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一三三話

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 まずは、赤鎧からある程度離れて、安全を確保した上で【全能領域ゾーンシフト】を解除する。
 これからすることを考えると、こいつの効果は邪魔だからな。だだし、赤鎧からの攻撃もあるかもしれないので、ラプラスの瞳は確り起動させておく。

 で、次に馬上大剣を黒騎士の肩に担ぐように立て掛け、黒騎士の背部に格納されているサブアームを使い、柄の部分に仕込まれた秘密レバーを操作する。

 と、担いでいた大剣が、まるで魚の開きの様に二つに割れた。担いでいるのに様子が分かるのは、黒騎士の頭部に付いている補助眼のお陰だ。
 割れた、といっても完全に二つに分離したわけではなく、刃の間に数センチの隙間が出来た程度である。
 ちなみに、こうした左右、もしくは上下に分割されたパーツを張り合わせ、内部を中空にすることを、モナカ構造と呼ぶ。プラモデルなどでよく使われる方法だ。

 俺は開かれた大剣を構え直し、そこへMPを流し込む。
 すると、開かれた大剣の隙間から、長さ20センチメートル程の赤黒いビーム状の突起が無数に飛び出し、まるでサメの歯の様な、見るからに厳つい形状へと変化した。
 突起は片側一四本、プラス先端に二本の計三〇本。
 この突起の一つ一つが、実はオーラエッジという武器なのだ。
 オーラエッジは、その性能だけを見れば、以前セリカにあげたレイブレードの上位ランクともいえる武器だ。
 実態を持たない魔力刃を形成し、物理防御だろうが魔術防御だろうが、すべてを無視して切り裂く【完全防御無視】というかなり物騒な効果を持っている。
 ぶちゃけ、オーラエッジの前では、俺の謹製アマリルコン合金とて、紙と違いはないほどだ。

 とはいえ、見ての通りリーチはナイフ程度しかないこと、また消費MPが結構エグイことなど、効果の割に使い勝手の悪い武器として『アンリミ』では知られていた。
 奇襲や不意打ちならある程度の効果も見込めるが、流石に正面切っての戦闘となるとリーチが短すぎる。
 いくら防御無視の特性から、相手の武器破壊を狙えるとはいえ、その効果を攻撃面で十分に発揮するにはどうしても相手の懐深くに入る必要があった。
 それでは、リスクの方が高い。

 特に、大型モンスターを相手にした場合は絶望的で、刃が短すぎるが故にどんなに硬い外皮や甲殻を切り裂けても、肝心の肉や骨に届かずまともなダメージに繋がらない、というよなことがままあった。
 側は斬れても、内部が無傷では意味がない。
 
 そんな能力だ。いくら高性能とはいえ、有用性という意味ではオーラエッジなど高が知れていた。しかし、だ。
 例えば、一本一本のリーチは短くとも、それらを長い棒にくっ付けて、しかもずらっと一列に沢山並べて振れば、さてどうだろうか?
 如何に分厚い甲殻だろうが、硬い鎧だうが、問答無用でごっそり削って断ち切りる……それはいってしまえば、何でも削り斬る巨大ノコギリだ。

 それも、振るのがこの黒騎士もとなれば、最早、断てぬ物なしだ。
 という、頭の悪い発想の元、オーラエッジを改造し、巨大武器の中に大量に組み込んだのがこの大剣なのである。
 その見た目から、俺は銘を“竜牙大剣ドラゴンファング”と付けている。
 何処かの宇宙海賊が、こんな感じの兵器を振り回していたとか、そんなことは言ってはいけない。

 ただし、ただでさえMP消費が激しいオーラエッジを、合計三〇本も同時起動しているので、おそらく普通のプレーヤーにはこんな無茶な利用方法は不可能だろう。
 他の全てを度返しして、MPのみに極振りしている俺だからこそ出来る、完全な力技である。
 それも、すこぶる頭の悪い、な。

 ちなみに、知人にこれを見せたら「斬る時は片面しか使わないんだから、半分消して省エネすれば?」何て、至極真っ当なことを言われた。
 だが、あいつは分かってないのだっ!
 こうトゲトゲしているのがカッコイイんじゃないかっ! これは美学の問題なんだよ! ロマンなんだよ!
 と、激しく反論しつつ、後日、半分だけ起動出来るようにこっそり改造したのは秘密の話しである。

 正直、これでもう十分に赤鎧を狩れるのだが、ここで終わってしまっては芸がない。
 なのでもう、ひと手間掛けることにする。

「“その牙に穿てぬものなく、そのあぎとに噛み砕けぬ物は無し。絶対なる捕食者の前では逃げることすらあたわず、抗うことの無意味さを知れ。さぁ、喰い荒らせっ! 竜牙大剣ドラゴンファング!!”」

 潜在開放。
 以前、黒騎士に使ったスキルだが、本来はこうして武器に使用するのがこのスキルの一般的な使い方だ。
 竜牙大剣ドラゴンファングの起動句を唱えたことで、内蔵されているオーラエッジの性能もまた三倍に向上し、飛び出していたビーム状の刃が一回り程長く太く、そして分厚くなった。
 そのことで、先ほどまではトゲトゲとした外観だったが、一つ一つが大型化したことで隣同士がくっつき、今は大剣の外周をビーム状の何かが覆い尽くしているような姿へと変わっていた。

 さっきの世紀末感漂うトゲトゲも好きだが、巨大なビーム状の刃が付いた大型武器とうのも、俺は好きなのだ。ロマンがあってそそられるよねっ!

 ちなみに、【全能領域ゾーンシフト】を解除したのは【潜在開放】の起動句を唱える為だ。
 【全能領域ゾーンシフト】がオンのままだと、自分自身でも何を言っているのかよく分からなくなるからな。

 ああ、それにしても気兼ねなく起動句が唱えられるって素晴らしいっ!
 現状の俺は黒騎士の内部なので、人目というものを気にしなくていいのだ。
 これが本当に楽なのだ……前回は、結構な人目もあって、とんでもない羞恥プレイをさせられたからな。
 軽くトラウマになるレベルだ。
 さて、んじゃサクっと赤鎧を借りましょうか!

 一応、赤鎧から何か攻撃があるかもと警戒だけはしていたのだが、あっちはあっちで俺を警戒していた様で、特に何もしてこなかったんだよな。
 まぁ、有難いのでいいんだけど。
 俺は、ここでもう一度【全能領域ゾーンシフト】発動し、一人、時間が緩やかになった世界へと足を踏み入れる。
 そして、最大加速で赤鎧へと接近する。

 それを察して、赤鎧がまた舌を射出する攻撃をしてくるが、それを難なく回避。
 単調な攻撃など、一度見れば簡単に見切れるものだ。
 空かさず、引き戻される前に、竜牙大剣ドラゴンファングを振るいその太い舌を叩き斬ってやった。
 筋肉の塊であるはずのその舌が、竜牙大剣ドラゴンファングのオーラエフェクトに触れるや、何の抵抗もなくスルリと両断され、伸ばした時の勢いが残っていたのか、赤鎧の舌があらぬ方向へと飛んで行った。

「ピギャャャャーーーーー!!」

 舌を斬り飛ばされた痛みに、たまらず仰け反る赤鎧だったが、苦し紛れか尻尾でそこら中を殴打し始めた。
 が、狙いが定まっていないのは見え見えだった。ただ立っているだけでも、当たりそうな攻撃など一〇に一つが精々といったところだ。
 だが、そのまま地面をベシベシされるのも邪魔なので、近場に落ちて来た一撃に合わせて、その尻尾も斬り飛ばす。

 尻尾の半ばから先が宙を舞い、鮮血が周囲に飛び散って行く。

「ピギャャャャ! ピギャャャャーーーーー!!」

 再度上がる赤鎧の絶叫が、間延びした世界で木霊する。
 さぁ、これでお終いだ……
 俺は黒騎士を一度高く飛び上がらせると、そのまま重力が任せるままに降下し、赤鎧の首めがけて竜牙大剣ドラゴンファングを振り下ろす。
 
「ピギャ…………」

 何の手応えも感じないまま、黒騎士が着地。
 その手に握られていた竜牙大剣ドラゴンファングは、その刀身の半ばまでを地面へと埋めていた。

 外見上はなんの変化も見られないが、間違いなく竜牙大剣ドラゴンファングき赤鎧の首を振り抜いた。
 長居をしては、傷口から吹き出す血の噴水をモロに浴びてしまうことになるので、直ぐにその場から撤退。

 すると、少し遅れて緩やかな動きで赤鎧の首がズルリと体から滑るようにして大地へと落ちて、転がった。
 途端、切り口から膨大な量の血が壊れた消火栓の様な勢いで噴き出したのだった。
 はっはっはっ! 竜牙大剣ドラゴンファングの前では、曲面装甲がなんぼのもんじゃい! である。

 一足先に退避していた俺は、少し離れた所で竜牙大剣ドラゴンファングを片手でクルリと回し、更に一振りしてからポーズをキメる。
 別に意味はないが、カッコイイよね。カッコよくない?

 一応、【身体解析フィジカルアナライズ】を使い間違いなく仕留めたことを確認したところで、俺はすべてのスキルをカットしたのだった。
 
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