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三一七話

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『……固める?』

 マレアの意図が読み取れず、そう聞き返す。

『そ。ほら、瓦礫にトンネル掘った時に使ってた、あの白くてドロってして、ベチャってしたらバキバキってなるやつあったじゃん。
 あれをゴーレムの全身にぶっかければ、ゴーレム動けなくなるんじゃない?』
 
 パテボムのことか……にしても言い方よ……
 確かに、俺も一度はそのことを考えはしたが、しかし……

『ダメだろうな……パテボムの耐久力はそこまで高くないんだ。
 あのゴーレムの図体を考えればパワーも相当なものだろう。しかもあの“目からビーム”もある。
 上手く全身を固められたとしても、一時しのぎにもならないだろうよ』

 修正前の性能ならそれでいけたかも、だが……

『ふ~む。そっか……あっ! だったら、バラした方を固めるってのはどうよ?』
『バラした方?』
『そ。さっきバラバラになったのを見た時、破片の方は動きも遅かったし、そんなに力があるようにも見えなかったんだよねぇ~。
 だから、破片の方ならパキれるかなって』
『…………っ!』

 パキれるってなんだよ? と思わなくもなかったが、マレアのその一言で閃いた。
 ああ、なるほど、その手があったか。
 確かに、本体を止めるのは不可能だろう。しかし、分離したパーツの方ならどうだ?

 確かに、マレアが言うようにゴーレムの破片は動きが遅かった。
 仮に、あの巨大ゴーレムも【傀儡操作マリオネット・コントロール】同様にサイズに力が直結しているタイプだとするなら、破片にしたうえで固めてしまえば無力化することも不可能ではないはずだ。

 要は、復元してしまうのが厄介なら、復元出来なくしてしまえばいいのである。

『マレア……お前天才か?』
『えっ? 今更気づいたの? そうっ! マレアちゃんは天才なのですっ!
 もっと褒めてもいいのよ? なんなら、特別手当とかも出してくれてもいいのよ?』
『考えておいてやるっ!』
『マっ!? 言ってみるもんだねぇ~』

 単に俺が気づいていなかっただけの話しだが、気づく切っ掛けを貰ったのは確かだからな。
 そんなマレアに賞賛の言葉を贈る。マレアも珍しく役に立つこともあるものだ。
 
 そうと決まれば、即実行……と行きたいところだが、実はそうもいかない理由があった。

 なにせ、もう一度遠隔から巨大ゴーレムをバラそうにも、肝心のライオットは弾切れだ。まずはその補充をしないと始まらない。
 しかも、ライオットの装弾は仕組み的に少し面倒で、どうしても時間がかかってしまうという難点があった。

 ならばと、その時間を使い、対巨大ゴーレム戦に向けての下準備と作戦会議をすることにした。 
 ということで、黒騎士を回収後、安全を考慮して一旦大広間前から離脱。

 まずは、現状の確認、そして対策の検討だ。
 現状、“破壊した巨大ゴーレムの破片をパテボムで固める”という大きな方針は決まっていたが、そこから更にどうやって巨大ゴーレムを無力化して行くのが効果的なのかについて、俺、セレス、マレアの三人で細かく詰めていく。
 
 そこから出た案を基に、百貫百足を対巨大ゴーレム専用に改修する。

 場所が場所だけに大々的な回収は出来ないので、主にビーム……熱攻撃への対策を重点的に行った。
 あとは、パテボムの砲塔の位置の調整だ。

 そもそも、パテボムは掘ったトンネルが崩落しないよう、壁面を補強することを目的に、百貫百足の頭部に対して側面や頭上に向かって発射されるように設置されていた。
 要は、正面に向かってパテボムを発射するよう設置されていないのだ。

 そこで、砲塔の設置位置を変え、砲身も体内の埋め込み状態から外装への直付け式へと変更。ついでに命中率向上も狙い、砲身を延伸。
 結果、百貫百足の首回りに筒状の物が無数に並ぶことになり、その姿と言ったら襟巻をした様な姿になってしまっていた。
 いうなら、エリマキムカデである。

 これにより、高さ、幅が増し、閉所での活動に制限を受けるようになってしまったが、その分、パテボムをフレキシブルに射出出来るようになった。
 まぁ、またトンネルを掘るような事態になった時は、その時に戻せばいいだろう。
 ただし、砲身の内部で暴発したら終わりなので、発射に際しては今まで以上に気を付けないといけない。
 いくら砲塔をパテボムが固着しない素材で作っているとはいっても、戦闘中に修理出来るわけではないからな。

 勿論、残弾がゼロとなっている黒騎士のライオットの再装弾も済ませてしまう。
 ついでに、昔作ったライオット専用の増設マガジンも取り付け、装弾数の向上を図る。
 そのため、腕が一回りほど太くなり、個人的には不格好となったことが気に入らないが、こればかりは仕方なしだ。
 ライオットは今回の作戦ではキーとなる武器だからな。弾数が多くて困ることはない。
 とはいえ、これは今回だけの特別仕様である。この戦いが終わったら、ちゃんと元に戻すつもりだ。

 で、結局この日は百貫百足と黒騎士の改修に時間を費やしてしまい、ここで一泊。
 決戦は明日へと持ち越すことになったのだった。

 翌日。

『さて、んじやおっぱじめますかっ!』

 昨日の如く。
 準備万端整った俺達は、大広間の入り口へと戻って来た。

 で、大広間の前に陣取った黒騎士が、ごん太になった右腕を巨大ゴーレムへと向けると、これまた昨日と同じように最大出力でライオットをぶっ放す。
 
 増設マガジンにより、片腕の装弾数が二倍となっているため、右腕一本で六〇発もの弾体を撒き散らし、それが雨あられとなって巨大ゴーレムへ襲い掛かる。
 そして、数秒もしないうちに巨大ゴーレムはみるみる原型を失っていった。

 ここまでは昨日と同じ。
 さて、ここからはスピード勝負だ。復元してしまう前に、出来るだけ多くの破片をパテボムで封殺する必要がある。

『んじゃ行って来るわ』
『気をつけなさいよ?』
『いてらー!』

 最初はセレスに、そして次にマレアに見送られながら、俺は黒騎士の背後に待機させていた百貫百足へと操作を切り替えると、黒騎士を跨ぐように移動させ、一人、大広間へと突貫して行くのだった。

 今回は急改造の人形による戦闘ということで、安全を考慮してセレスとマレアには事前に百貫百足から降機してもらっていた。
 なので、黒騎士と一緒に広間入り口前で待機である。

 というのも、そもそも百貫百足は不整地の移動を目的として作った人形なので、ガチの戦闘など端から想定して作られてはいなかった。
 まぁ、通常サイズのガードナーならどうにでも出来るだろうが、流石にここま巨大なのは想定外である。

 そこに加えて今回の魔改造だ。
 一応、“目からビーム”の対策はしてきたが、中身がスカスカなだけに物理的な強度という意味ではどうしても不安を拭いきれずにいた。

 今回の作戦を実行するうえでは、どうしても接近戦は避けられない。
 そんな中、今の状態の百貫百足があの大質量のゴーレムの一撃を食らったらどうなるか?

 もしかしたら耐えられるかもしれないが、試したいとは流石に思わん。ダメだった時のリスクがデカ過ぎる。
 
 アマリルコン合金の強度には相応の自信があるとはいえ、絶対とは言い切れないので油断は出来ない。
 大丈夫だと高を括って潰されましたでは話にならないからな。

 安全第一、命を大事に、というわけだ。
 最悪、俺一人なら即死を一度だけ無効化出来るアイテムなどを装備しているので、なんとか助かる可能性もあるしな。

 ただ、セレスはベルヘモス戦の時同様、最初は降りることを結構渋っていたのだが……

「モニター越しに見るより外から観察した方が、全体像を把握出来て観察し易いんじゃないか?」

 と、そそのかしたら案外簡単に食いついて降りてくれて助かった。
 決め手になったのは、倍率の高い高性能な双眼鏡を渡したことだろう。

 この世界には双眼鏡の様な遠くを見る道具がないらしく、機能を説明した途端、「試す」とか言って意気揚々と降り行ったからな……チョロイ奴め。

 ただし、あの双眼鏡はもう二度と俺の手元に戻ってくることはないだろう……
 双眼鏡は尊い犠牲となったのだ……まぁ、別にいらないからいいけどさ。
 
 ちなみに、一応、入り口で待機している黒騎士には、巨大盾を二枚構えさせて防御姿勢を取らせておいたので、もし昨日の様に、向こうに巨大ゴーレムの攻撃が向かったとしても多分大丈夫……だとは思うが、安全第一を考えるなら極力攻撃はこっちに引き付けないとな。

 で、大広間へ入った俺は、破壊した巨大ゴーレムの近くへ行くと百貫百足の頭を高く持ち上げ、高所を確保する。
 こうすることで広い視野を確保すると共に、打ち下ろしによる命中精度の向上を図るのだ。
 射撃攻撃の基本は上から下へ、だからな。
 
 そして、粉砕された巨大ゴーレムの破片へを見つけては、手早くパテポムを射出し次々と固めていく。

 砲身をある程度自由に動くよう設計したおかげで、実に狙い易い。ある程度のブレこそあるが、砲身を長くしたことで割と狙ったところにパテボムが飛ぶのもヨシである。

 余談だが、実は黒騎士が巨大ゴーレムを破壊後、入り口からパテボムを大量にバラ撒いて面制圧する、という方法も考えたのだが、運に頼る要素が強すぎる、として廃案になっていた。
 闇雲にバラ撒いたところで、撃ち漏らしたヤツらがその間に結合してしまっては意味がないからな。

 ちなみに、遠距離から狙い撃つなど以ての外だ。
 そもそも、パテボムの砲身は急遽作った物なので、その精度は決して高いといえるものではなかった。
 50メートル先の、それも床に散らばる小さな的を狙い撃つなんてとてもとても……

 というわけで、だ。
 こうして目視で確実に潰していくのが、結果一番堅実で確実な手だろうと、採用されることになったのだった。

 で、こうして一つ一つ確実に封印していくわけだが、その間にも封印出来ていない破片達が、元の姿に戻ろうとどんどんと合流していた。

 しかも、だ。これは実際に試して分かったことだが、ゴーレムの破片はただパテボムを付着させれば捕獲出来る様な簡単なものではなかった。

 というのも、破片達はパテボムに触れると、接触している部分のみを切り捨て逃げてしまうのだ。
 それでも少しは体積を削れるとはいえ、その量など薄皮一枚程度。これでは焼け石に水もいいところだ。

 例えるなら、埃まみれ物にテープを張ってもすぐに剥がれてしまう様な感覚だ。

 そのため、一発で完全に隙間なく破片達を覆う必要があった。
 そこで、最初は確実性を重視し、一発で全体を覆える小型の破片を重点的に狙っていくことにした。

 何事も、小さなことからコツコツと、塵も積もればなんとやら、だ。

 そうして、見当たる限りの小型破片を封印したところで、他の破片達も合流し、大きな一塊となっていた。

 そして、うごうご蠢く粘土質から、徐々にゴーレムの形へと変化し、復活した。

 うむ。ぱっと見、若干……一回り程は小さくなっただろうか?
 あれだけがんばってこの程度か……と、思わなくもないが、元の質量がアレだからな……

 しかし、他に有効な手立てがない以上、根気よくこの作業を続けていく他あるまいよ。
 ということで、ボーナスタイムはここまでだ。ここからが正真正銘の本番である。
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