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二六七話
しおりを挟むそうして、セレスがマジック・フライパンを熱心に調べている間に、俺はマレア、そしてメイドさん達と調理器具についての話しを進めることに。
で、メイドさん達からの主な感想としては、火を起こさなくとも調理出来るのは非常に便利だ、ということだった。
懸念事項であった使い方に関しても、この場に居る全員が侍女である前に一門の騎士であるため、魔術にも秀でており、魔力の扱いに関しては何の問題も無かった。
改めて思うが、見た目は若い子が多いのに、スゲーなこの子達……
もし問題が起こるとするなら、極標準的な一般人であるイースさんミラちゃん母娘が使う場合か?
あの二人は魔術なんてものとは無縁だったため、これら魔力を使った道具を上手く使えるかどうが分からないでいた。
まぁ、それならそれで、何かしらの補助機能を付け加えるか、使えるようにする為のアイテムを別に作るか、だな。
「それで、これらの道具に関して、数はいくらほどご用意出来るものなのでしょうか?」
と、話し合いの中で侍女隊の一人が挙手をして、そんな疑問を口にしたのだった。
そう、むしろ問題なのは数の方なんだよなぁ……
なんだかんだで、エルフの村で手に入れた銀は大分使ってしまっていたので、手持ちがかなり少なくなってしまっていたからな。
屋敷の全棟、全エリアに銀を用いた照明システムを設置するとなると、余剰分で作れるナベやらライパンは、大きさにもよるが精々二〇前後といったところか。
元々は、少人数での生活を予定していたため、少数で十分に事足りていたのだが、ここにきて八〇人近い人を迎えることになってしまったために、急遽数が必要になっている、という状況となってしまっていたのだ。
東西の棟での照明設置を止めれば、十分な数を確保出来るが……それもなぁ……
俺達が生活する中央棟だけバリバリに手を加えて、後は知らん、っていうのも竜頭蛇尾感がハンパない気がする。
俺は、そういうのが嫌いなのだ。
やるならトコトンやるっ! それが凝り性の業というものだ。
侍女隊が来るまで、東西棟や中央棟二階以上は手付かずとなっていたが、それは時間を優先したからで、余裕があれば確り手を入れるつもりでいた。
……ホントだよ?
勿論、素材を新たに確保したり、俺が持っている銀の上位素材、例えばミスリルやアマリルコン合金など使えば十分な数を賄えはするが……
しかし、調達するにもそのための伝手がないうえ、運よく取引先が見つかったとしても、調達にどれだけの時間が掛かるかはまったく分からない。
とはいえ、上位素材を使う解決案も、それはそれでオーバースペックも甚だしいものが出来上がることになってしまう。
……というようなことを、みんなに説明した結果、
「でしたら、出来る限りで用意して頂いて、不足分は普通の調理器具を使うということで」
というような感じで話が落ち着いた。
まぁ、妥当なところだろうな。
「なんなら、薪を使わなくても加熱出来るよう、竃自体を加工しちまうか?」
侍女達の話しを聞く限りでは、やはり食事の用意で一番の重労働が加熱用の薪の確保なのだと言っていた。
その話を聞いて、以前、ソアラもそんなようなことを言っていたことをふと思い出した。
エルフの村を出て、まだ一ヶ月も経っていないと思うが、何か懐かしい話しだ。
と、それはさておき。
調理器具の数が足りないなら、竃自体を魔力で加熱出来るようにしてしまえばいいじゃない、というのが俺からの提案だった。
「……そんなことまで出来るの?」
「まぁなっ!」
訝し気に俺を見上げるマレアに対して、俺は胸を張ってそう答えた。
ってか、そんな程度マジで余裕っす!
というわけで、荷物搬入の三班を荷馬車から玄関まで運ぶグループと、玄関まで運んだ荷物を食堂に運ぶグループ、そして、厨房改造の意見出しをしてもらうグループ……とはいえ、このグループはマレアを含めて三人しかいないが……の三班に分けて行動することに。
で、俺はマレア達三人、それと当たり前のように同行して来るセレス……未だにフライパンは抱えたままだが……を連れちて厨房へ。
ちなみに、実演に使った目玉焼きは、何時の間にかセレスが美味しく召し上がってましたとさ。
「あの……もしかして、これは井戸……でしょうか?」
「ああ、そうだよ」
「……何故厨房の中に井戸が?」
「水場は近くにあった方が楽だろ?」
「それは……そうですが……」
厨房に到着するなり、そんなことを聞いて来たのは先ほど挙手をして質問をして来た侍女の子だった。
名前をレインちゃんといい、歳は19。料理上手ということを理由に、今回の研究員の世話兼、護衛、設備の警備の任務に抜擢されたのだと、ここに来るまでの道中でそう聞いた。
もう一人はボゥちゃんといって、歳は18。レインちゃんの妹だとか。
勿論、二人とも戦闘面でも優秀で、専門は主に魔術。その腕は中々のものらしい。
両名共に、何か際立った特徴があるというわけではないが、美人というよりかわいい系の素朴なお嬢さん方である。
「レイっち。このお屋敷でそんな細かいこと気にしてたら、精神がヤられるから気にしちゃダメ。
見たまま、ありのままを受け入れなさい……それが精神衛上、一番楽だから……」
なんて、何処か遠い目をしてマレアが言う。
んで、その隣でセレスが、首を激しく縦に振っていた。それこそ、今にももげるんじゃないかってほどにな……
いやいや……そんないうほどビックリハウスでもないだろ? ない、よなぁ?
そう思い、改めて考えてみるが……うん、十分ビックリハウスか。
厨房に井戸があるし、わけの分からん所から水とかお湯とか出て来るし……
「は、はぁ……分かりました、マレア侍女長」
そんな二人にレインちゃんが曖昧に頷く。と、
「あっ! 今のもっかい言って!」
「え? あっ、はい。分かりまし……た?」
「違う違うっ! そのあとのやつっ! あとのっ!」
「……えっと、マレア侍女長?」
「それっ! くぅ~! 遂にあたしも侍女長で部下持ちですよっ!
出世したなぁ~、偉いぞあたしっ!」
何やってんだ? マレアの奴?
出世が嬉しいのは分からんでもないが、傍から見ていたら子供がゴッコ遊びをしている様にしか見えないんだが……
なんて、小躍りしてはしゃぐマレアを見ていたら、ふいに誰かにクイクイっと袖を引かれた。
視線を巡らすと、そこに居たのはレインちゃんの妹であるボゥちゃんだった。
「あの、旦那様?」
「……は?」
今、なんだって? 旦那様? 誰が?
普段聞き慣れないフレーズに、言葉の意味、そして状況を鑑み、その言葉が誰を指しているを推察する。が、該当人物が思い当たらず、再思考。そして、俺の脳は安定のビジー状態へと移行することに……
ピー……ガガガガ……ピー……ガガガガ……(※脳内のPC古過ぎだろ問題)
「……あの旦那様?」
「だっ、旦那様だぁ!?」
そんなビジっている俺に、ボゥちゃんがそう改めて声を掛けたことで、ようやっとそれが自分に向かっての言葉であることを理解して、脳が活動を再開した。
「ひゃっ! な、何かご無礼でも致しましたでしょうかっ!」
「何やってんだか……」
そんな急に大声を上げる俺に、何か粗相をしたのかと怯える様に俺を見るボゥちゃんと、逆に呆れた様な視線を向けるマレア。
「いや……旦那様って、そんな普段言われたことないからさ……慣れてなくてな。もっとこう……普通に呼んで欲しいんだが?」
「普通にって、名前で呼べってこと?」
わたわたしながらそう言う俺に、マレアがそう問い返して来た。
「まぁ、な。呼び捨てでもいいんだが、難しいようならせめて“さん”付けとか?」
「ダメダメ。そんな無茶言うもんじゃないって。
この子達は上からの命令で、スグミくんに仕えるように言われているんだよ?
初対面でそんな不敬なこと出来るわけないじゃん。この子達にも立場ってもんがあるんだから、そこはちゃんとも考えてあげないと」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんよ。まぁ、譲歩したとしても“様”付けが関の山じゃないかな?」
「“様”かぁ……それもなぁ……」
イースさんの様に、サービス業の人達から顧客に向けての“様”付け呼びなら、特に何とも思わないが、そうでもない人から“様”を付けて呼ばれるのは、なんというか背中がむずがゆくなっているんだよなぁ……
ん? そういえば……
「てか、だったらマレアはどうなるんだよ? マレアは“くん”付けだろ?」
「あたしは初対面ってわけでもないし、あたしもスグミくんもそれなりにお互いのことを知っているからね。
別にいいよ? 今からスグミ様って呼んであげても?」
「勘弁してくれ……」
ということで、旦那様、もしくは“様”付け呼びは受け入れるしかないらしい。
ただ、マレアの話しでは、個人的に親しくなって、名前呼びが不敬でないと感じられる関係になれば、頼みを聞いて呼び方を改めてくれるかもね、とは言っていたので、今後の彼女達との関係性を大事にしていかないとなぁ、と思いました。小並感。
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