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三三六話
しおりを挟む翌日。
「さて、んじゃ取り掛かるか」
「頼むわよ、スグミ」
と、セレスがスゲー目力で念を押してくる。
頼むと言われてもな……問題はエーテルストリームが今、何処を流れているかであって、俺の頑張りはあまり関係ないのだが……
今日は朝から、エーテルリアクターの再起動実験を行うことになった。
手順に関しては、昨日マニュアルを熟読したので、まぁ、なんとかなるだろう……てか、なんとかなればなぁ……いや、なんとかなって欲しい、といった感じだ。
こちとら、所詮はマニュアルを読んだだけのズブの素人である。こんな付け焼刃な知識が果たしてどこまで通じるか……
というわけで、ホロディスプレを操作し、動力路関係の操作画面を表示する。
するとそこには、無数の記号やらラインが縦横無尽に行きかっている難解な表のようなものが現れた。
これがこの施設全体の動力路図である。
うむ、実に見難いなっ!
「んじゃ、今からエーテルストリームが何処にあるかのチェックを行います。
これでエーテルストリームがリアクターから離れた位置にあったら、その時点で再起動は不可能だから諦めるように。いいな?」
「わ、分かってるわよ……」
と、今から行う作業について説明し、一言セレスに釘を刺しておく。と、セレスが若干気まずそうに返事をした。
まず口頭で説明したのは、俺が黙ったまま操作をしていると、今は何を目的として、どういう操作をしているのか、とセレスがこっちのことなどお構いなしにメッチャしつこく聞いてくるからだ。
こっちは未知のOSを一つ一つ考えながら手探りで調べてる真っ只中だってのに、あれやこれやと聞かれてウザいのなんの……
あまりにしつこいので、終いにはキレた……というほどではないが、結構強めに叱る羽目になってしまった、ということが昨日あったのだ。
セレスがなんだか気まずそうにしているのはこの所為だろう。
俺は滅多なことでは他人を叱ったりしないのたが、そんな俺に説教をさせるとかセレスも大概である。
叱られて以降、セレスも質問を控えるようにはなったが、今度は俺の周りを今まで以上にチョロチョロするようになり、それはそれでウザいのなんの。
で、結局、俺が今している操作、そしてその目的、また、何処で悩んでいるかを独り言の様に延々呟きながら、それをセレスが聞く、という謎のスタイルが確立されていくこととなった。
と、そんな感じで昨日、色々と調べている時に、エーテルストリームの位置を調べる装置……正確には、現在どれだけのエーテルが回収出来るかを調べる装置、なのだが……がある、ということが分かったので、今はその装置を動かす手順を進めていた。
「まずはエーテルチェッカー(仮)の起動からだ。
とはいえ、本来はメインリアクターから魔力供給を受けて動いている装置だから、今のままでは起動出来ない。
だから、別の場所から動力を供給してやらなきゃならん。
ということで、サブリアクターの一つを、エーテルチェッカー(仮)に繋ぎ直す作業を行う」
そう言いつつ、俺はホロディスプレに表示された動力路図から“五番”と書かれたサブリアクターを選びタップ。すると、その詳細情報が横に表示された。
詳細表示の中には、現在の出力、供給先等が事細かに記されている。
ちなみに、このサブリアクターは、現在、例の巨大ゴーレムの大広間に繋がっているものだ。
で、供給先の項目を選択し、接続の解除を実行。
これで五番サブリアクターの接続先が空欄になった。
次いで、再接続を実行。
接続先を求めるメッセージが表示されたので、動力路図の中からエーテルチェッカー(仮)を選択し、決定。
これで、今までゴーレムの大広間に繋がっていたラインが、エーテルチェッカー(仮)へ変更された……はずである。
試しにエーテルチェッカー(仮)の詳細表示を開くと、現在のエネルギー供給量が表示されていた。
状態は“クリア”。つまり、いつでも起動可能である、ということだ。
「よし、これでエーテルチェッカー(仮)に出力が回りましたっと……
で? 次はこれを起動するんだが……えっと、こいつはどこで操作するんだったか……」
と、大きな声で独り言をぶつぶつと呟きながら操作を進める。
「二つ前の“ふぉるだ”にあった、“各種機器設定”から“えーてるりあくたー”“詳細”“周辺回路”“四五番”よ」
そう言いながら、横からにゅっとセレスの細い腕が伸びて来たかと思ったら、ぱぱぱぱっと盤面を操作し、該当項目を表示する。
おっ……おぅ……
昨日一日俺が操作をする姿を見ていたからなのか、すっかり操作方法も覚えてしまい、今となっては俺よりも的確に操作しているような状態となっていた。
俺なんて昨日作ったメモ帳と動力路図のファイルを片手に必死こいて操作しているというのに……
文字や記号の知識不足というアドバンテージこそあるものの、この差とは……
天才って、マジ怖いわ……
「これでいいのよね?」
「おっ、おぅ、ありがとう、助かったよ……」
ドヤ顔で俺を見上げるセレスに礼を言いつつ、先の作業へと進む。
エーテルチェッカー(仮)を操作する為のアプリを起動し、表示された画面の中から“起動”を選択。
すると……
「あっ! スグミくんスグミくんっ! あれっ! なんか光り出した!」
マレアが大きな声でそんなことを言い出した。
マレアの方へと視線を向けると、ガラス壁の方を指していたので、今度は視線をそちらへ向ける。
確かに。
マレアの言う通り、メインリアクターの一部がピカピカと明滅しているのがここからでも見えた。
どうやらあそこが、エーテルチェッカー(仮)のある場所なんだろうな。
光っている、ということは、正常に起動している、とみていいだろう。
ならば、次の工程だ。
エーテルチェッカー(仮)の操作画面から、“エーテル強度の計測”というコマンドがあるのでそれを実行。
これは、周囲にどれくらいのエーテルがあるかを調べる工程だ。
これで、エーテル強度が800を超えていれば、メインリアクターの起動、維持が可能だとマニュアルには示されていたが……
画面に“計測中”というメッセージが表示され、暫し待つようにと指示か出る。
で、その下に小さく、計測結果に狂いが出るから、計測中は余計なことはするな、という注意文がついていた。
なので、大人しく暫し待つ。
ちなみに、当時稼働していた時は、エーテル強度が1500前後くらいで安定していた、みたいなことが報告書の中に記されていた。
少しして、ピコンっと音が鳴る。
「計測が完了したみたいだな。で、結果はっと……」
画面を見ると、計測完了のメッセージの表示と共に、計測結果も合わせて表示されていた。
その数値は……
「850……ギリギリだが稼働ラインは超えているな。こいつ……動くぞ!」
と、何処かの宇宙世紀のチリ毛の様なことを言ってみる。
「それじゃ、もう動かせるのねっ!」
「いや、まだだな」
と、セレスが期待感も露わにそう聞いてくるが、それをばっさりと切り捨てる。
「今、動くって言ったじゃない!」
「動くには動くが、もうひと手間必要なんだよ」
そうセレスが避難がましい視線を向けるが、軽く受け流す。
喩え、メインリアクターを動かすのに十分なエネルギーがあるとしても、そのエネルギーを汲み上げる装置のエネルギーが、今はカラの状態なのだ。
例えるなら、近くに十分な埋蔵量の油田がある。そして、原油を汲み上げるポンプもある。
が、ポンプを動かす燃料がない、という感じに近い。
そこで重要になるのが、全部で五基あるサブリアクターだ。
というか、このサブリアクターだが、その本来の目的はメインリアクターの起動補助用の設備であるらしいのだ。
一度稼働してしまえば、自らエネルギー供給が可能となるメインリアクターだが、その最初の一歩を踏み出すだけのエネルギーを与えるのが、このサブリアクターの役目なのである。
なので、次の工程としては、一番を除く、二番から五番までの四基のサブリアクターをメインリアクターへと接続し、初動に必要なエネルギーの充填を行う必要があった。
以上のことを、セレスに説明しつつ操作する。
接続後、メインリアクターの制御画面を確認すると、じわじわとではあるがエネルギーが溜まっているのが、表示から見て取れた。
よし、上手く機能しているようでなによりだ。
しかし……
サブリアクターの出力は非常に低いので、十分なエネルギーが蓄えられるまで暫し時間が必要なようだった。
なので、俺達は適当にお茶でもしばきつつ、時間を潰す。
余談だが、一番を除いたのは、一番が今使っているこの制御装置の動力となっているからだ。
また、この一番はこの制御装置に直結されているため、接続先の変更は不可能となっている。
まぁ、外したらその瞬間、遺跡内の設備が制御不能になるからな……
そうした事態にならないように、専用でサブリアクターが一基ついているのだう。
ちなみに、このサブリアクターだが、その動作原理としては、周囲に漂っている微量のエーテルを回収し、魔力へと変換しているらしい。
メインリアクターの様な大きな出力は見込めないが、低いエーテル強度でも安定起動する装置、といった感じの様だ。
メインリアクターを、条件が整っている限り大規模な発電が出来る原子力発電とするなら、サブリアクターは太陽光発電や風力発電みたいな感じなのだと理解した。
………………
…………
……
どれくらい待っただろうか?
随分して、ようやくメインリアクターに、稼働出来るだけの十分なエネルギーが溜まったことを知らせる通知が画面に表示された。
後は“起動”を実行するのみである。が……
「なぁ、セレス。折角だからセレスが装置の起動をしてみるか?」
と、俺は隣でわくわくが抑えられずに鼻息荒く興奮しているセレスへとそう声を掛けた。
「い、いいのっ!」
で、案の定セレスががっつり食いつてきた。
いいのも何も、ぶっちゃけ俺はこの装置、というか遺跡にそこまでの思い入れはない。
そういう意味でも、ここはセレスの方が適任だろう。
じいちゃんと二代に渡って研究していたわけだからな。
正直、欲しい情報がないと分った時点で、半ばもうどうでもよくなって来ていたところだ。
いってしまえば、今は付き合いで一緒に居る、というだけだからな。
……まぁ、まったく収穫がなかったわけではないが、それを調べるのにまた手間がかかるというかなんというか……
それはさておき。
俺はセレスに場所を譲ると、自分は後ろに下がった。
「え、えっと……それじゃ、本当に私が動かしていいのね?」
「どうぞどうぞ」
何をそんなに緊張することがあるのか、セレスは深呼吸を一つすると、意を決したように表情を引き締める。
「そ、それじゃあ行くわよ……起動っ!」
右手を高々と掲げ、勢いよく振り下ろす手で“起動”のコマンドにポチっ。
しかし……
「…………?」
「…………?」
「…………?」
あれ? 何も起きないまま、一時の静寂が訪れる。
もしかしたら故障しているのか? と思ったら……
ごっごっごっごっごっ……
という地鳴りの様な音が響き、ガラス越しのメインリアクターが七色に光っているのが見えた。
制御画面を確認すると、みるみる出力が上昇しているのが分かる。
起動に成功したのだ。
間違いなく、歴史的な快挙だろう。
セレスのことだ。感極まって踊り出すのではないかとおもい、セレスへと視線を向けたのだが……
「…………」
そんな俺の想像とは裏腹に、ただ、静かに光るメインリアクターを見つめているだけだった。
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