチは魔法の事はよく分からないッスけど、とにかくすごい魔法なんスよ!
死ななくなる魔法ッス! いや、死ぬ時は死ぬらしいッスけど、滅多に死ななくなる魔法ッス!
その“そーてんい魔法”が、魔王サマ配下の魔物には全員にかけられているそうッス。
勿論、俺ッチにもかけられているッスよ。
“そーてんい魔法”の能力は、“置き換え”らしいッス。魔王サマがそう言っていたッス。意味は良く分からないッス!
“死ぬほどの重症”だったり“即死級のダメージ”を受けた場合に発動して、魔王城の地下にあるエルクシルの泉に沈められている魔石と、自分の居場所を入れ替える魔法だって説明されたッス。
この魔法が発動した傷ついた魔物は、エリクシルの泉の中に転送されて完全回復。魔物のいた場所には魔物と場所を置き換えた魔石が残される、そういう仕組みらしいッス。
身代わりになる魔石は、魔物の強さに比例して大きくなったり、必要な量が増えたりするらしいッス。
俺ッチたち、ノーマル難易度程度の魔物だと小指の先っぽくらいの欠片みたいな魔石で十分らしいッスけど、難易度が上の強い魔物たちだと、“置き換え”にでっかい魔石や沢山の魔石が必要になるらしいッス。
この魔石っていうのは、魔力が結晶化した物で人間の世界では結構な高額で取引されている物らしいッス。
まぁ、俺ッチたちノーマル難易度の魔物から手に入る魔石なんてクズ同然の物っスけどね。
実は、俺ッチの住んでいた村が冒険者に襲われたのは、この魔石の所為かもしれないって魔王サマに言われたッス……
『緊急事態 緊急事態
近域ニテ超高出力ノ魔力反応ヲ確認。
コレヨリ城内は“対神戦級戦闘体制”ヘ移行シマス。
近域ニテ超高出力ノ魔力反応ヲ確認。
コレヨリ城内は“対神戦級戦闘体制”ヘ移行シマス。
低れべるノ魔物ハ、速ヤカニ避難しぇるたーニ退避シテ下サイ。
高れべるノ魔物ハ、各自警戒態勢デ持チ場ニ待機シテ下サイ。
繰リ返シマス……』
「なっ、なんスかっ!」
「分からねぇ……こんな事オレだって初めてだ……」
持ち場へと向かう途中、城内に突然そんなアナウンスが流れたかと思うと、廊下の壁のあっちこっちがパカパカ開いて、中から剣や槍、斧なんかを持ったごっいつ鎧がわらわらと出てきたッス!
「なっ! なんなんッスか、こいつら!?」
「落ち着け。こいつは城の防衛機構の一つ、殲滅魔道鎧だ。
なに、オレたちには危害を加えたりしない……が、この状況、一体どうなってやがる?」
隊長は俺ッチに一時退避の命令を出したッス。
状況が分からない以上、アナウンスに従った方がいいだろう、という判断だったッス。
隊長は、俺ッチを連れて殲滅魔道鎧が出てきた穴に入って行ったッス。
殲滅魔道鎧が格納されていた部屋は、殲滅魔道鎧出動後は避難シェルターになると隊長が教えてくれたッス。
隊長が壁際に設置されていた石版をピポピポ操作すると、室内に明かりが点いたッス。
「とりあえず、魔王様に連絡を取るか……」
隊長がそう言って更に操作を続けようとした時、またしても城内アナウンスが流れたッス。
『あ~、城内にる者たちに告げる。
今の警報は誤報だ。城の防衛機構が誤作動を起こして発生したもので、原因も判明した。
アナウンスにあったような脅威はない。
ただ……警戒態勢の解除に手間取った所為で、結構な数の殲滅魔道鎧が出動してしまった。
しかも、一斉帰還コマンドがなぜか受け付けない所為で回収できない状態にある。
一体づつの単体命令なら受け付けるようだから、個別に回収していくが、如何せん数が多い。
そこで、レベルに関係なく城内で手が空いている者は殲滅魔道鎧の回収に協力して欲しい。
ああ、あと、勇者一行が入城する予定になっていたが、この状況だ。
現在、一時中断して城外で待機してもらっている。
大切なお客人だ、さっさと済ませて出迎えてやれ。
尚、殲滅魔道鎧の帰還コマンドの単体設定の方法は、格納庫に備え付けられている端末の“手引書”の項目に載っている。
各員、手引書の手順に従って作業をするように。
殲滅魔道鎧の居場所については、こちらでモニターしている。
データは端末とリンクさせるから、各員近くにいる殲滅魔道鎧から速やかに回収対応をして欲しい。
では、各員の奮闘に期待する』
今の声は魔王サマッスね。
「聞いたか、新入り?」
「はいッス! 要は、あのでっかい鎧を捕まえて元の場所に帰せばいいんスよね?」
「そういうことだ……」
隊長は壁に張り付いていた石版をポッコと取り外したッス。
……外れるんスね、それ。
「検索・殲滅魔道鎧・帰還設定・方法」
と、隊長は持っていた石版に話しかけ始めたッス!
「なっ、なに石版に話しかけてるんスか隊長?」
「ん? さっき魔王様が言ってたろ? “設定の方法は端末で調べろ”ってよ」
「その石版が“タンマツ”……とか言うものなんスか? ただの石版にしか見えないッスけど……
でも、なんで話しかけてるんんスか?」
「ん? 音声入力だからだよ」
……ああ、っと隊長は何かに気付いたような顔をして言葉を付け足したッス。
「こいつは石版に見えるかもしれないが、石版じゃねぇんだよ。
新入り、お前字読めるか?」
「無理ッス!」
「まぁ、だろうな」
「隊長は読めるんスか?」
「当たり前だ。魔王城に勤めてる魔物ならスライムだって字くらい読めるぞ?」
俺ッチはスライム以下ッスか……
「これはな、新入り。オメェみたいに字が読めない奴や目がない奴でも扱えるようになってんだよ。
モノは試しだ、使って見ろ」
「う……うッス……」
隊長はそう言って、持っていた石版を俺ッチに渡したッス。
渡されて気付いたッスけど、これ全然普通の石版じゃないッス。
だって、石版の表面がなんだかピカピカ、テカテカしてるッスよ。
しかも、石版の文字が動いたり光ったりしてるッス……。
不思議な石版ッスね。
「えっ……と……どうしたらいいッスかね……」
「とりあえず、オレがやったようにしてみろ」
「……うッス……
え、え~っと……殲滅魔道鎧っていうモノの設定の方法が知りたいッス……」
俺ッチが、石版に向かってそう言うと石版の表面がペカペカ光って、今までと全く別のもの映し出したッス。
「たっ、隊長!! なんか石版の表面が変わったッスよ!」
「ンな事で慌てるな! ほれっ、続けろ!」
「続けろったって……俺ッチ字が読めないって言ったじゃないッスか……」
俺ッチが隊長と話していると、またしても石版の表面がペカペカしだしたッス。
『使用者ガ文盲モシクハ、盲目デアル可能性ガアルタメ、対話もーどニ切リ替エマス。
検索条件・殲滅魔道鎧ノ設定ニツイテ。
該当項目複数有リ。更ナル詳細ヲ希望シマス』
「うわぁ! せっ、石版がしゃべったッスよ!!」
「だから、ンな事でいちいち騒ぐんじゃねぇ!」
“ンな事”って! しゃべったんスよ!? 石版が! そりゃ、驚くってもんスよ!
あまりに突然、石版がしゃべり出すもんッスから、俺ッチ危うく石版を落っことしそうになったッスよ。
「ほれほれ、さっさと続けろ。ンなちんたらしてっと日が暮れっぞ!」
「無理言わないで欲しいッスよ……俺ッチこんなの見るのも初めてなんスから……」
……えっと……石版は何て言っていたッスかね……確か詳細って言っていたッスね……
“詳細ヲ希望”とかなんとか……ってことはッスよ……
「えっと……出て行っちゃった殲滅魔道鎧を元の位置に戻す方法が知りたいッス」
『……該当アリ。
“殲滅魔道鎧単体帰還設定・帰還指令ノ入力方法ニツイテ”ノ項目ヲ表示シマス。
自動読ミ上ゲ機能ヲ利用シノスカ?』
「おっ、お願いするッス……」
どうやら、うまく行ったみたいッスね。
なんとなく……ッスけど、この石版の使い方が分かってきた気がするッスよ。
『殲滅魔道鎧単体帰還設定・帰還指令ノ入力方法ニツイテ。
マズ初メニ、殲滅魔道鎧ノ背面ハッチヲ開放シマス。
開放ノ方法ハ下図ノ手順ニ従って……』
俺ッチがそう言うと、石版は急に長々としゃべりだしたッス。
そんなに一辺に言われても、俺ッチの頭じゃ覚えられないッスよ!
俺ッチ、自慢じゃないッスけど記憶力にまったく自信がないッス!
俺ッチが石版相手にワタワタしていると、ようやく隊長が助け舟を出してくれたッス。
「よし。そこのページが開けたらとりあえず次だ。
その端末を使って、殲滅魔道鎧の場所を探し出してみろ」
「探せって言われても……」
「いいから、とりあえずやってみろ」
「うッス……」
俺ッチは、隊長の指示に頷きつつ、未だにしゃべり続けている石版に話しかけたッス。
「ちょっと、ストップッス!
えっと……今度は、殲滅魔道鎧が今何処にいるか知りたいッス」
俺ッチが、石版に向かってそう言うと、今までペラペラしゃべっていた石版がピタリと停まり、石版の表面の絵柄が変わったッス。
『……該当項目ガ複数有リマス。詳細ヲ希望シマス』
「えっと……それじゃあ、“今、動いている殲滅魔道鎧の場所”が知りたいッス」
『……現在、稼動ガ確認サレテイル殲滅魔道鎧ハ、2834体アリマス。
詳細情報ヲ希望スル場合ハ、機体ノ固体識別こーどノ入力ヲオ願イシマス』
「えっと……ここから一番近い奴の居場所が知りたいッスよ」
そう言うと、石版の表面がまた変わったッス。
今回映し出されたのは地図ッスね。
それも魔王城の城内の地図ッス。
流石の俺ッチも、それは一目で分かったッスよ。
『検索条件・直近ノ稼動中ノ殲滅魔道鎧。
魔王専用さーばー・共有でーた内ニ関連でーたヲ確認。表示シマス』
石版はそう言うと、その地図の上に緑色のペカペカする点が一つ映し出されたッス。
緑色の点は、ゆっくりと動いていたッス。
つまりこの緑色の点が、ここから一番近い所にいる殲滅魔道鎧だという事ッスかね……
確かに、今俺ッチたちがいる所からは目と鼻の先の所にみたいッス。
俺ッチは、じぃーっとその緑の点を見ていたら、急にその点がパッと消えちまったッス!
で、全然別の所でまた緑色の点がペカペカしだしたんスよ。
で、またその点も少しすると消えて、別の所がペカペカし出す……どーなってんスかこれ?
殲滅魔道鎧は瞬間移動でも出来るんスか!?
俺ッチは、石版を隊長に向けて聞いててみたッス。
「違げーよ。そいつはオメェの聞き方が悪りぃんだよ。
一番近くなんて一体しかいないに決まってんだろが?」
あっ……言われて見ればその通りッスね……
俺ッチは、石版に“近くに居る稼動中の殲滅魔道鎧”という新しい条件で、探しなおしてもらったッス。
そしてら、石版の表面が無数の緑の点で埋め尽くされてしまったッス。
「こりゃ……多いな……」
石版を覗き込んでいた隊長も、引きつった顔で呟いていたッス。
「うッス……」
「よしっ!! とにかく始めなきゃ始まらねぇ!!
気合入れていくぞ、新入り!」
「うっ、うッス!!」
隊長は。そう言うと勢いよく部屋を飛び出して行ったッス。
そんな隊長を俺ッチは、石版を抱えて後を追っかけたッス。
-------------------------------------
豆知識その4
魔王城について
魔王城は一見、ただ大きな城にしか見えませんが中は魔王と魔女の空間操作魔法によってかなり拡張されています。
ノーマル難易度は入り口から魔王の間まで一階層で到着しますが、ヘルになると地上100層・地下500層分の巨大迷宮になります。
スペシャル以上は魔王が趣味で作ったダンジョンであるため、難易度度外視のムチャ設定になっています。
未だ踏破した猛者はいないとか……
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