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27話 村に人が増えました
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今、村の生産業務に関する求人倍率はとんでも無い事になっていた。
初めは“小遣い稼ぎ”程度と思われていた生産業務だったが、蓋を開ければ一度の納品で4~5万RDの収入になった。
この金額は、まともに金を稼ぐ事が出来ない村の住人にとっては、とんでもない大金だ。
そりゃ、誰も彼もが生産業に就きたいと、応募が殺到した結果がこれだ。
全ての応募者を雇用できれば、何の問題もないのだろうが流石にそうは行かない訳で……
と、言うのも最終工程である組付け作業ができる人員が少ないのが問題だった。
今は、ウチのじーさんが陣頭指揮をとりながら、数人のチームとなってせっせと組み付けているのだが、これが結構細かい作業だったりする。
正直、木工作業に慣れてた者でなければ難しいのだ。
現状、時間単位に生産されるパーツの量が、組み上げ速度を軽く追い越してしまっている。
これでは、パーツ製作の人員をどれだけ増やした所で、生産速度は上がらずパーツの在庫ばかり膨れ上がってしまう。
そんな状態であるため、ロットが進むに連れて雇用する人員は減少傾向にあった。
極力多くの者が参加できるように、シフトを組んで定期的にスタッフを入れ替えてはいるのだが、それでも後から応募した者に順番が回るのは大分後になってしまっていた。
それで納得……してくれる訳も無く、“まだかまだか”と責付かれている日々が続いていたのだ。
そんな訳で、ただ今、俺それに村長と神父様の3人は、俺の自由時間である一時間を使って会議を行う事となったのだった。
今すぐどうこうできる問題ではないが、対策の方針くらは決めておかねば後々厄介な事になることは目に見えているからな。
当面の対策としては、じーさんにもう何人か若い連中の面倒を見てもらって、組み付け作業員の増員を図り生産性の向上を目指す事と、一人当たりの配当は少なくなってしまうが、シフトを細かく設定してなるべく多くの人に順番が回るようにする、それが今出来る精一杯だった。
午後は窯元のじーさんたちの所を回って、魔術陣入りのレンガの発注を依頼しに行った。
今回は、前回の洗濯場のようなタダ働きはさせない。ちゃんと仕事に見合う報酬を払う準備があるのだ。
と、言うことを話したら窯元のじーさんたち皆喜んでいたな。
これもソロバンの売り上げがあればこそか……
イスュには、少しくらいは感謝しなくてはいけないかもしれないな……
で、物はためしに作りかけの新しい魔術陣の下書きを見せて“まったく同じものをレンガに複写できるか?”と聞いてみたら、一つ返事で“出来る”と言う返答が帰ってきた。
じーさんはじーさんで忙しそうにしていたから、ここは一つ釜元のじーさんに任せて見る事にした。
この手の職人気質のじーさん連中は、“出来る”と言ったら必ずやるからな。
今書いている魔術陣が完成したら、持ってくると告げて俺はその場を後にした。
……結局、窯元のじーさんの所に、完成した新しい魔術陣を持って行く事が出来たのはそれから、2日くらい後になってからだった。
とまぁ、そんなこんなで数日が過ぎて……
村に、第一陣となる資材が届き、村には戻ってきた人たちの姿をぼちぼち見るようになっていた。
一家揃っての移住者が多いようで、見覚えの無い子どもたちが、今も俺の目の前を駆け抜けて行った。
そのうち、あのガキんちょ共も学校に来るようになるんだろうなぁ……なんて事を考えながら、俺は走り去っていくガキんちょたちの背中を見送ったのだった。
俺は今、今後の事について話し合うため村長の家に向かっている最中だった。
今日の話し合いは、実際にどういう物を造るのかと言う説明会のようなものだ。
そのため、俺や神父様以外に実際に作業に当たる人たちも何人か来る事になっていた。
呼ばれている面子の多くは、村で重役に就いている者たちの親族で彼らが作業の指揮監督を行うことになっていた。
その中には、勿論、村長のとこの次男・三男も呼ばれていると言う。
……俺は、実際に会うのがこれが始めてだから、顔なんて知らないけどな。
「ちぃーすっ、村長きたぜー」
玄関を二度、三度とノックをしてから、返事も無いのに俺は村長の家に入って行った。
いつもの事だから、気にしない。
某勇者なんて、勝手に家に入ってきては、ツボやらタンスなんかを物色して、挙句金品を平然と持ち逃げする事を考えたら、勝手にあがり込むだけなどなんと良心的な事か。
流石の俺だってそんなゲスな事はしないぞ?
勝手知ったる他人の家ってな……俺は玄関を潜るとツカツカと何時もの大広間へと向かって歩いて……行く途中に、壁から生えた見慣れないものと目があった。
壁から生えていたのは、女の子の首だった。
それは、曲がり角からひょっこり顔を出して、俺のことをじーーーーっと、凝視していた。
「……誰ですの? 勝手に人の家にあがり込んで来るだなんて、礼儀と言う物を知りませんの?
それとも、常識がありませんの?」
それは、壁で体の大半を隠したまま顔と目だけで、俺の事を非難してきた。
歳は俺より少し上くらいだろうか……多分、グライブとかリュドと同じくらいだ。
緩やかにウェーブがかったブルネットの髪にくりくりと大きい茶色の瞳。
頬がスラッと細くて色白だ。
一言で言えば美少女だ、いや、美幼女か?
それも、“お人形さん”を絵に描いた様な美幼女だった。
洗練されていると言うか、線が細いと言うか……
村にはまずいない感じの子だった。
首から下が完全に隠れてしまっているので、どんな格好をしているのかまでは分らないが、ミーシャやタニアが普段着ているようなイモ臭い服は着ていないような気がした。
見覚えがない子、そして村長の家にいる辺りから、この子はたぶん村長の孫か何かで、村に戻って来ていると言う、次男だか三男の娘さんだろう。
笑ったなら、それはそれは可愛らしいのだろうが、残念な事に今の彼女のその瞳は、三白眼? とでも言うのか、ものの見事にじと目と言うやつになっていた。
「あ~、俺は怪しい者じゃないよ?
驚かせたみたいで悪かったな。
いつもこうやって勝手にあがらさせてもらっていてね……今日も、村長に用事があって来たんだけど……」
「怪しい人が自分の事を“怪しい”だなんて言う訳がありませんわ。
その言葉が出た時点で、十分に怪しいのです。
大体、“怪しくない”と言うのなら、なぜ初対面の人物に対して自己紹介もしないのですか?
……怪しいですわ。不審人物ですわ」
おっ、この幼女賢いぞ……
「そいつは悪かったな。
俺は、ロディフィス・マクガレオス。
でキミは……?」
「む~……」
未だ、壁に隠れたままじと目で、値踏みをする様に美幼女の視線が上下する。
彼女なりに俺が不審者かどうか吟味しているのだろう。
そして、出た答えが……
「信じられませんわ。
おじい様もおとう様も、今から大事な話し合いがあると言っていましたわ。
“おとなの話”だからと、私は入ってはいけないと言われました。
なのに私より小さいあなたが、おじい様にどんな御用だと言いますの?」
なるほど、この幼女が大広間の前にいたのは村長たちに追い出されたからか……
で、終わるまでここで待っていようとした所に俺が来た、と。
しかし……
この幼女にどう説明したものか……
俺はその“話し合い”に参加しに来たのだと言って、この幼女は信用するだろうか?
まぁ、別に信用されずとも、このまま大広間に入って行ってもいいのだが……ふむ。
ガチャ
俺が“どう話したものかなぁ”と悩んでいたら、突然大広間の扉が開いた。
「おっ! 声がすると思ったら、やっぱ来てたのかロディフィス。
で、お前らそんな所で一体何してんだ?」
大広間から姿を見せた村長が、俺と幼女を交互に見やりながらそう言った。
そんなん俺が聞きたいくらいだよ。
取り敢えず、幼女に尋問されていたと答えたら、村長のやつ爆笑しながら俺と幼女を大広間へと入れてくれた。
大広間には、既に十数人の先客がいた。
見覚えのある顔半分、知らない顔半分……と言ったところか。
その中には神父様やクマのおっさんの姿もあった。
なるほど、ここにいる面子が今回の作業員のリーダーになる連中て事か……
「シルヴィのやつ、自分が追い出された所に、お前が入って行こうとしたもんだから、気に入らなかったんじゃないのかぁ?」
ゲラゲラ笑いながら村長がそんな事を言っていたが、当の本人は、大広間に入るなりタタタッと一目散に、走って行ってしまっていた。
やはり……着ていた服は、ヒラヒラとした可愛らしいものだった。
この村では、逆立ちしても手に入らないような感じのやつだ。
そして、一人の男性の足にひしっとしがみつく。ってーと、あれがあの子のお父さんかな?
で、今度は父親の影に隠れて、先ほど同様、顔だけひょっこり出してまたあの目で俺の事をじぃぃぃぃっと見ていた。
……俺、なんかあの子になんかしたかぁ?
しかし……あの幼女はシルヴィちゃんと言うのか……
俺の守備範囲に入るまでに、あと10年ほどはかかりそうだが、将来有望そうな人材が増えることは、実に喜ばしい事である。
「シルヴィ、ここにいても構わんが、今から大事な話をするから静かにしているんだよ?」
「分っていますわ、おじい様」
「で、ロディフィス。軽く話しておいてはやったが、自己紹介くらいしておけよ?
初めて顔を合わす連中も多いだろうからな」
「あいあい……」
俺は、手近なイスに飛び乗ると、その上に立って一同を見回し、軽く一礼する。
「ただ今ご紹介に預かりました、ロディフィス・マクガレオスです。
一応、この度の案件の発起人になりますので、以後よろしくお願いします」
初顔合わせとあって、まずは丁寧に挨拶だ。
いきなり、村長や村の連中に……彼らも村の住人なのだが……するような態度だと引かれかねないので、初めのうちはネコを被っておく事にした。
俺がそう名乗ると、辺りからはざわ……ざわ……とした響きが起きた。
内容は主に2つ。それぞれまったく別の理由からだった。
1つは、“おいっ! あのロディフィスが丁寧な挨拶をしているぞ!”“神父様意外には禄に敬語も使わないあのロディフィスがっ!”と言う、村人の驚きの声。
……お前らあとでぶん殴るぞ?
で、もう1つが“こんな子どもが?”と言う、戻り組の戸惑いの声だった。
まぁ、外見こんななので戻り組の人たちの反応は理解出来ない事もないけどな……
「父さん、この子が……?」
「ああ、さっき話したロディフィスだ。
こんなナリだが、この村じゃヨシュアの次に博識で頭もいい。外見でナメてかかると痛い目を見るぞ?
こいつとの付き合い方は、こいつを“ガキだと思わない”事だな」
シルヴィちゃんの父親であり、村長の息子の男性と目が会ったので、軽く目礼しておく。
「で、早速で悪いんだが、例の物を見せてやってくれないか?」
「あいよ……」
挨拶も終わり、俺は愛用の鞄の中から丸められた紙をいつくか取り出してテーブルの上に広げ始めた。
俺がよく知る紙よりは、木の皮に近い質感のもので所謂、パピルス紙の様なものだった。
勿論、この紙はイスュから買ったものだ。こんなんでも、結構いいお値段がするんだなこれが……
和紙や洋紙のように、きっちり折り曲げられる程柔らかくないので、賞状や証書のように丸めて持ち運ぶのが普通だ。
ただ、一度丸めるとクセが付いてしまうため、広げるときに丸まってしまうのを防ぐために四隅を重しで押さえる必要があった。
俺が今広げているのは、3枚の図面と、1枚の地図だった。
図面とは勿論、銭湯を建てるのに必要な見取り図や寸法図で、地図は村の周囲を簡略的に記したものだ。
地図は、絵心のない俺が手掛けたものなので、出来栄えは期待しないで欲しい。
なんとなく分かればいいのだ。なんとなくで……
今回は、造るものの規模が規模なので、どうしてもこう言った細かい図面が必要になってしまうのだ。
家くらいなら、割と作りなれている村の連中でも、その何倍も大きい建物となると今回が初めてだろうからな。
誰かが明確な完成図をイメージしながら作業を行わなければ、まともな物など出来はしない。
そのための図面だ。
当たり前だが、この世界にだって長さや重さの単位はあるし、測量技術だって道具だってちゃん揃っている。
その辺に関しては、村長や神父様、それにクマのおっさんなんかが詳しいらしいので任せておけば大丈夫だろう。
ちなみに、長さの最小単位がメントで体積の最小単位がガラフである。
メントは身体尺で、アストリアス王国初代国王の身長を基準にしているのだとか。
だから、1メントで大体170~180cmと言ったところだろうか?分かりにくいなぁ……
で、1メントの1/10のサイズで作った枡一杯分の体積を1ガラフと言う。
単純に17×17×17で約5000立方cmだから、1ガラフ約5Lと言う事になる。
まぁ、初めの頃こそ戸惑いまくったものだが、今となってはこの単位にも、随分と慣れたものだけどね。
「これは……?」
俺が図面を広げると、シルヴィちゃんのパパさん、以下周りの連中が覗き込んできた。
「これが、これから皆さんに造って頂きたいものです」
俺は、図面を前に、さっそく作業の概要を説明することにした。
嬉しい誤算が、一つあった。
それは、この場にいた戻り組の一人が、建築業の経験者だった事だ。
それも日曜大工レベルではなく、それを職業としていた本職の人らしい。
今回、村での作業が建築関係であると知って参加を決めた、と本人が言っていた。
よし、この人を棟梁に据える事にしよう。
村長に一言相談したら、“そのつもりで呼んだんだよ”と言われた。
知ってたなら、早く教えてくれてもよかろうものを……まぁいいか。
で早速、棟梁に図面を見てもらった所、特に問題はないとの事だったので、この図面に従って作業を進めてもらう事になった。
俺は、建築関係の図面など起こした事がないので、逐一村長や神父様、あとはクマのおっさんなんかにアドバイスをもらったり、添削してもらいながらコツコツ進めていたのだ。
ダメ出しされずに済んで、ほっと一安心である。
次に、俺が書いた簡略地図に建設予定地を書き込んで行く。
これに、村長が横から口を挟んできた。
「そこだと、水面まで結構な高さがあるぞ?
もっと、こっちに移した方がいいんじゃないか?」
「ああ、そこはこの間見に行ったんだけど、起伏が激しくて整地が大変になるだろうから却下。
それに、高低差は特に問題にならないから大丈夫だよ」
俺が、そう答えると“そうか”と言って、すごすごと村長は引っ込んで行った。
そして、木材やレンガなど、資材が何処に置かれているかを説明しながら書き込んでいく。
それからは、各種細かい事を順次決めて行った。
俺が実際に作業するのは、ボイラーや水周りの各種魔術陣関係なので、参加するのは後半からだな。
それまでは棟梁たちに任せておけば大丈夫だろう。なにせ、本職さんなんだし。
と、いう訳で作業開始は明日からと決めて、今日のところは解散する事となった。
帰り際……
皆が大広間を出て行く所を見送って、一通り掃けたタイミングで自分も大広間を出ようとした時、
「……ロディフィス……とか、言いましたわね?」
突然、背後からシルヴィちゃんに呼び止められた。
振り返れば、壁に隠れるでもなく、父親に隠れるでもなく、ちゃんと一人で立っているシルヴィちゃんがそこにいた。
「なに? なにか俺に用?」
俺は怖がらせないように、極力優しく声をかけた。
「そ、その……えっと……おっ、大人に混じってあんな難しい話をするなんて、あっ、あなたは大変優秀な人物のようですわね……見所がありますわ。
ですから、私がとっ、とっ、とっ……」
「がっとっと?」
新手のお菓子のタイトルか?
「とっ、特別に、あなたの事を家来にして差し上げてあげますわっ!」
「いえ、結構です」
「ひゃんっ!」
取り敢えず、ソッコーでお断りした。
仲良くなるなら一向に構わないのだが、家来はちょっとなぁ~。
「はっはっはっはっ、違うだろシルヴィ。
キミが本当に言いたい事は、別のことなんじゃないかい?」
そんな俺たちの会話に入ってきたのは、シルヴィちゃんのパパさんだった。
「おとう様……」
パパさんは、シルヴィちゃんの頭を一撫ですると、俺の前に膝をついて視線の高さを合わせてくれた。
「初めまして。僕はテオドア・バヴォーニ。
シルヴィアの父親で、この村の村長の次男だよ」
「これはこれは、ご丁寧にどうも」
俺は、わざわざ膝を突いてくれたテオドアおじさんに頭を下げた。
ふむ、シルヴィちゃんの本名はシルヴィアと言うのか。
あ~、なんか一昔前に(生前の感覚で)そんな名前のムード歌謡の歌手がいたような気が……
「この子は同年代の友達が少なくてね……
もし良かったら、仲良くしてくれないかい?」
俺が同年代……と、言うのは大分違うかも知れないが、仲良くする分には俺としては何の問題もない。
「ええ、家来でなければ喜んで」
「ははっ、よかったねシルヴィ。仲良くしてくれるそうだよ?
ほら、キミからもちゃんと言わなくちゃダメだろ?」
「はい……おとう様……」
シルヴィちゃんは、ゆっくりと数度深呼吸をすると、まっすぐ俺の方を向いてしゃべり出した。
「私は、シルヴィア・バヴォーニと言いますわ。
ロディフィス……よろしければ私の、おっ、おっ、おっ、お前を舎弟にしてして差し上げますわっ!
……はぅ」
もう、グズグズだなこの子……
ってか、舎弟なんて言葉、何処で覚えて来たんだよ?
恐らく、一度目は“友達”と言おうとして、二度目は“お友達”と言おうとして失敗したのだろう。
あがり症なのか、それとも素直に友達になって欲しいというのが照れくさいのか……
どちらにしても、また難儀な子だなぁ……
見かねた俺は、一歩、シルヴィちゃんへと近づくと、すっと手を差し出した。
「家来も舎弟も御免だけど、友達になってくれたなら嬉しいな」
「……あっ」
少しの間だけ、俺の手をじっと見ていたシルヴィちゃんは恐る恐るといった様子で、俺の手を握り返してきた。
そして……
「しっ、仕方がないですわねっ!
そこまでどうしてもと言うのでしたら、お、お友達になって差し上げてもいいですわよっ!
寛大な私に、感謝するといいのですわっ!」
「はいはい、ありがとさん。
んじゃ、これからよろしくなシルヴィ」
「シっ、シルっ……!
で、では……私もあなたの事をろっ、ロディと呼んでもよろしいかしら?」
「好きな様に呼んでくれたらいいよ」
なぜかそう言うシルヴィの顔は真っ赤で、繋いだ手は汗ばむ程熱くて、そして、その手はとてもプニプニとしていた。
視界の端で、肩を小刻みに揺らしながら、これまた何故か涙を流しているテオドアおじさんの事がひじょ~に気になったが、今は気にしないでおく事にした。
初めは“小遣い稼ぎ”程度と思われていた生産業務だったが、蓋を開ければ一度の納品で4~5万RDの収入になった。
この金額は、まともに金を稼ぐ事が出来ない村の住人にとっては、とんでもない大金だ。
そりゃ、誰も彼もが生産業に就きたいと、応募が殺到した結果がこれだ。
全ての応募者を雇用できれば、何の問題もないのだろうが流石にそうは行かない訳で……
と、言うのも最終工程である組付け作業ができる人員が少ないのが問題だった。
今は、ウチのじーさんが陣頭指揮をとりながら、数人のチームとなってせっせと組み付けているのだが、これが結構細かい作業だったりする。
正直、木工作業に慣れてた者でなければ難しいのだ。
現状、時間単位に生産されるパーツの量が、組み上げ速度を軽く追い越してしまっている。
これでは、パーツ製作の人員をどれだけ増やした所で、生産速度は上がらずパーツの在庫ばかり膨れ上がってしまう。
そんな状態であるため、ロットが進むに連れて雇用する人員は減少傾向にあった。
極力多くの者が参加できるように、シフトを組んで定期的にスタッフを入れ替えてはいるのだが、それでも後から応募した者に順番が回るのは大分後になってしまっていた。
それで納得……してくれる訳も無く、“まだかまだか”と責付かれている日々が続いていたのだ。
そんな訳で、ただ今、俺それに村長と神父様の3人は、俺の自由時間である一時間を使って会議を行う事となったのだった。
今すぐどうこうできる問題ではないが、対策の方針くらは決めておかねば後々厄介な事になることは目に見えているからな。
当面の対策としては、じーさんにもう何人か若い連中の面倒を見てもらって、組み付け作業員の増員を図り生産性の向上を目指す事と、一人当たりの配当は少なくなってしまうが、シフトを細かく設定してなるべく多くの人に順番が回るようにする、それが今出来る精一杯だった。
午後は窯元のじーさんたちの所を回って、魔術陣入りのレンガの発注を依頼しに行った。
今回は、前回の洗濯場のようなタダ働きはさせない。ちゃんと仕事に見合う報酬を払う準備があるのだ。
と、言うことを話したら窯元のじーさんたち皆喜んでいたな。
これもソロバンの売り上げがあればこそか……
イスュには、少しくらいは感謝しなくてはいけないかもしれないな……
で、物はためしに作りかけの新しい魔術陣の下書きを見せて“まったく同じものをレンガに複写できるか?”と聞いてみたら、一つ返事で“出来る”と言う返答が帰ってきた。
じーさんはじーさんで忙しそうにしていたから、ここは一つ釜元のじーさんに任せて見る事にした。
この手の職人気質のじーさん連中は、“出来る”と言ったら必ずやるからな。
今書いている魔術陣が完成したら、持ってくると告げて俺はその場を後にした。
……結局、窯元のじーさんの所に、完成した新しい魔術陣を持って行く事が出来たのはそれから、2日くらい後になってからだった。
とまぁ、そんなこんなで数日が過ぎて……
村に、第一陣となる資材が届き、村には戻ってきた人たちの姿をぼちぼち見るようになっていた。
一家揃っての移住者が多いようで、見覚えの無い子どもたちが、今も俺の目の前を駆け抜けて行った。
そのうち、あのガキんちょ共も学校に来るようになるんだろうなぁ……なんて事を考えながら、俺は走り去っていくガキんちょたちの背中を見送ったのだった。
俺は今、今後の事について話し合うため村長の家に向かっている最中だった。
今日の話し合いは、実際にどういう物を造るのかと言う説明会のようなものだ。
そのため、俺や神父様以外に実際に作業に当たる人たちも何人か来る事になっていた。
呼ばれている面子の多くは、村で重役に就いている者たちの親族で彼らが作業の指揮監督を行うことになっていた。
その中には、勿論、村長のとこの次男・三男も呼ばれていると言う。
……俺は、実際に会うのがこれが始めてだから、顔なんて知らないけどな。
「ちぃーすっ、村長きたぜー」
玄関を二度、三度とノックをしてから、返事も無いのに俺は村長の家に入って行った。
いつもの事だから、気にしない。
某勇者なんて、勝手に家に入ってきては、ツボやらタンスなんかを物色して、挙句金品を平然と持ち逃げする事を考えたら、勝手にあがり込むだけなどなんと良心的な事か。
流石の俺だってそんなゲスな事はしないぞ?
勝手知ったる他人の家ってな……俺は玄関を潜るとツカツカと何時もの大広間へと向かって歩いて……行く途中に、壁から生えた見慣れないものと目があった。
壁から生えていたのは、女の子の首だった。
それは、曲がり角からひょっこり顔を出して、俺のことをじーーーーっと、凝視していた。
「……誰ですの? 勝手に人の家にあがり込んで来るだなんて、礼儀と言う物を知りませんの?
それとも、常識がありませんの?」
それは、壁で体の大半を隠したまま顔と目だけで、俺の事を非難してきた。
歳は俺より少し上くらいだろうか……多分、グライブとかリュドと同じくらいだ。
緩やかにウェーブがかったブルネットの髪にくりくりと大きい茶色の瞳。
頬がスラッと細くて色白だ。
一言で言えば美少女だ、いや、美幼女か?
それも、“お人形さん”を絵に描いた様な美幼女だった。
洗練されていると言うか、線が細いと言うか……
村にはまずいない感じの子だった。
首から下が完全に隠れてしまっているので、どんな格好をしているのかまでは分らないが、ミーシャやタニアが普段着ているようなイモ臭い服は着ていないような気がした。
見覚えがない子、そして村長の家にいる辺りから、この子はたぶん村長の孫か何かで、村に戻って来ていると言う、次男だか三男の娘さんだろう。
笑ったなら、それはそれは可愛らしいのだろうが、残念な事に今の彼女のその瞳は、三白眼? とでも言うのか、ものの見事にじと目と言うやつになっていた。
「あ~、俺は怪しい者じゃないよ?
驚かせたみたいで悪かったな。
いつもこうやって勝手にあがらさせてもらっていてね……今日も、村長に用事があって来たんだけど……」
「怪しい人が自分の事を“怪しい”だなんて言う訳がありませんわ。
その言葉が出た時点で、十分に怪しいのです。
大体、“怪しくない”と言うのなら、なぜ初対面の人物に対して自己紹介もしないのですか?
……怪しいですわ。不審人物ですわ」
おっ、この幼女賢いぞ……
「そいつは悪かったな。
俺は、ロディフィス・マクガレオス。
でキミは……?」
「む~……」
未だ、壁に隠れたままじと目で、値踏みをする様に美幼女の視線が上下する。
彼女なりに俺が不審者かどうか吟味しているのだろう。
そして、出た答えが……
「信じられませんわ。
おじい様もおとう様も、今から大事な話し合いがあると言っていましたわ。
“おとなの話”だからと、私は入ってはいけないと言われました。
なのに私より小さいあなたが、おじい様にどんな御用だと言いますの?」
なるほど、この幼女が大広間の前にいたのは村長たちに追い出されたからか……
で、終わるまでここで待っていようとした所に俺が来た、と。
しかし……
この幼女にどう説明したものか……
俺はその“話し合い”に参加しに来たのだと言って、この幼女は信用するだろうか?
まぁ、別に信用されずとも、このまま大広間に入って行ってもいいのだが……ふむ。
ガチャ
俺が“どう話したものかなぁ”と悩んでいたら、突然大広間の扉が開いた。
「おっ! 声がすると思ったら、やっぱ来てたのかロディフィス。
で、お前らそんな所で一体何してんだ?」
大広間から姿を見せた村長が、俺と幼女を交互に見やりながらそう言った。
そんなん俺が聞きたいくらいだよ。
取り敢えず、幼女に尋問されていたと答えたら、村長のやつ爆笑しながら俺と幼女を大広間へと入れてくれた。
大広間には、既に十数人の先客がいた。
見覚えのある顔半分、知らない顔半分……と言ったところか。
その中には神父様やクマのおっさんの姿もあった。
なるほど、ここにいる面子が今回の作業員のリーダーになる連中て事か……
「シルヴィのやつ、自分が追い出された所に、お前が入って行こうとしたもんだから、気に入らなかったんじゃないのかぁ?」
ゲラゲラ笑いながら村長がそんな事を言っていたが、当の本人は、大広間に入るなりタタタッと一目散に、走って行ってしまっていた。
やはり……着ていた服は、ヒラヒラとした可愛らしいものだった。
この村では、逆立ちしても手に入らないような感じのやつだ。
そして、一人の男性の足にひしっとしがみつく。ってーと、あれがあの子のお父さんかな?
で、今度は父親の影に隠れて、先ほど同様、顔だけひょっこり出してまたあの目で俺の事をじぃぃぃぃっと見ていた。
……俺、なんかあの子になんかしたかぁ?
しかし……あの幼女はシルヴィちゃんと言うのか……
俺の守備範囲に入るまでに、あと10年ほどはかかりそうだが、将来有望そうな人材が増えることは、実に喜ばしい事である。
「シルヴィ、ここにいても構わんが、今から大事な話をするから静かにしているんだよ?」
「分っていますわ、おじい様」
「で、ロディフィス。軽く話しておいてはやったが、自己紹介くらいしておけよ?
初めて顔を合わす連中も多いだろうからな」
「あいあい……」
俺は、手近なイスに飛び乗ると、その上に立って一同を見回し、軽く一礼する。
「ただ今ご紹介に預かりました、ロディフィス・マクガレオスです。
一応、この度の案件の発起人になりますので、以後よろしくお願いします」
初顔合わせとあって、まずは丁寧に挨拶だ。
いきなり、村長や村の連中に……彼らも村の住人なのだが……するような態度だと引かれかねないので、初めのうちはネコを被っておく事にした。
俺がそう名乗ると、辺りからはざわ……ざわ……とした響きが起きた。
内容は主に2つ。それぞれまったく別の理由からだった。
1つは、“おいっ! あのロディフィスが丁寧な挨拶をしているぞ!”“神父様意外には禄に敬語も使わないあのロディフィスがっ!”と言う、村人の驚きの声。
……お前らあとでぶん殴るぞ?
で、もう1つが“こんな子どもが?”と言う、戻り組の戸惑いの声だった。
まぁ、外見こんななので戻り組の人たちの反応は理解出来ない事もないけどな……
「父さん、この子が……?」
「ああ、さっき話したロディフィスだ。
こんなナリだが、この村じゃヨシュアの次に博識で頭もいい。外見でナメてかかると痛い目を見るぞ?
こいつとの付き合い方は、こいつを“ガキだと思わない”事だな」
シルヴィちゃんの父親であり、村長の息子の男性と目が会ったので、軽く目礼しておく。
「で、早速で悪いんだが、例の物を見せてやってくれないか?」
「あいよ……」
挨拶も終わり、俺は愛用の鞄の中から丸められた紙をいつくか取り出してテーブルの上に広げ始めた。
俺がよく知る紙よりは、木の皮に近い質感のもので所謂、パピルス紙の様なものだった。
勿論、この紙はイスュから買ったものだ。こんなんでも、結構いいお値段がするんだなこれが……
和紙や洋紙のように、きっちり折り曲げられる程柔らかくないので、賞状や証書のように丸めて持ち運ぶのが普通だ。
ただ、一度丸めるとクセが付いてしまうため、広げるときに丸まってしまうのを防ぐために四隅を重しで押さえる必要があった。
俺が今広げているのは、3枚の図面と、1枚の地図だった。
図面とは勿論、銭湯を建てるのに必要な見取り図や寸法図で、地図は村の周囲を簡略的に記したものだ。
地図は、絵心のない俺が手掛けたものなので、出来栄えは期待しないで欲しい。
なんとなく分かればいいのだ。なんとなくで……
今回は、造るものの規模が規模なので、どうしてもこう言った細かい図面が必要になってしまうのだ。
家くらいなら、割と作りなれている村の連中でも、その何倍も大きい建物となると今回が初めてだろうからな。
誰かが明確な完成図をイメージしながら作業を行わなければ、まともな物など出来はしない。
そのための図面だ。
当たり前だが、この世界にだって長さや重さの単位はあるし、測量技術だって道具だってちゃん揃っている。
その辺に関しては、村長や神父様、それにクマのおっさんなんかが詳しいらしいので任せておけば大丈夫だろう。
ちなみに、長さの最小単位がメントで体積の最小単位がガラフである。
メントは身体尺で、アストリアス王国初代国王の身長を基準にしているのだとか。
だから、1メントで大体170~180cmと言ったところだろうか?分かりにくいなぁ……
で、1メントの1/10のサイズで作った枡一杯分の体積を1ガラフと言う。
単純に17×17×17で約5000立方cmだから、1ガラフ約5Lと言う事になる。
まぁ、初めの頃こそ戸惑いまくったものだが、今となってはこの単位にも、随分と慣れたものだけどね。
「これは……?」
俺が図面を広げると、シルヴィちゃんのパパさん、以下周りの連中が覗き込んできた。
「これが、これから皆さんに造って頂きたいものです」
俺は、図面を前に、さっそく作業の概要を説明することにした。
嬉しい誤算が、一つあった。
それは、この場にいた戻り組の一人が、建築業の経験者だった事だ。
それも日曜大工レベルではなく、それを職業としていた本職の人らしい。
今回、村での作業が建築関係であると知って参加を決めた、と本人が言っていた。
よし、この人を棟梁に据える事にしよう。
村長に一言相談したら、“そのつもりで呼んだんだよ”と言われた。
知ってたなら、早く教えてくれてもよかろうものを……まぁいいか。
で早速、棟梁に図面を見てもらった所、特に問題はないとの事だったので、この図面に従って作業を進めてもらう事になった。
俺は、建築関係の図面など起こした事がないので、逐一村長や神父様、あとはクマのおっさんなんかにアドバイスをもらったり、添削してもらいながらコツコツ進めていたのだ。
ダメ出しされずに済んで、ほっと一安心である。
次に、俺が書いた簡略地図に建設予定地を書き込んで行く。
これに、村長が横から口を挟んできた。
「そこだと、水面まで結構な高さがあるぞ?
もっと、こっちに移した方がいいんじゃないか?」
「ああ、そこはこの間見に行ったんだけど、起伏が激しくて整地が大変になるだろうから却下。
それに、高低差は特に問題にならないから大丈夫だよ」
俺が、そう答えると“そうか”と言って、すごすごと村長は引っ込んで行った。
そして、木材やレンガなど、資材が何処に置かれているかを説明しながら書き込んでいく。
それからは、各種細かい事を順次決めて行った。
俺が実際に作業するのは、ボイラーや水周りの各種魔術陣関係なので、参加するのは後半からだな。
それまでは棟梁たちに任せておけば大丈夫だろう。なにせ、本職さんなんだし。
と、いう訳で作業開始は明日からと決めて、今日のところは解散する事となった。
帰り際……
皆が大広間を出て行く所を見送って、一通り掃けたタイミングで自分も大広間を出ようとした時、
「……ロディフィス……とか、言いましたわね?」
突然、背後からシルヴィちゃんに呼び止められた。
振り返れば、壁に隠れるでもなく、父親に隠れるでもなく、ちゃんと一人で立っているシルヴィちゃんがそこにいた。
「なに? なにか俺に用?」
俺は怖がらせないように、極力優しく声をかけた。
「そ、その……えっと……おっ、大人に混じってあんな難しい話をするなんて、あっ、あなたは大変優秀な人物のようですわね……見所がありますわ。
ですから、私がとっ、とっ、とっ……」
「がっとっと?」
新手のお菓子のタイトルか?
「とっ、特別に、あなたの事を家来にして差し上げてあげますわっ!」
「いえ、結構です」
「ひゃんっ!」
取り敢えず、ソッコーでお断りした。
仲良くなるなら一向に構わないのだが、家来はちょっとなぁ~。
「はっはっはっはっ、違うだろシルヴィ。
キミが本当に言いたい事は、別のことなんじゃないかい?」
そんな俺たちの会話に入ってきたのは、シルヴィちゃんのパパさんだった。
「おとう様……」
パパさんは、シルヴィちゃんの頭を一撫ですると、俺の前に膝をついて視線の高さを合わせてくれた。
「初めまして。僕はテオドア・バヴォーニ。
シルヴィアの父親で、この村の村長の次男だよ」
「これはこれは、ご丁寧にどうも」
俺は、わざわざ膝を突いてくれたテオドアおじさんに頭を下げた。
ふむ、シルヴィちゃんの本名はシルヴィアと言うのか。
あ~、なんか一昔前に(生前の感覚で)そんな名前のムード歌謡の歌手がいたような気が……
「この子は同年代の友達が少なくてね……
もし良かったら、仲良くしてくれないかい?」
俺が同年代……と、言うのは大分違うかも知れないが、仲良くする分には俺としては何の問題もない。
「ええ、家来でなければ喜んで」
「ははっ、よかったねシルヴィ。仲良くしてくれるそうだよ?
ほら、キミからもちゃんと言わなくちゃダメだろ?」
「はい……おとう様……」
シルヴィちゃんは、ゆっくりと数度深呼吸をすると、まっすぐ俺の方を向いてしゃべり出した。
「私は、シルヴィア・バヴォーニと言いますわ。
ロディフィス……よろしければ私の、おっ、おっ、おっ、お前を舎弟にしてして差し上げますわっ!
……はぅ」
もう、グズグズだなこの子……
ってか、舎弟なんて言葉、何処で覚えて来たんだよ?
恐らく、一度目は“友達”と言おうとして、二度目は“お友達”と言おうとして失敗したのだろう。
あがり症なのか、それとも素直に友達になって欲しいというのが照れくさいのか……
どちらにしても、また難儀な子だなぁ……
見かねた俺は、一歩、シルヴィちゃんへと近づくと、すっと手を差し出した。
「家来も舎弟も御免だけど、友達になってくれたなら嬉しいな」
「……あっ」
少しの間だけ、俺の手をじっと見ていたシルヴィちゃんは恐る恐るといった様子で、俺の手を握り返してきた。
そして……
「しっ、仕方がないですわねっ!
そこまでどうしてもと言うのでしたら、お、お友達になって差し上げてもいいですわよっ!
寛大な私に、感謝するといいのですわっ!」
「はいはい、ありがとさん。
んじゃ、これからよろしくなシルヴィ」
「シっ、シルっ……!
で、では……私もあなたの事をろっ、ロディと呼んでもよろしいかしら?」
「好きな様に呼んでくれたらいいよ」
なぜかそう言うシルヴィの顔は真っ赤で、繋いだ手は汗ばむ程熱くて、そして、その手はとてもプニプニとしていた。
視界の端で、肩を小刻みに揺らしながら、これまた何故か涙を流しているテオドアおじさんの事がひじょ~に気になったが、今は気にしないでおく事にした。
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