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42話 農村ジェット 中編

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 ……で、しばらくそのまま適当に遊ばせていたのだが、いつまで経っても交代してあげようとしないグライブとリュドを走行中に蹴り落し、強制的にミーシャとタニアに交代させた。
 断っておくが、これは断じて体罰などではない。教育的指導だ。
 新しいおもちゃを手に入れて、楽しいのは分らんでもないが、年長者なんだから、下の子の事も考えてあげなさい。
 ミーシャはそこまでではなかったが、タニアが“まだぁ! ねぇ、まぁだぁ~っ! まだまだまだまだまだぁ~~~~~!!”と五月蝿いのなんの……
 ちなみにだが、グライブもリュドも農村ジェットから転がり落ちたが、俺が蹴った・・以外の外傷はない。
 下は草が生い茂っているし、約束どおり速度も出していなかったからな。
 街中で自転車で転ぶ方がよっぽど危ないくらいだ。
 それに、二人とも伊達に剣の稽古を積んでいる訳じゃない。
 かすり傷程度日常茶飯事だし、そもそもこの程度で怪我をするようなもやしっ子でもない。
 二人揃って、蹴りを入れた俺に猛抗議して来たのだが“もう、乗せねぇぞ?”と言ったら素直に引き下がって行った。
 うむ、素直でよろしい。

 ………
 ……
 …

 それからしばらく、乗り手を交代したり、乗っていた機体を交換したりして適当に乗ってもらっていた。
 で、頃合を見てお昼休憩を入れる事にした。
 ぶっ通しで乗っていたら、いくら農村ジェットが省エネ設計とは言え魔力欠乏症で倒れかねんからな……
 特に、グライブには前科があるから要注意だ。

「おーいっ! お前ら休憩にするぞー!」

 俺がそう声を掛けると、欠食児童どもが俺の元へぞろぞろと集まってきた。
 ミーシャとグライブは徒歩で、タニアとリュドは農村ジェットに乗ったまま戻ってきやがった。
 危ないから、降りなさい……っと言おうかと思ったが、手遅れなのでもういいや。
 俺は、皆が集まったところでお昼ご飯用に持参したバスケットの蓋を開けた。

「「「おおおおぉぉ!!」」」

 中に入っていたのは、バスケット一杯のサンドウィッチだった。
 今日の実験は、少し長くなると思いママンにお願いして弁当を作ってもらったのだ。
 一見、なんの変哲も無い普通のサンドウィッチなのだが、最近ちょっとした変化が起きていた。
 それは、中身の具が若干豪華になってきた、という事だった。
 なんと今日のは、ハム入りだ。
 ママンはソロバン製作の内職で、パパンは銭湯建築のお手伝いで、我が家にも多少はまとまった金が入ってくるようになったからな……
 その結果が、こうして現れている……という事だ。
 これは何もサンドウィッチに限った話じゃない。
 何処のご家庭も、食卓が以前より少し豪華になって来ているらしいのだ。
 些細なことではあったが、こうやって少しずつ村の生活が豊かになっていくのを窺い知る事が出来るのは実に喜ばしい事である。

「ふぉーひぃえふぁ、おふぁふぇふぁふぁふぇふぃ……」

 特にレジャーシートの様なものを敷くことなく、皆で地べたに直接車座になってサンドウィッチを頬張っていると、口に目一杯サンドウィッチを詰め込んで、ハムスターになったグライブが、俺に何かを伝えよとして来た。
 のだが……
 物を詰めすぎている所為で、何を言っているのかさっぱり分からん……

「えーいっ! 口に物入れたまま喋るなっ! 何言ってるかわかんねーよっ!
 それに、中身が飛ぶだろがっ!
 喋るなら、口の中身を片付けてからにしろっ!」

 俺がそう叱責すると、グライブ黙りこんでむぎゅむぎゅと咀嚼を始めた。で、少しして……

「っごくん……いや、お前はさっきから見てるばっかりでアレ・・に乗ってないみたいだけど、オレたちばっかり乗ってていいのかよ?」
「なんだそんな事か……
 俺は作ってる時に何度も試乗してるし、アレをここまで運ぶときにも乗って来てるからいいんだよ」

 と言うのも、俺は農村ジェットを先にこの場所に持ち込んでおいた上で、こいつらをここに連れてきていたのだった。
 農村ジェットとこいつらを一緒に移動させるとなると、農村ジェットを押して歩くか、歩くこいつらに速度を合わせて非常にゆっくり走らせるか、そのどちらかしかない。
 いくら農村ジェットが、ほぼ木製とは言っても今の俺の体でこいつを押して歩くには重過ぎるし、乗って並走するには速度をフリーで調整できる1号機に乗れない俺にとっては速度の調整が難しい。
 2号機の5段階ある速度設定の最低速度でも、子どもが歩く速度よりずっと早いのだ。
 進んでは止まり待って、進んでは止まり待って……では流石に、ちょっと面倒だ。
 ましてや、俺が運転して乗せて移動するなど論外だな。
 農村ジェットは乗員は二名までだ。俺が乗せて移動できるのは一人しかいない。
 開いている1号機を誰かに運転させても追加で二人までだ。結局一人はあぶれてしまう。
 って言うか、ろくに練習もしていない奴にニケツとか……そんな危ない事をさせられる訳が無い。
 だから、先に農村ジェット2号に乗って、サクッとこの場に二台を移動させた上で、ここまでこいつらを連れてくる事にした、と言うわけだ。
 わざわざ村から少し離れた場所を選んだのは、人の多い村の中で練習させるのは危険だと判断したからだ。
 反面、ここなら俺たち以外の誰かにぶつかって迷惑を掛けることもない。
 自転車の練習だって、人通りの少ない場所でやるのが普通だろ?
 それと同じだ。
 ちなみに、どうやって1号機をここまで運んだかと言うと2号機に縄でグルグルと縛り付けて牽引して来た。
 いくらパワーが出ないとは言っても、それくらいの事は出来るのだ。

「ふぅ~ん……はぐっ、はぐっ……」

 こっ、こいつぅ……っ!
 俺がそう簡潔に答えると、グライブの奴、聞いて来たくせにまるで興味がないと言わんばかりにサンドウィッチをむしゃむしゃしてやがった……
 聞いて来たくせにっ!
 ……あるよなぁ……子どもって、こういう所あるよなぁ……
 まぁいい……グライブ相手にいちいち目くじらを立ててもしょうがないしな。
 で、ここからが俺の本題だ。
 何もわざわざこいつらを、ただ単に遊ばせていただけではないのだ。
 こいつらには、1号機に乗れない俺の代わりに1号機・2号機の両方に乗ってもらって、それぞれの操作性の違い……と言うか乗った感覚の違いを教えてもらいたかったのだ。
 で、その意見を次の製作の参考にしようって事だ。
 以下、聞き取り調査をおおざっぱにまとめると次のようになった。
 ミーシャはやっぱりと言うか、1号機の方が動かしやすかったと言っていた。
 ミーシャは魔術に関しては、天才的な才能を持っていると神父様のお墨付きを貰っているからな。
 足側の魔術陣の操作にも早々に慣れていたようで、後半はハンドルを使わずほとんどフット魔術陣(フットペダル的な?)だけで操作していた。
 これは愛車クララの操作経験がある所為かもしれないな……
 ただ、怖いのかそれとも俺との約束を頑なに守っているのか、はたまた速度の基準が愛車クララだからなのか……
 それは分らないが、ミーシャが運転する農村ジェットは誰よりもゆっくりと走っていた。
 下手をすると歩いた方が早いくらいだった。
 試しに、左右の車輪を互いに反対に回転させる旋廻方法“超信地旋回”を教えてみたら、その場でぐるぐると回りだす農村ジェットに戸惑ったのか“ふぅえええ~”と言う変な悲鳴を上げていた。
 ……なんだか、あの悲鳴を聞くのも久しぶりのような気がするな。
 タニアとリュドは大方予想通り、2号機の方が動かしやすいと言っていた。
 どちらも細かいことが苦手な、大雑把タイプだからな。
 この世界で血液型なんて調べようも無いし、元の世界と一緒なのかも知らないが多分両方O型だろうな。そんな気がする……
 で、唯一予想外だったのがグライブだった。
 俺予想では、2号機押しだと思ったのだがなんと1号機を押してきたのだった。
 グライブ曰く、確かに2号機の方が操作は簡単だが細かい調整が効かないのだと言っていた。
 反面、1号機は操作は難しいが思い通りに車体を操作することが出来るとの事。
 あと、慣れれば足での魔術陣の操作もそれほど難しくはないらしい。
 “左手で字を書くよりは簡単だ”とは本人の談だ。
 ちなみに、グライブは右利きである。
 前の世界同様、こちらでも右利きの方が圧倒的に多いのだ。
 俺たちのグループの中では、唯一タニアが左利きなくらいか……まぁ、そんな事どうでもいいけどな。
 で、妹があれなら、本人が気付いていないだけで兄貴の方にも、もしかしたら魔術の才能があるのかも知れないな……
 最近では、村の中でマナを使う機会が増えた所為か……石ランプとか、試作風呂とか……愛車クララの時のように、直ぐに魔力欠乏症になって倒れる事もなくなった……
 以上の意見を総合して考えるに、発展型を作るとしたら1号機・2号機のハイブリッド仕様になるだろうか……
 基本オートマでマニュアルの特性を取り込んで……スポーツシフトみたいな感じか?
 でも、どうやって機構として組み込めばいいんだ?
 吸収方式と供給方式を合成したら出来るだろうか?
 基本は吸収方式に任せて、速度が欲しい時は自分から更に供給する……
 そうやって、部分的に個別操作が可能な感じにしてっと……
 ふむ……多少面倒そうではあったが、無理ではないか……
 一度試作モデルを作ってみるのも良いかもしれないな。
 なんて事を考えていたら、バスケットの中身はいつの間にか空になっていた。
 結構な量があったと思ったんだが……
 流石、育ち盛りのガキんちょの食欲は侮れないな。

 昼食休憩を終えて、再度試験開始だ。
 今度は、ただ乗るのではなくてこちらの指示通りに車体をコントロールしてもらうのだ。
 俺では動かせない1号機の挙動が見たかったからだ。
 2号機に関しては、俺が自分で散々やったから今更行う必要はない。
 テストドライバーとして、グライブに乗ってもらう事にした。
 四人の中では一番1号機の扱いがうまかった故の人選だ。
 いや、一番うまいのはたぶんミーシャなのだが、この子は全然速度を出してくれないので試験にならないのだ。
 それに今回は少し速度も出すし、危ない動きもする。
 無理にやらせてそれでもし、転倒などしてミーシャが怪我なんてして、痛い思いをさせては可哀相なので、次点でグライブになったのだ。
 ……グライブなら……別に、骨の一本くらい折っても……ねぇ?
 いざとなったら、教会に駆け付ければシスターの一人が治療魔術を使えるので、治してもらえばいいだけの話だ。
 ……たぶん、即死しない限りは何とかなる……と思う。
 と、いう訳でいざ試験だ。

 子どもの適応力の高さってのには、驚かされる……それとも生まれ持っての才能なのか……
 俺は、グライブに指示を出して様々な走行試験を行っていった。
 急発進・急停止・急旋回、あとは一定速度での円状運動やスラローム、MAX速度の計測(計ってないから、観測と言うべきか?)などだな。
 俺の指示を一つこなす度に、グライブの運転技術は目に見えて向上して行った。
 一度、高速状態での急旋回で遠心力に負けて横転しそうになったが、咄嗟の機転で体を傾け浮いた内輪に体重をかけて横転を免れる、と言う一場面があった。
 バイクの乗車技術に、“ハングオン”と言う旋回時にコーナーの内側に搭乗者の重心を移動させて、安定した旋回を行う技術があるが、たぶんやっていることは同じだろう。
 そんな事知るはずもないだろうから、どうすれば転ばずにすむか体感で理解していたのかもしれない……
 MAX速度に関しては、直線のみのゼロヨンスタイルで2号機と比較してみたところ1号機の方が速いという結果になった。
 スタート技術の云々もあるだろうが、自分で出力を調整できる分、上限速度の設定がない1号機の利点が生きた、という事なのだと思う。
 ちなみに、2号機のテストドライバーはリュドだった。
 MAX速度、と大層な事を言っているがその速度はゲンチャリの法定速度を超えるかどうか程度だ。
 1号機でこれなのだから、2号機は押して知るべしである。
 下り坂で本気で加速している自転車の方が、たぶん速いくらいだ。
 速度を追求するつもりはないのだが、2号機が思った以上に遅かったのには正直少しショックを覚えた。
 これはまぁ、俺が個人的に行った試験でも分かっていた事なのだが、外から見るとやっぱり遅いと実感させられる。
 それも1号機と比較すると一入ひとしおだ。
 それでも、こちらの世界ではかなり速い方に分類される。
 なにせ、最高速度の移動手段が馬(っぽい生き物)だからな。
 駆動輪を4輪から2輪に替えて、出力を上げたら速くなるだろうか?
 いや、それならいっそ前後2輪のバイク状にして、1輪に出力を集中した方が早いか?
 と、まぁいろいろ考えは浮かぶが、試すのはまた今度だな。
 で、ちなみにこの試験を行っている間、2号機はタニアとリュドの恰好の餌食となっていた。
 で、ミーシャは何をするでもなく俺の隣に立っているだけだった。
 一度、“こんな所で突っ立てるだけで、つまらなくないか?”と聞いてみたのだが、“全然”と笑顔で返されてしまった。
 何が楽しいのかは知らないが、本人がそれでいいと言うのだから、俺がとやかく言う事ではないだろう。
 で、試験を一通り見た上での考察だが、若干安定性に問題があるが他はおおむね良好、といったところか……
 安定性を失う、とは言っても高速状態で急な旋回をした時くらいなもので、これはドライバーの腕でいくらでもカバー出来る程度のレベルだな。
 現にグライブは転倒を免れている訳だし……

 で、一通りの試験を終えて、さてそろそろ帰ろうか、という時になってそれは起きたのだった。

「なぁ、ロディ。オレと競争しようぜ」

 グライブが俺に近づいてくるなり、したり顔でそう言って来たのだった。
 “ナニで”とは言わない……
 そんな物は分かりきっているからだ。
 こいつ……俺が2号機にしか乗れないのを分かっていて勝負をふっかけてきやがったな……
 さっきの1号機と2号機の直線勝負で勝ったもんだから、いい気になっての挑戦だろう。
 既に勝ち誇った顔をしているのが、なによりの証拠だ。

「ほぉ……いいぜ……受け手立ってやんよ」

 所詮直線で早いだけのマシンで、この俺に挑もうなんざ100万光年早いという事を身を持って教えてやろうではないかっ!
 身の程と言うのを教えてやるのもまた、年長者(精神的な)としての勤めだからな。
 その伸びた鼻っ柱をヘシ折ってやる!
 それに、こちとら学生時代に某公道レース漫画にあこがれて、無駄に峠を下りまくっていたのが伊達じゃないとこを見せてやろうっ!
 さぁ! その目に焼き付けるがいい!
 この俺の必殺の超絶ウルトラスーパーレイトブレーキングを!!

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

注意
光年は距離の単位であって、時間の単位ではありません。
いくら中の人がバカでも、それくらいは知ってます。それだけは真実を伝えたかった・・・

終わり際に、わかる人にしかわからないネタがありますがあまり気にしないでください・・・
あまり本編とは関係ありませんので。 
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