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ずるい鼠は真面目な牛に恋をする

11.伝えられる事情

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街を出てから4日。旅は順調で、明日の1月1日に無事到着できるだろう。
私たちは神の宮の1kmほど手前で野宿をすることにしており、昨日寄った街で見かけた『てんと』とよばれる簡単に建てられる布製の家のようなものを買っておいた。
地面で野宿するのかと少々不安だったが、昨日の街でウシワカさんが大変気に入って購入したのだ。
ウシワカさん曰く「これがあればいつでも道に迷うことができますね!」とのことだった。
迷ってからの対策よりも、迷わないように努力すべきでは?とも思ったが、できるものならすでにしているか…と言葉を飲み込んだ。
建ててみたてんとは思ったよりも小さく、二人…ギリギリで三人が入れるかくらいの大きさだった。

「さて、ご飯にしましょうか」

そう言ってウシワカさんはてんとに続き感動した保存食とパンを取り出した。
保存食として干し肉とドライフルーツが売られていた。
鼠族では割と普通なのだが、牛族の中では食べ物を干すという発想自体が珍しいらしい。
それで、ウシワカさんは日持ちするその2つに感心したというわけだ。
願わくば、それに甘んじててんとと保存食で生きていかないことを…。

私達はとりあえずパサパサした食事をとり、明日に備えて早めに睡眠をとるということで二人の意見は一致した。
しかし、てんとに2人で入ってみたものの、いつもよりも早い時間にはなかなか寝られないもので、てんとの上の屋根を眺めていた。

「ネムさん?寝られませんか?」

急にウシワカさんに声をかけられたが、特に驚きもしなかった。たった数日しか一緒にいなかったのに、ウシワカさんの存在がもう大きなものになってしまっているのがわかる。

「はい…なんだか、もう明日で終わっちゃうんだなって思うと…」

「俺も同じことを考えていました……。ネムさん、前に叶えたい願いがあるから代表になったと言いましたよね?」

そう言えばそんなことを言っていたかも…。一位を譲るという条件で一緒にここまできていたというだけで、ウシワカさんの事情についてまでは深く気にしてはいなかった。

「ネムさんに、俺の神様への願いを聞いておいて貰おうかと…」

「言っても…いいんですか?」

前はなんだか隠してた気がしたから、嫌なら言わなくてもいいという意味で言ったんだが、ウシワカさんはクスっと笑って大丈夫ですよと言うと、ふぅと息を吐いた。

「俺には前に妹がいて、両親はもう病気で亡くなっていると言いましたよね?実は、妹が両親と同じ病を患ったんです…」

「え…?」

妹さんは今は預かってくれるところがあるってそこに預けてるんじゃ…。

「その病は五臓六腑を蝕み、じわじわと侵食していくもので、いわゆる不治の病と呼ばれるものです」

「そんな…」

そうか…だから一位になって…。

「お察しがついたでしょう…俺に妹を救う手段はもう神様への願いしかない…だから、俺は一位になる必要があった。いえ、ならなきゃいけないんです」

私はその話を聞いて衝撃だった。
なんとなく選ばれて、楽しんで旅をしようなんて思ってる私なんかとは違う。ここ数日で私に見せていた笑顔の裏には、大切な妹さんが助かるか助からないかという瀬戸際だったのだ。
それを思うだけで私はなぜか悲しい気持ちとは違う、虚しいという感覚が私を襲ってきた。

「暗い話をしてしまいましたね。やはり最後だとしんみりしてしまうものですね」

「いえ…そんな…」

正直、なんて言っていいのかわからなかった。
つい昨日までは一緒に笑っていたウシワカさんが急に遠くになってしまったような気がしてしまって、言葉が出てきてくれない。

「もう、寝むれますか?」

「え…?えっと…まだ少し…眠れなさそうです…。ちょっと風に当たってきますね」

私はそのまま逃げるようにてんとから出ていき、しばらく月明りだけの荒野を歩いていた。

「はぁ…」

ただただ、歩きながら何度も乾いたため息を吐くだけだった。
気分とは反対に、心地いい夜風がすぅ…っと抜けていった。

「ネム様」

「ひっ…」

いつのまにいたのか、後ろに見覚えのある人が立っていた。

「あなた…鼠族の…」

「はい。副族長の護衛をしております。スボルといいます」

そういえばよくお父さんの後ろについていた体格のいい人が近くにいたような…。
あれ、でもそれはおかしくないだろうか。
お父さんの護衛さんが来るならわかる。しかし、なぜ副族長さんの護衛の人が来るのだろうか。

「あなたに伝言を預かっております。あなたのご友人を預からせていただきました。無事に解放してほしければ一位で十二支入りを果たせとのことです」

スボルさんの言葉で、私は凍りついたように固まってしまった。




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