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今世で幸せな思いをしていたら絶対に笑ってはいけない学園にいました2024
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※お正月特別版です。
目を覚ますと魔法学園の門にいつもの五人で立っていた。
「ここは……魔法学園? でもなんだかいつも何か……雰囲気? が違う気が……」
アニエちゃんが怪しげに声を出して、私も辺りを見回すと確かに何かが違う気がする。
私たちが色々と考えを張り巡らせる中、学園の方から誰かが歩いてきた。
「皆さーん、お待たせしましたぁ~」
いつもののんびりとした声でこちらに歩いてきたのは先生だった。
「先生? 私たちなんでこんなところに集まってるんでしょうか」
「それはですねぇ~こちらのためです!」
先生が右手を上げると、パネルがポンっと浮かび上がった。
「絶対に笑ってはいけない魔法学園2024?」
おそらく先生はこれを見ればわかるだろうと思っていたのかちょっとドヤ顔になってふんすと鼻から息を出したが、残念ながら私たち五人は理解できなかった。
「つまり、笑っちゃダメってこと?」
「なんでっすか? ていうか、2024ってなんの数字っすか?」
「しゃーらっぷ。オージェ君」
先生がパチンと指を鳴らす。
『オージェ君、アウト~』
どこからか謎の効果音と共にオージェのお尻あたりに棒が現れた。
「え? え? なんか体が動かねっすけど⁉︎ って痛ったぁぁぁ⁉︎」
宙に浮いた棒がプロ野球選手もびっくりのスイング速度でオージェのお尻をスパンっと叩いて消えた。
「このように笑うと罰としてお尻を叩かれてしまうので皆さん頑張ってくださいねぇ」
のんびりとした先生に反してお尻を押さえて倒れるオージェに、抱き合いながら震えて見る私とミシャちゃん。
っていうかオージェ笑ってなかったし……。
しーんとした空気の中でおずおずとフランが手を挙げた。
「はい、フラン君」
「えーっと、つまり僕たちはこの笑ってはいけない状況で何をしたらいいんでしょうか」
「今日はいつもの学園生活とは違い、私が適宜案内をしながら学園生活を送っていただくだけです。それじゃあ、みなさん。こちらの門を超えたところから笑ってはいけないルール適応になるますので、今日一日頑張っていきましょう!」
ニコニコで進む先生の後を私たちは困惑と心配半分でついていった。
みんなで門を越えて、私たちの地獄が始まった。
門を通って玄関から学園の中へ。
「あ、みなさん。これを見てください」
先生が廊下の壁に貼ってある紙を指す。
いつもの学園ならこんな紙なかったはずなのに、色々と仕掛けがあるのかもしれない……。
「広報の生徒さんが作成した学園新聞ですね。あ、今年のクラス対抗戦の記事がありますね」
「……んふふ」
『アニエちゃん、アウト~』
急にアニエちゃんが笑い出して逆に私はびっくりしてしまった。
「え、え、ほんとに体動かないんだけど⁉︎ 痛あぁ!」
アニエちゃんのお尻が叩かれてから壁の新聞を指す。
「こんなん誰でも笑うでしょ……」
アニエちゃんが指す記事を他の四人で見ると、中等科一年対抗戦の写真にラロック先輩が思いっきりスープレックスをかけられている写真だった。
「ふふっ……」
『サキちゃん、アウト~』
「えぇ⁉︎」
今のセーフだと思うんだけど⁉︎
っていうか本当に体が動かない⁉︎
「痛っ」
ん……? 想像より痛くない……あ、私物理耐性のスキルあるんだっけ?
ラッキー!
「これ、写真もだけど記事の内容がやばいですね」
「そうそう、それよ」
ミシャちゃんにそう言われて記事を見てみる。
[MVPへの下剋上。万年二位、怒りのスープレックス]
「……っ」
が、我慢……ここは気合いで我慢……。
私は顔にグッと力を入れて笑わないように我慢した。
「さ、いきましょうか」
先生に言われて廊下を進む。
「おい! お前ら最近弛んでるぞ!」
廊下を曲がった先で生徒が三人、男の先生に怒られていた。
「ふふっ」
生徒を見て、つい笑い出してしまった。
だって、生徒三人のうち、端に立っていたのが制服を着た白髪のロンズデールだった。
「最近、遅刻ばかりしてるな。お前はなんで遅刻したんだ」
「家で、本に夢中になって寝坊してしまいました」
「よし、行け!」
「はい!」
え? それでいいの?
「お前はなんで遅刻したんだ」
「一時間目の授業が嫌いで、サボってました」
「よし、行け!」
「はい!」
だからそれでいいの?
そして、一人残ったロンズデールの前に先生が立つ。
「お前は、なんで遅刻した」
「あの、友人が怪我をしたんで、治療院へ連れてってました」
ロンズデールが理由を話した瞬間、先生が思いっきりビンタした。
それを見て私たち五人は下や斜め上を見て笑わないように我慢する。
「なんで遅刻したんだ」
「友人が怪我……」
今度は全部言い切る前にビンタされるロンズデール。
「ゆう」
2文字でビンタ⁉︎
「えぇい!」
先生がロンズデールを引きずってそのまま退場していった。
「あんなのダメでしょ!」
「あ、あんな歳の人がビンタされるの初めて見たよ……」
『全員、アウト~』
アニエちゃんが怒りながら引きずられていったロンズデールが写る窓を指して、フランが想像よりツボってた。
全員がお尻を叩かれてオージェとアニエちゃんが「あぁ!」と叫び声を上げる。
フランとミシャちゃんも叩かれたはずなんだけど、お尻強いのかな……。
「皆さんも真面目に登校しましょうね。さ、いきましょう」
先生について行き、普段の教室ではなく前世の学校にある机が5人分のある教室へ入るように言われた。
「それでは、後から呼びに来ますのでしばらくこちらで待機をお願いします」
私たちはそれぞれ名前が書いてある机について、ほんの少しの休憩。
「はぁ……いったいなんなのよ」
「まぁまぁ、恒例の年越し企画なんじゃないかい?」
「毎年ですよね~」
みんな適応が早いなぁ。
まぁ私もちょっとこの状況を楽しみつつあるんだけど。
「……ん?」
私がふとオージェの机が気になって聞いてみる。
「オージェ、机に何か入ってない?」
「え?」
私に言われてオージェはガサガサと机を漁り何か掴んで取り出した。
「…………ふっ」
『アニエちゃん、アウト~』
「え⁉︎ 今の絶対大丈夫だったってば! あぁ!」
オージェの机の中には袋とかに入っていないコッペパンだった。
「……不衛生じゃないの」
「…………」
「…………ふふ」
『フラン君、アウト~』
アニエちゃんがそう呟いて席に座りしばらく無言でフランと見つめ合ってるとフランが急に笑い出した。
「いや、不衛生とかそういう問題じゃないって言うかさ、あぁ!」
あ、フランも痛いことは痛いんだね……。
そのほかにも色々仕掛けがあって、バタバタとする中、先生が教室に入ってくる。
「それでは最初の授業の魔法薬学にいきますので、調合室に向かいましょうか」
先生に再びついて調合室に向かう途中、外に出る吹き抜け廊下を歩いていると校庭の方から声が聞こえた。
「ちょっと! ちゃんとやんなさいよ!」
「そんなんだからいつもへたれてるのよ!」
「あ、先輩方が何やら訓練してるみたいですね。ちょっと見てみましょうか」
そう言って先生が足を止めるので校庭の方を見ると、ママとミシュリーヌがなんか前世で『なんそれ!?』のネタでブレイクした芸人さんバリの翼を生やしたパパをすごく怒っていた。
「ふふふ……」
『ミシャちゃん、アウト~』
急にミシャちゃんが笑い出してお尻を叩かれる。
「いえ、意外と大人の方の制服もありだなと思って……」
ミシャちゃんが落ち着いたところでみんなで校庭を見る。
「こんな翼を担いで空が飛べるわけないだろう」
どうやら空中浮遊の魔法を試しているようだ。
「何言ってるのよ、翼があれば高く飛び上がれるでしょう!」
「そうよ! あんたの気合いの問題よ! とりあえずもう一回やってみなさい」
いや、その暴論もどうかと思うけど……。
二人に言われてパパが飛ぼうと構えて魔法を発動させる。
魔法陣が出てパパがジャンプすると、翼から急に火花が飛び出してパパが飛んでいった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「と、飛んだわ!」
「追いかけましょう!」
パパが明らか想定していなかった叫び声をあげて花火みたいに飛んでいくのをママとミシュリーヌは追いかけて走っていった。
『オージェ君、フラン君、アニエちゃん、アウト~』
「あんなん笑うしかないっすよ! 痛い!」
「人の親に何してんのさ……あぁ……」
「気合いで飛ぶって何よ! あぁ!」
私とミシャちゃんはなんかポカンとその状況を見てしまって笑えなかったけど、よくよく考えるとすごいシーンだった……。
「先輩方は勉強熱心ですね、ではいきましょう」
廊下を進み、調合室に入ると教壇には大きな帽子を被ったパスカルさんが立っていた。
先生に促されて席に着くとパスカルさんがパンっと手を叩いた。
「はい、それじゃあ魔法薬学を始めます。魔法薬学は奥の深いとても重要な学問です。今日はみなさんにそんな魔法薬学の面白さを知ってもらうために私が調合した魔法薬の効果実験に付き合ってもらおうと思ってます。それじゃあ入ってきて」
先生が人を呼ぶと三人の生徒が入ってきた。
「えっ」
「ふふふ……」
『全員、アウト~』
教室に入ってきたのは制服を着た学園長先生、リーデルさん、さっき飛んで行って着地に失敗したであろう土や葉っぱがついた翼の生えたパパだった。
「だから僕の身内ネタやめてってば、あぁ!」
「こんなの身内じゃなくても笑うからね、あぁ!」
三人が前に並ぶとパスカルさんは魔法薬を四本取り出して1本ずつ渡していく。
「はい、それじゃあ順番に飲んでいって」
パスカルさんに言われてまずは学園長先生が魔法薬を飲むと、学園長先生自慢の長い髭が30cmほど伸びた。
そしてしばらくの沈黙。
「……ぶふっ」
『オージェ君、アウト~』
「いや、なんかリアクションとかあるっすよね……効果も地味っていうか、痛っ!」
「これはお髭が伸びる調合でしたね。はい、じゃあ次」
次はリーデルさんが飲む。
「うっ……!」
リーデルさんが急に胸を押さえて苦しむ様子を見せ、落ち着いてきたのか私たちの方を見ると急に体がピカーっと光出した。
「……あははは!」
「ふふっ」
『サキちゃん、オージェ君、アウト~』
「なんでずっと私の方見てくるんですか! 痛っ」
「だからさっきから効果が地味なんすよ! あぁ痛い!」
私とオージェ君がお尻を叩かれて座るとアニエちゃんとフランが「オージェはこのネタダメね」と話しているのを聞いて笑いそうになったがなんとか耐えた。
「はい、それじゃあ最後。飲んでみて」
パパが魔法薬を飲むと、しばらくして背中の翼から再び火花が散り始めて、翼だけが飛び上がり天井にがんっとぶつかって床に落ちた。
「……ふふふ」
「……ふっ」
『フラン君、オージェ君、アウト~』
「薬関係なくないっすか……あぁ!」
「も、だめだ。しばらく父様を見れない、痛ぃ」
どうやら薬ネタと身内ネタがオージェとフランのツボをとらえたようだ。
「それじゃあ、一本余ってるからこれを……君、飲んでみて」
「えっ俺っすか⁉︎」
オージェがパスカルさんに指名されて教壇で魔法薬を受け取り、ビビりながらおずおずと飲み干す。
すると、しばらくしてオージェの右手だけが光だした。
「ふふふふ……」
『オージェ君、ミシャちゃん、アニエちゃん、アウト~』
「な、なんで右手だけ……あー!」
「このネタもういいっすよ……痛い」
「しかも結構光強め……」
「はい、みなさんも魔法薬の素晴らしさがわかったと思いますので、勉強頑張ってください」
そこで魔法薬学の授業が終わり、私たちは教室へと戻った。
そこからの授業、教室での出来事、全てが私たちへの笑いの刺客になり、オージェとアニエちゃんのお尻はもう限界そうだ。
教室で待っている中でお尻の話になる。
「なんでミシャとサキとフランは平気そうなの……」
「お尻がもうやばいっす……」
実は私はもうネタはわかっているのだけど、ミシャちゃんがネタばらしをする。
「……実は叩かれる瞬間にだけ魔力をお尻に集中させてまして」
「僕も、ミシャほど素早くはできないからたまに失敗したけど」
「私は物理耐性があるから……」
「あ、あんたたちずるいわよ⁉︎」
「そうっすよ!」
そんな話をしていると先生が教室に入ってくる。
「みなさん、今日一日の授業お疲れ様でした」
「あぁ……長かったっす」
「ほんとよ……いつもの5倍は神経がすり減ったわ」
「それでは門に向かって、最後にしましょう」
先生に案内されて私たちは校門に向かうと、校門前で誰かが横切った。
「……ふふふ」
「あははは!」
『全員、アウト~』
私たちの前を横切ったのはさっきパパがつけてた大きい翼を生やして土と葉っぱまみれのレオンさんだった。
「あ、さっきの会話からこの最後だけ魔力とスキルを消してありますので」
「え? そんな……痛ああぁぁぁ!」
「あぁ!」
「痛っ!」
「痛ぇっす!」
「あぁ痛い!」
みんなで叫び声をあげて、私たちの笑ってはいけない魔法学園が幕を閉じたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
皆様、あけましておめでとうございます!
恒例のお正月特別版、楽しんでいただけたでしょうか。
今年も、恒例の笑ってはいけないバラエティが無くて寂しい思いもあり、もう自分で書いちゃえと書かせていただきました。
昨年も『前世では辛い思いをしたので、神様が謝罪に来ました』を読んでいただき、ありがとうございました。
昨年はちょっと執筆ペースが落ち、目標にしていたひと月10話投稿が叶わず悔しい思いもありましたが、私生活もバタバタとしてうまくいかないものだなと痛感いたしました。
しかし、少しずつでも執筆を続けられたのは、読んでいただいている皆様のおかげだと、感謝で溢れています。
さて、今年はいよいよクライマックスに近づいているこの作品を、もっと楽しんでいただけるようになんとかひと月3話は投稿はしていきたいと思っています!(ハードルがかなり落ちました……)
私ごとではありますが、結婚をして家族も増えましたが、執筆活動もこれまで変わらない(むしろあげたい!)クオリティで頑張りますので今年も2024年も『前世では辛い思いをしたので、神様が謝罪に来ました』をよろしくお願いします!
それでは簡単ではありますが、新年の挨拶とさせていただきます。
初昔 茶ノ介
目を覚ますと魔法学園の門にいつもの五人で立っていた。
「ここは……魔法学園? でもなんだかいつも何か……雰囲気? が違う気が……」
アニエちゃんが怪しげに声を出して、私も辺りを見回すと確かに何かが違う気がする。
私たちが色々と考えを張り巡らせる中、学園の方から誰かが歩いてきた。
「皆さーん、お待たせしましたぁ~」
いつもののんびりとした声でこちらに歩いてきたのは先生だった。
「先生? 私たちなんでこんなところに集まってるんでしょうか」
「それはですねぇ~こちらのためです!」
先生が右手を上げると、パネルがポンっと浮かび上がった。
「絶対に笑ってはいけない魔法学園2024?」
おそらく先生はこれを見ればわかるだろうと思っていたのかちょっとドヤ顔になってふんすと鼻から息を出したが、残念ながら私たち五人は理解できなかった。
「つまり、笑っちゃダメってこと?」
「なんでっすか? ていうか、2024ってなんの数字っすか?」
「しゃーらっぷ。オージェ君」
先生がパチンと指を鳴らす。
『オージェ君、アウト~』
どこからか謎の効果音と共にオージェのお尻あたりに棒が現れた。
「え? え? なんか体が動かねっすけど⁉︎ って痛ったぁぁぁ⁉︎」
宙に浮いた棒がプロ野球選手もびっくりのスイング速度でオージェのお尻をスパンっと叩いて消えた。
「このように笑うと罰としてお尻を叩かれてしまうので皆さん頑張ってくださいねぇ」
のんびりとした先生に反してお尻を押さえて倒れるオージェに、抱き合いながら震えて見る私とミシャちゃん。
っていうかオージェ笑ってなかったし……。
しーんとした空気の中でおずおずとフランが手を挙げた。
「はい、フラン君」
「えーっと、つまり僕たちはこの笑ってはいけない状況で何をしたらいいんでしょうか」
「今日はいつもの学園生活とは違い、私が適宜案内をしながら学園生活を送っていただくだけです。それじゃあ、みなさん。こちらの門を超えたところから笑ってはいけないルール適応になるますので、今日一日頑張っていきましょう!」
ニコニコで進む先生の後を私たちは困惑と心配半分でついていった。
みんなで門を越えて、私たちの地獄が始まった。
門を通って玄関から学園の中へ。
「あ、みなさん。これを見てください」
先生が廊下の壁に貼ってある紙を指す。
いつもの学園ならこんな紙なかったはずなのに、色々と仕掛けがあるのかもしれない……。
「広報の生徒さんが作成した学園新聞ですね。あ、今年のクラス対抗戦の記事がありますね」
「……んふふ」
『アニエちゃん、アウト~』
急にアニエちゃんが笑い出して逆に私はびっくりしてしまった。
「え、え、ほんとに体動かないんだけど⁉︎ 痛あぁ!」
アニエちゃんのお尻が叩かれてから壁の新聞を指す。
「こんなん誰でも笑うでしょ……」
アニエちゃんが指す記事を他の四人で見ると、中等科一年対抗戦の写真にラロック先輩が思いっきりスープレックスをかけられている写真だった。
「ふふっ……」
『サキちゃん、アウト~』
「えぇ⁉︎」
今のセーフだと思うんだけど⁉︎
っていうか本当に体が動かない⁉︎
「痛っ」
ん……? 想像より痛くない……あ、私物理耐性のスキルあるんだっけ?
ラッキー!
「これ、写真もだけど記事の内容がやばいですね」
「そうそう、それよ」
ミシャちゃんにそう言われて記事を見てみる。
[MVPへの下剋上。万年二位、怒りのスープレックス]
「……っ」
が、我慢……ここは気合いで我慢……。
私は顔にグッと力を入れて笑わないように我慢した。
「さ、いきましょうか」
先生に言われて廊下を進む。
「おい! お前ら最近弛んでるぞ!」
廊下を曲がった先で生徒が三人、男の先生に怒られていた。
「ふふっ」
生徒を見て、つい笑い出してしまった。
だって、生徒三人のうち、端に立っていたのが制服を着た白髪のロンズデールだった。
「最近、遅刻ばかりしてるな。お前はなんで遅刻したんだ」
「家で、本に夢中になって寝坊してしまいました」
「よし、行け!」
「はい!」
え? それでいいの?
「お前はなんで遅刻したんだ」
「一時間目の授業が嫌いで、サボってました」
「よし、行け!」
「はい!」
だからそれでいいの?
そして、一人残ったロンズデールの前に先生が立つ。
「お前は、なんで遅刻した」
「あの、友人が怪我をしたんで、治療院へ連れてってました」
ロンズデールが理由を話した瞬間、先生が思いっきりビンタした。
それを見て私たち五人は下や斜め上を見て笑わないように我慢する。
「なんで遅刻したんだ」
「友人が怪我……」
今度は全部言い切る前にビンタされるロンズデール。
「ゆう」
2文字でビンタ⁉︎
「えぇい!」
先生がロンズデールを引きずってそのまま退場していった。
「あんなのダメでしょ!」
「あ、あんな歳の人がビンタされるの初めて見たよ……」
『全員、アウト~』
アニエちゃんが怒りながら引きずられていったロンズデールが写る窓を指して、フランが想像よりツボってた。
全員がお尻を叩かれてオージェとアニエちゃんが「あぁ!」と叫び声を上げる。
フランとミシャちゃんも叩かれたはずなんだけど、お尻強いのかな……。
「皆さんも真面目に登校しましょうね。さ、いきましょう」
先生について行き、普段の教室ではなく前世の学校にある机が5人分のある教室へ入るように言われた。
「それでは、後から呼びに来ますのでしばらくこちらで待機をお願いします」
私たちはそれぞれ名前が書いてある机について、ほんの少しの休憩。
「はぁ……いったいなんなのよ」
「まぁまぁ、恒例の年越し企画なんじゃないかい?」
「毎年ですよね~」
みんな適応が早いなぁ。
まぁ私もちょっとこの状況を楽しみつつあるんだけど。
「……ん?」
私がふとオージェの机が気になって聞いてみる。
「オージェ、机に何か入ってない?」
「え?」
私に言われてオージェはガサガサと机を漁り何か掴んで取り出した。
「…………ふっ」
『アニエちゃん、アウト~』
「え⁉︎ 今の絶対大丈夫だったってば! あぁ!」
オージェの机の中には袋とかに入っていないコッペパンだった。
「……不衛生じゃないの」
「…………」
「…………ふふ」
『フラン君、アウト~』
アニエちゃんがそう呟いて席に座りしばらく無言でフランと見つめ合ってるとフランが急に笑い出した。
「いや、不衛生とかそういう問題じゃないって言うかさ、あぁ!」
あ、フランも痛いことは痛いんだね……。
そのほかにも色々仕掛けがあって、バタバタとする中、先生が教室に入ってくる。
「それでは最初の授業の魔法薬学にいきますので、調合室に向かいましょうか」
先生に再びついて調合室に向かう途中、外に出る吹き抜け廊下を歩いていると校庭の方から声が聞こえた。
「ちょっと! ちゃんとやんなさいよ!」
「そんなんだからいつもへたれてるのよ!」
「あ、先輩方が何やら訓練してるみたいですね。ちょっと見てみましょうか」
そう言って先生が足を止めるので校庭の方を見ると、ママとミシュリーヌがなんか前世で『なんそれ!?』のネタでブレイクした芸人さんバリの翼を生やしたパパをすごく怒っていた。
「ふふふ……」
『ミシャちゃん、アウト~』
急にミシャちゃんが笑い出してお尻を叩かれる。
「いえ、意外と大人の方の制服もありだなと思って……」
ミシャちゃんが落ち着いたところでみんなで校庭を見る。
「こんな翼を担いで空が飛べるわけないだろう」
どうやら空中浮遊の魔法を試しているようだ。
「何言ってるのよ、翼があれば高く飛び上がれるでしょう!」
「そうよ! あんたの気合いの問題よ! とりあえずもう一回やってみなさい」
いや、その暴論もどうかと思うけど……。
二人に言われてパパが飛ぼうと構えて魔法を発動させる。
魔法陣が出てパパがジャンプすると、翼から急に火花が飛び出してパパが飛んでいった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「と、飛んだわ!」
「追いかけましょう!」
パパが明らか想定していなかった叫び声をあげて花火みたいに飛んでいくのをママとミシュリーヌは追いかけて走っていった。
『オージェ君、フラン君、アニエちゃん、アウト~』
「あんなん笑うしかないっすよ! 痛い!」
「人の親に何してんのさ……あぁ……」
「気合いで飛ぶって何よ! あぁ!」
私とミシャちゃんはなんかポカンとその状況を見てしまって笑えなかったけど、よくよく考えるとすごいシーンだった……。
「先輩方は勉強熱心ですね、ではいきましょう」
廊下を進み、調合室に入ると教壇には大きな帽子を被ったパスカルさんが立っていた。
先生に促されて席に着くとパスカルさんがパンっと手を叩いた。
「はい、それじゃあ魔法薬学を始めます。魔法薬学は奥の深いとても重要な学問です。今日はみなさんにそんな魔法薬学の面白さを知ってもらうために私が調合した魔法薬の効果実験に付き合ってもらおうと思ってます。それじゃあ入ってきて」
先生が人を呼ぶと三人の生徒が入ってきた。
「えっ」
「ふふふ……」
『全員、アウト~』
教室に入ってきたのは制服を着た学園長先生、リーデルさん、さっき飛んで行って着地に失敗したであろう土や葉っぱがついた翼の生えたパパだった。
「だから僕の身内ネタやめてってば、あぁ!」
「こんなの身内じゃなくても笑うからね、あぁ!」
三人が前に並ぶとパスカルさんは魔法薬を四本取り出して1本ずつ渡していく。
「はい、それじゃあ順番に飲んでいって」
パスカルさんに言われてまずは学園長先生が魔法薬を飲むと、学園長先生自慢の長い髭が30cmほど伸びた。
そしてしばらくの沈黙。
「……ぶふっ」
『オージェ君、アウト~』
「いや、なんかリアクションとかあるっすよね……効果も地味っていうか、痛っ!」
「これはお髭が伸びる調合でしたね。はい、じゃあ次」
次はリーデルさんが飲む。
「うっ……!」
リーデルさんが急に胸を押さえて苦しむ様子を見せ、落ち着いてきたのか私たちの方を見ると急に体がピカーっと光出した。
「……あははは!」
「ふふっ」
『サキちゃん、オージェ君、アウト~』
「なんでずっと私の方見てくるんですか! 痛っ」
「だからさっきから効果が地味なんすよ! あぁ痛い!」
私とオージェ君がお尻を叩かれて座るとアニエちゃんとフランが「オージェはこのネタダメね」と話しているのを聞いて笑いそうになったがなんとか耐えた。
「はい、それじゃあ最後。飲んでみて」
パパが魔法薬を飲むと、しばらくして背中の翼から再び火花が散り始めて、翼だけが飛び上がり天井にがんっとぶつかって床に落ちた。
「……ふふふ」
「……ふっ」
『フラン君、オージェ君、アウト~』
「薬関係なくないっすか……あぁ!」
「も、だめだ。しばらく父様を見れない、痛ぃ」
どうやら薬ネタと身内ネタがオージェとフランのツボをとらえたようだ。
「それじゃあ、一本余ってるからこれを……君、飲んでみて」
「えっ俺っすか⁉︎」
オージェがパスカルさんに指名されて教壇で魔法薬を受け取り、ビビりながらおずおずと飲み干す。
すると、しばらくしてオージェの右手だけが光だした。
「ふふふふ……」
『オージェ君、ミシャちゃん、アニエちゃん、アウト~』
「な、なんで右手だけ……あー!」
「このネタもういいっすよ……痛い」
「しかも結構光強め……」
「はい、みなさんも魔法薬の素晴らしさがわかったと思いますので、勉強頑張ってください」
そこで魔法薬学の授業が終わり、私たちは教室へと戻った。
そこからの授業、教室での出来事、全てが私たちへの笑いの刺客になり、オージェとアニエちゃんのお尻はもう限界そうだ。
教室で待っている中でお尻の話になる。
「なんでミシャとサキとフランは平気そうなの……」
「お尻がもうやばいっす……」
実は私はもうネタはわかっているのだけど、ミシャちゃんがネタばらしをする。
「……実は叩かれる瞬間にだけ魔力をお尻に集中させてまして」
「僕も、ミシャほど素早くはできないからたまに失敗したけど」
「私は物理耐性があるから……」
「あ、あんたたちずるいわよ⁉︎」
「そうっすよ!」
そんな話をしていると先生が教室に入ってくる。
「みなさん、今日一日の授業お疲れ様でした」
「あぁ……長かったっす」
「ほんとよ……いつもの5倍は神経がすり減ったわ」
「それでは門に向かって、最後にしましょう」
先生に案内されて私たちは校門に向かうと、校門前で誰かが横切った。
「……ふふふ」
「あははは!」
『全員、アウト~』
私たちの前を横切ったのはさっきパパがつけてた大きい翼を生やして土と葉っぱまみれのレオンさんだった。
「あ、さっきの会話からこの最後だけ魔力とスキルを消してありますので」
「え? そんな……痛ああぁぁぁ!」
「あぁ!」
「痛っ!」
「痛ぇっす!」
「あぁ痛い!」
みんなで叫び声をあげて、私たちの笑ってはいけない魔法学園が幕を閉じたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
皆様、あけましておめでとうございます!
恒例のお正月特別版、楽しんでいただけたでしょうか。
今年も、恒例の笑ってはいけないバラエティが無くて寂しい思いもあり、もう自分で書いちゃえと書かせていただきました。
昨年も『前世では辛い思いをしたので、神様が謝罪に来ました』を読んでいただき、ありがとうございました。
昨年はちょっと執筆ペースが落ち、目標にしていたひと月10話投稿が叶わず悔しい思いもありましたが、私生活もバタバタとしてうまくいかないものだなと痛感いたしました。
しかし、少しずつでも執筆を続けられたのは、読んでいただいている皆様のおかげだと、感謝で溢れています。
さて、今年はいよいよクライマックスに近づいているこの作品を、もっと楽しんでいただけるようになんとかひと月3話は投稿はしていきたいと思っています!(ハードルがかなり落ちました……)
私ごとではありますが、結婚をして家族も増えましたが、執筆活動もこれまで変わらない(むしろあげたい!)クオリティで頑張りますので今年も2024年も『前世では辛い思いをしたので、神様が謝罪に来ました』をよろしくお願いします!
それでは簡単ではありますが、新年の挨拶とさせていただきます。
初昔 茶ノ介
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ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
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俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
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地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
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