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三三七話
しおりを挟むSIDE ANOTHER
遺跡の最奥にある主動力路の起動に成功したスグミ達一行は、その後、本来の機能を取り戻した遺跡内の探索、調査を数日に渡り行った。
機能を取り戻したこともあり、遺跡内の見取り図なども保存されていたデータ内から入手し、調査の速度が格段に上昇。
結果、様々な歴史的発見をすることとなった。
しかし、スグミに許されている調査期日も終わりに近づいて来たため、余裕をもって一度調査を切り上げ、帰還することと相成った。
ギリギリまで粘って、変なトラブルに巻き込まれたら目もてられない。
一名、猛反発していた者もいたが、“期日内に必ず帰る”というのが条件だった以上、その約束を保護にも出来ない。
ましてや、その約束をした相手が王族なのだから尚更だ。
こうして、第七号遺跡の初となる本格的な調査は、無事、終わりを迎えることとなったのだった。
余談だが、帰りに関しては道も分かっていることもあり、二時間も経たずに帰還していた。
♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢
SIDE プレセア
「……おじ様はこの報告書には既に目を通されているのですか?」
ノールデン王国王宮、国王の執務室にて。
プレセアは手にした報告書を一読してから、机の正面に設置されたソファーに腰をおろしていたラルグスへとそう語りかけた。
ちなみにだが、今、プレセアが読んでいた報告書は、昨日、スグミ、セレス、マレアの三名が行った第七号古代文明期遺跡の調査結果を記したものである。
報告者は、セレスとマレアの連名で行われていた。
「……勿論だ」
と、ラルグスは重たいため息を一つしてから、ゆっくりとそう答えた。
ラルグスがこの報告書を受け取ったのは昨日、つまり、スグミ達が帰還したその日のことであった。
生憎と、昨日プレセアは公務で忙しかったため、確認することが出来なかったので、今日、確認することとなった、という次第である。
そして、目を通した結果。
そこに書かれている内容というのが……これがとてもではないが、容易には信じられないような内容ばかりがつらつらと綴られていたのである。
やれ、遺跡は長大な迷宮となっており、その中に巨大なガードナーを複数確認した。
やれ、地下に古代人の街があった。
やれ、遺跡の最奥には魔力を生み出す装置があり、剰え、その起動に成功した。
更に、生み出した魔力から魔石を作り出す装置まで発見し、それの稼働にも成功した。
などなど……
ちなみに、魔石の製造機に関しては、メインリアクター起動後の調査によってスグミ達が新たに見つけたものである。
この発見に、セレスが祖父の仮説がまた一つ証明されたと、歓喜の舞を踊っていたことは言うまでもないだろう。
こんなものを読まされれば、ラルグスでなくとも重いため息の一つも吐きたくなる、というものである。
特に“魔石を生み出す装置”に関しては、国家を揺るがすような一代発見であった。
魔石とは、いわばエネルギー資源であり、その希少性も相まって、利用の殆どが軍事関係となっている貴重な軍需物資なのである。
稀に、金持ちが道楽で生活雑貨の魔道具の燃料として魔石を用いることがあるが、割合としては無視していい程度のものだ。
それが、だ。
この報告書が真実を記しているというなら、その魔石が定期的に安定供給される、ということを示していた。
現状、魔石は自然界で少量、偶然発見されるか、もしくは古代遺跡内に現れるガードナーというゴーレムを倒すことで、その体内から採取するかのどちらかであった。
自然採取は特に危険があるわけではないが、発見があまりに運任せであり定期的な採取はほぼ不可能。
かといって、ガードナーを討伐しての入手は、ガードナーを倒しさえすれば確実に入手出来る反面、多大な危険と隣り合わせになることになる。
ガードナーは非常に強く、これを討伐するには自由騎士にも相応の実力が求められた。
生半可な実力では、逆に命を落とすことにもなりかねないのである。
事実、安全を考慮し、採取者の入場条件を厳しくしたとて、年に一〇人以上の死者が出ているのが実情だ。
短期間で高額の報酬が得られると、一攫千金目当てに遺跡に挑む者は後を絶たない。
が、その絶対数は非常に少なく、魔石を回収する、という意味においては、芳しい成果が上げられている、といはいえない状況であった。
ちなみに、犯罪奴隷の一番の重罰はこの遺跡での魔石採取労働である。
失っても問題ない人的資源として、数人単位をまとめて遺跡へと放り込むのだ。
遺跡内部では監視もつかないと、逃げようとする者もいなくはないが、逃げたところで逃げ場などない遺跡の中だ。
下手にうろつけば道に迷い、帰り道が分からず餓死するか、ガードナーに見つかり殺されるかのどちらかであった。
半面、上手く魔石を持ち帰れば、多少だが人間らしい暮らしをすることが許されるので、犯罪奴隷達も日々必死で魔石の回収に勤しんでいた。
まぁ、所詮は素人に毛が生えた程度の戦力しかないため、効果としてはいまいちだがないよりはマシであろう。
なんにしても、だ。
プレセア達は、魔石を安全に、そして安定して入手する方法が、今まではなかったのである。
それがだ。
この魔石製造機が実際に稼働して、安定供給を可能とするなら、そうした問題のすべてが解決することになる。
しかも、報告書によれば、日の生産数が中型魔石……おおよそ、成人男性の親指大に相当……で、一〇〇から一五〇個ほどだというのだ。
これを現在の相場、かつ、年間ベースで試算すると、実に現在のノールデン王国の国家予算の二倍から三倍に相当する金額になると、そう記されていた。
算出したのはセレスである。
更に、だ。
報告によれば、なんでもスグミがガードナーの制御方法を見つけ出し、最下層にある魔石製造機から作り出された魔石を、ガードナーを使い遺跡の表層部まで運搬するシステムを構築した、とも記されていた。
最初は、マレアがこれらの魔石を持ち帰れないか? と、スグミに相談したところ、ならばと事前に発見していたガードナーを使い、運搬する方法を考え付いたらしい。
現状は、第一大広間……一番最初にスグミ達が巨大ゴーレムを見つけた部屋に運搬、保管するように設定されているそうである。
ちなみに、ガードナーの攻撃設定は解除されているとかで、ここ、七号遺跡のガードナーに限っては、もう人を襲ったりすることはないとのことだった。
プレセアもラルグスも、最初にこの報告を読んだ時、どうやって最下層まで魔石を取りに行くかと悩んでいたのだが、正に至れり尽くせりであった。
だが、驚きの報告はまだまだ終わらない。
なんと、この七号遺跡は他の遺跡と巨大な地下トンネルで繋がっている可能性がある、ということも記されていたのだ。
この地下トンネルだが、メインリアクターの再始動後にスグミ達が探索によって見つけた場所だった。
地下都市の人々が一体どうやって逃げたのか、その答えがこのトンネルだった、というわけだ。
また、そのトンネルにはレールらしきものが敷設されており、当時、鉄道の様な大量移送手段が既に確立されていたことを匂わせる発見もあった。
ただし、肝心の車両は見つかっていないという。
生憎と、時間の関係でトンネルの先は調べていないそうなのだが、入手した資料によると、ほぼ間違いなく別の遺跡に通じている、とセレスが断言していた。
そしてこれはあくまで仮定の話し、としたうえで、セレスはこうも続けている。
仮に、現在稼働状態にある各種遺跡に、七号遺跡から移動し、また、それらの遺跡にも七号遺跡と同様の設備があるとした場合、比較的安全に魔石の採取が可能である、としていたのだ。
しかも、現在の七号遺跡は魔石製造が可能ではあるが、それは本来の性能よりかなり低下している状態だとして、他の現状稼働している遺跡からは更に多くの魔石の採取が出来る可能性が高い、とそう示唆していた。
稼働状態の遺跡の魔石製造量が如何ほどなのかは皆目見当も付かないが、七号遺跡と同等と考えても、ざっくり国家予算の二〇倍以上を下ることはないだろう、とそうセレスは報告書にまとめていた。
勿論、魔石は市場では禁制品として扱われているため、直に現金化出来るものではないが、それだけの価値がある発見だった、ということだ。
少なくとも、魔石を用いたエネルギー問題に関しては、この装置が稼働している限り考える必要がなくなったのである。
ましてや、最近ではスグミから齎されたという魔道具技術が、王宮仕えの技術者達によって解析、研究が進められていた。
そして、そのいくつかは既に実用段階にあると聞く。
仮にだ。
このスグミの技術と、安定供給される魔石があれば、万人が魔道具を使える様になり、より豊かな生活が送れるようになるのではないか? と、プレセアは考えていた。
とはいえ、その場合は魔石を兵器転用されないように、何かしらの対策を講じる必要があるが、それはまた別の問題である。
また、これは余談だが、これら遺跡での発見物は、形式的にではあるが、基本的に発見者にその所有権が認められており、それをノールデン王国が適正価格にて買い取る、というスタンスを取っていた。
今回の遺跡探索に関しては、スグミ、セレス、マレアの三名で行っていたわけだが、その実、実質的な成果を上げたのはスグミ一人であるとし、遺跡内での発掘の成果はすべてスグミにある、というのが現場の総意としていた。
簡単にいえば、セレスやマレアが居なかったとしても、スグミ一人で同等の所為かは十分に上がっていただろう、という判断がなされた、ということだ。
が。
これをスグミは拒否。代わりにすべての権利をセレス……正確には、神秘学研究会へと譲渡するという旨が報告書には記されていた。
理由は、セレスから金級自由騎士としての推薦を貰う際に、そういう契約を交わしていたから、だそうだ。
が。
その場合、セレスが手にすることになる金額が天文学的単位となる。
七号遺跡の魔石製造機の成果だけでも、国家予算を超える金額となるのだ。
ましてや、遺跡全体の成果を含めれば、その金額が如何ほどになるか……
更に、他の遺跡へと行けた場合は?
その桁は、セレスの脳内そろばんの玉の数を遥かに超えていたために、簡単に弾け飛んだ。
で、これにビビったセレスが、権利を王室に献上する、という流れになったのだった。
準貴族、とはいえ所詮は平民。
途方もない金額に恐れ戦いたとて、それは仕方のないことなのである。
その代わりといってはなんだが、セレスの要望としては、来年度からの神秘学研究会への予算を増やして欲しい……という打診を、報告書を通して行っていた。
とにかくだ。
王家としては、何の労もせずして膨大な富を手にしたことになる。
降って湧いたようなエネルギー資源ドリームである。
いってしまえば、庭掘ってたら石油が湧いてきた、みたいな荒唐無稽の夢物語。
そんな内容が、この報告書には至って真面目に記されていたのだった。
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