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三一八話
しおりを挟む『はいっ、ここっ!』
ズゴォォォン!!
これでもう何発目か……
ゴーレムが拳を振り下ろす動きに合わせて、俺は百貫百足をサイドステップさせ、拳の軌道上から離脱。
と、つい一瞬前まで百貫百足の胴体があった場所を、ゴーレムの巨大な拳が打ち据えた。
何の捻りもない単調なテレホンパンチだ。そんな攻撃、そう簡単に当たるものかよ。
俺はすでに見切った巨大ゴーレムの攻撃を回避すると、そのまま巨大ゴーレムの周囲を旋回するように百貫百足を走らせる。
流石にいきなり仕掛けるにはリスクが高いと、復元した巨大ゴーレムを相手にこうして様子見をして少し……
あらかた、この巨大ゴーレムの行動パターンが分かって来たところだった。
まず、この巨大ゴーレムは敵との距離によって攻撃方法が切り替わるように設定されているらしい。
遠ければビームで攻撃、そして近づくとパンチで迎撃、といった感じだ。
しかもこのビームには二種類の射撃パータンがあり、十分に距離がある場合は発射に多少時間を要するが威力の高い集束型を、そうでない場合は威力は落ちるが速射が可能な速射型と打ち分けていた。
更には、エネルギーが外部供給であるため実質弾切れなしのうえ、基本、巨大ゴーレム自身は初期位置から殆ど動かないので、こちらから無理に近づかない限りは、永遠にビームでズビィィかチュンチュンされることになる。
これ、マジでうぜぇです……
中途半端な距離を保っていると、ずっと的状態だからな。
百貫百足には“噛みつき”以外の攻撃手段がないのが悔やまれるばかりだ。
こんなことなら簡単な物でいいから、遠距離武器を着けて置けばよかった……
集束型の方は単発なうえ発射までにタイムラグあるためまだ回避も余裕だが、速射型は本当にバラ撒いてくるから、百貫百足では完全回避はほぼ不可能。
これが黒騎士とかなら余裕で回避出来るのだろうが……たらればの話しをしても仕方ないな。
おかげで、巨大ゴーレムの行動パターンを理解するまでに数十発と被弾してしまっていた。
とはいえ、こちらとて熱耐性の高いコールドスライムの素材を使って作ったコーティング剤で対策済みななうえ、速射型は集束型と比べて威力がそこまで高くないということもあり、現状大きな被害は出ていないのが幸いだ。
しかし、過信は禁物。
コーティング剤とて耐久値があるため、無限にダメージを軽減出来るわけではない。出来る限り、被弾は少ないに越したことはないのだ。
とはいえだ。
逆をいえば、巨大ゴーレムの射撃ラインの内側……正確には、巨大ゴーレムの手の届く範囲にさえ入ってしまえば、ヤツはさっきのような握った拳を振り下ろすだけの単調なハンマーパンチを繰り返すだけとなった。
結果、そこから俺が導き出した巨大ゴーレムの攻略法が、超極近をうろうろする、という方法だった。
ハンマーパンチは質量が質量だけに、当たると危険そうだが動き自体は遅いのでそうそう当たる物でもない。
ならば、範囲に入っては即離脱、入っては離脱と、巨大ゴーレムのハンマーパンチを誘発させては回避、ということを繰り返していた。
結局これが一番安全なのだ。
これならビームも撃ってこないし、巨大ゴーレムの動きを観察することも出来たからな。
さて。もう十分観察し、行動パターンも粗方分かって来たので、そろそろ反撃と行こうではないか。
俺はこれが何度目かになるハンマーパンチを誘発させ、地面に叩きつけられた巨大ゴーレムの拳が戻る前に、素早く腕に絡みつきよじ登る。
そして、その肘に自慢の顎で牙を突き立て、ガジカジとその腕を噛み千切りに掛かる。
百貫百足のサイズでは、巨大なゴーレムの腕を一撃で噛み千切るのは不可能なので、こうして数度にわたって牙を突き立て、その太い腕を噛み千切ろうという寸法だ。
いくら鋼鉄並みに硬いといっても、【一機入魂】により出力が劇的に向上しているうえ、俺謹製のアマリルコン合金で出来た牙の前では、ゴーレムの装甲など絹ごし豆腐みたいなもんだからな。
しかし、ゴーレムもゴーレムで素直にされるがまま、などということはない。
腕を齧り続ける百貫百足を振り解こうと、腕を激しく振ったり、引っぺがそうと掴みに掛かる。
身動きが取れない百貫百足では難なく捕まってしまったが、掴まれたところでそうそう簡単に引き剥せるものでもない。
何せ、【一機入魂】下にある今の百貫百足なら、サイズ補正も相まってその膂力は相当なものである。
単純比較して、通常時の黒騎士の一〇倍近くあるからなっ!
単なるパワー勝負で負ける気はない。
俺は百貫百足の無数の脚に更に力を込め、剝がされないよう腕に脚を突き刺し更に強くしがみく。
こうなってしまえばどうすることも出来まい。
その間に、俺は腕を切断するためにガジカジ攻撃を続行する。
いくらか引き剝がそうと抵抗を試みるゴーレムだったが、無理だと悟ったのか今度は打撃攻撃へと切り替えた。
要は、百貫百足を自分の腕もろとも激しく叩き始めたのだ。
とはいえ、所詮、不安定な体勢からの攻撃だ。
振りかぶって振り下ろす、先ほどの様なハンマーパンチ程パワーの乗っていないただの駄々っ子パンチでは、いくら魔改造のし過ぎで強度が大きく低下している百貫百足とはいえ、その程度の攻撃ではビクともしない。
なので、そんな攻撃お構いなしで腕を齧り続ける。
しかし……
削っても削ってもキリがないな……
巨大ゴーレムは削った端から復元してしまうので、思うように切断作業が進まないでいた。
ならばと、噛みつき削った破片を、百貫百足の頭部拡張倉庫へと収納することにした。
要は“削る”のではなく“喰う”ことにしたのだ。
内部に収納した破片がゴーレムへと復元して暴れるのではないか? という心配もあったが、質量が多くなければ問題もあるまいと自己完結。
こうして、削って回収する、という手段を用いたことで、巨大ゴーレムの復元スピードが明らかに低下。
そうしてようやく、本体から離脱。
切断された腕が、百貫百足ごと自由降下し地面に鈍い音を立ててぶつかった。
途端。
切り離された腕は先ほどの金属めいた硬さをなど嘘のように、うにうにとその姿を粘土の様に変えると、百貫百足の絡みつきから抜けだし本体へと戻ろうとする。
こうなってしまうと、いくら膂力があろうと関係ない。
このゴーレムの素材だが、ゴーレム状態だとクソ硬いくせに、破片になると粘土の様になるという、トンデモ不思議物質なんだよなぁ……
一体どういう構造してるんだか。
ちなみに、これに関してはセレスも非常に興味津々なようで、動くサンプルを回収しろ、とか無茶振りをされている。
セレスの気持ちも分からなくはないので、出来ることなら回収してもいいが……
期待はするな、と一応念は押しておいた。
先ほど破片をいくらか回収していはいるが……今どうなっているかは、確認してみるまで分からんからな……
なんてことは一旦置いといて。
『させるかよっ!』
現状、巨大ゴーレムの元腕パーツは切断した時に一緒に降下したため、百貫百足の腹の下にあった。
このままではパテボムが発射出来ないので、一度大きく飛び退き射線を確保する。
これには一応、悠長に巨大ゴーレムの足元をうろついていると追撃の恐れがあるため安全を確保する、という目的も含まれていた。
で。
百貫百足の体が空中にあるうちに、パテボムの全砲門を不定形な粘土状になって逃げ出す元腕へと向けると一斉発射。
隙間があれば、それがどんな小さな穴でも逃げ出してしまうので、過剰なまでに打ち込む。
玉ならいくらでもあるんじゃボケェ!
黒騎士のライオット同様、長期戦を考慮しパテボムの装弾数も倍近く増やしておいたのだ。
一発のパテボムで封印出来ないなら、一〇〇〇発のパテボムを撃ち込むまでのこと。
まぁ、実際に一〇〇〇も撃ちはしないけどさ……てか、流石にそこまで搭載してないし。
そして、ある程度撃ったところで、ドスンっと華麗に着地。
いくら軽いとはいっても、あくまで見かけに対しては、という話しだからな。
重量自体は500キログラムは優にあるので、着地時の音もそれなりである。
さて、これでどうだ……?
と、すぐさま着弾したパテボムを確認。
流石、速乾型。ものの数秒で硬化を完了しているようだった。
で、更に数秒観察するが、隙間なく閉じ込められたようで、破片が出てくる様子はなし。
よし、上手く封印出来たようだな。
それと、これくらいのサイズだったら、まだパテボムを破壊して出てくることも出来ないようだった。
次はもう少し大きく切り取ってもいいかもしれない。
おっと……そんな考察していると巨大ゴーレムが“目からビーム”の射撃体勢へと移行したので、即行動を再開。
てか、気づけば今しがた切断した腕がもう復元されてるとか……
通常のゴーレム……ガードナーがどの程度の強さなのかは知らないが、もしこいつ並みの復元力があるとすれば、確かに並みの奴では相手をするのが辛いだろうな。
遺跡内での活動が資格制になるのも頷ける話しだ。
なんてことを考えながら、巨大ゴーレムとの距離を詰める。
距離的に速射型ビームでの攻撃だが、いくら速射型とはいえ狙いをつけるまでには多少の時間は必要だ。
その間に巨大ゴーレムの近接攻撃範囲内に侵入ししてしまえば、ハンマーパンチへと切り替わり、ビームをキャンセルさせることが出来た。
このことは既に実証済みである。
案の定。
接近したことでビームをキャンセルし、ハンマーパンチへと行動を切り替える巨大ゴーレムだが、そこは先ほどと同じように、空振りを誘い、地面に叩きつけられた腕に絡みつき登り、今度は肩から食い千切ってやった。
今度は落下しきる前に掴んだ腕を放し、空中で距離を取る。
そして、切り離された腕が地面に落ち、粘土状になったタイミングを見計らいテボムを狙い撃つ。
そして様子見……
うむ、出て来る様子なし。
ならばと、着地後、間髪入れずに俺は片手を失った巨大ゴーレムへ再接近し、腕が復元する前に、立て続けに足に絡みつき切断に取り掛かる。
腕を失った側の脚だけに、ゴーレムに成す術はなしである。
足を破壊すると、片足をなくし自立出来なくなった巨大ゴーレムが派手な音を立てて転倒した。
その隙に、切断した足をパテボムで封印。
ついでにコケているゴーレムの残りの手足も切断し、これまたパテボムで封印する。
少しでも間を開けると、すぐに復元が始まってしまうからな。
こういうのは、復元する間も与えず手早く処理するのが重要だ。
しかし……
そうして分離したパーツをすべて封印し終わっても、何故かゴーレムが復元することはなく、手足を捥がれてダルマ状態で地面に転がっているだけだった。
何でだ? あれだけの時間があれば多少なりとも復元が進んでいてもおかしくないはずなのに?
よくよく見れば、胴体だけ残された巨大ゴーレムの目が、忌々しそうに激しく点滅しているのが見て取れた。
それは今までに見たことがない反応だった。
……もしかして、復元が出来なくなった?
復元可能な回数に制限があった、復元に必要なエネルギーが不足している、等。
可能性だけならいくらでも挙げられるが、どれも確証を得られるだけの根拠はない。
が、現状、復元が出来なくなったことは間違いないようだった。
とにかく。理由はどうあれ……
あっ、これは勝ったな。さぁ、風呂入ってこよっと。
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