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二三六話

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 解剖……カイボウ……と、俺を死んだ魚みたいな目でじっと見ながら呟いていたセレスだったが、エンチャント加工を施した板切れを一枚、これあげるから好きに調べていいぞ、と渡したら途端に静かになった。
 現金な奴め。
 セレスが、メッチャ気にした風に、板材をチラチラ見ていたので、身代わりになるかと思ってのことだったが、効果は覿面だったようだ。

 今は、何処から出しのか、なんぞよく分からんハンディータイプの電流テスターみたいな道具を片手に、板材を真剣な顔で調べている。

 ふぅ~、これで少しは静かになるか。あと、身の安全の保障もな。解剖なんてされたかない。
 まぁ、それも板を調べ終わったら、また来そうな感じはするけど……

 では、セレスが静かな内に、次の工程である塗装を進めよう。

 流石に目剥き出しのまま屋根にするっていうのもちょっとな……
 それはそれで斬新なのかもしれないが、俺はそういうのは趣味ではないのだ。

 といっても、別にペンキを手で刷毛塗りするつもりはない。そんな面倒なことはしない。
 ではどうするのか? こうするのである。
 俺は今しがた作ったばかりの板材を、再度まとめてクラフトボックスへとイン。
 で、チェストボックスを取り出し、中身を開く。

 確か、アレはこの箱の中にしまったはずだけど……ああ、あったあった。

 中身の一覧をスクロールしていると、そこにお目当てのアイテムを見つけた。
 染料アイテム。武器や防具、服などの色を変更するのが主な目的のアイテムで、最早、説明など不要の着色材である。
 勿論、それ以外にも普通にペイントの絵具としても利用出来たりする。

 ちなみに、ゲーム時代はこれらの塗料に水性だの油性だのという概念は存在しいなかったため、一度塗ったら自然に剥がれたり、色落ちしたりということはなかった。
 色を変えたい時は、上から別の塗料で染め直すか、元の色に戻したい時は、専用の剥離剤を使わなくてはいけなかったからな。
 まぁ、現実となった今ではどうなっているか分からんが……

 今回は、この染料とクラフトボックスを使って、合成塗装をしようと思っていた。
 合成塗装は、『アンリミ』に存在していたいくつかある塗装方法の一つで、素材の上から塗料を塗るのではなく、そもそも塗料と素材を合成してしまう、というかなり大雑把な塗装方法だ。
 そのため、細かい塗分け等は一切出来ない。だが代わりに、手早く簡単に色ムラなく、塗装をすることが出来た。
 また、合成、というように、色が表面だけでなく、内部にも確り着色されるのが特徴だ。

 内部まで着色された素材は、どんな加工をしても色味が変わらないので、事前に色分けしたパーツを作り、あとで組み上げることで、プラモデルのように最初からある程度色分けされた状態で組み上げることも出来た。
 
 人に寄っては、こうした色付きの素材を大量に用意し、複雑に組み合わせることでモザイクアートとかドットアートなんかも作っていたりしていたな。
 そういえば、『アンリミ』内で有名だったドットアートプレイヤーが運営とコラボして、街の広場にドデカいドットアートを描いたりしていたな……
 懐かしい話しだ。 
 なんて話はさておき。
 
 じゃあ、色だけど……何にするかね……

 染料は基本色は大体揃っていた。中にはちょっと特殊な染料もあり、キラキラとした光沢があるメタリック塗料とかパール塗料とかもあるにはあるが……まぁ、どちらも屋根には使わんな。 
 
 余談だが、メタリック塗料もパール塗料も、金属的な光沢を放つ塗料、という点では同じだが、その光り方は大きくことなっている。
 メタリック塗料は、ベースになった色の金属光沢を放つのみだが、パール塗料の方は見る角度によって淡く色が変化する特性がある。
 ただ、光沢の度合いでいえば、パール塗料よりメタリック塗料の方が輝きは強いのでどちらいいかは、完全に好みで別れるところだ。
 
 で、結局、無難に艶無しの深い紺色で塗装することにした。
 屋敷に使われている石材が黒に近い灰色っぽい色をしていたので、それに合わせた感じだ。
 変に派手にする必要もないので、無難にな。

 というわけで、染料を取り出し、こちらもクラフトボックスへイン。まとめて合成して板材を着色する。
 そして、着色の済んだ板材をまたクラフトボックスから出して、近くに積んでいく。

 ちなみに、染料は使用回数のあるアイテムなので、一回使ったからといってなくなったりはしない。
 なので、使い終わった染料をチェストボックスへとしまい、ついでにお役御免となったクラフトボックスごと亜空間倉庫へと片付ける。

 よし、ここからは屋根の板張りだな。

 流石に、この板を直に手で持って上へと登るのは無理なので、一旦、板材を亜空間倉庫へと放り込む。

 この時、チラっとセレスの様子を確認すると、今はナイフの様な物を片手に、渡した板切れを削っている様だった。
 何をしているのか知らないが、そのまま大人しくしてくれていると非常に有難い。

 と、念じつつ、俺は亜空間倉庫から鉄腕28号くんを取り出した。
 街壁の工事の時に使った、巨大人形である。
 俺個人では、碌な足場も無いような今の状態では、とてもじゃないが上へ行くことなど不可能だ。そこで、鉄腕28号くんに運んでもらおう、という考えだ。
 鉄腕28号くんの方が屋敷よりずっとデカいので、俺を運ぶくらい余裕である。
 が、図体のデカい鉄腕28号くんが、屋敷に近づき過ぎると、不慮の事故で屋敷にぶつかってしまう恐れもあった。
 
 当たりどころが悪いと、そのまま全壊、なんて危険もあるので、ここでもう一工夫。
 
「貴方、こんなものまで持っていたのね……」
「ぬおっ!」

 次の準備に取り掛かろとしたその時。
 背後から……それも至近距離から聞こえて来たセレスの声に驚き、咄嗟に振り返ると、いつのまにやらそこにセレスが立っていた。
 ホント、いつの間に来てたんだ……足音も気配もしなかったぞ?

「さっきまで向こうで板切れで遊んでいたはずでは?」
「別に遊んでたわけじゃないわよ」

 と、セレスがそう言って心外そうに頬を膨らます。

「流石に、いくら集中していたとしても、これだけ大きな物が突然出てくれば、バカでも気づくでしょ? 普通」

 まぁ、確かにな。
 呆れたようにそう言うセレスに内心で同意する。

「で? この大きな人形を使って、次に貴方は何をするつもりなのかしら?」
「屋根を乗せるんだよ」
「この人形を使って?」
「いや、こいつだと作業中にもし腕なり何なりが壁なんかに当たったりでもしたら、屋敷が倒壊する危険があるからな。あくまで補助ってところだ。作業自体は俺がやろうと思ってる」
「スグミが……って、どうやって?」
「そのための道具を作ろうとしていたところなんだよ」

 と、セレスにそう話すと、作業に取り掛かることにした。
 まず用意するのが長くて丈夫な一本の棒。これは、残った木材から俺が形状変化シャープ・チェンジ結合バンドを使い整形したものだ。
 次いで、この棒にガイドとなる輪っかを、等間隔で設置していく。

 ここで、さっき作ったロープの出番だ。
 その輪っかの一つ一つに、ロープを通して行く。
 このロープだが、一〇本ほどを結合バンドで結合し、全長100メートル前後に伸ばしたものを使っている。

 ロープをすべてのガイドの輪に通したら、今度は大きく太い車輪の様な物を棒へと取り付ける。
 この時大事なのは、この車輪の輪の様な物が、回転するように取り付けることだ。
 回ることが大事だからな。
 で、この車輪にクランク型のハンドルを取り付け、ロープの端を車輪に結合。
 最後にこの出来上がった棒を鉄人28号くんに持たせ、ハンドルを回してロープを車輪で巻き上げれば、はい、完成だ。

 そう、俺が作っていたのは巨大な釣り竿である。

 とはいえ、別にこれで本当に釣りをしよう、というわけではない。というか、これで吊る・・のは俺自身だからな。
 釣り竿ならぬ、吊り竿なのである。

 俺はロープの端を形状変化シャープ・チェンジでハーネス状に加工すると、出来上がったものを引っ張ったりして強度をチェック。

 ただのロープから強化ロープにしているので、余程大丈夫だとは思うが、ここで更に十分な強度を得るために、板材にしたようにこのロープにもエンチャント加工を施して行く。

 高所作業になるからな。ローブが切れでもしたら、マジで命の危険が危ないのだ。
 念には念を。気を付けるに過ぎるない。

 で、この強化ロープのエンチャントポイントとスロット数は板材と同じく1。
 合成元となった素材が素材だからな。まぁ、こんなものである。
 そして、付与するアビリティは【防御力強化・LV1】。
 はい、実行。これで強化ロープより更に丈夫になり、切れにくくなったはずだ。

「……今、また何かしたわね?」

 そう言って、何度目になるのか分からないセレスの無感情な視線が俺を射抜く。

「ロープの強度をちょっと、な」

 エンチャント加工すると、アイテムが一瞬光るからバレバレなんだよなぁ……
 そう答えて、セレスからそっと目を逸らす。目を合わせたら、また質問責めにされそうで怖いのだ……
 
「さ、さてっ! 次っ次っ!」

 そう誤魔化してセレスの視線から逃げつつ、仕上げとしてハーネスを体に取り付けて完成である。

「大体想像は付くけど……そこからどうするつもりなのかしら?」
「まぁ、思っている通りだとは思うが、こうするんなだよ」

 そう俺は答えると、鉄腕28号くんの腕を軽く持ち上げさせた。
 当然、その腕には吊り竿が握られおり、そのロープの先は俺へと繋がっている。となれば、その腕の動きに合わせて、俺の体が宙に浮くことになった。  
 まぁ、やっていることはまんまクレーン車である。

「と、まぁ、このまま屋根付近まで俺自身を運んで作業する、って感じだな なんならセレスも一緒に来るか?」

 1メートルくらい浮いた状態で、俺はセレスにそう誘いを掛けたが……

「……遠慮しておくわ」

 と、簡単に断られてしまった。まぁ、そう言うと思っていたけど。
 誰も好き好んで、宙吊りになんてされたくはないだろうからな。
 ということで、俺は一人屋根部分へと移動することに。

 高度を上げるために、鉄腕28くんがリールをクルクルと回す度に体から持ち上がり、次第に地面が遠くなって行った。
 高度が上がるにつれて、ヒュンっとなるのを感じる。何がとは言わないが……

 にしても、思った以上に揺れるな、これ……
 気を付けて操作しないと、勢い余って壁に激突しかねない。壁のシミにはなりたくないので要注意だ。

 で、そのまま最上部へと運搬し、到着。
 流石にここまでくると高いな……ちょっと怖い。が、なんて言ってもいられないので早速作業をすることに。

 ぱっと見の感想だが、いくら腕のいい大工と質のいい石材を使ったとしても、時間と自然には勝てないのだなぁと思い知らされる。
 最上部ということで、一番風雨に晒されて来たこともあり、他の場所に比べかなり傷みが激しい。

 まぁ、とはいえ、この程度なら改修作業自体に影響はない。
 こんなもの、《シャープ・チェンジ》と結合バンド、それと街壁工事の時に使っていた石材のあまりを使えば、いくらでも補修が出来る。
 
 ということで、傷んでいる部分をささっと補修しつつ、かつ、屋根を載せられるように全体の形状を整えて回る。
 そうした作業が済んだところで、亜空間倉庫にしまっていた板材を乗っけて、土台となる壁と結合バンドで固定。
 そうやって板材を乗せて行き、乗せた板同士も結合バンドを使い隙間をなくすように固定。
 これで、雨漏りの心配はほぼないだろう。

 最後に、《シャープ・チェンジ》で全体的なバランスを整えれば……はい、完成だ。

 よし。これで雨露くらいは凌げるようになったな。
 なんだかんだで作業をしていたらそれなりに時間が過ぎていたようで、今日の作業はここまでということで帰ることにした。
 
 
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