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ずるい鼠は真面目な牛に恋をする
1.1族の代表。自信のないネズミ。
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神様のお告げがあった次の日。
鼠族の族長の娘『ネム』こと私は父である『ネオ』に族長室へ呼び出されていた。
「ネム。お前がこの鼠族の代表として、神様の元に行ってもらう。」
「……え?」
お父さんからの急な宣告に私は血の気が引いた。
「な、なんで私なの?」
「これは鼠族の代表の総意だ。族長である私の娘なのだから当然、喜ばしい結果を出せるとな。」
「ちょ、ちょっと待ってよ…私にそんなの…」
「ネム。これはもう決まったことだ。出発するタイミングはお前に任せるが、必ず結果を残せ。いいな。」
お父さんはそれだけ言うと族長室から出て言った。
(私が…代表…?1族の?)
私はふらふらと部屋から出ると何を考えるでもなくとにかく歩いていた。
気がつくと見覚えのある川の橋の上にいた。
いつも私は困ったことがあったり落ち込んだりした時はこの橋でぼんやり川を眺めているのが癖になっているせいか、考えずにでも歩いてここに来るとはと苦笑いをした。
いつものように橋の手すりに両手の肘を置き、ぼんやりと川を眺める。
(何が族長の娘よ…バカみたい…)
『族長の娘』。その言葉が私は大嫌いだった。
いつでも大人達に囲まれヘコヘコと挨拶をされる。
『お嬢様、お父様によろしくお願いします』
『お嬢様、今日はお父様はお出でではないのですか』
いつも言われていた言葉が嫌でも頭の中をこだまする。
そんな父に媚を売りたいが為だけの大人達。
そんな大人に囲まれて育っていれば、当然同い年の友人など限られる…。
よっぽど身分を気にしない人か、親に言われて近づこうとする人か。
「ネ~ムちゃん!」
嫌な記憶から呼び戻すかのように女の子が私の名前を呼ぶ。
「あ…ミスズ…」
「どうしたの?また今日もずいぶん黄昏ちゃってさぁー」
この明るい女の子、ミスズは暗めのブラウンでショートヘアが可愛い子だ。
私が思うに男子にモテそうな見た目をしていると思うが…私の数少ないよっぽど身分を気にしない友人の1人であるせいで恐らく男子も近づけないんだろう。
「うん…昨日神様のお告げがあったじゃない?」
「あぁ、あのじゅうにし?を決めるってやつね。まさかネムちゃんが代表に選ばれちゃったとか?」
ミスズは冗談めかしく笑っていうが私はその言葉に大きくため息を吐いた。
「えっと…マジ?」
「うん…大マジ…」
「うっわーそれはきっついねー」
ミスズも笑顔から一転、まゆを潜めて私の横に同じように手すりに肘をつき、私の顔を見た。
「それ、お父さんに相談とかできないの?」
「しようとしたよぉ…でも相変わらずあの人は聞く気がないみたいで」
「あぁ…やっぱり…」
私はまた大きなため息をつくとミスズはやれやれと言うように苦笑いをした。
「んーでもさ、ネムちゃんいっつも言ってるじゃん?私のことを見てない人たちをぎゃふんと言わせたいって」
「それがなに?」
「今回の十二支の旅を成功させたらちょっとはネムちゃんのこと見る目変わると思うなぁ」
「それは…そうだけど…」
確かに今回の旅を成功させれば多少なり私への見る目は変わるだろう。
でも、なんの取り柄も得意分野もない私がそんな旅を成功させられるとは到底思えない。
「今、なんの取り柄もない私なんかって思ったでしょ?」
「もう…私の心読まないでよぉ…」
「大丈夫だよ!ネムちゃんあれ得意でしょ!あれ!えーと…き、き」
「弓術?」
「そう!それ!」
私は昔、父の付き添いで見た弓術の舞を見たのみをきっかけに弓にどハマりした時があった。
それなりの扱いをできるようにはなったがそれが役に立つ時があるとは到底思えない。
「得意って言っても所詮は趣味レベルのお遊びだよ…」
「まぁまぁないよりいいでしょ?出発するとき教えてよ!お見送り行くから!」
「もう…他人事だと思って…」
私が頬を膨らませて怒るとミスズはごめんごめんと橋の街側へ歩きはじめた。
橋を渡り終えるとクルッと私の方に踵を返した。
「もう決まっちゃったことなんだしさ、せっかくの旅を楽しんでみなよ!」
それだけ言ってミスズはまた街の方へ歩いて行った。
それを見送ると私はまた川に向かって大きなため息をついた。
こんなため息ばかりを受ける川もとんだ災難だと思っているだろうと思い、自分の家への帰路についた。
鼠族の族長の娘『ネム』こと私は父である『ネオ』に族長室へ呼び出されていた。
「ネム。お前がこの鼠族の代表として、神様の元に行ってもらう。」
「……え?」
お父さんからの急な宣告に私は血の気が引いた。
「な、なんで私なの?」
「これは鼠族の代表の総意だ。族長である私の娘なのだから当然、喜ばしい結果を出せるとな。」
「ちょ、ちょっと待ってよ…私にそんなの…」
「ネム。これはもう決まったことだ。出発するタイミングはお前に任せるが、必ず結果を残せ。いいな。」
お父さんはそれだけ言うと族長室から出て言った。
(私が…代表…?1族の?)
私はふらふらと部屋から出ると何を考えるでもなくとにかく歩いていた。
気がつくと見覚えのある川の橋の上にいた。
いつも私は困ったことがあったり落ち込んだりした時はこの橋でぼんやり川を眺めているのが癖になっているせいか、考えずにでも歩いてここに来るとはと苦笑いをした。
いつものように橋の手すりに両手の肘を置き、ぼんやりと川を眺める。
(何が族長の娘よ…バカみたい…)
『族長の娘』。その言葉が私は大嫌いだった。
いつでも大人達に囲まれヘコヘコと挨拶をされる。
『お嬢様、お父様によろしくお願いします』
『お嬢様、今日はお父様はお出でではないのですか』
いつも言われていた言葉が嫌でも頭の中をこだまする。
そんな父に媚を売りたいが為だけの大人達。
そんな大人に囲まれて育っていれば、当然同い年の友人など限られる…。
よっぽど身分を気にしない人か、親に言われて近づこうとする人か。
「ネ~ムちゃん!」
嫌な記憶から呼び戻すかのように女の子が私の名前を呼ぶ。
「あ…ミスズ…」
「どうしたの?また今日もずいぶん黄昏ちゃってさぁー」
この明るい女の子、ミスズは暗めのブラウンでショートヘアが可愛い子だ。
私が思うに男子にモテそうな見た目をしていると思うが…私の数少ないよっぽど身分を気にしない友人の1人であるせいで恐らく男子も近づけないんだろう。
「うん…昨日神様のお告げがあったじゃない?」
「あぁ、あのじゅうにし?を決めるってやつね。まさかネムちゃんが代表に選ばれちゃったとか?」
ミスズは冗談めかしく笑っていうが私はその言葉に大きくため息を吐いた。
「えっと…マジ?」
「うん…大マジ…」
「うっわーそれはきっついねー」
ミスズも笑顔から一転、まゆを潜めて私の横に同じように手すりに肘をつき、私の顔を見た。
「それ、お父さんに相談とかできないの?」
「しようとしたよぉ…でも相変わらずあの人は聞く気がないみたいで」
「あぁ…やっぱり…」
私はまた大きなため息をつくとミスズはやれやれと言うように苦笑いをした。
「んーでもさ、ネムちゃんいっつも言ってるじゃん?私のことを見てない人たちをぎゃふんと言わせたいって」
「それがなに?」
「今回の十二支の旅を成功させたらちょっとはネムちゃんのこと見る目変わると思うなぁ」
「それは…そうだけど…」
確かに今回の旅を成功させれば多少なり私への見る目は変わるだろう。
でも、なんの取り柄も得意分野もない私がそんな旅を成功させられるとは到底思えない。
「今、なんの取り柄もない私なんかって思ったでしょ?」
「もう…私の心読まないでよぉ…」
「大丈夫だよ!ネムちゃんあれ得意でしょ!あれ!えーと…き、き」
「弓術?」
「そう!それ!」
私は昔、父の付き添いで見た弓術の舞を見たのみをきっかけに弓にどハマりした時があった。
それなりの扱いをできるようにはなったがそれが役に立つ時があるとは到底思えない。
「得意って言っても所詮は趣味レベルのお遊びだよ…」
「まぁまぁないよりいいでしょ?出発するとき教えてよ!お見送り行くから!」
「もう…他人事だと思って…」
私が頬を膨らませて怒るとミスズはごめんごめんと橋の街側へ歩きはじめた。
橋を渡り終えるとクルッと私の方に踵を返した。
「もう決まっちゃったことなんだしさ、せっかくの旅を楽しんでみなよ!」
それだけ言ってミスズはまた街の方へ歩いて行った。
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