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三一四話

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 というわけで、だ。
 迷路ブロックと大広間を繋ぐ細い通路をズンドコ進み、正真正銘の一二個目の大広間の入り口前に俺達は居た。

 にしても……

『なんぞこれ?』

 目の前の不思議な光景に、ついそんな言葉が口から漏れた。
 といのも、今回の大広間が今までものとはまったく違っていたからだ。

 稼働する恐れがあるゴーレムが居る、といのもそうだが、それ以上に部屋がもう全然違っていて、壁、床、天井といった場所がぼやっと青白く光っていたのだ。

 この明かりのおかげで、暗視スコープいらずである。地味にありがってぇな……
 暗視スコープは、あれはあれで便利なのだが、画像がモノクロになってしまうのがちょっとな……
 
『これは魔力光と呼ばれる現象ね』
『魔力光?』

 知らない言葉だったため、セレスに問いかける。

『魔力光。魔力が魔術に変換される際に起こる発光現象よ』

 で、セレス先生がいつものように詳しく解説してくれた。ありがとうございます。
 なるほど。
 パラボラバードに反応していたのは、この光だったのか……と、一人納得する。
 が、ここで別の疑問が湧いて来た。

『なぁ? 魔力が魔術に変換される際に起こる発光現象、って言うが、そもそもここは抗魔鉱の所為で魔術は使えないんじゃないのか?』

 まったく使えない、というわけではないようだが、セレスの説明によれば、こんな部屋全体を光らせるほどの魔術が現在進行形で発動している、ということになる。
 そんな規模の魔術が、遺跡の中で使えるものなのだろうか?

 と、考えると、そもそもガートナーとかも遺跡の中でなんで活動出来てんだよ? って話だしな。
 あいつらだって魔術的な何かで動いているははずなのだが……

『それに関しては昔から色々と研究されているのだけど、最も有力な説としては、何かしらの方法で抗魔鉱の影響を無力化しているのではないか? といわれているわ』

 なるほど。他人にはジャミングを掛けておいて、自分たちはそれをキャンセルしている、ということか。
 つまりは、ニュートロンなジャマーをキャンセルするアレ的なものだと?

『こっちは制限させつつ、自分たちは使いたい放題プランってわけかよ』
『まぁ、そんな感じね。
 魔力光が発生しているってことは、多分だけど、この部屋自体に何かしらの魔術的な仕掛けが施されているんじゃないかしら?
 それが何なのかまでは流石に分からないけれど』
『となると、入った途端、どかぁーーん! っと爆発する可能性だってある、っていうことか?』
『可能性だけならね。ただ……』
『ただ?』

 そこで何かを言い淀むセレスに、俺は先を促す。

『ん~、これは私の勘でしかないんだけど、ここの魔力反応からはそこまで攻撃的なものは感じないというか……
 多分、もっとシンプルな……例えば、感知系や識別系の術式なんじゃんいかって気がするの』
『ふむ。つまり、部屋に入った奴が敵か味方を調べて、敵ならゴーレムに攻撃させる、と?』
『分からないけれど、そんな可能性はあると思うわ』

 実は、今俺達が居る場所からは、この不思議な光りのおかげもあって、ゴーレムの姿がはっきりと見えていた。
 しかし、ゴーレムはまるで動く素振りを見せずに、その場でじっとしているままだった。

 故に、こうしてゴーレムの正面で呑気に会議なんてしていられるわけだ。

 仮に、セレスの説が正しいとするなら、ゴーレムが動き出すタイミングは俺達がこの部屋に入った瞬間ということになる。
 確かに、現状、向こうからだってこちらの姿が見えているはずなのに、まったく動かないことを考えると、ゴーレムが動き出すための何かしらのトリガーとなるものがあると考えた方が自然だろう。

 それが、侵入者が大広間へと進入することだと考えれば、一応、現状の説明はつく……か。

 セレスの仮説を確認する方法がないわけではないが、とはいえ、折角ゴーレムが止まっていてくれているのに、確認程度でわざわざ寝ている子を起こすような真似をするのも無駄なように思えてくる。

 下手に動かれても厄介だしな。止まったままなら、その方が色々と都合がいいこともある。
 例えば、現状求められる最適解は……

『なら、ここから攻撃して破壊してしまうのが、一番確実な方法か……』

 とかだな。
 わざわざ自ら危険に身をさらす必要もなかろう。
 目標物は見えており、しかも動いていない。ならば、動く前に破壊してしまうのがベターというものだ。

『そうは言っても、そもそもそんなこと出来るわけ? ここからだと結構距離あるよ?』

 とは、マレアからの言葉だ。
 確かに、ゴーレムは部屋の中央辺りに鎮座していた。
 一辺100メートル程度の部屋なので、大体50メートル先にいることになる。
 50メートルといえば結構な距離だ。が……

『それが出来るんだなぁ~これが』

 と、俺は余裕で答え、今回の作戦の概要を二人に説明した。
 ぶっちゃけ、俺にかかれば50メートル先への攻撃など朝飯前である。

 で、概要を説明すると、いくつかセレスからアドバイスを受けたので、それに合わせて作戦を微修正しつつ準備に取り掛かる。

 ………………
 …………
 ……

 というわけで、準備完了。まぁ、やったことなど大したことではないが……
 俺がしたことといえば、一度、百貫百足との【一機入魂】を解除して、外に出て、百貫百足の鼻先に黒騎士を出して戻って来ただけだ。
 で、今はまた俺専用のシートに座っていた。

 百貫百足の全長は約10メートルあり、この操作室はほぼ真ん中に位置していた。
 ここから百貫百足の頭部付近までなら大体5メートルと、まだ【傀儡操作マリオネット・コントロール】の操作範囲内ということになる。
 つまり、ここからなら喩えゴーレムからの反撃があったとしても、安全に黒騎士を操作出来るということだ。

 で、黒騎士を出した理由だが……

 俺は黒騎士を操作して、おもむろにその両腕をゴーレムへと向ける。と、両の腕に仕込まれたギミックを展開した。
 すると、手首と肘の間から何かがガコンっと飛び出す。

 超重量弾射出兵器“ライオット”

 この距離からこいつでゴーレムをハチの巣にしてやろう、というのが今回の作戦の概要である。
 一応、抗魔鉱による操作感度の低下を考慮し、黒騎士にも【一機入魂】
を使用して操作している。

 ちなみに、威力だけならライオット以上の武器もあるのだが、そちらは単純に威力が高すぎるうえ、碌に威力の調整も出来ないため、こんな所で使った場合、最悪遺跡の崩壊、また、この後ろにある遺跡を破壊してしまう恐れがあたため却下とした。

 俺が遺跡を探索している一番の目的は、元の世界に戻る為の古代の魔道具探しだ。
 この遺跡にそれがあるかどうかは別にして、ゴーレムを倒したはいいが魔道具を破壊しました、あまつさえ生き埋めになりました、では意味がないからな。

 これは余談だが、ライオットは黒騎士の性能とは直接関係していない兵器であるため、【一機入魂】下であっても威力に変化はない。
 そういう意味でも、攻撃力が高すぎない、ある程度の威力調整が可能であるライオットがおあつらえ向きだったというわけだ。
 では……

『射撃体勢よ~しっ! 目標っ! 前方の巨大ゴーレム! 距離50!
 威力MAX! 全弾……ってぇぇぇぇぇ!!』

 そんな掛け声と同時に、俺は巨大ゴーレムへ向けてライオットを全弾発射する。
 まぁ、別に掛け声に意味などないが、こういうのは気分だ気分。
 で、発射と同時に腹に響くような重低音が遺跡の内部に響き渡った。
 
 冥途の土産だ。遠慮せずに全部持って行けっ!

 と、片腕三〇発、両手で計六〇発にも及ぶ弾丸を豪快にぶっばす。
 一発重量1キログラムの弾体を、マッハ2まで加速させて射出するのだ。
 その着弾時の衝撃は凄まじく、弾体が触れた場所から巨大ゴーレムが木っ端微塵に吹き飛んでいく。 
 頭が吹き飛び、腕が消え、肩がなくなり、胸が弾け飛ぶ。
 上半身が綺麗さっぱりなくなったところで、下半身も粉微塵にしてやった。

 ここまでするのには当然理由がある。

 セレスの見立てでは、この巨大ゴーレムもガードナーの一種であるらしい。
 となれば、普通のガードナーと同様、破壊しただけではすぐに復元してしまうだろう、とのことだった。
 重要なのは、魔力を供給している魔石の破壊である。
 この魔石が無事である限り、ガードナーはいくらでも再生するのだ。

 だが、逆にいえば魔石さえ破壊してしまえば、それでおしまいということでもあった。

 稼働している遺跡で働いている自由騎士達は、こうしたガードナーの魔石を破壊したうえで、それを持ち帰って換金しているというわけだ。
 そして、おそらくあの巨大ゴーレムにも魔石があり、その破壊を今作戦の最重要目標と位置付けていた。

 とはいえ、巨大ゴーレムの魔石の位置など分かるはずもないので、ならば粉々になるまで攻撃すれば、一発ぐらい魔石に当たるやろ? というのが今作戦の最終可決案であった。
 困った時は、何時だってパワーが解決してくれるのであるっ!
 パワーーーっっ!!

 んで、セレスとしては、巨大ゴーレム討伐後に砕けた魔石を回収する気満々だったがな。

 で、全弾打ち切った時には、もうそこに巨大ゴーレムの影は微塵も残ってはいなった。

 流石に、ここまで粉々になってしまっていると、果たして少しでも原型を留めている魔石があるかどうか……
 これは回収は無理だぜ……セレスには悪いが、もう諦めてもらう他ない希ガス。
 泣かれないといいが……

『……なんつー威力してんのよ?
 巨大ガードナー消し飛んだんですけど?』

 と、掃射が終わったところでマレアがそんなことを言う。

『だから言ったろ? 出来るって』
『まぁ、確かに言ってたけど……えぇ~……』

 まぁ、マレアの言いたいことも分からなくはない。
 全高5メートル程の、岩石質で出来た巨大立像が秒で粉砕されたのだからな。
 戦車にミサイル、機関砲など、現代の兵器の知識がある俺からすれば、こういうことも出来ると理解出来るが、そういうのがないマレアからすればドン引きものだろう。
 
 ちなみに、セレスから特に何の言及もなかったのは、多分、先のベルヘモス戦で色々と見て来たからだろうな。

『……これ、無事な魔石って残ってるのかしら?』
 
 で、マレアに続き、セレスがそうポツリと呟いた。
 ああ……やっぱり気にするのはそこなのね……
 多分、残念ながらこれは残ってねぇーっすわ。

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