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三二二話
しおりを挟む調査の結果、思った通り一番状態が酷かったのが頭部で、大破一歩手前の中破といった感じだった。
あのまま戦闘が長引いていたら、もしくは大きなダメージを受けるような攻撃をまともに食らっていたら、空間拡張術式にまで影響が出て、頭部に保管していた内容物によって内側から爆発四散していたところだった。
それ以外は、脚の数本が僅かに曲がっていたり、外装が多少歪んだりと、小破というのも烏滸がましい軽微な損傷が沢山、といったような状態だ。
胴体に損傷が少ないのにハッチが開かなくなったのは、おそらく頭部を攻撃された衝撃が玉突きの様に節を伝搬したことで、全体的に少しずつ歪んだでいった結果ではないだろうか? と見ている。
事実、頭部に近い節ほど損傷の度合いが大きく、そして離れるほど小さくなっているからな。
精密に作っている分、多少の歪みでもこういうことが起こってしまうのだ。
ゲームのシステム的な意味でも、素材的な意味でも、そもそもが歪むなんてこと自体を想定していなかったからな。
今後はこういう事態も考えて、一度設計を見直す必要がありそうだ。
非常時の脱出手段を設けなり、多少の歪みを想定してクリアランスを設けるなり……まぁ、その辺りは追々考えていくことにしようか。
「ただいま~」
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ~……」
と、状況確認をしつつ、修理箇所の点検をしているとマレアとセレスが戻って来た。
戻って来たということは、例のミニゴーレムを捕まえたのだろう。
思ったよりお早い帰還である。
マレアは先ほどと何も変わった様子はないが、隣に立っているセレスは立っていることすら辛いといわんばかりに、息も絶え絶えといった様子だった。
足など、生まれたての小鹿よろしくぷるぷるしているしな。
だが、反面。胸に抱えたビンだけは、決して話さないとばかりに力強く抱えていた。
抱えている所為で俺からはビンの中身は見えないが、捕まえたミニゴーレムが入っているのだろう。
「その様子から見ると、ミニゴーレムは捕まえられたみたいだな」
「まぁ、あたしにかれば楽勝ね」
と、マレアが無い胸を張る。その一方、声も発せないほど息が上がっているセレスはコクコクと首を縦に振るだけだった。
「で? そっちはどんな感じなの?」
「動かせるには動かせるが、いつ壊れてもおかしくない状態だな。特に頭部の状態が悪い。
先に進むにしても、戻るにしても、一度ここで修理はした方がいいのは間違いない」
いつ爆発するかも分からない時限爆弾を抱えたまま移動なんてしたくはないのは当然だが、それ以上に頭部が壊れかけている、という方が今は問題だろう。
というのも、【傀儡操作】を使用する上で、人形の頭部というのは非常に重要な要素になっていた。
そもそも、【傀儡操作】はどんな形状でも好きに操れるわけではなく、現実生物、幻想生物問わず、とにかく生き物と認識出来る形状に近くないと操ることは出来ない、という縛りがあるのだ。
そういう意味では、頭部というのは生物性を保つ上で非常に重要な要素の一つとなっており、その頭部が破損した途端、生物性が失われ、制御が出来なくなってしまうのである。
いってしまえば、頭部とは【傀儡操作】において一番の弱点だともいえる場所となっていた。
ちなみに、俺が所持している人形の一体に“鉄腕28号くん”という、外見的には頭を持たない人形がある。
以前、自由騎士組合の依頼で街を囲う石壁、街壁を修理した巨大な人形だ。
ただ、この鉄腕28号くんも本当に頭がないわけではなく、厳密には胸部と頭部が一体化した形状をしているだけなのだ。
例えるなら、頭から直接胴体へと繋がっていて、頭の両サイドから手が生えているといった感じだ。
一昔前にいた、天を突破するロボットみたいなアレだ。
なので、人間らしい頭ではないが、ちゃんと頭部という部位は存在しているのである。
で、その肝心な百貫百足の頭部が現状、大破寸前なわけだ。が、今からならまだ応急処置で十分対処可能だった。
次に同等の戦闘を可能とするほどの修復は見込めないが、普通に動かす、つまり、自壊しない程度に修理するくらいなら問題ないだろう。
このまま放置して、もし大破しようものなら即行動不能だからな。流石に、大丈夫だろうと楽観視もしていられない。
ちなみに、ここで頭部が大破した場合、頭部を一から作り直すまで、俺達はこの遺跡に閉じ込められることになる。
地図はあるので、一応、徒歩でこのダンジョンから出られなくもないが、距離を考えるとな……
入り口からここまでの直線距離は十数キロメートルといったところだろうが、内部が入り組んでいるために実際の移動距離はその数倍……下手をしたら十倍以上となる。
正直、そんな距離を歩きたいとは思わんよ。
ということを、二人に説明したうえで、俺は早速修理を開始。
これにより、本日のダンジョンの探索は中断、再開も百貫百足の修理が終わってからというととなった。
♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢
修理を始めて数時間が経った。
ぶっちゃけ、このダンジョンの特殊空間の所為で【形状変化】がまともに機能しない以上、百貫百足の直接的な修復は事実上不可能となっていた。
ちなみに、リペアツールも試してはみたが、マキナバハムートの時同様、俺が思った成果は得られなかった。
リペアツールの能力が、復元、ではなく損耗率の回復なので、破損した場所が破損した状態のまま、耐久度だけが回復してしまう、という状態になりあまり意味をなしていなかったのだ。
ならば、どうやって修理しているか、だが、あくまで直接修理が出来ないだけなので、今は間接的な修理を行っている。
まぁ、【形状変化】が機能しないのは、今のところアマリルコン合金のみに対してなので、破損したパーツなどを別の素材で代用して作り直しているというわけだ。
使えるパーツは極力使い回し、曲がっている部分は黒騎士で無理やり叩いて板金加工、破損して使えない部分だけを別の素材で代替していく。
しかし、そうした代替物は、当然アマリルコン合金より性能的が劣っている素材を使わざるを得ないのだが……
取り敢えずは動いて壊れなければヨシっ! としよう。
また、この修復作業により、空間拡張術式周りのパーツがごっそりと交換となったため、修復後はただの頭部となる予定である。
ちなみにだが、百貫百足の頭部に収納していた瓦礫は、修復作業では邪魔になるので作業前にここから少し離れた所にすべて吐き出し、山積みにしていた。
作業中に爆発でもしたら、たまったものではないからな。
で、そうして俺が百貫百足の修復に勤しんでいる間、セレスとマレアの二人が何をしているかというと……
セレスは、足り回って汗だくとなったからシャワーを浴びる、と帰って来て早々、居住エリアへ向かっていった。
あくまで壊れかけているのは百貫百足の頭部だけであり、胴体の方には何の問題もないため、そちらの設備は正常に稼働中である。
で、今はシャワーからも出て、リビングを我が物顔で占領してミニゴーレムについて研究している。
さっき、小休憩を取りに居住区に戻ったら、テーブルの上にミニゴーレム入りのビンを置き、カリカリと何かを書き留めているセレスの姿がそこにあった。
あまりに真剣だったっので、その時は特に声を掛ける様なことはしなかったが、あれはほっとくと、またいつまでも研究してそうなので、あれは適当なタイミングで無理やりにでも切り上げさせないとダメそうだな。
一方、マレアの方はというと、特にすることもないからと、この大広間から先のダンジョンの様子を、先行偵察しに行っている。
今まで流れから察するに、特に変わり映えもなく同じような迷路が続ているだけの様な気もするが……
こればかりは、マレアの報告待ちである。
それからまた少し時間が過ぎ、取り敢えずの応急修理の目途が立ち始めた頃……
「ただいまぁ~」
と、マレアがふらっと帰って来た。
「お疲れさん。随分と遅かったが、何か目新しい発見でもあったのか?」
マレアの身体能力を考えれば、特に心配などはしていなかったが、帰りが遅かった理由を聞いてみる。
流石に、この期に及んでサボりとかではないと思うが……
「いやぁ~、それがさぁ! 大発見も大発見! この先、すんごいことになってるからっ!」
「すんごいこと?」
「まぁ、それはセレっちも含めて後で話すから楽しみにしてなって。
で、そっちの方はどんな感じなのかな?」
マレアの言葉がかなり気にはなるが、後で話すと言っているのだからここで追及する意味もないだろう。
「そうだな。急ぎでやれば今夜中には応急修理が終わって、明日からは活動が再開出来るってところだな。
ただ、機体性能……特に防御面ではかなり低下するから、今回みたいな戦闘はもう無理だ。
仮に、この先にここと同じようなゴーレムがいた場合は、その時点で撤退になるだろうよ」
と、現状を報告。
「ああ、それなら問題ないかも。ここから先にはもう迷路はなかったから」
「迷路がない? てーと、ダンジョンはここまでってことか?」
「そっ。つまり、ここが迷宮の終点ってわけ」
ならこの先には何が……
マレアは一体何を見て来たっていうんだ?
「んじゃ、あたしも見て来たことを話すから、スグミくんも一旦手を止めて着いて来てくれるかな?」
そういうマレアに、分かった、と頷いて作業の手を止めると、マレアと着いて居住エリアへと向かうことにしたのだった。
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