最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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一六七話

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 コンコン

 推薦の条件について話が落ち着いた頃。
 タイミングを計ったように、ドアの扉をノックする音が室内に響いた。

「入りなさい」
「失礼します。お茶をお持ちしました」

 と、女性職員が二つのカップが乗ったお盆を手に部屋と入ると、俺とセレスの前にお茶を置きすぐに部屋を出て行った。
 「どうぞ」とセレスに勧められたので、「では」と一服。

「ふぅ~、それにしても、まさか出した条件を全部丸呑みするとは思わなかったわ。
 こらちから言っておいてなんだけど、本当にあれでよかったのかしら?
 交渉されるだろうと思って、初めからかなり盛っていたのだけど……
 まさかそのまま通るとは思っていなかったから、そっちの方が驚きね」

 カチャリと、目の前に置かれたカップを手に取りながら、セレスがそんなことを言う。

「まぁ、さっきも言ったが、俺は調査そのものが目的だからな。推薦がもらえるなら、他に関しては正直そっちの好きにしてくれって感じだよ」
「そうかもだけど…今更だけど、何なら条件を緩和しましょうか?
 正直、足元を見て脅している様で、なんだか落ち着かないのよね……」
「別に気にしなくていいさ。こっちは別にカネに困っているわけでもなし。
 上手く行ったら、研究費の足しにでもしてくれ。とはいえ、まだ金級になれると決まったわけでもないけどな」
「それはそうでけど……お金を持っている人は、言うことも大きいわね。
 でも、そう言ってくれるなら甘えさせてもらおうかしら?」

 そういう俺に、感心しているのかそれとも呆れているのか、なんとも言えない表情をセレスが浮かべていた。

「もうホントに資金難で資金難で大変なのよね……」

 しみじみとそう語りながら、セレスはカラになったカップをソーサーへと戻す。
 少し気になり、懐事情の話しを聞いたら軍備の増強だの都市開発だ治安維持だと、中々学問の分野に予算が回って来ないらしい。
 というか、むしろ削減傾向で特に調査だ発掘だと、何かとカネの掛かる神秘学研究会は、カネの管理をしている財務庁からは当然として、同じ学術庁の他の学部からもかなり煙たがられているのだとか。

 先代は自分自身で調査をしていたから、人件費的なものもなく、また遺跡内部の地図の更新や採取した魔石、出土した遺物を国に治めることで収支がトントンだったらしいが、今は収入が丸々なくなってしまったので、国から出る予算だけが頼りの状態になってしまっているとのことだった。

「まったく! お偉方や他の学部の連中は神秘学の重要性を分かってないのよ!
 古代遺物の収集がはかどれば、魔術学部の古代魔導技術の研究だって進むでしょうし、もし仮に現在謎とされている魔石製造の方法が発見出来れば、財務庁だって収入が劇的に増えるってことくらい分かるでしょ。
 なのに、何あいつらうちの予算申請に思いっきり反対してんのよ……」
 
 溜まっていたものでもあったのか、話を聞いて行くうちにセレスもヒートアップして行き、終いにはそう愚痴っていた。
 今すぐ成果が現れないものに対しての扱いなんて、何処でも同じもんなんだなぁと思った瞬間だった。

「で、これでセレスからの推薦を確約出来たってことで、あとは二人か……」

 世間話に区切りも着いたところで、俺も飲み干したお茶をソーサーに戻しつつそう口にした。
 セレスは簡単に推薦してくれたが、残りはどうすっかな……

「いえ、多分あと一人で大丈夫よ?」

 なんて考えていたら、セレスが思いもよらないことを言い出した。

「あれ? 必要な推薦は三人じゃなかったか?」
「勿論三人よ。ブルックランズ様の手紙に、「もしスグミが金級証を目指すなら、推薦する」という旨が書かれていたのだけれど……聞いていないのかしら?」
「初耳だな」

 ということは、だ。
 ブルックの奴、俺が遺跡に潜ることになるだろうことを知っていたってことか?
 だったら事前に説明してくれればいいものを……とも思ったが、結局は向こうで聞くかこっちで聞くかの違いでしかないのか。
 というか、ブルックはブルックで忙しそうにしていたから、そんな暇がなかったという方が正解かもな。

「となると、あと一人か。
 セレスは誰か、簡単に推薦してくれそうな人に心当たりとかないか?」
「あるわけないでしょ? そもそも、金級に推薦しようなんて人そのものが少ないのよ。
 推薦するにしても、推薦した側にも大きなリスクがあるって知ってるかしら?」
「ああ、なんか似た様な話しは聞いたな。推薦した奴が悪さをすると、推薦した側も同じ罰を受けるってアレか?」
「そうソレ。私はブルックランズ様からの手紙と、神秘学研究会の利益を取って推薦するけど、他は中々そうはいかないでしょうからね」

 もう少し詳しく聞くと、セレスはブルックからの推薦があったから、条件付きとはいえ初対面の俺を推薦することを決めたらしい。
 ブルックの手紙がなければ、俺がどんな条件を飲んだとしても推薦なんてしなかったどころか、会ってすらいなかっただろうとはセレスの言葉だ。
 マジでブルック様様だな……
 今度アグリスタに行くようなことがあった、何かいい物を持って行ってやろう。
 覚えていれば、だけど……

「結局、何処かの自由騎士組合で地道に仕事をこなして、ギルドマスターから推薦をもらうのが一番の近道じゃないかしら?」
「急がば回れ、か。……なら、そうするかな。
 ちなみに、何処が推薦を受けやすいとかは……」
「私が知るわけないでしょ? ただ、そうね……
 王都は当然、他の街に比べて依頼量が多いこと、それに他の街なんかから、自分達では対処出来ない案件なんかも転がり込んで来るみたいだから、依頼が無くて困る、なんてことにはならないでしょうね」
「なるほど……」

 となると、暫くは王都に確り腰を落ち着けて、自由騎士としての依頼を受けていく、ってのがいいかもしれないな。
 そういえば、王都の自由騎士組合のギルマスがブルックの知り合いとかで、もし王都で仕事を受けるなら、割のいい仕事を受けやすいようにと簡単な紹介状を書いてもらってたんだった。
 なんでも、割のいい仕事とは総じて難易度の高い仕事が多く、信用の置ける自由騎士にしか斡旋されないのだとか。
 そのため、喩え銀級の自由騎士であったとしても、その街での実績が無い場合は大きな仕事は受けられないことがあるのだと、ブルックは話していた。

 ここまで用意がいいとなると、ブルックは初めからこうなることが分かっていたんだろうな。
 まぁ、俺に取っては好都合だからいいけどさ。

「さて、それじゃあ次は自由騎士組合だな。推薦をもらえるようにするには何をすればいいのか聞いてくるとするか。
 ああ、今日は世話になったな」

 よっこらせっ、とソファーから立ち上がり、俺はセレスに向かってそう口にする。
 そして、それじゃと別れを告げようとした時、
 
「スグミ殿」

 と、急にセレスが改まった様子で俺を呼び止めた。

「スグミ殿……今日はありがとうございました」

 セレスは真剣な顔でソファーから立ち上がると、そう言って突然俺に一礼する。

「? 推薦の条件関係に関しては、そこまで礼を言われることじゃないから気にしなくても……」
「いいえ、その件ではないわ」

 なら何なんだ? と目で問いかけると、セレスは何か言い難そうにしつつ身をよじる。
 だが、何かを決意したのか、キリリとした表情で口を開いた。

「私が子ども・・・だからと侮ったり馬鹿にしたりせず、真正面からちゃんと話を聞いてくれた人は、おじい……祖父を除いては貴方が初めてだったわ。
 今のはそれに対するお礼です」
「……は? 今、なんと?」

 聞き間違いだろうか? 何か変な単語が混じっていたような……

「だから、私の話しを真面目に聞いてくれた人は……」
「いや、その前だ」
「? 私を侮ったり馬鹿にしたり……」
「その前っ!」
「……私が子どもだからって」
「それっ!!」
「ひゃっ!! ちょっ、急に大きな声を出さないでよ……驚いたじゃない」

 なん……だと……

「セレス……お前、子どもなのか?」
「……見れば分かるでしょ?」

 いや、まぁ、確かに、それはそうなんだが……

「ドワーフとか、ハーフリング的な最初から小柄な種族の成人女性とかでは……」
「ないわね。確かにそういう種族の方もいるけど、私は何処からどう見ても人間じゃない」
「まぁな……」
「もしかして、勘違いしていたとか?」

 やや……ではないどころに呆れた視線を俺に向けるセレス。
 いや……だって……ねぇ?
 流れは完全にそっち方面だっただろ? 
 くっ! まさか、子どもみたいな成人女性ではなく、ここで流れを読まずにモノホンの子ども店長ならぬ、子ども学部長が出て来るとは……深読みが仇となったか。
 まさかまさかのこの展開……
 よもや、こんなところに孔明の罠が仕掛けられていたとはなっ!
 おのれ、孔明ぇ……

「ただの勘違いだったなんて……お礼を言って損した気分ね」
「まぁ、言うて今更セレスが子どもだからって、別に侮ったり馬鹿にしたりはしないけどな。
 話をしたから分かるけど、お情けやお飾りで学部長やってるわけでもないんだろ?」

 子どもとはいえ、受け答えは下手な大人より確りしているし、知識が豊富なのも間違いない感じだしな。
 祖父が前任の学部長だからと、セレスがコネやら権力で学部長の椅子に座っているようにも思えなかった。

「当たり前でしょ? 実力で選ばれたのよ。私、天才だから」

 と、セレスが誇らしげに胸を張る。

「ならただの天才美少女学部長ってだけのことだろ?」
「びしょっ!!」
「俺が居た所でも、そういうのはたまにあったことだからな。珍しくはあるが、称えることはあっても馬鹿にするようなことじゃないさ」

 海外なんかでは飛び級制度があるため、年齢一桁で大学に入学して、十代で卒業とかたまに聞く話だ。

「ん? どうした?」

 ふと気づくと、何故かセレスがそっぽを向いていた。

「……別に。どうもしないわよ」
「……そうか? ちなみに何歳なんだ?」
「今年で一三になるわ」
「一三っ! 俺の半分以下かよ……」

 しかも今年でということは、今は一二ということか?
 まぁ、どちらにしても日本じゃ中学生くらいか……それで学部長とは大したもんだ。

「半分? 貴方こそ一体いくつなのよ?」
「今年で二七になった」
「二七っ!? とてもそうは見えないんだけど……十代の後半くらいだと思っていたわ」
「よく言われる」

 というか、異世界こっちに来てからよく言われるようになった、が正確だけどな。

「実はエルフの血が混じっているとか?」
「混ざりものなしの、純粋な人間だよ……」

 こうして、帰り際に互いに驚きの事実を知ることにはなったが、最後にセレスから「健闘を祈っているわ。神秘学研究会の為にもね」と激励の言葉を頂き、俺は神秘学研究会の研究棟を後にするのだった。
 さて、んじゃ次は自由騎士組合に向かいますかね。

 
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