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一一一話
しおりを挟む木漏れ日の刺す森の中の道を、俺はアイラちゃんとソアラ、それとヨームと共に歩いていた。
向かう先は、件の採掘跡地である。
ソアラは一応案内で、ヨームは作業の指示出し、アイラちゃんは何だか面白そうだからという理由で着いて来ていた。
場所はマンドラゴラ畑のさらに奥。徒歩で三〇分程歩いた場所にあるらしい。
アイラちゃんがノマドさんへのお使いを終え帰って来ると、ノマドさんの帰りが何時になるか分からないということで、先に朝食を頂き、食後割とすぐに家を出て、ヨームを回収し、今に至る、というわけだ。
しかし……
まさか朝食で味噌汁に限りなく近い何かと、納豆|(引き割)に酷似した何か、それとタクアンにしかみえないタクアンが出て来るとは思わなかった……
ただ、味噌も納豆も、その原材料は大豆……というか豆ではないようで、この森で大量に取れるドングリのような木の実であるらしい。
のだが、風味こそ若干の違いはあるが、あれは間違いなく味噌汁と納豆だった。
そしてタクアンは紛うことなくタクアンだった。あれがタクアンでなければ、一体何がタクアンだというのかというくらい、タクアンだった。
醤油があるのは、昨夜の段階で確認済みだったが、まさか味噌に納豆、タクアンまであるとは……
なんだここ? 実はエルフ村は日本にあったのか? ってか、ここは日本なのか?
と、変に混乱したほどだ。
ヘアードライヤーを作ったら、そのお礼に色々と交換してくれるとカテラさんが言っていたので、何をどれだけ貰おうか実に悩むな。
まぁ、いざとなれば他にも沢山作って交換してもらう、というのも悪くない。
なんでも、こうした醤油や味噌なんかは、村の各家庭で作られているらしいので、その家毎の味があるのだという。
ヘアードライヤー片手に、各家を訪問交換して回れば、色々な品が手に入るかもしれないな。
一応、金銭で買い取る、というのも考えたのだが、カテラさんに尋ねたところ、この村ではあまりお金を使う機会が多くはないので、物々交換の方が喜ばれるだろう、とのことだった。
ぶっちゃけ、多少面倒だな、という気持ちもなくはないが、それで喜ばれるというなら、まぁ、悪い気はしない。
それに、俺も慣れ親しんだ味を手に入れられて嬉しいのは、間違いないことだった。
誰も損をしないなら、それでよし、だ。
なんにしても、ヘアードライヤーなどの原材料の調達、という一番の問題が早々に解決されているのが大きい。
結局、何をするにもモノがないことには始まらないからな。
正直、生活雑貨程度の物を作る上では、そんなに高い品質の材料は必要ない。
それこそ、銀を多少でも含んでさえいれば、品質1のようなクズ鉱石で十分だった。
とにかく、銀鉱石が手に入れば、あとは俺のスキルで如何様にでも出来るのである。
「で、何でまたあんな場所に用があったんだ?」
暫し、みんなが無言で歩いている中、ヨームがそんなことを聞いて来た。
「ああ、実はな……」
というわけで、俺はカテラさん大絶賛のヘアードライヤーについて、ヨームに話すことにした。
「髪が乾く魔道具ねぇ……お前はそんなもんまで作れるのか?
にしても、なんだそりゃ? そんなんが役に立つのか?」
「男はあんま関係ないが、女性……特に髪の長い人なんかには重宝するだろうな。
髪が長いと洗うだけでも一苦労だが、乾かすのはもっと大変だからな」
「ふむ……言われてみれば、イーダもヨーダも、髪を手入れしている時は大変そうにしているな……
すまんが、良かったウチにも一つ作っちゃくれないか? 勿論、お前が欲しいと言っている調味料なら、好きなだけ持って行ってもらって構わんぞ?」
というわけで、ヨームからご予約が一件入りました。
だが、しかし。
「チっ……」
「なんで舌打ちすんだよっ!」
「気にするな。俺は幸せな家庭の話しを聞くと、舌打ちせずにはいられないという、謎の奇病に侵されているんだよ。
主治医からも、治る見込みはないと言われている」
「んな病があってたまるか! ってか、それはただの性格の問題だろうがっ!」
と、吠えるヨーム。
だって、しょがないじょのいか。ムカつくものはムカつくのだから。
俺は何時だって自分に正直な人間でありたいのだっ!
「大体、お前は人のことをとやかく言っちゃあいるが、自分はちゃんと努力はしているのか?」
「と、言いますと?」
「出会いを求めて、行動をしているのかって話しだ。
気になる子がいるなら声は掛けたのか? アピールはしているのか?
ただ突っ立ってるだけじゃ、女なんか寄って来るわけねぇーだろ」
「いや……でも、ほら? ねぇ?
あんまりこっちからガツガツ行くのも、なんだこいつ? 必死過ぎねw(笑)とか思われそうじゃない?」
「男はガツガツ行ってなんぼだろうが? 十人に声を掛ければ、一人くらいは話を聞いてくれる子がいる。
それを十回もすれば、一人くらい付き合ってくれる子がいるってもんだ」
「そりゃそうかもだが……やっぱり見ず知らずの子に声を掛けるとか、恥ずかしいと言いますか、何と言いますか……」
「……テメェは何処の乙女だ?」
俺がモジモジとしていると、ヨームから冷ややかな視線が飛んで来た。
だって、しょがないじょのいか。恥ずかしいものは恥ずかしいのだから。
ナンパなんて、草食系の俺にはハードルが高いです。はい。
「ってーと、ヨームもそうやって努力して奥さんと結婚したのか?」
「いや、俺はイーダの方から告白されて付き合い始めたな。流石に結婚は俺から切り出したが……」
「説得力っ! 今までの話しの説得力は何処へ行ったの! 早く帰って来て! 説得力ぅ!」
「うるせぇ! 俺は一般論を言っただけだろうがっ!」
「ってか、まさかあんな美人なのに奥さんの方がゲテモノ喰いだったとはっ!?」
「人のことゲテモノとか言ってんじゃねぇーぞ、コラァ!」
なんて茶番を、ヨームと繰り広げていると、いくっいくっと、急に誰かに左の袖口を引っ張られた。
視線を巡らすと、そこにはニコニコとしたアイラちゃんがこちらを見上げて立っていた。
「スグミお兄さん! だから私がけっ……」
「はいはい。アイラちゃんがもっと大きくなったらね」
「ぶぅー」
俺に軽くあしらわれて不貞腐れるアイラちゃんだったが、流石に俺とて小学生の求婚を受け入れるほど餓えてはいない。
「アイラ。あんた何でそんなにスグミさんに拘ってるわけ?
別に、言うほどいい男ってわけでもないでしょ?」
おい、ソアラ。聞こえてっからな?
「え~、そんなことないよ」
と、そんなソアラにアイラちゃんが否定的な言葉を返す。
うん、やはりアイラちゃんは良い子だな。と、思ったのだが……
「だって、スグミお兄さんからはお金の匂いがするもん!」
アイラちゃんや、君の良い男の基準とは一体……ってか、それは子どもが目を輝かせながら言うセリフじゃないだろ?
そう言うアイラちゃんに、俺の肩がガクンと落ちた。
「スグミお兄さんと結婚すれば、まずお金にも困らなそうだし、それに村の中に大っきなお屋敷とか簡単に建ててくれそうな気がするんだよね。
そしたら、お手伝いさんとかいっぱい雇ってぇ、毎日美味しいものとか一杯食べてぇ、毎日ゴロゴロして過ごすのっ!
そしたら一生安泰だよっ! 人生の勝ち組だよっ!」
そう豪語するアイラちゃんに、ソアラに通じる何かを感じた。やっぱり姉妹なんだなぁ、とそう思う。
だが……やっぱ子どもが口にするセリフじゃないだろ、それは……
それとも、このアイラちゃんの考え方がエルフ界隈でのデフォなのだろうか?
だとしたらなんか嫌だなぁ、エルフ文化。
「……そう考えると、悪くない……のかも?」
なんて、暫し黙考した後、アイラちゃんに同意するようなことを言うソアラに驚いた。
やっぱりこれがデフォなのか?
「コラコラコラ。結婚ってお金があるとか、生活が楽になるとか、そんな打算的な目的でするもんじゃないだろ?
もっと愛のある話をしようよっ! 愛のある話をっ!」
「何言ってんですか? 愛じゃお腹は満たされないんですよっ!」
「そうだよ、スグミお兄さん! 結婚したあと、ちゃんと生活していけるかが大事なんだよっ! まずは生きて行かなくちゃ、愛も何もないんだよっ!」
「おっ、おう……」
俺のそんな一言に、ソアラとアイラちゃんからステレオで猛抗議が飛んで来た。
あれ? 俺の方が間違っているのだろうか?
……そういえば。
結婚マッチングアプリとかでも、仕事だの最低年収だの身長だの持ち家だの、あれこれ条件検索機能がついていたような……?
いやいや!
マッチングアプリは元々そういうものだし、この二人が特殊という可能性はまだある!
愛は、愛はきっと何処かにあるはずだっ! 愛を取り戻せっ!
「なぁ、スグミよ……」
そんな非情な二人に打ち拉がれている俺に、ヨームがそっと声を掛けて来た。
「なんだよ?」
「お前、結婚に変な幻想抱いてねぇか? そんなんだから、相手が見つからねぇんじゃないのか?」
「……うっせぇやい」
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