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一九三話

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 翌朝。

「今日、お兄さんはどうするんですか?」

 食堂で朝食を食べていると、ミラちゃんがそんなことを聞いて来た。
 
「アレの処理をするために、ちょっと王城に行こうと思ってる」

 と、食堂の隅で未だに眠らされた状態で転がされている二人のワーウルフへと視線を向けた。
 とはいえ、まず向かうのはジュリエットに会いに、自由騎士組合へ行く必要があるんだがな。
 日が登り、さてセリカに昨夜の一件を報告しよう、と思ったその時になって初めて、俺はこちらからセリカと連絡を取る方法がないことに気づいたのだ。
 今までは、なんだかんだで向こうから頻繁に接触してきてくれていたからな。

 ならばと、ブルックからの紹介状を使って自宅を訪ねようかとも思ったが、止めることにした。
 そもそも、セリカはあの子ワーウルフを実家で預かってもらう、と言っていただけで、本人が実家にいるかどうは分からないからだ。
 セリカから聞いた話だと、普段は王城内にある騎士専用の宿舎で生活している、みたいなことを話していたからな。
 実家に預けるだけ預けて、自分は普通に宿舎とやらで生活している可能性も十分にある話しだ。

 俺には、パーティーメンバーの位置がマップ上から分かる、という能力? というか、ゲームの仕様? があるのだが、今はそれが使えない状態になっていた。
 理由は簡単。セリカがパーティーメンバーから抜けいてるからだ。

 以前、バハルとかいう貴族の屋敷に進入した時は、確かにセリカ達とパーティーを組んでおり、マップからみんなの現在地を特定出来たのだが、気付いた時にはそのパーティー登録が解除されており、現在はその機能が使えなくなっている、というわけだ。
 なので、セリカだけでなく、ソアラやイオスの現在位置すら今の俺には分からなくなってしまっていた。
 このパーティーの登録と解除については、まだ分からないことが多いんだよな……
 気付くと、登録されてたり解除されてたりすのだから困ったものだ。
 いっそ、ゲーム時代同様、コマンドによる操作だったらよかったものを……

 と、まぁ、そんな感じでいセリカの現在位置が分からないなら、自分の足で探すしかないとなり、だったらまずは仕事場兼生活している王城に赴こうかと思ったのだが……これも止めた。
 何のことはない。行ったところでどうしようもないからだ。
 以前、神秘学研究会を尋ねて王城を訪れた時は、ブルックの紹介状があったから話がスムーズに進んだが、今回はそんなものはない。
 いくら銀級とはいえ一介の自由騎士でしかない、しかも一番下っ端の十級な俺が、何も持たずに王城へ行き、門番に「セリカに会いたいから呼んでくれ」なんて言って話が通ると思うか? 
 んなもん、門前払いされるに決まっている。

 というわけで、だ。
 何も無いからダメなのなら、その何かを用意すればいいだけの話し。
 つまり、今回はその仲介をジュリエットに頼もう、という魂胆だった。
 それに、ジュリエットなら事情も知っていから、あの獣人二人について相談するには打って付けだしな。

「さて、んじゃちょっと出かけて来るわ」
「はい、いってらっしゃ~い」
「行ってらっしゃいませ」

 朝食を食べ終わり、俺はイースさんとミラちゃんに見送られて宿屋を後にした。

「それはまた……大変だったわねぇん……」

 で、自由騎士組合に着いて、火急の用事だと受付嬢にジュリエットとの面会を求め、早速相談することに。

「ああ、いきなりでびっくりしたよ……
 今は無力化して、俺が宿泊してる宿で拘束している。捕らえる時に怪我とかはさせないようにはしたが……多分、その方が良いんだよな?」
「そうねん。先に襲って来たのは向こうさんだから、怪我をさせたからといって何か問題に問われることはないでしょうけど、事が事だからねん……
 余計な火種は無いに越したことがないのは、確かよねん。
 スグミちゃんの配慮に感謝するわん。
 で、欲しいのはセリカちゃんへの面会状でよかったのかしらん?」
「ああ、何も持ってないと門前払いされそうだからな」
「実際、されるわねん。分かったわん、スグミちゃんには城郭補修の件ではお世話になっているもの。すぐに用意してあ・げ・る♪」

 そう言って、ジュリエットがバチコンっと俺に向かってウインクをかます。と、目からピンク色をした巨大なハートが飛び出る幻が見えた。
 エモーションエフェクトかな? ゲーム時代ではよくみたアレだ。
 が。
 その時、俺の背筋に強烈な悪寒が奔ったのだったっ!
 あれは危険だっ! 命に関わるほどにっ!

 危険感知スキルは何の反応も示してはいないが、俺の本能が、魂が、避けろと叫んでいたので、それを全力で回避する。
 ふぅ~、危うく質量を持ったエモーションエフェクトに殺されるところだった……

「いけずねぇん……」

 何がいけずなのかは知らんが、さっさと紹介状を書けや。

 そうこうして、ジュリエットに書いてもらった紹介状……正確には面会状らしいが……を手に、王城へとやって来た俺は、火急の用事だと、門番に告げて書状を渡し、城門前で待つこと少し。
 ちなみに、門番は前見た人物とは別人だった。

「スグミ、火急の用事とあったが、何があった?」

 場内から正装? というのだろうか。
 いつもの革鎧を着た自由騎士然とした姿ではなく、門番達が着ているような制服? 軍服? まぁ、そんな感じのものを着たセリカが姿を現した。
 黒を基調とした、学ランというのか、詰襟のような服だ。なので、下はスカートではなくズボンである。
 何気に、正装姿のセリカを見るのは初めてだな。
 普段か凛々しい女戦士、といった感じなら、今は仕事が出来るキャリアウーマン風といったところか。
 ただ、髪型はいつもと同じく、後頭部で大きなお団子を作っているアレだった。

「ああ、あの子・・・がらみのことで、結構な大事が起きたんだが、何処かで落ち着いて話がしたいと思ってな」

 手紙には、何処で詳細が洩れるか分からない、というジュリエットの配慮から詳しくは何も書かれていなかった。
 が、セリカにはそれだけで十分通じたらしく、急にキリリと表情を引き締める。

「そうか、分かった。着いて来い」

 ここで話せる内容ではない、ということを瞬時に理解し、何処か落ち着いて話せる場所に行くことに。
 俺もセリカに着いて城内へと入って行く。
 で、少しして……

「それにしても、わざわざジュリエット殿に面会状を書いてもらってまで私を呼び出さなくても、お前ならこれ・・を使えばよかったのではないのか?」

 道すがら、セリカがそんなことを言いながら、自分の右手の人差し指に嵌められた指輪を俺へと見せた。
 それは、『アンリミ』において遠方にいるプレーヤーとボイスチャットをする為のアイテム、共振リングだった。

「……あっ」

 そういえば、バハルの一件の時セリカに貸して……そのまま未回収だったな……
 と、そんなことを今更思い出す。
 ほら? あの時って明け方のことで、そのあと俺は泥の様に寝こけていたので今の今まですっかり忘れていたのだ。
 だから、これは仕方がないことなのだ、と自己正当化。

「まさか……自分で渡しておいて忘れていたのか?」

 そんな俺に、呆れた様なセリカの眼差しが俺に突き刺さる。

「忘れていた……というかなんていいますか……
 ほら? ねぇ? あの時って色々あって忙しかったし……
 そりに、実はそもそもその共振リングは渡すつもりは無かっわけで……数も少ないアイテムだし、あの一軒が片付いた時に回収したつもりでいたんだが……」
「つまり、忘れていたということだろ?」
「あ、はい……」

 セリカさんの突き刺さるような視線に、素直に非を認める俺氏なのだった……
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