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二六〇話

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 で、最後に今後のあの土地の利用に関しての話しがあった。
 現状、王家所有のフューズ家預かり俺管理という、ややこしい状態だが、基本は俺の好きに使っていいということだった。
 勿論、敷地を拡張したり新たに建物を建てる、もしくはあの土地を何かしらに利用する、といった場合は事前の報告が必要にはなるがな。

 あの土地は俺の領地というわけでもないので、好きに使える許可こそ出てはいるが、だからといって好き勝手をしていいわけではない、という感じだ。

 当然、俺だけの土地、というわけでもないので、今後、国、もしくはフューズ家としてあの土地を利用することも十分にあり得る、という話しだった。
 現状はまだベルへモスの研究所としてしか利用していないが、これからどうなるかは分からない、ということだろう。

 まぁ、共同管理、みたいな感じといったところだ。

 ただ、まぁ、国の思惑で俺の権利が一方的にないがしろにされる、ということはない、とそうラルグスさんは断言してくれていた。
 国側も、あの土地で何かを行う場合は、俺に事前に報告を入れてくれるとのことで、そこでもし何か不都合があれば、その時に協議をする、という感じになるらしい。

 とはいっても、その不都合な状況というのが現状ではいまいち想像出来ないがな。
 突然、屋敷から出ていけ、みたいなことは言われないみたいなので、俺としてはラルグスさん達があそこで何かしたいというならお好きにどうぞ、というくらいの気持ちでしかなかった。
 むしろ、俺が土地を間借りさせてもらっている側なので、俺や俺が雇用することになったイースさん、ミラちゃん母娘に実害が及ばないのであるなら、初めから口を挟むつもりなど毛頭ない。
 
 まぁ、そこは追々、ということで今後に関する大まかな話はこれで終了となった。
 ちなみに、報酬金などは近日中に自由騎士組合にある俺の口座に送金されるとのことらしい。

 で、話が終わったところで……

「例の物を」

 と、ラルグスさんがイケメン秘書君に何かを指示すると、イケメン秘書君は抱えていた鞄から二枚の書類の様な物を取り出し、それをすっとテーブルの上に並べた。

「これは?」
「契約書だ。二枚とも内容は同文。今まで話して来たことが詳細に記されている。今までの話しで問題がないようなら、署名を求めたい」

 そう言われ、紙を一枚手にして内容を確かめてみると、確かにさっきまで話したことが事細かに、しかも難しい言葉で長々と記されていた。
 あの、公文書なんかで使われる、甲は乙に対して云々……って感じのあれだ。

 で、最下部には署名蘭があり、二枚ともそこには既にラルグスさんのサインは書かれていた。
 更にその下に空白があることから、ここに俺がサインすればオーケーということらしい。
 まったく同じ書類が二枚用意されているということは、一枚は俺用、一枚はラルグスさん用ということだろうな。

 ということで、すらすらすすらっと名前を書く。

「……それはスグミ殿の国の文字か?」

 ラルグスさんからそう指摘され、ついうっかり漢字で名前を書いてしまっていたことに気が付いた。
 
「おっと、これは失礼」

 で、慌てて先に描いた漢字の名前の下に、言語アシスト機能によって表示されたこの国の文字で名前を新たに書く加える。
 この言語アシスト機能、読む時は勝手に翻訳されるので、普段気にすることは少ないのだが、書く時は明確にこういう内容の文字を書く、と意識しないと機能しないんだよな……

 なので、自分の名前のような意識しなくても書けるようなものだと、うっかりそのまま書いてしまうことがあったりするのだ。

 一枚目でこれをやってしまったので、二枚目もバランスをと取って漢字とこの国の文字とで併記する。
 片方漢字あり、片方漢字なしではアンバランスだからな。

「はい、書きましたよ」

 書き終わったところで、二枚の書類をラルグスさんへと渡す。

「うむ」

 ラルグスさんは俺から契約書を受け取ると、一通り書面を確認し、問題がないことを確認する。
 と、今度は二枚の契約書をピタっと横並びにしてテーブルの上へと並べた。
 そして、懐から何か小さな箱の様な物を取り出すと、それを開け、更に取り出した何かを、二枚の契約書が合わさった中間にぐいっと押し付けたのだった。

 ラルグスさんが手を離すと、そこには何やらハンコの様な物が押印されていた。
 ……ああ、これ割印か。
 となると、ラルグスさんが取り出したのは印鑑だったのだろう。

 割印とは、簡単にいえば二枚以上の書類を跨いで押印することで、書類そのものの正当性を証明したり、また、偽造を防止したりするための押印方法のことである。

「では、スグミ殿。ギルドタグを貸して頂けるかな?」

 で、ラルグスさんは自分の印鑑をしまうと、俺にそう言って来たのだった。
 ああ、俺も押印するのね。

「はい、どうぞ」
「暫し借りる」

 俺が懐にしまっていたギルドタグをラルグスさんへと渡すと、イケメン秘書君が空かさず何か紙の様な物をラルグスさんへと手渡した。
 それを受け取ったラルグスさんは、契約書の上にその紙切れを置き、更にその上に俺の渡したギルドタグを置くと、ガンっと力強くタグを叩いたのだ。

 一瞬、大きな音にビクっとなるセレスを横目に、もういらない、とばかりにラルグスさんから返却されたギルドタグを受け取った。

 ラルグスさんが契約書を覆っていた紙切れを退かすと、あら不思議。
 そこには俺のギルドタグの刻印が、くっきりと複写されているではありませんかっ! って、なんのことはない。
 あの紙がカーボン紙だったというだけの話しだ。
 複写する時に使う、アレである。てか、この国にカーボン紙なんて物があるんだな。そっちに驚きだ。

「ではこちらがスグミ殿の保管となる。努々ゆめゆめ、紛失などしないようにな」

 と、ラルグスさんはそう言って契約書の一枚を俺へと差し出した。

「勿論」

 というわけで、とても大事な物なので、受け取った端から亜空間倉庫に即、収納してしまう。
 よし、これで紛失とかは絶対にあり得なくなったな。

 これにて、ラルグスさんとの会談は無事終了となった。
 しかし、なんだかんだで話すことが多くて、気付けばもう昼近くになっていた。

 ラルグスさんはまだ仕事があるとかで、直ぐに席を外してしまったが、俺達は時間も時間ということで、王宮の食堂で昼食を食べることにした。
 今なら、混雑のピークになる前なので、以前よりは空いているだろう、とはセレスの談である。
 
 
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