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三四九話
しおりを挟むチュン チュンチュン チュン……
「……まぶし」
工房から出ると、すっかり日が昇っていた。差し込む日差しに目を細める。
時刻は朝の六時。
夕食の後、ちよっとだけマキナバハムートの修理箇所のチェックをしようと思い作業を始めたら、ついついのめりこんでしまいこのザマだ……
これも“朝チュン”というのだろうか? いや、いわんな……
これはただの徹夜である。
余談だが、実はこの世界にもスズメっぽい声で鳴く鳥がいたりする。
この屋敷が森に囲まれているという環境の所為か、周囲にメッチャ数がいるっぽいんだよなぁ……
今日は比較的穏やかだが、酷い時は朝っぱら大量に集まりチュンチュンと大合唱している時がある。
それがもう、五月蠅いのなんの……
おかげで、こいつらの鳴き声で目が覚める、なんてこともしばしばだ。
ただ、生憎と未だ本体を見たことはないんだよなぁ。
なので、どんな姿をしているのかは未だ知らない未知の生物でもある。
……なんてことは、この際どうでもいいな。
さて、さっさと戻って寝よ。
で、屋敷に入り、自分の部屋へと向かう道すがら、廊下を歩いていると外から誰かの話し声が聞こえて来た。
ふと、足を止め、窓から外へと目を向けると、視線の先では朝も早くから既に働き出しているメイドさん達の姿があった。
朝も早くからご苦労なことで……てか、あれミラちゃんじゃね?
それに、人影は二人分あり、もう一人は……あれはボゥちゃんか?
数少ない、顔と名前が一致しているメイドさんの一人だ。
ちなみに、ボゥちゃんにはレインちゃんという姉がいたはずだ。
ここからでは二人して庭で何をしているかまでは分からなかったが、ぱっと見、作業をしている、というよりは、何かを相談している、といった感じの雰囲気だった。
が、まぁ、俺には関係ないか、とそう思い、俺はさっさと自分の部屋へと帰って行ったのだった。
♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢
「……それで徹夜になった、と?」
「ああ……最初は少し確認するだけのつもりだったんだけど……
やり始めたら止まらなくなってな」
「ふ~ん……でもだったら、ドアに『昼まで起こすな』って書いておけばよかったのに」
「……そこまで頭が回りませんでした」
現在、俺は食堂で昼食を食べている最中だ。
周囲には非番のメイドさん達が集まっており、で、目の前に居るのはミラちゃんだ。
ミラちゃんも丁度今は非番なのだとか。
ということで、こうして一緒に昼ごはんを食べているというわけだ。
実はあの後、丁度寝始めたタイミングでミラちゃんが俺を起こしに来たのだが、寝た時間が時間だったので、俺は事情を軽く説明して朝食は抜きにしてもらい、今の今まで爆睡していた。
あの時は、朝食がいらないこと、それと昼まで寝ることしか伝えていなかったので、今はその経緯について詳しく話していたところだった。
ちなみに、俺を起こす担当はミラちゃんと決まっている。
他の人達は……まぁ、いろいろと危険が危ないからな。
寝込みを襲われたら、たまったものではない。
マレアがピッキングで不法侵入して以来、俺の部屋の扉は工房と同じ認証式の物に変えており、現在は俺とミラちゃん、それとイースさんのみが開けられるようになっていた。
これも安全策の一環である。
更に余談だが、本日のメニューはパンと具沢山のシチューとピクルスの盛り合わせだった。
ただ、俺が知るピクルスより酸味を感じず、逆に塩気や辛味が強いので、どちらかというと漬物に近いような気もしないでもない。
俺と一緒に昼食を食べているメイドさん達も、同じメニューだ。
俺的にはオーソドックスなメニューだが、メイドさん達に言わせれば、ここでの食事はかなり豪華なものらしい。
彼女たちはただのメイドではなく、王女であるプレセアに仕える為に、専門の教育を受けた結構いい家の令嬢達である。
その彼女達を以て、豪華だ、と言わしめるのなら、相当なのだろう。
実際、ミラちゃんなんかは、最初の頃、「一年に一回、あるかないかのレベルの食事が毎日食べられるなんてっ!」って泣いてたことがあったからな……
あの子の以前の生活を思うと、不憫でならん……たんとお食べ……
また、ここでの食事に使われている費用は、一応、全額国持ち、ということになっている。
ただ、本来はこうしたメニューは俺のみであり、メイドさん達はもっと貧相な別メニューだったのだが、それでは不憫だと俺が全員……研究者含む……同じレベルの食事になるよう頼んだのだ。
が、そうすると費用が爆発的に膨れ上がってしまうので、その増加分に関しては、国が俺に対して支払っている、研究者の受け入れ費用や、俺が所持している発案権……特許のようなもの……の収入などから回してもらっていた。
この国のカネとか沢山貰っても使い道がないからな……こうでもしないと増える一方で全然減らないのだ。
ただ、それでもまだ収入の方が圧倒的に多いわけだが……
なので、実質的に彼女達……研究者含む……の食事代は俺が支払っているような状態になっていた。
なんてことを考えながら、ピクルスの盛り合わせをバリバリ頬張る。
何だかんだで、結構うまいんだよな、コレ。
「お代わり、持ってくる?」
「ん……じゃあ、少しだけ」
「ほ~い」
ピクルスの皿が空になったのを目敏く見つけたミラちゃんがそう言ってくれたので、お願いすることに。
で、皿を受け取ったミラちゃんが厨房へと走って行った。
まぁ、こういうことは別に珍しいことではなかった。
俺が食事をしていると、誰かしらメイドさんが世話をしてくれるのだ。
追加をお持ちしましょうか? とか、お飲み物をお持ちしましょか? とかだな。
最初こそまったく慣れるものではなかったが、今となっては……だ。
人の適応能力ってスゲーな……
なんて、ミラちゃんが戻って来るのをぼーっと待っている間に、ここぞとばかりに近くにいたメイドさん達が一人、また一人と集まって来ては何気ない挨拶を交わす。
気付いた時には、十数人くらいが俺の周りを囲っている状態となっていた。
これもまた何時ものことといえば、何時ものことだ。
マレア曰く、彼女達の本当の目的は俺の篭絡らしいからな。
こうしたちょっとした時間でも利用して、少しでも俺とお近づきになろうと彼女達が寄って来る、というわけだ。
俺がメシを食っている傍ら、甲斐甲斐しく世話をしてくれるのもそのためだ。
中には、必要以上に体を寄せて来たりする子がいたりするからな。
時には、腕にぽよんぽよんしたナニか押し付けてくる子もいたりするのだが、そのナニかに気づいたら終わりのような気がして、ずっと必死になって無視を決め込んでいた。
なんというか……遺跡から帰って来てからというもの、なんだかメイドさん達のアプローチが積極的かつ露骨になってきたような気がする……
ただ、俺が誰かと一緒の時は成りを潜めて静かになるので、極力誰かと一緒にいるようにはしていた。
それがミラちゃんであったりセレスであったりマレアであったりするわけだ。
「ちょっ、通して! 通してって!」
なんて、俺がメイドさん達から精神攻撃を食らっている時。
メイドさんの壁を掻き分けて、ミラちゃんがピクルスの乗った皿を片手に戻って来てくれた。
ミラちゃんが戻って来るなり、メイドさん達が蜘蛛の子を散らすように帰って行く。
ふぅ~助かったぜ……
「ふぅ~、相変わらずモテモテだねぇ~、おにいさん」
実情を知らないミラちゃんがそうからかってくるが……あれをモテモテといっていいのか?
こちらとしては、狼の群れに放り込まれた生肉の気分だよ。
ちなみに、メイドさん達がミラちゃんを優先するのは、俺がミラちゃんを直接雇用しているから、ということらしい。
実はメイドさん達の序列の中では、ミラちゃんと、そしてイースさんのこの二人は結構上に方に位置しているのだと、前にマレアから聞かされたことがあった。
ミラちゃんやイースさんが、メイドさん達に直接命令することは出来ないそうだが、俺に対する案件の場合、メイドさん達よりも優先される、とのことだ。
なんだか難しい上下関係があるみたいだな、知らんけど。
「あっ、そうだ! おにいさんっ。ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」
戻って来たミラちゃんは、手にした皿を俺の前に置くと、唐突にそう切り出した。
「お願い?」
俺は差し出された皿から一つをつまみ上げ、ボリボリしながら聞き返す。
「うん! ほらっ! ボゥちゃんもこっち来てっ!」
で、何処かへと向かって手招きすると、何処からともなくボゥちゃんが姿を現し会釈する。
表情からして、かなり緊張しているようだった。
にしても、この組み合わせ……朝見たな……
で、ミラちゃんに勧められるまま、ボゥちゃんがミラちゃんの隣の椅子へと腰掛ける。
「これはボゥちゃんも関係あるお願いってことか?」
「うん……あの……お庭に畑を作ってもいいかな?」
俺がミラちゃんに要件を尋ねると、ミラちゃんが歯切れ悪くそう答えたのだった。
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