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二六五話
しおりを挟む「はい。じゃあ見せて♪」
じゃあ見せて♪ じゃねぇよまったく……
満面の笑みのマレアに溜息一つ。
俺は渋々、亜空間倉庫からマキナバハムートを取り出すことにした、というか、なった。
「うわっ……これはまた……思っていた以上にデカい……それになんかボロボロ……」
で、マキナバハムートを見たマレアの第一声がそれだった。
「だから修理が必要なんだろうが……
てか、この工房の大きさから大体の想像くらいは着くいただろ?」
「それはそうだけど……現物を見るとより大きく感じるっていうか……」
そう言うと、マレアがほわぁ~、と何とも気のないため息を漏らしてマキナバハムートを見上げていた。
「で? これが魔獣と戦った跡ってこと?」
そして、マキナバハムートの焼け爛れた様な外装を指さす。
「まぁ、そういうこったな」
「何をされたらこんなんになるんだか……」
「口からビーム……あ~、炎を凝縮したみたいなやつを吐き出して来て、それを受け止めたらこうなった」
「なにそれ怖い……で、スグミくんが戦ったっていう魔獣も、これくらい大きかったの?」
「いや、こんなもんじゃねぇな」
何気ないマレアの質問に、俺は簡潔に答えていく。
今のマキナバハムートはドラゴンモードで、かつ伏せに近い状態なので、その高さは10メートルもなかった。よくて、5、6メートルといったところか。
それを考えると、ベルへモスの体高はこの五、六倍はある計算になる。
ちなみら、この工房自体は、人型であるドラグバハムートが立っても問題ななく作業が出来るくらいには、天井を高く作ってある。大体20メートルくらいだろうか?
「ほら、近くにもう一つドデカい建物があったろ? あれくらいだよ」
「ウソっ! あれってそういう物だったの?」
「……じゃ、なんだと思ってたんだよ?」
「いや……ね? スグミくんの趣味かなと……」
趣味であんなバカみたいにデカい建物建てるヤツなんておるんか?
「ほ、ほらっ! そういう施設を作ってる、って話は聞いてたけどさ、まさかあんなデカいとは思わないじゃん? じゃん?」
どうやら、マレア自身、ベルへモス関係については詳しく知らされていないしらい。
いや、待てよ?
「つーかさ、プレセアだかラルグスさんに戦闘時の映像を記録したアイテムを渡してあるんだが、マレアはそれを見てないのか?」
まぁ、あれはマキナバハムートの視点からの映像なので、あれだけを見て具体的な大きさが分かるかというと疑問だが、少なくともあれを見ていればマキナバハムートよりはベルへモスの方が圧倒的にデカい、ということくらいは分かりそうなものだが……
「残念。そういうものがある、ってことはアンジーから聞かされて知っているけど、あたしみたいなぺーぺーがそんな国家機密に触れそうなものを、そう簡単に見せてもらえるわけないじゃん……」
と、マレアが肩を竦めて見せたのだった。
つまりは、そういうことらしい。
「なるほど」
「ねぇねぇ! それより、このドラゴンを使って魔獣を討伐したって話だけど、これ、本当に動くの?」
と、マレアが目をキラキラさせて聞いて来たので、「当然だ」と答えたら「なら、動くところを見てみたい」なんてことまで言い出して来た。
「動かしてもいいが、見ての通り損傷が激しくてな。下手に動かすと何処が壊れるか分からんから、少しだけだぞ?」
ということで、俺はマキナバハムートへと近づくと、傀儡操作を使い、首だけを軽く上下に振って見せた。
「おひょっ! マジで動いた……コワっ!
てか、こんな口でがぶってされたら、人なんてひとたまりもないわね……」
がぶっ、なんて可愛げのあるもんじゃないだろ。ぐちゃっ、で一瞬でミンチだよ……
と、不覚にもその光景を一瞬想像して背筋がゾっと寒くなる。絶対やらんぞ。
「というか、この体積ですから、噛みつかなくても踏まれただけで大概の種族は即死だと思いますが?」
とは、セレスの指摘である。
つまり、人をコロコロするだけなら、わざわざ噛みつかなくても、踏むだけでヨシっ! ということだ。
……さり気に怖いこというなこの子も。
「まぁ、確かにね」
そこでさらっと同意すんなよっ! 怖いわっ!
「それにこのドラゴンは、一撃で周囲を焦土にするような魔術砲を口から吐き出します。
なので、物理的な手段を用いずとも、遠距離から都市部にその魔術砲を放つだけで簡単に壊滅……というか蒸発しますよ?」
「なるほど……」
なるほど……じゃねぇし、セレスも一体何の説明をしているんだ?
「今現在、スグミ、という男が個人で保有している戦力を客観的に説明しただけよ。
これで少しは理解したかしら? 貴方が如何に異常な存在かって」
俺が物騒な話をしている二人をドン引きして見ていたら、セレスがデカいため息一つ、俺にそう説明してくれた。
あれ? なんか俺が全面的に悪い流れになっているのたが?
「そりゃ、陛下がスグミくんのこと欲しがるわけよね……」
なんて、セレスの話しを聞いていたその横で、マレアが何気なくそんな言葉を零していた。
「陛下? ってーとプレセアのことだよな? プレセアが俺を欲しがっているって、家臣にでもしたいってことか?」
で、マレアの言葉の真意を確かめるために、そう聞き返す。
「そりゃあ、この国で陛下って言ったら、プレセアっち以外いないじゃん?
で、都市一つを簡単に滅ぼせる様な奴がいるっていうなら、自陣営で確保しておきたい、って思うのがトップとしては当然の考えでしょ?」
「まぁな……」
その気持ちは分からなくはない。というか、むしろよく分かるくらいだ。
シミュレーションゲームに例えるなら、強い手駒は多い方がいいに決まっているからな。
三国志なら呂布や関羽、戦国なら本多忠勝や島津義弘といった辺りか。
これらは序盤で手に入ればかなり楽に進めれられる、雑に強いユニットである。
自分が彼らと同列であるとは思わないが、感覚としては似た様なもんだろ。
「スグミくんはよく分かってないっぽいから教えてあげるけど、どういう理由があるにせよ、そもそも、国が一個人に土地を貸与するってだけでも、この国じゃかなり異例なことだからね?
プレセアっちだって、今色々あって、内心じゃ是が非でもスグミくんを取り込みたいところなんだけど、無理に押し通してスグミくんの心象を悪くしたくもないわけよ。
無理した所為で、スグミくんがウチから出て行って、剰え敵対されたら最悪だからね。
だからこうして、極力協力しつつ、心証を良くして、あわよくばスグミくんから進んで協力してもらえるような関係性を築いて行こう、ってのがプレセアっちの当面の目的なわけ。
国のトップが、個人にここまで気を使ってるって、異常以外のなにものでもないからね?」
ということを、マレアがやや呆れた様な調子で説明してくれた。
しかし、だ。
「なぁ、マレア。話は分かるけどよ……俺がこう言うのも何だが、そういうことって俺に話してよかったのか?」
話しの内容を曲解すれば、お前を利用したいから今は良い顔をしておきます、と捉えられなくもない話しだからな。
喩え、そう考えていなかったとしても、俺に話すべきで内容ではないと思うのだが……
「ん~、一応、この話しは機密扱いだから、よくはないんだけどさ……」
そんな俺の疑問に、例によって特に気にした風もなくマレアがそう答えた。
よくないって分かってる上で話してたんかこいつ……てか、機密扱いって……
ほら見ろ。そんなことを言うもんだから、セレスが隣で青い顔して、耳を塞ぎながらしゃがみ込んじまったじゃねぇか。
しかも「私は何も聞いてない、私は何も聞いてない、私は何も聞いてない」って何かぶつぶつ呟いてるし……ぶっちゃけ、見ていて可哀想になって来る。
実際、ただのとばっちりだしな。
そんなセレスを気にもせず、マレアはというと、そこで言葉を探すように一旦押し黙る。と、
「これはあたしの率直な印象なんだけど、スグミくんってあんまり腹芸とか好きなタイプじゃないんじゃなかなって、そう思ったんだよね~。
あたしもそういうのあんまり、得意でも好きでもないし。
だったら、ざっくり腹割って話した方が早いかなぁ~、なんてね。
スグミくんだって裏でコソコソなにかされても気分悪いでしょ?」
「ん~、そりゃ……まぁ……な」
そりゃ、何か自分の与り知らぬところでコソコソされて気分がいいわけもないので、マレアの言葉にも一理あるとは思うが、反面、彼女は女王を、延いては国を守る身として、機密をベラベラ話してしまうのはそれでいいのか? とも思わなくもない。
勿論、マレアだって誰彼構わず話しているわけではないのだろうが……
そういえば、と、以前にラルグスさんと話した時にも、似た様なやり取りをしたことをふと思い出した。
俺ってば、そんな分かりやすい性格なのだろうか?
「あっ、あたしがこの話をしたのは秘密ってことでヨロ♪
特に、あたしの上司のアテンツァ侍女長には絶対に内緒ね? バレたら、また減給されちゃうから……」
俺がそんなことを悩んでいると、マレアはそう言って、たははっ、と苦笑いを浮かべて見せた。
別に、敢えてチクるようなことをするつもりはないが、またって、こいつどれだけ普段からやらかしてんだ? という新たな疑問と共に、こいつで本当に大丈夫なのか? という不安も同時に湧き上がって来たのだった。
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