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一一四話

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「んじゃ、撤収作業を始めっか」

 ヨームはそう言うと、引き揚げを伝える為に、作業中の人達の下と戻って行った。

「さて、じゃあこっちはこっちで準備しますかね」

 と、俺もその場を発つ。
 正直、魔鉱炉に関してはガチ放置以外に俺が出来ることはない。あとは、ただただ銀塊が出来上がるのを待つだけだ。
 その間、じっとしていても仕方がないので、俺はちょっとしたことをしようと考えていた。
 っと、その前に。

「あれ? どうしたんですかスグミさん?」

 俺は、近くで魔鉱炉に石を詰める作業をしていたソアラ達に、作業の終了を伝えるために近づくと、こちらが声を掛けるより先にソアラから声を掛けられた。

「作業の終了を知らせに来たんだよ。もう十分な素材が手に入ったらな」

 そうですか、とソアラは短く答えると、ふぅーと深呼吸をしながら額の汗を腕でぬぐう。
 汗を吸って変色したシャツに、黒ずんだ手。
 ソアラって、なんだかんだ言いながらも、こうして一生懸命に頑張ってくれる子なんだよな。
 俺は、そんなソアラにインベントリからスタミナ回復ポーションを一本取り出すと、そのまま差し出した。

「ほらよっ」
「あっ、ありがとうございます。んぐんぐんぐっ……ぷはぁ~。それじゃあ、もう帰るんですか?」

 ソアラがポーションを一気飲みすると、カラになった瓶を差し出しながらそんなことを聞いて来た。
 言わずとも返す辺り、この子も慣れて来たてるなぁ。
 てか、飲み方おっさんか……

「まぁ、そうなんだが、でもその前に……」
「あっー! 今、お姉ちゃんだけ何か飲んでたっ! ずるいっ!」

 ちょうど、ソアラから瓶を受け取ったところで、アイラちゃんから猛抗議が飛んで来た。
 この子もこの子で、何かと目敏いんだよな。

「はいはい。ちゃんとアイラちゃんにもあげるから。はい」
「えへへへっ、ありがとう。スグミお兄さん!
 んぐっ……っ! 何これ!? おいしいっ! んぐっんぐっ……ぷはっ!」

 で、姉同様、一気に飲み干すアイラちゃん。お気に召したようで何よりだ。そして、瓶は余さず回収。

「それでスグミさん。その前に、何ですか?」

 そんな妹を尻目に、ソアラがアイラちゃんの乱入で中断してしまっていた話の先を促す。

「ああ、時間も時間だし、今から戻って昼飯ってのもあれだろ? だから、ここで済ませようかと思ってな」
「お昼ご飯ですか? ああ、もうそんな時間なんですね……」

 気付いていなかったのか、ソアラは空を見上げ太陽の位置を確認する。

「でも、食材なんて何も持って来てないですよね?」
「ふっふっふっふっふー。俺が色々と持ってのを忘れたのか? 当然、食材くらいある」
「……ホント、そういうところだけは凄いですよね。スグミさんって」
「なんか引っ掛かる言い方だな? 素直に“凄い”と褒められんのか?」
「スグミさんが調子に乗ると碌なことをしないので、これくらいでいいんです。
 で? それを私に話すということは、私に何かして欲しいことがある、ということですか?」
「察しがよろしいようで何よりだ。
 まぁ、折角だから、ここにいる人達の分も昼飯を用意しようと思ってさ。
 ソアラとアイラちゃんには、その手伝いをして欲しいなと思ってな。
 ほら? 自分達の分だけ、ってのも角が立つだろ?」
「それは分かりますけど……でも、お昼を用意するって言っても、この人数ですよ?
 私とアイラが手伝っても、結構な時間が掛かってしまうと思うんですけど……」
「そこは簡単に、バーベキューでもしようかと思ってる」
「ばーべぎゅー? ってなんですか?」

 俺がそう答えると、ソアラはコテンと小首を傾げ、不思議そうな顔をして聞き返してきた。
 なに? その新しい牛の品種みたいなの? てか、バーベキューをご存じない?

「肉や野菜を串に刺して焼くだけの、簡単な野外料理だよ。あと、バーベキューな。バーベキュー」
「つまり、串焼きですか?」
「一言で言っちまえばな。まぁ、串に刺さずそのまま焼くだけの場合もあるから一概に言えないが、されはさておいて。
 二人にはそれを作るのを手伝って欲しいんだよ」
「うん! お手伝いするよ!」

 と、いの一番に返事をしたのはアイラちゃんだった。この子は本当に素直でええ子やなぁ。

「分かりました。そういうことならお手伝いします」

 ということで、俺は魔鉱炉の中で出来上がっていた銀塊をいくつか回収し隣の石の詰まったチェストボックスに放り込むと、それを亜空間倉庫に収納。
 これはあとで使うからな。
 で、ソアラ達と少し離れた場所にある小川へと向かった。

 はい、到着。移動時間約五分である。
 この小川は、マンドラゴラ畑に引かれている用水路の本流から別れた支流の一本らしい。
 ここで下準備をする。綺麗な水があると、何かと便利だからな。
 まずは、先ほど使っていた石が詰まったチェストボックスを取り出し、そこから大量の未加工の石ころをぶちまける。
 で、それを結合バンド形状変化シャープ・チェンジを使い、ちょちょいと加工し、適当な調理台を作る。
 ついでに、アイラちゃん用の踏み台も一緒に作って置く。

「うわぁっ! なんか石がぐにゃぐにゃってなったぁ! すごぉーい!」

 で、その様子を見てはしゃぐアイラちゃん。ソアラはなんだかんだで色々見て来たのでノーリアクションである。
 次に、一応、天板を水で綺麗に洗い、その上に別のチェストボックスから取り出した厚切りステーキ肉を、べちべちと数十枚積み上げる。

 ちなみに、『アンリミ』で哺乳類系の過食可能なモンスターを倒すと、ほぼこの型の肉をドロップするのだ。
 また、鳥系だとクリスマスのターキーみたいな、所謂、丸鶏の形でドロップされる。
 これ以外の肉、例えば内臓や、ハラミやテール、スネといった各種部位の肉を手に入れるには、生産職系技能の【解体人】というスキルが必要になった。
 生憎と、俺は生産系はからっきしなので、俺が所持している肉は大体がこれである。

「それじゃあ、それを一口大に切り分けて貰えるか? はい、ナイフ。良く切れるから気をつけてな」

 俺が、調理台を用意している間に川で身綺麗にしていた、ソアラとアイラちゃんの二人にナイフを手渡す。
 ソアラはいいとして、アイラちゃんにナイフを渡すのはどうかと思ったが、まぁ、最悪怪我をしてもポーションもあるし、大丈夫だろう。

「普段から刃物は扱い慣れてますから、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
「まっかせなさぁ~い!」

 と言うので、二人に任せることにすると、すぐさま二人してバスバスと肉を切り刻んで行った。

「うわっ! なにこのナイフ!? めっちゃ良く切れるんだけどっ!?」
「お姉ちゃんっ! お肉がトゥーフみたいに簡単に切れるよっ! ヤバイよ、これっ
!」

 で、その切れ味に二人して驚いていた。とはいえ、ソアラ達に渡したのは普通の鉄製のナイフだ。
 ただ、その昔、鍛冶スキルのレベル上げ様に大量生産し、更に失敗して消滅するのを覚悟で、斬撃特性を限界まで強化し成功したナイフではある。
 そのため、通常のナイフよりは遥かに切れ味は鋭くなっていた。
 こいつなら、同じ鉄製のナイフを両断出来るんだぜ? 凄いだろ?

 ちなみに、アイラちゃんが言ったトゥーフとは、豆腐のことである。
 朝食に出て来た味噌汁の中に、具として入っていたんだよなぁ……

 あとはっと……

「こっちも一口大に切っておいてくれるか?」

 肉だけでは胃もたれしそうなので、チェストボックスからカボチャ、ニンジン、トウモロコシ、タマネギ、ついでにジャガイモを取り出して、作業台の上に積み上げていく。
 んで、こいつらも一口大に切ってもらうように頼む。
 『アンリミ』産のジャガイモは、中毒症状を起こす芽が存在しないタイプなので、誤って芽を食べてしまう心配がないので安心だ。

 余談だが……
 カボチャは、フライングパンプキンヘッドという空飛ぶジャックオランタンみたいなモンスターを。
 ニンジンは、ジェットニンジン……これはジェットエンジンと掛けているダジャレでは? という疑惑在り……という超高速で飛び回るニンジン型モンスターを。
 トウモロコシは、ショットコーンというポップコーンを打ち出してくるトウモロコシ型モンスターを。
 タマネギは、ティアドロップという刺激すると全方位に催涙ガスをばら撒く、サングラスを掛けた巨大なタマネギ型モンスターを。
 ジャガイモは、男爵というジャガイモを投げて攻撃してくるモンスターを倒すことで、それぞれ手に入れられるアイテムだ。

「これは……お野菜? ですか? どれも見たことのない物ばかりですけど……どう扱えばいいんですか?」

 ジャガイモを手に取り、不思議そうな顔をするソアラ。
 そりゃ、俺が知らない野菜があるんだから、逆だってあるよなぁ……と思いつつ、それぞれの処理方法を教える。

 ジャガイモ、ニンジンは薄皮を剥いて一口サイズの輪切りに。
 カボチャは、輪切りにして中のワタとタネを取り出し、適当にスライス。一応、カボチャは非常に堅いので、怪我をしないようにと釘を刺す。
 タマネギは、薄皮を剥いて、上の芽の部分と、下の根の部分を切り押して輪切りに。切る時、目がみる成分が出るので注意、とは一応説明しておくが、言ってからこんなんどう注意すんねん、とセルフ突っ込み。

 案の定、ソアラがタマネギを切っている時に「ぎゃわーーー! 目がっ! 目がぁぁ!!」と何処かの大佐の様なことを口走っていた。

 最後に、トウモロコシは適当にぶつ切りにしてお終いだ。
 誤って芯の部分を食べないよう、黄色いつぶつぶ部分が過食部分だと説明しておく。

 で、だ。
 次に、俺はチェストボックスから銀塊をいくつか取り出し、それから形状変化シャープ・チェンジを使い串を大量生産して行き、一緒に、ボタ石から形状変化シャープ・チェンジで石皿も並行して作って行く。
 ある程度出来上がったところで、両方一応流水で洗ってから、ソアラ達が切り分けた食材を肉・野菜・肉・野菜と串に刺す。出来上がったやつは、都度作った石皿の上へ。

 一皿一〇本になったところで、最後の仕上げとして激ウマな焼き肉のタレをドバっと惜しげもなく食材の山にぶっかけ、はい完成。
 そして、インベントリに収納。
 串に刺してある中身が多少違ってもいいが、本数が違うとインベントリ内でスタックされなくなってしまうので、要注意である。
 この辺りの判定が、謎なんだよなぁ。
 
「スグミさん。お肉、もう少しあった方がいいかもしれませんよ? あの人たち、良く食べますから」

 と、ソアラから追加注文が入ったので、肉をもう一〇枚程足しておく。
 そこからは、食材を串に刺す作業は二人に任せ、俺は別のことをすることにした。

 いくら食材の方の加工は済んだとしても、それで終わりとは行かない。
 調理出来なければ、生肉と生野菜を齧ることになってしまうからな。
 だから、ここからは調理の為の設備の準備である。
 と、そんな感じで、俺達はバーベギューセットをせっせとこさえて行ったのだった。

 トータルで二〇皿程作ったが、一皿一〇本で二〇皿って二〇〇本も作ったのか……
 しかし、この場に居るのが全員で何人いるのか正確には不明だが、仮に四〇人だとして、この結構なボリュームのある串を一人五本。
 俺なんて二本食ったら腹いっぱいになりそうなんだが……作り過ぎたか?

 とは思ったが、まぁ、余ったら余ったで、インベントリなりチェストボックスなりにでも入れておけばいいかと思い直す。
 消費する機会なんていくらでもあるだろう。
 てなわけで、準備も整ったところで俺達は作業場へと戻ることにした。

 
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