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7巻

7-1

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 私――雨宮咲あめみやさきの一度目の人生は、不幸続きだった。死に方だって、落雷に打たれるなんていう信じられないものだったし。
 だけどそれは神様の手違いによるものだったらしいの。
 それを申し訳なく思った神様――ナーティ様は私にあやまりつつ、剣と魔法の異世界・シャルズに転生させてくれた。たくさんの才能と、頼れる子猫の従魔じゅうまネルとともにね。
 こうしてサキ・アメミヤとして第二の人生を送り始めた私は、王都エルトにあるアルベルト公爵家こうしゃくけの養子になった。
 当主のフレル様とその奥様であるキャロル様――今ではパパとママって呼ばせてもらっているけど――そして、二人の子供であるフランとアネットの四人は、私を家族としてむかえてくれたの。
 それだけじゃない。魔法を習うために通っている学園では、ブルーム公爵家の一人娘で面倒見めんどうみのいいアニエちゃん、洋服作りが得意で、最近写真をる楽しさにも目覚めたミシャちゃん、そしてすぐ調子に乗るけど素直すなおな男の子オージェとも、仲良くなったんだよね。
 そうそう、最近は学園一強いクロード公爵家次男のレオン先輩……違った、この間から『レオンさん』って呼ぶようになったんだ。
 気を取り直して。レオンさんと一緒に行動することも増えたの。学園の長期休暇ちょうききゅうかを利用して泊まりがけで遊びに行ったり、一緒に魔道具を売るためのお店を作ったり、いろいろなことをしているんだ。
 だけどこの間は、大きな勘違かんちがいをした結果、迷惑めいわくをかけてしまった。レオンさんはそれでも私を気遣きづかって、私のために頑張がんばってくれたんだ。
 そんな一件の中で私はレオンさんが好きなんだって気付いて……うう、ちゃんと言葉にするとずかしいよぉ!
 ……それはさておき。お店もオープンしたばかりだし、学園も始まったし、これからおおいそがし! 気を抜かないようにしなきゃね!



 1 恒例の行事


『たぁー!』

 観覧席かんらんせきの上空にある大きな画面に、ほのおまとった状態でけ抜けていくアネットがうつし出された。
 私のお店『アメミヤ工房』が王家と契約けいやくをしてからちょうど一ヶ月後の今日は、初等科三学年のクラス対抗戦の日。そう、三学年になったアネットのデビュー戦である。
 初等科三年生は、二十人のクラスが六つあり、一クラスにつき四チームが作られる。それによってできた計二十四チームがトーナメント方式で戦うのだ。
 きそう内容は、【オブジェ破壊はかい戦】。自分と相手の陣営にそれぞれ三つのオブジェが設置されていて、先にそれらを全て破壊したほうが勝ちだ。
 ちなみに時間制限もあり、三十分経過した段階で試合は終了。破壊数が多いチームが勝利となる。
 いつもの五人――私、アニエちゃん、フラン、ミシャちゃん、オージェで三学年対抗戦を見学しているんだけど、アネットは初戦からずっと破竹はちくいきおいで相手のオブジェを破壊し続けている。
 アネットは私から魔法の、クロード家長男のレガール様から体術の特訓を受けていて、しかも努力も欠かさないから、他の同学年の子たちよりも明らかに実力が頭一つ抜けているんだよね。
 頭一つどころじゃない気もするけど……。
 まぁ、そもそも入学する前から私とフランと一緒に魔力操作を特訓しているアネットの相手をするなんて、同学年の一般生徒には荷が重すぎる話ではあるか。
 でも、決勝戦の相手は同じく公爵家であるカルバート家の長男、リック様。
 彼も同学年の中ではかなりの実力者らしいけど……。
 そんなことを考えていると、ちょうどリック様とアネットが声を上げる。

『お前たちは両はしのオブジェを守れ!』
『あなたたちは全員で右へ! 真ん中と左はわたくしが受け持ちます! 確実に落としてくださいまし!』

 そうして、アネットとリック様は、対峙たいじする。

『今日も……私が勝つ!』
『今日は……俺が勝つ!』

 二人は駆け出しながら、魔法を放つべく構えた。


 ◆


第一シグルフレア!」
第一シグルグランド!」

 リックと同時に、私――アネットは魔法を放ちました。
 炎の弾丸と土の弾丸だんがんがぶつかり、ぜる。
 この世界にはフレアアクアウィンドエレクトグランドウィードライトダクネ空間ディジョン治癒ヒール特殊ユニクという十一種類の魔法属性がありますの。
 しかも魔法は、り返し使用して経験をむことでスキル化させたり、発動過程を簡略化かんりゃくかさせたり、オリジナルの魔法を生み出したりと、応用もきますわ。
 スキル化した魔法は、強さや難しさによって第一シグルから第十デキャルまであるナンバーズに分類され、どのランクの魔法も一度発動できればその後はずっと使えるのです。
 それだけでなく、魔法の飛距離をばす【ア】、速度を速くする【ベ】、効果時間を延ばす【セ】、操作性を高める【デ】といったワーズや、魔法に複数の属性を付与するエンチャントなどと組み合わせてさらに強化できますわ。
 とはいえ人によって向き不向きがあるので、一般的には生まれつき魔法が得意だと言われている貴族ですら、多くて五、六種類の属性しか使えませんけれども。ただし、サキお姉さまは特別でして、生まれつき全ての属性への適性があるのですわ!
 そして私とリックは、お互い炎魔法と土魔法を第一シグル級にスキル化しておりますの。
 しかし、悔しいですがリックの方が魔力量は上……持久戦になっては私が不利ですわ。

「アプレント第二ダブルグランド!」

 リックが地面に手をつくと、周囲の地面から土がつるのように伸びて私に向かってきます。
 そのナンバーズのスキル化ができていなくとも、【アプレント】を頭に付けてとなえれば持続力などは下がるものの、威力はそのままに魔法を発動させられます。おまけにこれによって、早くナンバーズとして習得してスキル化できると教えられていますの。
 これまでは第一シグル級の魔法しか使っていなかったのに……驚きですわ! リックもこの決勝戦に備えて新しい技術を身につけているということみたいです。
 でも、私だって!
 私は目をらし、相手がどのような魔法を使うかを読み、最小限の動作でけてみせます。

「何っ!?」

 おどろくリックを見て、内心ほくそ笑みます。
 ネルちゃんの言う通り、動きがよく見えましたの!
 前にネルちゃんとたわむれている時に言われたことを指針にして、トレーニングをしてきて、正解でしたわ。
 ネルちゃんは私に『アネット様の目は私の目と似てますね、動きを素早すばやとらえるねこの目です』と言っていました。それから速く動くお姉様をひたすら目で追うように心がけた結果、私は一つのスキルを得ましたの。

「これが私のスキル、【猫の目キャットアイ】ですわ!」

 このスキルときたえた魔法で、リックを倒しますの!
 猫の目は動体視力や周辺視野を向上させ、物の動きを正確にとらえるスキル。
 土魔法は攻撃こうげき速度の遅いものが多いから、猫の目を使えば、さほど速く移動できない私でも正確に避けられるのです。

「くそっ! 当たれ!」

 リックはそう叫びながら、私に向かって土魔法を何度も放ってきます。
 しかし、それでも私には当たりません。
 すると、今度は手数が増していきます。
 すごい魔力量……やはり油断できませんね。
 ですがリックは体術が苦手ですし、接近戦に持ち込めば、押し切れますの!

「アプレント第三トリルフレア……」

 炎を……引き延ばすように……。
 頭の中で魔法で作り出すものを丁寧ていねいに想像し、そして……発動する。

「【炎の鞭フレアウィップ】」

 やった! 上手うまくできましたの!
 私は内心魔法がしっかり発動したことに喜びながらも、炎でできたむちを飛んでくる土の弾に向けて振るいます。
 土の弾にれた瞬間しゅんかん、炎の鞭はぜてリックの魔法を粉々こなごなにしました。

「なん……だと」

 リックは、驚きを隠せない様子です。

「これはお姉さまからの教えを昇華しょうかして生み出した、私のオリジナル技ですわ。圧縮あっしゅくした炎をしならせて振るい、触れた対象を爆発させますの」

 お姉さまの教えを守り、私なりに悩みながら練習を重ね……気付くと身についていましたの。
 ネルちゃんいわく、この歳にして自力でオリジナル技が使えるようになるのはとてもめずらしい、とのこと。
 つまりこれは……私とお姉さまのきずな結晶けっしょう
 負けるわけがないんですの!

「負けてたまるか!」

 そう口にしながらリックがってくる魔法を炎の鞭で壊しながら、私は距離を詰めます。
 そしてリックの間合いに入る直前に、私は鞭を地面に叩きつけました。
 砂埃すなぼこりが立ち、リックはキョロキョロと周囲を警戒けいかいしています。
 でも、猫の目でリックの動きはお見通し!
 私はリックの死角に回り、構えます。
 足で地面をつかみ、み込みながらこしを回し、力をうでへと伝える。そして、手に集めた魔力を叩き込むんですの!

「エルト国式体術・一番【衝歩しょうほ】!」
「がはっ!」

 私のてのひらが、リックの横腹に突きさりました。
 リックは苦悶くもんの表情を浮かべながら、倒れます。
 レガールさまから教えていただいた体術と、お姉さまから教えていただいた魔法と魔力操作……全てを使い、リックを倒したのです!
 見てくださいましたか、お姉さま……アネットも少しはお姉さまに近づけましたでしょうか。英雄えいゆうの妹にふさわしい動きが、できていたでしょうか……。
 さっきまでの自分の動きを頭の中で反芻はんすうしてから、首を左右に振る。
 こんなことで満足していてはいけませんわね、お姉さまへの道はまだまだ遠いんですの!
 私は少しだけうわついてしまった心をおさめて、オブジェを破壊しに向かうのでした。


 ◆


 アネットのチームがリック様のチームを倒し、三学年クラス対抗戦で優勝したのを見届けて、私――サキはほっと息を吐いた。

「はぁ……」

 アネットは昨日までずっと魔法の特訓とか、作戦の考案とかを夜遅くまでしてたから、もしこれで負けちゃったらと思うと、心配でしょうがなかったんだよね。

「アネットちゃん、すごい活躍かつやくだったわね」
「本当に。いったい誰に似たんだか」

 フランはアニエちゃんの言葉にそう答えてから、『君のことだよ』と言わんばかりに私の方を笑顔で見つめてくる。
 私はぷいっとそっぽを向く。

「きっとフランでしょ。接近戦の前に地面を爆破して視界をうばう作戦とか、発想が同じだもん」
「いやいや、僕ならもっと確実な方法を選ぶよ。あれは、地面が土じゃないとれない手段だしね。アネットは地面が土かどうかなんて、きっと考えていなかったさ」
「じゃあフランならどうするんすか?」

 そんなオージェの言葉に、フランのひとみがきらっと光る。
 そこから男の子二人は、戦術について話し込んでしまう。
 まったくもう、これだから男子は。

「でも、あの魔力コントロールの繊細せんさいさはサキちゃんを思わせるものがありましたよ」

 ミシャちゃんにそう言われて少しほこらしい気持ちになり、私は胸を張る。

「私が教えた魔力コントロールの練習を続けていたからね」

 そんな風に話をしていると、画面にアネットが映し出された。

『えーそれでは、大会中最もオブジェを破壊した選手、アルベルト家のアネット選手にインタビューです!』
『今日はMVP間違いなしの、すごい活躍でしたね。今のお気持ちをどうぞ』

 インタビュアー二人にマイクに似た魔道具を向けられたアネットは、満面の笑みで答える。

『まずは私に体術を教えてくださったクロード家のレガールさまに感謝を。そして……お姉さま! アネットはやりましたの! あの素晴すばらしい魔法も、魔力の扱いも全てお姉さまの的確かつお優しいご指導のおかげです! 本当にお姉さまの指導は――』

 そこからアネットの姉語りが始まってしまう。
 私は顔から炎魔法が出そうなほど恥ずかしくなって、顔を両手でおおうしかなかった。


 やっとインタビューが終わり、私は息を吐いた。

「まったくもう……」

 私が火照ほてほおに手を当てながらそうつぶやいたのを聞き、アニエちゃんが優しく微笑ほほえむ。

「ふふ……アネットちゃんは本当にサキが好きね」
「それは嬉しいことだけどぉ……」

 姉離れができるのか、私は心配だよ……。
 もう一度ため息を吐く私を横目に、アニエちゃんは手をパンと叩く。

「さてと、私たちも頑張らないとね。明後日の対抗戦」
「うん!」

 五学年の私たちの対抗戦は、明後日だ。
 アネットは私と代表戦に出るのにあこがれているので、私も頑張らないと。

「それに、五学年だからアレもあるしね」
「あぁ、アレね」

 フランとアニエちゃんはうなずき合っているが、私はなんのことかわからず、首をかしげる。

「アレ?」
「サキは知らないの? 五学年は対抗戦の他にもう一つ行事があるのよ」
「え、何それ? 知らない!」
「学習発表会。生徒が自分たちでげきを作って、披露ひろうするの」

 私はちょっと予想外なアニエちゃんの返答に、キョトンとしてしまうのだった。


 二日後、私たちは苦戦することもなく対抗戦で優勝したんだけど、そのさらに翌日。
 ホームルームで、先生が言う。

「は~い、皆さん。今年も対抗戦お疲れ様でした。今年もうちのクラスのサキちゃんはMVPに選ばれたので、春の代表戦に出場しま~す。拍手はくしゅ~」

 クラスのみんながパチパチと拍手してくれるので、照れてしまう。

「そして、皆さんにはもう一つ、学習発表会というイベントに参加してもらいます」

 先生はそう言いながら黒板こくばんに『学習発表会』と書いたあと、その下にも何かを箇条書かじょうがきにしていく。その内容は先生の体に隠れて、よく見えない。

「毎年、五学年はこの学習発表会で劇の発表をしています。題材は毎年決まっています。皆さんのよく知る、勇者伝説です」

 先生が少し横に移動すると、『アクアブルムの戦い』や『旅立ち』、『魔王との戦い』といったワードが全部で六つ書かれているのが見えた。

「各クラスがこれら六つのテーマの中から一つずつ劇にして、披露します。劇の内容、練習日程、演出に衣装いしょうまで全て皆さんで考えて作るんですよ? そして私たちのクラスが披露するのは……『魔王との戦い』になりました~」

 クラスのみんなが「おぉ~」と声を上げる。
 いいテーマだったってことかな……?
 勇者伝説にあまりくわしくない私は、共感できないので微妙びみょうな顔をするしかない。

「それではここからは、クラス長のアニエちゃんに引きぎますね」

 先生はそう言ってアニエちゃんをニコニコと見つめる。
 アニエちゃんは頷いてから、教室の前に出て話し始める。

「それじゃあここからは私が進行するわ。私たちのクラスは全員で二十人。必要な役割は作家、演者、衣装、小道具、演出……などなど。意外とやることは多いわ。だから、一人二つ以上役割があるって覚悟しておいて。で、早速だけどざっくりと決めていきましょうか」
「はい! 私は作家と衣装係でお願いします!」

 いつもはひかえめなミシャちゃんが、すかさず手を挙げた。
 その様子を見て、アニエちゃんが苦笑いしつつも頷く。

「適任だと思うわ。それじゃあ次に演者を――」

 アニエちゃんがしゃべり終える前に女子からフランの名前が、男子からは私の名前ががる。

「僕?」
「わ、私っ!?」

 フランはまんざらでもなさそうだけど、私は首を横にぶんぶんと振る。

「む、無理だよ! 人前で演技なんて無理!」

 すると、フランとオージェ以外の男子から「えー」と声が上がる。
 だけど、アニエちゃんは優しい声で私に聞いてくれる。

「それじゃあサキは何がしたい?」
「え? えっと……え、演出とか……」

 私が小さな声で言うと、アニエちゃんはサラサラと黒板に『演出:サキ』と書いた。


 放課後。
 今はミシャちゃんを除く四人で、研究所の私の部屋に集まっている。
 あのあと、役割決めは順調に進んだ。
 なぜか演出係の希望者は男子が多くて、アニエちゃんが困っていたけど……。
 アニエちゃんは、呆れた声を上げる。

「それにしても、サキの人気はすごかったわね。あんなに演出希望者が多くなるなんて」
「え、そういうことだったの!? なんで……?」

 フランが、ニヤニヤしながら口を開く。

「サキは僕らの学年のエースだからね」
「うー……みんなも早く強くなってよ……」
手厳てきびしいっすね」

 そんなオージェの言葉にみんなで笑っていると、とびらが開く。
 そこには、本を数冊抱えているミシャちゃんがいた。

「お待たせしましたー。これがうちにある勇者伝説の本です」

 いつも放課後はトレーニングをしているんだけど、今日は研究所で勇者伝説のおさらいをしようということになったのだ。
 家に本を取りに行ってくれたミシャちゃんが席に着くのを待って、みんなにオラジのジュースを用意してから、話し合いスタート。

「それにしても、劇なんてどうやって作るんすか?」
「さぁ……? 去年誰か見に行った人はいるの?」
「いいえ。先生に聞いたんだけど、この行事を始めた時から、四学年より下の学年の子は見に行っちゃダメだって決まっているらしいわよ。先輩の劇を見ちゃうと、似たようなものになっちゃうからって」

 フランの質問に、アニエちゃんはそう答えた。
 なるほど、模倣もほうするんじゃなくて、自分たちでゼロから作ることを大切にしてるんだね。

「まず、皆さんは勇者伝説についてどこまでご存じですか?」

 ミシャちゃんの質問に、アニエちゃん、フラン、オージェがそれぞれ口を開く。

「勇者パーティの伝承話をテーマに、何人もの作家さんが本を書いていて、それぞれ微妙に内容が違うのよね。私は一人の作家さんのしか読んでないけど、一応最初から最後までの流れはわかるはずよ」
「僕もそんな感じだね」
「俺は……」
「あんたはどうせ本なんて読まないでしょ」

 アニエちゃんに図星を指されたようで、オージェがたじろぐ。

「うっ……た、確かに本は読まないっすけど、紙芝居かみしばいとか読み聞かせとかで内容は把握はあくしているつもりっすよ!」
「本当に~?」

 疑わしげなアニエちゃんを見て笑いながら、フランが聞いてくる。

「ははっ。サキは? どこまで知ってる?」
「私は正直、全然わかんないんだよね」

 本はよく読んでいるけど、魔術書や、この世界や国のことについて書いてあるものばかりだったし。

「そうなんですか。それじゃあ一旦私が知っている内容を教えますから、そこからみんなですり合わせていきましょう。全部をすり合わせるとなると時間がかかりすぎちゃうので、今回は私たちの劇のテーマである『魔王との戦い』部分にしぼります」

 それからミシャちゃんは一冊の本を手に取り、昔話を読み聞かせるような口調で語り出した。


 ◆


 昔々、私たちが生まれるよりもずっと昔のお話です。
 勇者一行は旅を続けていました。
 前回の旅のきずやした勇者たちが向かうのは最初の街よりもっと北、一年中雪が降る街・リベリカ。

「ここがリベリカ……か?」

 勇者は驚きのあまり、そう声をらしました。
 白い息もこおりそうな極寒ごっかんの中、勇者一行が目にしたのは、くずれた家々を、ボロボロの衣服に身を包んだ人たちがり起こしている光景だったのです。

「いったい、何があったんだ」
「魔王が現れたのじゃ。街を壊し、怪我人けがにんも死人もたくさん出た。その上で魔王は、家々から食料と金をうばい、北にある城へと去っていった……」

 勇者の疑問に答えたのは、一人の老人でした。
 老人は瓦礫がれき退ける手を止めず、目には涙を浮かべながらくやしそうな表情をしています。
 勇者は、こぶしを強くにぎります。
 なんとむごいことをするのか、この街の人たちに、いったいなんの罪があるのか。
 そんな思いをみ込み、勇者は老人の手伝いを始めました。
 勇者の仲間たちも、手を貸します。
 賢者は皆が寒くならないように空気をあたたかくする道具を作り、怪我も治しました。
 戦士と弓士きゅうしと勇者は崩れた家の片付けと修復に当たります。


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