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九話
しおりを挟む「あの、それでこれからどうするのでしょうか……」
一通りお互いの話しが終わったところで、ソアラがそう切り出した。
「取り敢えず、今日はここで野宿だ。今から町を目指したところで、日のあるうちに着くとは限らないし、あの人攫い共もソアラを探してまだうろついていだろうからな」
ソアラとこの洞窟に逃げ込んだ時には、既に日は傾き始めていた。
オプション画面を呼び出し時刻を確認すると、現在は午後の三時半少し過ぎを示している。
日暮れまで、三時間くらいしか残されていない。
この時計が合っているのかはなんとも言えないが、実際の日の傾きを考えればそう間違ってもいないような気もする。
完全に信用は出来ないが、目安くらいにはあるだろう。
このまま強行軍して、下手に夜の森の中で野宿するくらいなら、今日はここでしっかり休みを取ったうえで、明日、朝一で移動した方が安全だし効率的だ。
一応、俺が持っている人形の中に、航空移動が可能なものがあるにはある。のだが……
ただ、それを亜空間倉庫から出すためには、何もない広い場所が必要だった。それだけ大きな代物ということだ。
生憎と、俺が知る限り周囲にそれだけ開けた土地は見つかっていない。
大男と戦ったあの場所でも、アレを出すにはまだ狭いんだよな。
亜空間倉庫からものを出す際には、……これはインベントリを使用する時も同じなのだが……取り出すアイテムより大きな空間を必要とし、その空間内に障害物があった場合、アイテムを出すことは出来ないという“縛り”があった。
これだけ木々が生い茂る森の中では、大きく空間を確保することが難しい。
俺があの大男と出会った時、即座に黒騎士を亜空間倉庫から出さず、わざわざ開けた場所まで移動したのもそのためだ。
ちなみに、黒騎士サイズで縦横1.5メートル、高さ3メートルの空間が、エクストラ・ラージ・チェストボックスなら奥行1メートル、幅2メートル、高さ〇.5メートルの空間が必要になる。
しかも、使用者から離れた場所へは亜空間倉庫を展開出来ないため、木に登って開けた空間にアイテムを出す、ということも出来ない。
ちなみに、展開できる距離については、アイテムの端が使用者の1メートル以内に入っていることが条件となっている。
「幸いにも食料に水、それに寝床には不自由はしない。今日はゆっくり休んで、移動は明日の朝一からだな。
ソアラだって、今日はもう疲れただろ?」
いくらスタミナ回復ポーションをガブ飲みしていたとはいえ、ポーションは肉体的な疲労は回復しても、精神的な疲労には効果はない。
それに、ソアラは腕に負った裂傷の所為で、多くの血液を失っていた。
一日休んだ程度で、どれだけ回復するかは分からないが、安静にしているに越したことはないだろう。
「はい、正直辛いです……」
俺の問いに、ソアラは張りのない笑顔でそう答えた。もう、先ほどの様に無駄に意地を張るのは止めたらしい。
まぁ、俺としても、変に意地を張られるより、素直に言ってくれた方が気を使わなくて済むから楽でいいしな。
「んじゃ、もう休むか?」
「えっと……休みたいとは思いますが……」
俺がそう尋ねると、ソアラはキョロキョロと視線を所在なさげに周囲に彷徨わせた。
……ああ、こんな岩ばかりの場所じゃ、休みたくても休めるわけないだろぉ! 少しは考えて物言え、このボケェ! ということか。
確かにその通りだ。だが、安心して欲しい! こんなこともあろうかと……
「ああ、大丈夫。今、休めるような場所を用意するから」
「??」
いまいち、俺の言ったことをよく分かっていないソアラを他所に、俺はそう言ってチェストボックスに向かう。
確か、この箱の中にアレを入れておいたはず……ああ、あったあった。
俺が探していたのは、シングルサイズのベッドだった。
昔作ったは良いが、サイズが気に入らず、結局使わず仕舞いでお蔵入りになっていた品だ。
俺はベッドを選択すると一旦、亜空間倉庫へ移動。
ベッドはインベントリの収納サイズ制限に余裕で引っ掛かってしまうため、こうして亜空間倉庫を経由しないと持ち運びが出来ないのだ。
亜空間倉庫を持っていない場合は、近場に設置して自力で移動させることになる。
一応、チェストボックスにも収納サイズ制限が設けられてはいるが、インベントリよりずっと大きく設定されている。
それこそ、人が四、五人横になれる様なキングサイズのベッドとか、超巨大な食器棚とかも収納可能だ。
黒騎士だって余裕で入る。
ちなみに、亜空間倉庫使用時のMP消費は、黒騎士よりチェストボックスの方が断然少ない。大体黒騎士の二割程度だ。
これを利用して、チェストボックス経由で黒騎士の出し入れをすることで、MPの節約になるのだが、流石に面倒なのと即応性が皆無なのでやらないがな。
あくまで小技だ。
で、設置場所の選定の開始。
どうやら、この洞窟は奥に行くにつれ、少しずつ幅広になっている様なので、少しだけ奥に行くことにした。
よさげな場所を見繕い、亜空間倉庫からベッドを選択。すると、俺の視界内に、設置物であるベッドが仮想表示された。
変な場所に置いて、移動の邪魔になっても嫌なので、なるべく壁際に寄せる。
限界まで壁に寄せたところで、はいドンっ。
一瞬にして、ベッドの設置の完了である。
流石に並べてもう一つ置くだけの空間は残っていないが、それでもまだ人一人なら余裕を持って横を通れるだけの空間は残っていた。
これなら別に邪魔にはならないだろう。
「えっと……スグミさんは、そんな物まで何時も持ち歩いているんですか?」
「ベッドだけじゃなくて、他にもいろいろあるぞ。
使い道がなくなったゴミとか、未整理前のアイテムとか、全部まとめて持ち歩いてるから、正直、俺自身も何を持っているか把握しきれてないくらいだ。
ぶっちゃけ、このベッドも処分出来ずに残ってたゴミだしな」
「はぁ……なんだかまるで“見えない倉庫の倉庫番”みたいですね」
“見えない倉庫の倉庫番”とは、この世界に広く伝えられている御伽噺であるらしい。
特に興味もなかったので詳しくは聞かなかったが、なんでも、魔空間術師の始祖をモデルにした話しだとかなんとか。
まぁ、そんな話はさておき、だ。
「さぁ、準備が出来ましたよお嬢さん。どうぞこちらへ」
ベッドの設置が終わると、俺は執事然とした仕草でソアラにベッドを勧めた。
「おじょっ……もうっ! 恥ずかしいから止めてくださいっ!!」
抗議はするがまんざらでもないようで、ソアラの顔が少しニマニマしていた。
ソアラは、ゆっくりとベッドに向かうと、すっと腰を落とす。流石に、いきなり寝転んだりはしないようだ。
「これすごく柔らかい……それに、手触りも滑らか……」
ソアラがベッドに腰を落とした第一声がそれだった。そして、その感触を楽しむように二度三度と表面を撫でる。
「一応、高級素材を使って作ったからな」
「えっ! もしかしてスグミさんがこれを作ったんですかっ!」
「ん? ああ、まぁ……ね」
材料集めて、クラフトボックスにブッ込んで、生成ボタンをポチっで完成した量産品ではあるが、俺が作ったのかと問われればそうだといえなくもない、のか?
本当の意味で一から完全オリジナルなものを作ろうとするなら、ベッド一つ取っ手も、土台を作るための木工スキルや、シーツなどを作る機織スキルなど、様々なスキルが必要になり案外手間が掛かる。
拘りがあるなら別だが、そうでもないならクラフトボックスで簡易制作してしまうのが、手っ取り早くて楽が出来る。
ただ、デザイン性が皆無なことと、完成品の品質が絶対に10段階中の4になっしまうというデメリットはある。
5が普通レベルなので、若干低品質な物になってしまうのだが……こればっかりは仕方がない。
それでもいいというのなら、お手軽簡単に大量生産出来る良いツールだ。
一応、簡単な武器や防具も“お手軽生成”出来るが、俺は主にポーションや食料アイテムなどの消耗品を大量生産する際に用いている。
俺が持っいる一部の回復ポーションや、食材アイテムのバーガーなどは、すべてクラフトボックスで作ったものだ。
勿論、質を求めるなら、一つずつ手作業で生産した方が“お手軽生成”より遥かに効果が高い物を作ることが出来る。
俺は、ポーション類などを自作することが出来るスキルを持ってはいるが、面倒なので簡単な消耗品に関してはまるっとクラフトボックス任せにしていた。
それに、俺が手作りすると過剰能力になってしまうから意味がないんだよな。
HP100を回復するのに、1万回復するポーションはいらんだろ?
そういえば、まだここでクラフトボックスが使えるか試してなかったな。機会があれば試してみるか。
「このレベルでスグミさんにはゴミなんですか……いらないようでしたら、是非とも譲って欲しいくらいですよ」
「欲しければ上げるよ」
まぁ、俺に取ってはいらないもので、チェストボックスのスロットを圧迫するだけの粗大ごみだからな。
欲しいというなら上げようじゃないか。
それにしても、ゴミだと思いながらも捨てられない俺の貧乏性も大概だな、と思う。
「ホントですかっ! わーいっ! 何でも、言ってみるものですね」
何がそんなに嬉しかったのか、ソアラはゴロンとベッドに横になると、脚をパタパタと振り出した。
丈の短いスカートを穿いている為、太腿の辺りが丸見えだ。
角度によっては、禁断の園が覗けたかもしれないが、生憎と俺の場所からは無理だった。ちくしょー!
「それじゃ、ソアラはここで休んでな。俺はちょっと洞窟の奥を見て来るから」
「奥を、ですか?」
俯せたまま、枕に顔を埋めていたソアラが、上半身だけを起こして俺を見上げる。
「ああ。もしかしたら、この奥が外に通じているかもしれないからな。一度見に行って確認してくるよ。
あの賊共に奥側から入って来られたら、俺たちが袋のネズミになっちまう」
まぁ、だとしても、あの程度の奴らに後れを取るとは思わないけどな。それでも、安全を確認しておいて損ということはない。
「それじゃ私も一緒に……」
「いや、いいよ。休める時にしっかり休んでおきなさい」
起き上がり、同行しようとするソアラをやんわりと制止。
「どの道、明日から嫌と言う程体力を使うことになるだろうからな。今無理をされて、明日足を引っ張られる方が面倒だ。年長者の言うことには従っておきなさい」
「……本当に、いろいろとありがとうごさいます」
ソアラはベッドから体を起こすと、居住まいを正して深々と頭を下げた。この光景も、今日で何度目になることやら。
「いいよ、いいよ、気にすんな。困った時はお互い様だし、“情けは人の為ならず”ってな」
「お互い様は分かりますが、その情け……なんとかってなんですか?」
「ああ、俺の国の諺でな。人にやさしくしておけば、それは巡り巡って何時か自分にもいい事があるかもよ、って意味の言葉だよ」
「なるほど。つまり、スグミさんは私からの恩返しを期待してる、ということですね?」
「そういうことだな。すげー期待して待ってるから、そこんところよろしく」
「ふふっ、あまり過度に期待されても困りますが、善処はします。何せスグミさんは命の恩人ですから」
少し前だったら真に受けていたであろう言葉も、今は冗談だと理解してもらえたのか、ソアラは明るい笑顔で言葉を流す。
きっと、それだけ心にゆとりが出来て来たってことだろう。いい傾向だ。
「おうおう善処してくれたまへ。んじゃ、ちょっと行ってくるわ」
「はい。では、お気をつけて」
こうして俺は、ソアラに見送られながら洞窟の奥を目指した。
さて、一丁洞窟探索と行きますかね。
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