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一二九話
しおりを挟むで、いざ村の外に出ようとしたのだが、跳ね橋は緊急事態ということで既に上げられてしまった後だった。
門番からは、安全が確認出来るまで外には出せない、と言われたのだが、緊急事態の原因である赤鎧をシバキ倒しに行く、と言ったら、快く橋を降ろして通してくれた。
俺一人では通してもらえなかったかもしれないが、イオスが一緒だったことですんなりと話が進んだ。
そして、俺とイオスが通過すると橋は再度上げられ、俺達が戻ったらまた下げてくれるるらしい。
というわけで、俺達は森の奥へと目指して歩き始めたのだが……
「ん? どうしたスグミ?」
村を出てすぐ、少しばかり開けた場所に出たところで、不意に足を止めた俺に、イオスもまた足を止めてそう問い掛けて来た。
「いや、狩りに行くにしても、まずは赤鎧の正確な位置を把握しておこうと思ってな」
腕が千切れかけていた……というか実質千切れていた男、バラド達が遭遇したという赤鎧の位置に関しては、イオスが大まかな話しを聞いているらしいが、獲物が何時までも同じ場所にいるとも限らないからな。
現場に着いて、いなかったから探し直す、では二度手間だ。それに、赤鎧は地面に潜るという生態をしているらしいので、事前に正確な位置を把握しておく、というは重要だ。
下手に近づいて、バラドの二の舞にはなりたくない。
「把握する……とは言っても、どうやっ……なるほど。お前のことだから、何か手があるということか?」
イオスも慣れてきた様で、最初は不審がっていた表情が、勝手に自己完結して納得していた。
「まぁな。こういう時に頼もしい子がいるんだよ」
と、俺は得意げに答えると、その頼りになる子を亜空間倉庫から取り出した。
「パパパラ パッパパー♪ パラボラバ~ド~!」
それは、手の平に乗る程小さな鳥型をした人形だった。実際、今パラボラバードは俺の手の平の上である。
「ばら? ぱっぱ? ぼら?」
「あっ、いえ……なんでもいなです、はい」
口による効果音の再現付きで、未来型タヌキのモノマネをしたがダダ滑りである……
この手のギャグは、異世界ではまったく通じないということを学習しない俺氏であった。
「コホン、こいつはパラボラバードっていう索敵に特化した人形だ」
で、何事もなかったかのように強引に話しを進める。そう、都合の悪いことは全部、なかったことにするに限るね!
「鳥? ということは、空から探すということか?」
「いや。こいつ、鳥の形はしてるけど飛べないから」
と、答えるとイオスが凄く微妙な顔をしていた。
その表情を言葉に変えるなら「ならなんで鳥の形なんだよ?」といったところか。
んなもん、気分に決まっているだろうがっ! 創作とはインスピレーションなんだよっ!
「なら、そいつでどうやって赤鎧を探すと?」
「まぁ、細かいことは省いて簡単に説明すると、こいつは特殊な魔力波を打ち出して、その反射から特定の獲物を探すことが出来る人形なんだよ」
もっと簡単にいえば、魔力版のアクティブソナーの様なものなのだが、イオスにソナーとか言っても、多分通じないからざっくりと説明する。
また、この魔力波探索法の最大の利点は、音波や電波による探索と違い、障害物の影響を殆ど受けない、というところにあった。
この魔力波は、殆どの物体は透過するからな。
なので、こうして木々が生い茂る森の中でも、十分な索敵が可能だということだ。
「それで赤鎧の位置が分かると?」
「上手く行けばな」
「と言うと?」
「ただこいつは、大物狙い様に感度をかなり落としてあるんだ。赤鎧が俺が思っている以上に小さいと索敵に引っかからないかもしれない、ってことだよ」
パラボラバードの感知能力は、大型の上位フィールドボスクラス以上が引っ掛かるように設定されている。
“強さ”ではなく、あくまで“大きさ”基準で索敵しているで感知サイズ以下だと、スルーしてしまうのだ。
要は、小魚の群れが映らない魚群探知機の様な物だ。狙うは大物のみ、ってな。
多分、10メートルクラスなら引っ掛かると思うが、こればっかりは試してみないと分からん。
勿論、感度を上げれば小物も索敵出来るようになるが、その場合は反応が過多になり過ぎ、標的の発見が逆に遅れてしまうことになる。
初めから狙いが決まっているなら、ピンポイントで索敵してしまった方が楽なのだ。
それそこ、パラボラバードを作った目的が、ポップ位置がランダムなフィールドボスやエリアボスを、誰よりも早く発見し狩る為だからな。
特に良いアイテムをドロップするボスなんて、バーゲンセールの目玉商品並みの勢いで狩られるので、競争率が激ヤバなんだよ。
「まぁ、御託はこの程度にして、実際にやってみよう。これでダメなら、足とイオスの勘頼りで探すことになるな」
ちなみに。イオス自身は昔、父と狩りに出ている時に、一度だけ偶然にも赤鎧を見たことがあるのだという。
故に、お目付け役兼案内人に選ばれたのだろう。
「その時は任せてくれ。一応だが、聞いた話ではあちらの方角にいるらしい」
ということで、イオスから大体の方角を聞いて、そちらにパラボラバードを向けて、レッツ起動っ!
まずはパラボラバードの口をパカっと開き、畳んでいた羽を名前通りパラボラアンテナの様に広げる。
その姿は、コウロコフウチョウのその姿そのものだった。
名前を聞いてもぱっとこない人でも、翼を扇状に広げた独特な求愛ダンスで有名な鳥、と聞いたら“ああ、あいつね”と思うアレだ。
というか、あれを見て「こいつパラボラアンテナに似てね?」というところから、このパラボラバードは生まれたのである。
で、口から魔力波を照射!
とはいえ、別に何か奇妙な光線が出るでもなければ、みょんみょんという変な音が出るわけでもない。
一見しただけでは、口を開けて変なポーズをとっている鳥の人形だ。
だが、これで確りと索敵はされている。
現に……
「反応があったな」
パラボラバードを起動して数秒。そこそこ大きな反応が返って来た。
反射までの時間から距離を割り出し、マップと連動させてマーキングする。
これで、パラボラバードを起動している限り、赤鎧の位置はリアルタイムで分かるようになったな。
「見つけたのか?」
「ああ、ただなぁ……」
「ただ? どうした?」
「いやね? さっきも言ったが、こいつは特殊な魔力波を打ち出して、対象にぶつかった時の反射で相手の位置を特定してるんだが……
どうやら奴さん、俺が打ち出した魔力波を感知したみたいでな。興味でも持ったのか、なんかこっちに向かって移動を始めてんだよ。
いやぁ~、まさかこんな反応に出るとは、想定外想定外」
索敵が成功して直ぐに、マーカーがじわりじわりと、こっちに向かって移動を開始していた。
『アンリミ』ではこんな反応をするモンスターはいなかったので、本当に想定外の出来事だった。
「なっ!? 赤鎧が村に近づいているいうのかっ!」
そんな俺の言葉に、血相を変えて慌てふためくイオスを取り敢えず落ち着かせる。
「まぁまぁ、慌てない慌てない。
話に聞いた通り、赤鎧の移動速度は凄く遅い。だから、直ぐにここに来るなんてことはない。
つまり、奴が村に着く前に退治してしまえば問題ない、ということだ」
赤鎧と村との距離は、おおよそ2キロメートルといったところか。
移動速度からみて、放っておいてもここに着くまでには一、二時間くらいはかかる速度だ。
ホント、おっそいな。こいつ。いや? 森という不整地でこの速度なら早い方なのか?
平地での人の平均歩行速度が時速4キロメートルといわれているので、その半分の速度で森の中を移動出来ていると考えれば、やっぱり速いのかもしれない。
まぁ、何にしても、だ。一時間程度の時間的余裕があることに変わりはない。
「何を呑気な事を……」
しかし、イオスの言う様に、何時までも呑気に構えているわけにもいかないので、ここら本格的な討伐準備に取り掛かることにした。
「んじゃ、こっちも準備開始と行きますか」
まずは何時も通り黒騎士をドンっ!
だが、黒騎士だけでは流石に心もとないので、次に、隣にドーカイテーオーを更にドンっ!
さて、ここからが本番だ。
「イオス、危ないからかなり離れてくれ」
「あ、ああ、分かった……」
これから何が起きるかなど、分かっていないだろうが、イオスは俺が言ったとおり黒騎士とドーカイテーオーからかなりの距離を取る。
「んじゃ、いっちょやりますかっ!」
と自分自身に気合を入れる。
ここからの操作は結構シビアだからな。適当にやると、今でもたまに失敗するので気を引き締める。
まず、黒騎士を高くジャンプっ! この時、無駄に空中で一回転させたりヒネリを加えたりすると芸術点が高くカッイイ!
で、その間に黒騎士の足を正座をさせるように折りたたむ。
と、同時に、ドーカイテーオーの首を、根元からポキリと背後に倒し、開いたスペースに黒騎士の足が納まるように着地!
ここ、重要ポイントです!!
この時、少しでも接触ポイントがずれると、互いに衝撃で弾かれて倒れてしまうので、大胆かつ繊細な操作が求められるのだ。
安定して成功出来るようになるまで、たくさんれんしゅうしました。
ちなみに、イオスを下がらせたのも、この時、もし失敗でもして、黒騎士ないしはドーカイテーオーの下敷きにでもなったら大変だからだ。
黒騎士で約1トン、ドーカイテーオーで約2トンだ。どっちに潰されても、助かる望みは薄いだろう。
黒騎士とドーカイテーオーがドッキングしたところで、内蔵されているジョイント機構で両機体を連結。
次いで、倒していた首の頭部分を、黒騎士の背後にマウントされているサブアームで掴み引っこ抜く。
で、残った首部分は、縦に二等分にして前方へと回す。
こうすることで、剣道の防具でいうところの腰を守る防具“垂”のような役割を果たすと共に、黒騎士とドーカイテーオーの剥き出しになっていてみっともない連結部分を隠す役目を担っている。
見た目、重要、これゼッタイ。
余談だが、ドーカイテーオーの首は自由度を高くする為、複数の金属片を繋ぎ合わせた蛇腹構造になっている。
最後に、ドーカイテーオーの残っている頭部を、多少の変形を加えつつ、サブアームで黒騎士の頭部へとガッコンと嵌めれば……
はいっ! 黒騎士&ドーカイテーオーによる二体合体・黒騎士ケンタウロスフォームの完成であるっ!!
おひゅー! かっくいいっ!!
変形・合体ロボットは男のロマンだよねっ!
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