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二一三話
しおりを挟むSIDE ラルグス
「あれは……村……でしょうか?」
そんなことを幾度も繰り返しているうち、鏡に今までとは一風変わったものが映し出された。
それは、家……というよりは、組み立て式の天幕の様な物だった。
「おそらく、ここが銀狼族の集落なのだろう。いや、正確にはだった場所……か」
それを見て、ラルグスがそう事も無げに答える。と、それが聞こえていたわけではないだろうが、丁度よく風景がそこでぴたりと停止した。
その機に、改めて集落を観察してみれば、フューリーとグランの証言通り、そこは見るからに人影がなく、もぬけの殻のような状態になっていた。
「どうしたのでしょうか? 急に止まったきり、動かなくなってしまいましたが?」
またすぐに動き出すだろうと、そう思い暫し鏡を見ていたが、一向に動く気配がないために、プレセアがしびれを切らしてそうぽつりと呟いた。
「おそらく、手掛かりがなにも無い故、これから先どう行動するか考えているのだろうな」
途中から、行動の指針があからさまに変わったことを、ラルグスはその動向から気づいていた。
最初は、スグミから聞いた“大型の魔獣を感知する魔道具”を使い、見つけたそばから手当たり次第に一つ一つ確認している、そんな雰囲気が感じられた。
しかし、魔境たるユグル大森林の奥地では、その“大型”の魔獣がゴロゴロしており、それらを丁寧に確認していたのでは埒が明かなくなった。
そこで、小物は切り捨て、更なる“大型”に狙いを定めることにしたのではないか、とラルグスはそう見ていた。
つまり、“目に見て分かる程、巨大な何か”をまずは探そうというわけだ。
事実、行動が変わってからはより高くを飛び、視野の確保に専念していたようにも見えた。
ラルグスは、“大型の魔獣を感知する魔道具”に効果範囲があるのかどうか聞いてはいなかったが、これらの行動から見るに感知範囲には制限があり、また、それはあまり広くはないのだろう、とそう予測していた。
でなければ、とうの昔に目的のものが発見出来ているはずである。
と、いうようなことを持論、憶測などを交えつつ、プレセアへと話して聞かせた。
「さて、それではプレセア。この状況、お前なら次にどう動く?」
一通り話したあと、ラルグスは軽い試験のつもりで徐にプレセアにそう問うた。
「そうですね……」
こうしたラルグスからの突然の質問はよくあることで、プレセアも動じることなく暫し黙考する。と……
「……北へ……北へ向かいたいと思います」
ぽつりと、だがはっきりした声色でプレセアはそう答えた。
「ほぉ……その心は?」
「はい。まず、今の様な碌な手掛かりがない状態では、正直、何処から捜索しても結局は運次第となってしまいます」
スグミ達が通って来た南西方向は何も無かったので除外出来るとしても、それでも捜索範囲はまだまだ膨大であることに違いはない。
「それなら、折角、銀狼族の呪い師が“南へ逃げろ”と、そう占ったのですから、それに従うのも悪手ではないかな、と」
要は、南に逃げろ、ということは基本的に考えて逃げるべき脅威はその反対、つまり北にある……と、そうプレセアは考えたのだ。
プレセアはそこまで話すと、これで正しいですか? と、そう問う様な表情をラルグスに向けた。
この考えは、ラルグスとも概ね同じであった。
この占いに、何か確証があるわけではないが、初めの一歩を踏み出すには手頃な判断材料であろうと、ラルグスもそう思っていたのだ。
「それで、おじ様はどのようにお考えなのですか?」
そう、改めてプレセアに問われ、ラルグスもまた「北だ」と静かに答えた。
「よかった、おじ様と同じ考えて安心しました」
「与えられている情報が同じなのだ。似た様な結論に行き着いても不思議ではない。
ただ、一言断っておくが、今回の様な碌に手掛かりがないような状況では、これが正しいという正解などありはしない。
故に、私と同じだから正しい、違うから間違っている、などということはないのだ。
自分で下した決断が、誰かと同じだからと安心するのは聊か頂けないな。
特にお前は一国の王なのだ。自身が下した結論には自信を持て。上が迷っていては部下も迷う。
王が迷えば国が迷う。それを覚えておくようにな」
「うぅ……はい。心に留めておきます」
多少のお説教はくらいつつも、そんなことを話しているうちに、不意に鏡の中の風景が大きく動き出した。
「あっ、動き出しましたね」
そして、肝心の向かう先はというと、太陽の位置から判断して……
「やはり、北に向かったか」
行く先を見て、ラルグスはそう呟いた。
暫くは、ただただ森の上空を飛んでいるだけの光景が続いていたのだが、ふと、鏡に奇妙な光景が映し出された。
それは、森の中でぽつんと突き出した赤茶けた山だった。
「山? こんな所に……?」
それを見て、プレセアがそうこぼす。
確かに、プレセアのその疑問も頷ける話しではあった。
青々と茂る森の中に、ぽつんと突き出た、岩肌が剥き出しになった山が一つ。
これを奇妙と言わずして何が奇妙なのか、とそう問いたくなる不自然極まりない風景がそこなあった。
そうしているうちに、風景が拡大化されより鮮明にその光景が映し出されはするが、それはどこからどうみてもただの岩山にしか見えなかった。
しかし……
「何でしょうか? この何かを引きずった跡のようなものは?」
それを見て、プレセアがそんなことを言う。
拡大化され分かったのは、その岩山の後ろに、何かを引きずった様な道が延々と続いていることだった。
それは、まるでこの岩山自身がここまで歩いて来たかに見える光景だった。
鏡はその岩山へ近づく様に飛び、そして止まった……丁度その時だ。
「ん? アンジェリカから連絡が来たようだ」
ラルグスにしか聞こえないコール音、そして彼にしか見えないウインドウが目の前に表示され、共振リングがセリカから連絡が来たことを告げる。
昨日の練習の時同様、ラルグスはウインドウに表示された“許可”というコマンドに手を伸ばし、触れる。
「わっ、私だ」
ウインドウに“接続”を意味するという文字が出たのを確認して、ラルグスはそう告げる。
慣れない行為に、声がやや上ずってしまったが、そこは小さく咳払いを誤魔化した。
『父上、アンジェリカです。ユグル大森林の奥地にて、奇妙な物を発見しましたので、ご報告申し上げます。
出来ましたら、鏡にて確認をして頂けないでしょうか?』
「うむ。こちらでも確認している。しかし……これは本当に魔獣なのか?
ただの岩の塊にしか見えないが?」
『スグミの話しですと、生物であることは間違いないようです。
ただ、魔獣なのか、それとも獣なのか、その判断はついていないのがですが……』
「……そうか」
セリカからの報告に、ラルグスはふむと唸る。
ただの獣であるにせよ、魔獣にせよ、それこそベルへモスであるないに関わらず、この大きさというだけで十分な脅威となり得た。
さて、一先ず放置をして様子を見るべきか、それとも先手を打って討伐の準備をするべきか、そう悩むラルグスに、プレセアから声が投げかけられた。
「おじ様? 少し宜しいですか?」
「はい、何でございましょうか」
一応、自分の声がセリカ達第三者にも伝わっていることを意識し、ラルグスは今までのフランクな言葉使いから家臣のそれへと切り替えて対応する。
「アンジーはなんと言っているのですか?」
共振リングからの声は、共振リングを身に着けている者にか聞こえない為、プレセアが会話の内容を確認するには、こうしてラルグスから又聞きするしかなかった。
「はい、魔獣である確証はないものの、生物であることは間違いないと」
「そうですか。信じられませんが、あの大きさで生き物なのですね……」
「はい、そのようです」
「……となると、背後にあったあの引きずった跡の様なものは、やはり移動した跡だったのでしょうか?」
「ええ、おそらくは」
「でしたら、その先が何処に向かっているかなど、分かったりしないでしょうか?」
要は、このままこの謎生物が移動したとして、自国の脅威となり得るかどうかを知りたい、ということだ。
同じことを、ラルグスもまた、今まさに考えていたところであった。
「……分かりました。聞いてみましょう」
『父上? 近くにどなたかお居でなのでしょうか?』
と、丁度こちらが口を開こうとしたタイミングで、セリカからそんな質問が投げかけられた。
「ああ、陛下が隣に居られる」
『陛下が?』
『陛下がっ!』
そう答え瞬間、二つの声が重なって聞こえて来た。
一つは娘のもので、もう一つは同行しているセレスのものだと瞬時に理解する。
ただ、セレスのその声量には少し驚いたが……
ただ、ラルグスもセレスが驚くその気持ちは分からなくはなかった。
王城務めとはいえ、セレスは所詮は一役人に過ぎず、国王たるプレセアは雲の上の存在であり、そう簡単に会えるものではなかった。
それが間接的とはいえ、近くに国王がいると思えば驚きもするだろう。
『それで、陛下は何と?』
「ああ。その巨大な生物が移動していると思える痕跡が確認出来る。その進行方向に何があるのか、それを陛下は気にしておられる」
『スグミ』
『はいはい。只今確認中だよ』
そんなスグミの返答から待つこと少し。
『ふむ。良い知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたいですか?』
と、そんな風に聞いて来た。
つまりそれは、悪い知らせが確実に一つ以上は存在している、ということを意味していた。
ならばと……
「……では、良い知らせから聞こうか」
そう、ラルグスは答えた。
『このままあの物体が直進すると仮定するなら、王都にはかすりもしないでしょうね』
(王都には……か)
そんなスグミの言い回しに、ラルグスは言い知れない不安が込み上げて来たのだった。
「では……悪い知らせは?」
『ノールデン王国国内には確実に進入することになりますな』
「…………」
そんな重大事項を、いくらよそ者とはいえあっけらかんと答えるスグミに、ラルグスは一抹の殺意を抱いたものの、それはぐっと堪えて押し殺す。
それよりも、だ。
(この事実を、どうプレセアに説明する……)
そのことに、ラルグスは頭を抱えるのだった。
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