最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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二九四話

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「にしても、未知の生物の研究とはいえ、魔道具の専門家まで来るものなのか?
 他にも色々いるみたいだったが……」

 話しが落ち着いたところで、俺はかねてより疑問に思っていたこてとを尋ねてみることにした。

 実は、ここにいる研究員達は生物や魔獣の専門家だけでなく、バレーノのように魔道具、魔術、中には軍事の専門家や歴史の専門家等、畑違いとも思える学者もそれなりに来ているようなのだ。
 プレセアから紹介された時に、そういう肩書の奴らが何人かいたのを朧げながらに覚えている。
 紹介を聞いている時に、畑違いなのがいるなぁ、と感じたので印象に残ったのだろう。

「それはこれ程の発見ともなれば、生物学、魔獣学は言うに及ばず、各方面からも注目されますよ。
 例えば魔術学ですが、魔獣の中には独自の魔術を扱う種がいます」

 そこで、以前セレスが説明してくれたベルヘモスによく似ているという亀型の魔獣……名前を何と言ったか?……のことを思い出した。
 確か、常時バリアみたいなものを体の周囲に展開していて、メッチャ頑丈なんだとかなんとか。
 セレスの話だと、流れる溶岩の底を歩いて渡った、なんて話しもしていたな。

「これらが扱う固有術式を解析、研究することで、人種ひとしゅが扱える新たな術式を開発出来るかもしれません。
 また、軍事においては、今後、同様の魔獣が出現した際の対処法について研究されます。
 何処が弱点なのか? 有効な対処法は何か? などですね。
 歴史学者はこの事実を書に詳細に渡り書留、未来へと余すことなく情報を残すのが務めとなります」
 
 と、バレーノのからそんな説明をされた。
 言われれば、確かにその通りだな、と思う反面。死んだ個体から魔術の研究なんて出来るのか? と疑問に思い聞いてみたら、

「見る者が見れば分かるらしいですよ。私は専門ではないので詳しくは分かり兼ねますがね」

 という答えが返って来た。
 なので、ふーん、そういうものなのか、程度に納得することにした。大して興味があるわけでもないしな。

「それじゃあ、魔道具の専門家としは、今回の発見をどう今後に利用するつもりなんだ?」

 特に深い考えがあったわけではないが、ふと気になってそんなことをついでに聞いてみた。
 今の話しでは、魔道具に関しては全然説明がなかったからな。

「そうですね……やはり一番気になるのは素材でしょうか?
 ベルヘモスの素材にどのような効果があるのか、どのような物が作れるのか、興味は尽きませんよ。
 もしかしたら、今までなかった画期的な魔道具を開発することが出来るかもしれませんからね」
 
 と、バレーノはそう答えた。
 まぁ、新素材の発見によって技術革新が起こる、というのもよく聞く話しではあるからな。が……

「ただ、ベルヘモス関係の素材はほぼ研究資料として国に保管されるでしょうし、よしんば私のところに流れて来たとしても、その量は極僅かでしょうね。
 果たして、それでどれだけ研究が出来るか……研究が終わった頃には素材が残っていませんでした、とかになりそうで怖いですな」

 そういうと、はっはっはっ、と笑い飛ばしていた。
 笑い話なのか? それは?
 で、ここでふと更なる疑問が湧いて来た。

「ん? バレーノの目的が素材ってことなら、こんな生態調査みたいな段階から参加する必要ってないんじゃないのか?
 それこそ、解体が終わった後に、素材だけ研究させてもらえばいいことだろ?
 なんでわざわざ解体から参加を?」

 勿論、それが許されるなら、ではあるが。

「ああ、それなのですが……実は、ベルヘモスの視察の参加は単なる口実でして、私の目的はスグミ様に会うことだったのですよ」

 と、バレーノの口から思いがけない言葉が返って来た。

「俺に? なんでまた?」
「それはですね……」

 で、バレーノのから詳しく話を聞くと、俺という人間に興味を持ったのは、セレスやプレセアに渡したいくつかのアイテムがその切欠となったらしいのだ。

 俺は今までに、カメレオンクロークや記憶晶石など、色々なものをノールデン王国、正確にはセリカやプレセアに渡して来た。
 まぁ、献上、といってもいいだろう。
 で、それらのアイテムはすべて、この国にはない未知の技術で制作されていたものばかりだった。
 そこで、これらのアイテムの効果をこの国の技術で再現出来ないか研究するために、一度、ほぼすべてのアイテムが魔道具の研究施設へと送られることになったのだという。
 所謂、リバースエンジニアリングというやつだ。
 そこで解析、研究に当たったのがバレーノ達のチームだったらしい。
 その結果、部分的にだが解析が成功し、限定的だが再現も可能にはなったようなのだが……

 てか、『アンリミ』のアイテムを解析して、部分的にとはいえ再現出来るようにしたとか、こいつら凄過ぎね?
 と、俺は思わなくはないのだが、やはり根幹技術が不明瞭なままなのだそうだ。

 ならば、直接会って話を聞けば何か分かるかもしれない、という動機で今回の視察に応募した、とのことだった。

「それって、ベルヘモス関係なくない? そんな理由でええのんか?」
「さぁ? どうなんでしょうか? 一応、志望動機は正直に書いてますし、それで採用されたということは上が、問題ない、とそう判断したからなのではないかと」

 まぁ、そうなんだろうけど……
 選んだのが誰かは知らないが、そんな選考基準でいいのか? と、疑いたくはなる。
 
「別に問題ないんじゃないかしら?」

 と、そんなことを思っていると、近くで俺達の話しを聞いていたセレスがそう言って会話に混じって来た。

「というと?」
「結果的にそれが王国の為になるなら目的や過程は問わない、ということよ。
 今回のベルヘモスの視察にしろ、パネロ主任の目的にしろ、どちらも最終的には王国への貢献という点では同じだもの」

 セレス曰く。
 ベルヘモスを研究して得た成果も、それ以外でバレーノがここで俺から新しい技術や知識を手に入れても、結局は国の利益になるのなら問題ないと判断されたのではないか、ということだった。

「事実、スグミが持ってる技術や知識は、スグミから教えてもらわないことには、私達は知りようがないもの」
「……なるほど」

 つまり、ベルヘモスの研究の片手間に、少しでも俺から技術を吸い出そうとしているってわけか……

 昨日のマレアとの話では、プレセア達が俺にご執心だ、というのは聞かされていたが、こういう形でもそれが現れるとはね。
 使える物は何でも使う、そのある種清々しい程の執念に、不快感がどうのという前にむしろ感心してしまう。
 また、そういうところからプレセアの必死さ、みたいなものも垣間見えた。

「てか、主任?」

 で、それとは別に気になる言葉があったので、俺はバレーノの方へと視線を向けた。

「えっと……一応、紹介された時に出ていたと思うのですが、私は学術庁は魔道具学研究局で魔道技術研究開発の総合主任を務めさせて頂いておりまして……」
「なんか色々と一遍に聞かされた所為で、かなりの部分を聞き流してたわ……すまんな」
「なるほど。まぁ、一度に三五人でしたからね。心中お察し致します」

 と、バレーノが同情するように苦笑いを浮かべた。

「にしても主任って……それって、もしかして一番偉い立場にいるってことなのか?」
「そうですね……一応、魔道具学研究局の中では私が最高責任者ということになってます」

 マジか……
 俺とそう歳が違わなさそうなのに、国家機関の一部署のトップとか……
 この男、正真正銘のエリートだったでござる。
 ま、まぁ? こっち・・・じゃ俺だって相当な金持ちですし? そこそこの地位もあるみたいですし? 屋敷持ちですしメイドさんもいっぱい雇ってますしお寿司?
 ま、まぁ? メイド軍団は俺が直に雇っているわけではないのだが、俺が借り受けている屋敷で働いているわけだから、実質俺が雇っているといっても過言ではないだろう。たぶん……

 と、意味も無く胸の内でバレーノに貼り合う俺氏である。
 裏を返せば、元居たい世界基準で考えたら、いちサラリーマンである俺では手も足も出ないほど完膚なきまでに完全に負けているのだが、そこは一切考慮しないことにしたっ!

 過去は振り返らないっ! 過ぎたことは気にしないっ! 過去よりも今を見るっ! それが大事っ! ヨシっ! 精神武装完了!
 
 ふー……こうやって自分に言い聞かせて、少しでも精神的優位性を補強しとかないと、成功者を呪ってしまいそうになるからな。
 特に自分と同世代、もしくは下の奴が成功しているのを見ると、呪殺しそうになるほど精神が暗黒面に落ちてしまいそうになるので、これは俺の精神衛生上必須な行為なのである。

 なんてことはさておき。

「あー、わざわざ主任様が出向いていてなんだが、その期待には答えられないかもな……」
「と、言いますと?」

 俺の答えに、特に不満気な様子もなく、バレーノがにこやかにそう聞き返して来た。
 理由は至って簡単。
 『アンリミ』産のアイテムは、ゲームシステム的に“そうなるように造られている”のであって、“それがどうやって機能しているのか”なんて俺だって知らないからだ。
 例えばポーション一つ取っても、“ゲーム的にはHPを回復する”という効果だが、それがこの世界でどのようにして“傷を治しているのか”なんて俺には知りようもない、ということだ。
 もっと簡単にいうなら、スマートフォンは扱えるが仕組みは分からん、みたいなもんだな。作れ、何て言われたらもっと分からん。

 ということを、極力遠回りに説明する。流石にそのままは話せんからな……

「ふむ……なるほど。では、何か魔道具をサンプルとして貸して頂くことは出来ますかな? あとはこちらで勝手にに調べますので」

 それなら、まぁいいか? と思っていると、

「そこで、実はパネロ主任にご相談したいことがありまして……
 パネロ主任にも、決して損な話ではないかと」

 俺が答えるより先に、セレスが何やら相談事をバレーノへと持ち掛けていた。

「マクレーン学部長殿からの相談……ですか?」
「はい。取り敢えず、こちらの書類を一度見て頂きたいのですが……」

 そう言うと、セレスが何処から取り出したのか数枚の紙を束にした書類をバレーノへと手渡していた。

「ふむ……これは……ほほぉ……こんなものが?」

 で、セレスから渡された書類を捲る度、バレーノが感嘆の声を上げた。

「はい。これらは単体でも非常に高い利用価値があると考えていますが、仮に、技術の再現が出来れば、その応用的利用価値は計り知れないものになるのではないか、とそう考えています」
「なるほど……これはこれは、実に興味深いっ!」
「つきましては、是非ともパネロ主任のご助力が頂ければと考えているのですが、どうでしょうか?」
「これは面白い試みですね。むしろ、私の方から協力を申請したいくらいですよ」
「それは良かった。詳細をまとめた資料を別途ご用意してありますので、詳しくは後ほど」
「ええ、お願いします」

 と、そんな感じで、何やら俺が与り知らないところで話がとんとん拍子で先へ先へと進んで行ったのだった。
 ……なんだろう? この疎外感は?

「なぁ? あの書類に何が書いてあったんだ?」

 気になったので、セレスにその辺りについて聞いてみる。

「ああ、別に大したことじゃないわよ? ほら? 今までスグミから色々と借りて来たでしょ? 新しく何か借りるより先に、既に借りている物を一緒に研究しませんか? っていう打診ね」

 借りる? ぶん取るの間違いでは? と思ったが、そこには敢えて触れないでおくことにした。
 まぁ、無暗にハチの巣を突いて、自らハチを出す必要もあるまいて……

 で、そういうことなら専門家にお任せして、門外漢は黙っておくことにする。
 下手に口出ししても良い事なさそうだしな……

 その後、セレスとバレーノは詳しい話しをするとかで、解体場を出て行った。
 で、取り残された俺はというと、メイドさんが夕食だと呼びに来るまで、ジジイ共に言われるがまま、せっせとせっせと備品作りを強要されましたととさマル。

 
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