最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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三〇八話

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『それにしても、よくあんな方法を思いついたわね』

 懸念していたゴーレムとの遭遇もないまま、通路を右へ左へ。
 そんな感じで遺跡の探索を初めて少し経つ頃、セレスがそんなことを言い出した。

『あんな方法?』

 あまりに突然のことで、一瞬、何のことが理解出来ずに聞き返す。

『さっきのトンネルのことよ。
 落盤を防ぐために支保を建てる、というのはよくある工法だけど、壁自体を固めて支保にする、という発想は初めて見たわ』
『ああ、そのことか』

 そういえば、トンネルを掘っている作業中、何をしているのかセレスに聞かれ、簡単に説明していたな。

『あれはシールド工法って言ってな、俺の国じゃトンネルを掘る時に使われる一般的な工法なんだよ』

 正確には大分違うのだが、掘った端から壁を作る、という意味ではそう遠くもないだろう。
 当たらざるとも遠からず、といった感じか?

 で、知りたがりなセレスから、今度はシールド工法とは何ぞや? と聞かれることになってしまったのだが……
 生憎と俺は専門家ではないので詳しくは知らんと、簡単な概要を説明するに留まった。

『次は左に行ってみましょうか』

 そんな話をしているうちに、十字路にさしかかったのだが……

『その道はさっき通ったな。てか、この十字路に来るのこれで三回目だ。その前が右に行ってるから、行ってないのは正面だけだな』
『うそっ! そんなに通ってるのここ……』

 セレスが戸惑うのも無理はない。
 この遺跡、何処を見ても似たような風景の挙句、かなり複雑に入り組んでいる所為で、二、三回分岐を通過したら、もう自分が何処を歩いているのか分からなくなるのだ。
 セレスの絶対記憶を以てしても、位置情報まで完璧に把握すのは難しいと見える。

 正に、迷宮ダンジョン、だな。

 ちなみに、これはこの遺跡に限った特性ではなく、古代遺跡全般に共通することらしい。

 更に、セレス先生からの講義によれば、古代遺跡の特徴として、まず一つは、行き止まりが一つもないというのがあった。
 内部はかなり入り組んでいるが、不思議と行き止まりはなく、どの通路も必ず何処かの通路と繋がっているそうだ。
 それこそ、正解を選ばない限り今のように同じ道に何度も戻ってくるはめになる。

 実際、探索して思ったのは、ある意味行き止まりという目印がないこと、また、同じような風景も相まってむしろ迷い易い、と感じたことだろうか。

 まぁ、俺にはオートマップ機能があるから、一度歩いた場所は自動で地図化出来るのでなんの問題もないがなっ!
 しかし、そんな能力を持たない一般人では、喩え正確な地図を持っていたとしても、気を抜けばマジで一瞬で遭難する恐れがありそうな雰囲気は確かにあった。
 方向音痴な人などは、一度入ったら多分、二度と出てこれないのではないだろうか?

 なので、遺跡の……それも未踏破領域を探索する際は、壁に細かくナンバリングして現在地を明確化して行うそうだ。
 大型商業施設の駐車場にあるような、A1とかB1とかあるあれの感じだな。

 かといって、そんな細かく、かつ正確な地図を作りながらでは、探索など遅々として進むわけもなく……

 セレスが遺跡の探索は難しい、と言っていたのも納得だ。
 しかも、普通なら持ち込める物資に限りがあるため、探索出来る時間にも制限がある。
 これではそりゃ探索も進まないだろうよ。

 そして、二つ目は迷宮がブロック構造になっている、という点だ。
 
 一つのブロックは、大体100メートル四方。その内部に迷路のような構造物が作られ、その迷路ブロックを長い一本の通路の様に連結しているのが、ダンジョンの姿だとそう考えられているらしい。

 らしい、というのは単純に一番奥まで行ったことがある人がいない為だ。
 勿論、もしかしたら奥は別の形をしているかもだが、現在の研究で判明している限りにおいては、多分、そんな感じだろうということだ。

 そして、ブロックとブロックの接続面に一ヶ所だけ次のブロックへの通路があり、この接続点を見つけられない限り、先に進むことが出来ない作りになっているのだとか。

 つまり、この七号遺跡はその接続点が崩落によって物理的に遮断されてしまっていたが為に、奥に行くことが出来なくなっていたというわけだ。

 そして三つ目。
 これはダンジョン自体が奥に行くにつれ、緩やかな下り勾配になっている、という点だ。
 勾配幅は大体1~2パーセントといった感じで、普通に立っているだけでは下っている、と体感出来るほどではない。
 ましてや、俺たちは百貫百足の中にいることもあり、余計に分かり難い。
 が、正確に計測してみると確かに下っているのは間違いないらしい。

 余談だか、道路標識で見る“〇%”という標識は、この勾配幅を示したものである。で、勾配とは100メートル水平移動した時の高低差を現している。
 つまり、このダンジョンでは100メートル水平移動した時、1~2メートル程下っている、ということになる。
 ついでにこの勾配を角度に換算すると、1パーセントで約0.5度、2パーセントで約1度くらいだ。
 この角度を体感で分かる人がいるとするなら、三半規管が相当優れているのではないだろうか?
 
 ちな、俺はセレスから指摘されても全然分かりませんでした。はい。

 しかし、古代遺跡が何故緩やかに下っているのか? 果たして、何処まで伸びているのか? 等、そうしたことはさっぱり分かっていないのだとか。
 まぁ、未だ誰も一番奥まで辿り着いた者はいないそうなので、当然といえば当然か。

 ただ、セレスのじいちゃんとしては、こうした……遺跡自体には簡単に入れるように作っておきながら、内部が迷路になっている点や、地下を目指すには緩やか過ぎる勾配など、遺跡の構造に多くの疑問を感じていたようだ。

 そんな彼が、生前導き出した仮説が、軍事施設兼シェルター説である。
 
 要は、このダンジョンそのものが砦の様な防衛設備であり、また、何かを守るためのシェルターなのではないかと、彼は考えていたようなのだ。
 それも、初めから外敵の侵入を考慮した造りになっていることから、かなり攻撃的な防衛拠点だったと、そう推察していたらしい。

 まぁ、ただ守るだけなら、わざわざ誰かが入れるように作る必要なんてないわけだからな。
 迷路状になっているのは戦力の分散を計るため、通路が細いのは戦力の流入量を制限するためだと、そう説明されれば、確かに効果的な防衛施設のような気もする。

 これなら、喩え一〇万の軍隊を連れて来たとしても、迷宮の中に入ってしまえば、数の多さなど殆ど意味がないからな。
 
 一度に遺跡に侵入出来る人数などたかが知れているうえ、組織的に行動出来ないとあれば大部隊の利点潰すことが出来る。
 ましてや、遺跡が正常に稼働していれば内部にはガードナーとかいうゴーレムが徘徊しているため、遭遇戦は必死。

 しかも、相手はゴーレム。いくら倒しても無限湧きしてくるとなれば、もう絶望しかない。

 そんなガードナーをなんとか撃退して奥へ進んだとしても、接続口は一ヶ所しかないので、そこで待ち伏せでもされてしまえば通り抜けたところでドスっ、で終わりだ。

 そう考えると、難攻不落の要塞にも思えてくる。

 なんとなく、七日に一度、大量のゾンビが襲って来るゲームを思い出した。
 生き延びるために、複雑な拠点とかメッチャ作った覚えがあるわ……

 そして、地下へと下っているのは、行軍距離を伸ばすのが目的ではないか、と考えていたらしい。
 ただ、このまま真っ直ぐ地下に向かって伸びていると考えるには、勾配が緩やか過ぎるため、何処かで大きく切り返すか、もしくは緩やかな弧を描いて螺旋状に下へと伸びているのではないか? というのがセレスのじいちゃんの仮説である。

 要は螺旋階段的な構造になっているかも? ということだな。
 
 仮に、セレスのじいちゃんの仮説が正しいとするなら、ただでさえ迷路状になっている所為で見かけ以上に移動距離が長いというのに、更に距離を伸ばすとか、古代人の殺意が高すぎるのだが……

 ただ、距離を稼ぐだけなら下ではなく、塔の様に上に伸ばしてもいいのではないか? と思い以前セレスに聞いたら、上よりも下に伸ばした方が建設が楽だったのではないか? とのことだった。
 また、地下にすることで周囲から攻撃を受けないようにしていた、とも考えられているみたいだな。

 たしかに、地下に隠してしまえば、迷宮を踏破する以外最深部に行く方法がなくなってしまう。
 仮に塔状にした場合、相手を倒すことだけが目的なら、周囲を砲台で囲んで攻撃する、という手段も取れるからな。

 逆にいえば、それだけのことをしても守りたいものがこの遺跡の先にある、ということでもある。
 では、古代人達はこんな迷宮型の砦を作ってまで、一体何を守りたかったのか? 

 セレスのじいちゃんの仮説では、迷宮の最深部にあるのは古代人達の街ではないか、とそう考えていたようだ。
 故に、砦兼シェルター、ということらしい。
 残念ながら、その真相に辿り着く前にお亡くなりになってしまったわけだが……
 その意志は、孫のセレスに託されたといったところか。

 セレスに言わせれば、現在の遺跡全体の探索率など、まだまだ入り口付近をウロウロしているような状況に近いらしいからな。
 今回の探索でより詳しい全体像を調べるのも、セレスの背負った使命の一つなのである。

 そんな感じで、少しずつマップを埋める感じで数時間探索したのだが、結局、崩落現場以降もガードナーの姿を見ることはなく、この遺跡は枯れている、とセレスによってそう正式に判断されることになった。

 気づけば時刻は午後の六時。もう、いい時間だと、今日の探索はここで終了することとなった。

 ハードワークなんてしてもいいことなんてないので、適当なところで切り上げるのが吉である。

 ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢

「ん~~!! おつかれ~」

 【一機入魂】を解除し、座席のハーネスを外してその場で大きく伸びをする。
 【一機入魂】を使って百貫百足と精神同化していた時はまったく気づかなかったが、長時間同じ姿勢で居た所為か、体のあちこちがバキバキとなっていた。

 おかげで、少し体を伸ばしただけでそこら中からポキポキと骨の鳴る音が聞こえてくる。

 それに、妙な疲労感もあった。実際に体が疲れている、というわけではないのだが……
 肉体的な疲労ではなく、精神的な疲労というやつだろうか?
 
 しかも、自分の体なのに違和感があるというかなんというか……
 普段は感じない、自分の体の重みを妙に感じる。腕一本を動かすのも重い。
 
 例えるなら、プールから上がったあとに急に体を重く感じる的なあれだ。
 
 それに視界が狭い。
 百貫百足は計六つの目を持っている為、ぶっちゃけ正面を向いていてもほぼ全周囲を目視することが出来たが、人の体ではそうもいかない。
 意外と、人の体というのは不便だな、とそんなことを感じてしまう。

「いや~、おつかれさんおつかれさん! 今日もよく働きましたっ!」

 俺が椅子から立ち上がり、セレスが前方のモニタールームから出て来たところで、マレアが明かる気な声でそう声を掛けて来た、

「働いたって……お前はほぼ何もしとらんだろ? てか、知ってんだぞ? お前、後半ほとんど寝てたそうじゃないか?」
「うっ……いや、そんな、ワタシ、ハタライテイマシタヨ?」

 そんなマレアに、俺がピシャリと突っ込みを入れと、あからさまに動揺し始めるマレアだった。
 実質、こいつは最初に遺跡の結界を解除していただけで、それ以外は日がな一日ソファーでゴロゴロしていただけらしいからな。

 実は、探索を初めて数時間した頃から、マレアが俺たちの会話に一切参加しなくなったのだ。
 急に静かになったので不審には思ったが、【一機入魂】中の俺では機内の様子を確認することが出来ず、かといって解除するほどでもないので、代わりにセレスにマレアが何をしているか確認してもらったところ……
 共振リングを外してソファーで横になって寝ている、とそんな答えが返って来たのだ。

 完全なサボりである。ぶっちゃけ、こいつがここにいる意味はあるのか? と、思わなくもない。
 こいつが必要だったのって、本当に最初だけだし。
 まぁ、とはいえ、こいつが起きていたからといって、何が出来るわけでもないのだが……
 ああ、あとこいつが居ないと帰れないのか……

 とはいえ、堂々とサボられるのは、それはそれでなんかモヤっとする。

「いや、最初はちゃんと監視してたんだよ? セレっちと一緒に外の様子とか確認したりさ。
 でも、ほら? 全然変わり映えしないから飽きちゃって……」

 と、そう言い訳するマレアだが……

「飽きちゃって、じゃねぇーんだわ。てか、飽きるな。仕事だろ?」
「そんなん言ったって、あたしの仕事って結界の解除とスグミくんの監視だよ?
 どうせあたしが起きてても役に立つことなんて、これっぽっちもないんだから、気にしない気にしない♪
 ほらほら、そんなことよりご飯にしよ、ご飯ご飯♪」

 で、今度は一転。あっけらかんと開き直ると、一人さっさと操作ルームを出ていくマレアなのであった。
 この自由人め……

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