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10章

パスカルさんの遺言

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「ゴードレットさん、すみませんがさっきの図面のことはまた後にして、しばらくアリスをおまかせしてもいいですか?」

「アリスちゃんの言っていることはあながち間違ってないのぉ……。まぁアリスちゃんとしばらく話ができるのならこちらは願ったりじゃがな。ささ、ではこちらで話でもしよう。もう一つ茶を淹れねばな」

「あ、お手伝いします!」

「じゃあ私も……」

「へルンさんは私たちを案内してください」

「そ、そうですよね……かしこまりました」

 へルンさんもアリスとの話は興味があるのかな? ゴードレットさんをおじいちゃんと呼んでいるくらいだし、もしかしたらへルンさんも魔石工学にある程度精通しているのかもしれない。
 後ろ髪を引かれるような感じで歩くへルンさんについて行き、再び階段を歩く。

「私はどちらに案内をしたら?」

「パスカルさんが目覚めた部屋へ」

「かしこまりました」

 案内されて三人で部屋の中に入るとパスカルさんと出会った時と何も変わらない状態だった。
 この大きな魔法陣が描かれている真っ白い部屋もなんだか懐かしく感じる。

「この部屋に入れば確か魔石が現れてくれるって……」

 私がつぶやくと謎の光源で明るかった白い部屋が真っ暗になる。
 部屋の中にいる全員が驚いたとき、パスカルさんを復活させもう役割を果たしたと思っていた魔法陣が再び光出した。
 そして光る魔法陣の真ん中には数ヶ月前、私たちのために戦ってくれたパスカルさんの姿が現れた。

「『パスカルさん⁉︎』」

 私の声と魔法陣のパスカルさんの声が重なる。
 一瞬起きたことがよくわからなくて困惑するが、現れたパスカルさんがくすくすと笑っていた。

『サキちゃんならきっとそういうと思って、想像で組み込んでみたけど、予想は当たったかしら? これは私の記憶をサキちゃんに刻んで、それを魔術書塔の魔力で再現したもの。会話をしようとしてもできないから静かに話を聞いてね』

 そ、そんな変なドッキリいらない! テレビは離れてみてね! みたいなノリなんなの!

『サキちゃん。元気にしているかしら。きっと私の元に来たってことはシヴェルデの侵攻はまだ始まっていなくて、ある程度時間がある時だと思う。だから今のうちに私の成果を先に渡しておくわ』

 パスカルさんが杖を横に振ると、壁の中から魔石が一つゆっくりと私の手元に飛んできて、私は両手でその魔石を受け止めた。

『その中の記憶はあなたの優秀な従魔ちゃんに解き方を教えてあるわ。あとで解いてもらってね』

 え⁉︎  ネルいつの間に……。

『それと、私からサキちゃん以外の二人に伝言を頼みたいわ。もしかしたらこの場にいるかもしれないけど、それならそれで手間が省けていいわね。まずはへルンに』

「私ですか?」

 急に名前を呼ばれへルンさんは固唾を飲む。

「へルン。まずはお礼を言うわ。ミーティアとしてこの塔をずっと守ってきてありがとう。おかげで私はずっといえなかったことを、言いたい人に伝えることができた。ありがとう。それで、これは私からあの子の血を引いている研究者としてのあなたへのアドバイス。へルン、旅にでなさい。外の世界はとても刺激的でいろんな魔術師がいる。そして困っている人を助けるようにしなさい。私はリーデルとの旅で一つだけ魔法史で多く語られる基本を見つめ直すことができた。それは魔法というのは人々の『願い』から生まれたということをね。すぐにとは言わない。でも、あなたはこの塔に縛られることはない。私から言えるのはこれだけよ』

 そう言って微笑むパスカルさんにへルンさんは深く頭を下げた。

「しかと……しかとその言葉をこの心に刻みました。今まで塔を見守りくださりありがとうございました」

『次はレオン君』

「僕? 意外だな」

『レオン君、君が私の魔力属性選別否定論の本を読んでその中から自分の仮説を立てたものを聞かせてくれたね。その答えは概ね正解。あとはあなた自身があなたのことを信じてあげられるかだよ。大丈夫、初めて君は魔術というものの壁にぶつかっていると思うけど、君には才能があるから。それともこう言ったほうが君には後押しになるかな。実は私の魔法属性は炎と風と空間と特殊属性だったんだよ」

 え、でもパスカルさんは前の戦いで闇魔法を……。
 パスカルさんの言葉を聞いてレオンさんはふっと笑っていた。

「ありがとうございます。がんばります」

 私にはわからないけどレオンさんにはパスカルさんの言葉の真意が伝わったみたい。
 レオンさんがお礼を言ったところでパスカルさんの体が薄くなり始める。
 
『さて、これでこの世界に私の姿が現れることはないわ。サキちゃん、あなたへの言葉は……もう特にないわ。あとは私の成果…‥魔法と語りましょう』

 パスカルさんの映像はそのまま消えていき、部屋は再び灯りがついた。
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