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10章

二人の協力者

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「ネル」

『はい、サキ様』

「この魔石の解読と転写をお願い」

「かしこまりました」

 私は収納空間に魔石を一度しまう。私とネルは収納空間を共有してるからきっとそのうち解析しておいてくれるだろう。

「さてと、みんなのところに行こうか」

 私たちはパスカルさんの残してくれたものを胸に、部屋を後にした。

「ゴードレットさんのところに向かう前にプレシアとアネットのところにも寄って行きましょうか。あの設計図の内容も煮詰めておきたいですし」

 私たちは一旦、ラルフさんの部屋に向かうことに。

「ラルフさん? 入りますよ」

 部屋の中に入るとさっきまで床に散らばっていた資料の数が倍近い量に増えていた。

「いや、しかし魔欠熱を起こした患者に対しては早急な魔力供給を処置したほうがいいのでは? であるから魔力循環理論に基づく同属性魔法使いからの供給が望ましいのでは?」

「それでは魔力供給時の拒絶反応に一切ケアできていません! 魔力拒絶はいまだに詳細が解明されていなのですから私は解熱剤を投与しつつ、アメミヤ式無拒絶供給法を推奨していのです。それで後遺症が出てしまっては意味がないのですから」

「いや、魔欠熱はそれこそ長時間の放置で後遺症が残りうる可能性が……」

 な、なんか二十代男性と小さい女の子が難病治療について激論してるのってすごい光景だ……。

「プレシア」

「ハッ、先生!」

 先ほどまで真剣な様子で語っていたプレシアの表情がパッと明るくなり私の元に走ってきた。

「先生、用事はお済みになられたのですか?」

「うん、あとはこの塔の魔術師さんたちにお願いをするだけ」

「そうなんですね。ではラルフ様、貴重なお時間をいただきありがとうございました」

「あ、僕は全然まだ……」

「……? 先生が戻られたということはラルフ様も先生に協力していただけるということですよね?」

「う……」

 まだ回復魔法の話をしていたいと思うラルフさんに純粋かつど正論プレシアパンチが刺さったようだ。

「……僕は何をすればいい?」

「はい?」

「だから、君は約束通りプレシア姫様と話をさせてくれただろう。だから次は僕が協力してやる」

 少し照れながらいうラルフさん。最初は話の聞いてくれなさに心配になったけど、約束はちゃんと守ってくれるいい人のようだ。

「それじゃあ、詳しい話はゴードレットさんのお部屋で。その前にエセルさんの部屋に寄って行きますね」

 プレシアとラルフさんも引き連れて次はエセルさんのお部屋へ。
 ノックをしてから扉を開けた瞬間、爆発音と共に炎が迫ってきたので私は反射的にバリアを展開してみんなを守った。
 炎が見えなくなったところで部屋の中を見ると、咳をしながら頭をひねるエセルさんとちょっと怒ってるアネットがいた。

 煙が収まってくると中にはフレアウィップを持つアネットと黒焦げのエセルさんだった。

「けほっけほっ。うむ、言われた通りやってみたが、なかなかうまくいかないものだ」

「こほっ……だから言ったじゃないですの! 出力を二段あげて圧縮後の大きさを変更しないなんて今の段階では無理ですと!」

「む、しかしですね、アネット様の方式を取ればもっと圧縮率上げることも可能で……」

「資料と睨めっこでは得られないこともあるんですの! 私が教えられるのは知識ではなく努力の仕方ですので!」

「アネット~」

 何やらプレシアとは違う方面の揉め事を起こしているが、落ち着かせるために私はアネットを呼ぶと今にも噛みつきそうなアネットの表情もいつものほんわかな表情に戻った。

「お姉さま! 聞いてくださいまし! エセル様ったらあの炎魔法の圧縮させる修行を教えてすぐに出力をあげてしまうんですのよ! あれは扱いを慣れないうちにやってしまうと手元で爆発してしまうというのに!」

「しかし、私の考えた理論なら修行の期間など関係ないかと」

 考え方が研究者だなぁ。魔術師それぞれの実力や性格、得意分野に最近のレオンさんの研究から他の保有魔力まで不確定要素がたくさんあるのに。

「もー! この際だからはっきり言いますわ! エセル様より、私の方が炎魔法の扱いが上手だと言っているのですわぁ!」

 今までの鬱憤を晴らすように、私が思うことを端的に叫び息を荒げるアネット。

「魔術師自身の力量等の検討か……確かにこれは魔力の属性によって生まれる差異とは別物。魔術師自身の資質を考慮する……うむ、興味深い」

 まだ息の荒いアネットに対して勝手に自分で納得してしまったエセルさん。
 アネット、研究者さんって人の話を聞かない人が多いってことを私を見て覚えておかないといけなかったね。

「貴様は相変わらずだな、エセル」

「む? ラルフ、久しいな。貴様が手に資料を持っていない姿など初めて見たぞ」

「まぁ……僕も資料を読んでいたい気持ちではあるが約束を守ってくれたからな。こちらも無碍にするわけにはいかない」

「ほう……」

 エセルさんは少し感心したようにラルフさんを見ると、ラルフさんは照れくさそうに頭を掻いていた。

「この部屋に来たということはもう時間ということだろう? では、私も約束通り研究の手を一度止めよう」

「あ、ありがとうございます」

 私がお礼を言うとエセルさんは部屋から出てきた。

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