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6巻

6-3

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 それからしばらくして、私とアリスは研究所を出た。
 なぜ『しばらくして』なのか……それはミシャちゃんが興奮こうふんして私たちの写真を撮りまくったから。
 ……なんだかどっと疲れたよ。
 ともあれ、なんとか研究所を出発してこれから向かう先は王城だ。
 今日の用事、それは私が魔法を教えてあげたこの国のお姫様――プレシアにアリスを紹介することである。

「おっきぃ~……」

 王城を前にして、アリスが呟いた。
 確かに、初めて王城を目の前にするとそう思うよね。
 アリスの手を握って、守衛しゅえいさんのところへ向かう。

「こんにちは、アルベルト公爵家養子のサキ・アルベルト・アメミヤです」
「ああ、サキ様! プレシア姫様が首を長くしてお待ちしておりますよ。そちらの方は?」

 守衛さんは、私と手をつないでいるアリスに目を向ける。
 アリスは緊張しているようで、完全に固まっていた。
 そんなアリスに代わって、私は言う。

「プレシアに会わせようと思って連れてきたんです。事前に王様に許可はいただいています」
「そうでしたか。ではどうぞ」
「ありがとうございます。さ、行こう。アリス」

 私はカチコチのアリスの手を引っ張って王城の中に入った。
 今日はれてるから、たぶんプレシアは中庭にいると思うんだけど……。
 そう結論付けた私は、いったん中庭に向かうことにした。
 ふとアリスの方を見ると、顔が青い。

「アリス、緊張してる?」
「緊張しちゃうよ……だって、これからお姫様に会うんでしょ?」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。アリスと同い年だし」
「そうかもしれないけどぉ……」

 そんな風に話しながら廊下ろうかの角を折れたところで――バッタリ王妃様と会った。
 私が王妃様に一礼すると、アリスもそれに合わせて、慌てて頭を下げる。
 それを見た王妃様の口角が上がった。

「あらあら、王城に可愛いうさぎが二匹も迷い込んでいるようね」
「こんにちは、王妃様。この格好かっこうのことは触れないでください……」

 私はそうお願いしてみたけど、華麗かれいにスルーしつつ王妃様は言う。

「そっちの子うさぎちゃんは例のお店で働く子?」
「……はい。さ、アリス」

 挨拶をするようにうながすと、アリスは頭をバッと上げる。

「は、初めまして! ア、アリしゅ……」

 緊張で早口になったアリスは、自己紹介を綺麗にんでしまう。
 顔がかぁっと赤くなった。
 それを見ていた王妃様はふふっと笑って、アリスの前にしゃがむ。

「王妃様!」

 ドレスが地面についてよごれてしまうことを気にしたのだろう。声を上げたお付きの女性に、王妃様は「よいのです」と声をかけてアリスを見つめる。

「緊張しなくても大丈夫ですよ。ゆっくりでいいから、あなたのお名前を教えてくれるかしら?」
「……アリス・シャンスです」
「そう、アリス。いい名前ね」

 王妃様はもう一度優しい笑みをアリスに向けてから立ち上がり、私の方へ視線を移した。

「これからプレと会うのかしら?」
「はい。王妃様は聞いていないんですか?」
「えぇ、あの子ったらあなたをひとめしたいみたいで、教えてくれないの。たぶんプレは中庭にいるわ。折角ですし、このまま私も一緒に行こうかしら」
「お仕事中ではないのですか?」
「一段落ついたところだから、少し休むくらい問題ないのですよ。さ、行きましょう」

 まぁ、王様と違って王妃様は真面目まじめな方だから大丈夫だよね。
 そのまま私たちが中庭に向かうと、ソワソワした様子でお菓子が並んだテーブルの周りを歩くプレシアが目に入る。
 先頭を歩いていた私に気付くと、ぱぁっと表情を明るくしたんだけど、その後ろに王妃様がいるのを見て固まった。

「ど、どうしてお母様かあさまがこちらに?」

 プレシアは目を丸くして驚きながらも、なんとかそう口にした。
 そんな娘に対して、王妃様はウィンクしてみせる。

「ちょうど廊下でサキと会ったの。今日はもう一人可愛らしい子がいることだし、とても楽しそうだったのでついてきちゃいました」
「でも今日はお仕事が……」
「それなら午前中にほとんど終わったわ」

 サラッと言ってるけど、結構すごいことなんじゃない?
 王様があんな感じでも国のお仕事が成立しているのは、もしかして有能な王妃様のおかげ?
 そんな風に驚いている私の横で、プレシアは複雑な表情を浮かべている。
 王妃様に内緒で私と会いたかったっていう残念さ半分、だまっていたのがバレてしまった気まずさ半分って感じかな。
 だが、そんな反応も慣れっこなのだろう、王妃様はテーブルの方を指差して言う。

「さ、いつまでも立ち話してないで座りましょうか」

 席に着くと、ひかえていたメイドさんたちが紅茶をれて私たちの前に置いてくれた。
 そんなタイミングで、王妃様が切り出す。

「プレとアリスは初対面でしょう? プレ、自己紹介をしたらどうかしら?」

 プレシアはその言葉に頷いて立ち上がると、アリスに向かって丁寧にお辞儀する。

「はじめまして。エルト国王、ヴァンヘイムの長女、プレシア・エルトリアス・ヴェイクウェルと申します」

 プレシアは初めて私と会った時とは全然違う、王族に相応ふさわしい堂々とした態度で挨拶をした。そして顔を上げるとニコッと笑う。
 私が魔法を教えてからというもの、プレシアはどんどん自分に自信をつけてるって王様も喜んでいた。そんな成長を目の前で見せてもらったような気持ちになり、笑みがこぼれてしまう。
 そして、それを見たアリスも慌てて立ち上がって頭を下げる。

「は、はじめまして! サキお姉ちゃんのお店で働かせてもらうことになったアリス・シャンスですっ! よろしくお願いします!」

 それに対して拍手はくしゅしてから、王妃様は言う。

「さて、自己紹介がんだばかりで申し訳ないんだけど、二人でおしゃべりしていてくれるかしら? 私はサキに少しだけ話があります」
「「えっ!?」」

 プレシアとアリス、息がぴったりだ。
 戸惑とまどう二人に、王妃様は続ける。

「二人には内緒の話なので、あちらのテーブルに移動してくれると助かるんだけど」
「うぅ~……わ、わかりました」

 プレシアはやはり王妃様に逆らえないのか、悔しそうにしながらも離れたテーブルの方に移動した。
 まぁ内緒の話だと言われたら押し切ることもできないって感じか。
 そしてアリスは、困ったような表情で私の方を見る。

「えっと、アリスもちょっとだけお願い」

 私がそう言うと、アリスは危なっかしい足取りでゆっくりと向こうのテーブルに向かっていった。
 きっとお姫様と二人でお喋りをするというシチュエーションに、だいぶ緊張しているのだろう。
 ……大丈夫かなぁ、アリス。
 まぁ、プレシアは優しい子だから大丈夫だよね。
 私と、あと回復魔法のことになるとちょっと夢中になっちゃうだけで……だけで……。
 あぁ、どうしよう、ちょっと心配になってきたかも。
 そんな風に考えていると、王妃様がおずおずと声を上げる。

「サキ、せっかくプレに会いに来てくれたのにごめんなさい」
「いいえ、気にしないでください。それで、話というのは?」
「あなたが始めようとしているお店についてです。何を売るのかは王やフレルから聞いています。大変興味深いですね」
「そ、そうでしょうか?」
「はい。現在、平民の中では、男が仕事に行って女は家事や育児を行い、貴族であれば、その家事育児をメイドや使用人に任せている……というのが通例です。しかし、あなたが売ろうとしている商品は家事による拘束時間を短くし、やがては労働力を増やすための足掛かりになるでしょう」

 そんな大それたことを考えていたわけじゃなくて、ただアリスの力を活かしたかっただけなんだけど……。
 ここまで褒められると、何も考えずにお店を出そうとしていた自分がずかしい。
 そう思っていると、王妃様は声を低める。

「しかしその反面で、よくない考えを持っている者もいます。あなたが作り出す商品を軍事利用したいというやからたちです」
「軍事利用……?」
「簡単に言うと、武器や防具、わなに兵器……そういったあれこれに、サキの生み出した技術を転用できるのではないか、と」
「確かに武器を作ることは可能ですが……この服だってその第一段階みたいなものですし」

 私はそう言ってパーカーを少し引っ張ってみせた。
 すると王妃様は驚いた顔をする。

「そんな可愛い服にさえ、何か仕組みがあるのですか?」
「はい。フードを被っていれば、第五クイル級までの魔法を感知して自動でバリアが張られ、攻撃を防ぎます。しっかりテストしたことはないんですけど、第五クイル級の魔法でも三回くらいまでなら受けても大丈夫じゃないかなって」
「そ、それは……すさまじいですね」
「そうですか?」

 うーん、私としてはもうちょっと耐久性があればって思っているんだけど……。
 首を傾げる私を見て、王妃様は少し困っている様子。

「あなたのお店の詳細しょうさいを知る者は限られますし、具体的な商品の情報はおおやけになっていないので、具体的にどう軍事利用するかまでは考えが及んでいないでしょう。ですが、どこで誰が見ているかわかりません。情報の管理や店員の安全管理は徹底した方がよいですよ」
「は、はい……」

 王妃様に言われたことは寝耳に水もいいところだった。
 だって、みんなの生活を豊かにしようと作り出した発明品が軍事利用されるだなんて、思いもしないもの。
 私だけじゃ不安だし、今度レオン先輩と一緒に対策を考えよう。
 そう眉間みけんしわを寄せながら考えていると、王妃様は声を明るくして「とはいえ」と切り出す。

「王も私も、あなたにはとても期待しているのです。これからもこの国の助けになってほしいと思っています。だからこそ、あなたという素敵な人材をよこしまな思いを持つ者のせいで失いたくありません。私たちもできる限り協力します」

 この国のトップにそんな風に思われているなんて、光栄な反面ちょっとプレッシャーだ……。
 私は背筋を伸ばして、頭を下げる。

「はい。ありがとうございます」

 王妃様は優しく微笑んでから、立ち上がった。
 残っている仕事を終わらせなければならないらしい。
 優しい王妃様の期待に応えられるようにしっかり準備しようと決意を新たにしつつ、私はプレシアとアリスの待つテーブルの方へと足を向けた。


 ◆


 私――アリスがプレシア姫様と一緒にテーブルを移ってから、一分くらいがった。
 いや、たぶん一分くらいじゃないかなって思うだけで、緊張のあまり正確な時間はわからないんだけど。
 移動させられてから、プレシア姫様がサキお姉ちゃんと王妃様をあまりにもうらやましそうに見つめているものだから、私は話しかけるタイミングを見つけ出せない。
 うう……初めて会うお姫様相手にどんな話題を選ぶべきかなんてわからないよぅ。
 そんな風に考えて思わずうつむきかけたタイミングで、お姫様の声が聞こえる。

「アリス様……でしたっけ?」

 私は慌てて顔を上げて言う。

「わ、私なんかに様付けだなんて恐れ多いです! 呼び捨てにしていただいて大丈夫ですので!」
「何を言ってらっしゃるんですか。あなたは先生のお店で働かれるのですから、失礼な態度は取れません。それに、私とあなたはとしが同じだと聞いています」
「ですが……」

 しぶる私を見て、お姫様は思いついたような声を上げた。

「それではこうしましょう! あなたには私のお友達になっていただきます。これからはお互い呼び捨てで、敬語もなし!」
「えぇ!?」

 私は思わず驚きの声を上げてしまった。
 プレシア姫様が私を呼び捨てにするのは構わないが、私も呼び捨てにするのは失礼な気がしてしまう。
 兵士の人に聞かれたら私、罪に問われるんじゃ……。
 いろいろな考えが巡り、無言になる私を見て、お姫様はぷくーとほおを膨らませた。

「もう決めたの! アリス! あなたは私のお友達にならなくちゃダメ!」
「あ……」

 お姫様に自分の名前が呼ばれた時、ふわっと体がちゅうに浮くような、そんな感覚に包まれた。
 同い年の女の子に初めて名前を呼ばれちゃった!
 ……それどころか、年の近いお友達なんて今までいなかったもの。
 メルブグではほとんど家の中にいたし、王都エルトでもサキお姉ちゃんのお友達としかお話ししていないし。
 私は熱に浮かされたような心持ちで言う。

「ほっ、ほんとに私なんかでいいのでしょうか!?」

 元々孤児で、体も弱くて、魔法すらまだまともに使うこともできない私なんかが、お姫様とお友達?
 とても嬉しくて、光栄なことだけど……私のせいでいつかお姫様に迷惑がかかってしまうかも……。
 そんな私の暗い考えを払いけるように、お姫様は身を乗り出して、私の手をぎゅっと握った。

「いいの! それとも……私とお友達にはなりたくない?」
「そ、そんなことないです! お姫様とお友達になれるなんて光栄です!」
「じゃあ、アリスも私のことを別の呼び方で呼んで!」

 期待の眼差まなざしを向けるお姫様が可愛くて少し照れくさかったけど、私はゆっくりと口を開いた。

「プレシア……ちゃん」



 結局呼び捨てにはできなかったけど、私の呼び方を気に入ってくれたのか、プレシアちゃんは笑ってくれた。

「うん、それでいいの! あなたのことを教えて! まずはその可愛らしい服から! 先生と同じものだよね?」
「あ、この服はね――」

 それからプレシアちゃんにメルブグでのことを話したり、逆にプレシアちゃんとサキお姉ちゃんとのことを聞いたりした。

 お互いにサキお姉ちゃんに助けられたこともあって、サキお姉ちゃんの話をするとすごく楽しかったし、盛り上がった。
 しばらく話をしていると、王妃様との話が終わったようで、サキお姉ちゃんが私たちの方に合流してくる。
 どうやら王妃様は仕事に戻ったらしい。
 それからは三人で紅茶を片手にいろいろな話をした。
 その時間はメルブグで暮らしている時には思いもしないくらいに素敵で、夢のようで……あっという間に過ぎ去ってしまった。
 だけど、最後にまた会おうねって約束したんだぁ。
 私は初めてお友達ができたことがすごく嬉しくて、帰り道でもサキお姉ちゃんにプレシアちゃんのことばかり話してしまった。



 3 ギルドのひと悶着もんちゃく


 いよいよ今日から新学期だ。
 私――サキは五学年に進級した。
 代表戦でチームメイトだった学園の先輩であるラロック先輩と初めて会ったのが、確か彼が五学年の時だ。
 それに追いついたと思うと、少し感慨かんがい深くもある。

「はぁい、皆さん。今年の皆さんの担任は先生でーす」

 教室に入ってきた先生は、いつも通りののんびりした声で私たちに挨拶をしてから、出席を取る。
 なんやかんや担任の先生はずっと変わらなかったし、アニエちゃんを始めとしたいつものメンバーも同じクラスのままだった。

「さて、皆さん。五学年からは魔力の使い方をより深く学んでいきます。中にはもう使える人もいるようですが、魔力操作がメインの内容ですよー。魔力操作は魔法使いの戦闘において攻撃こうげき防御ぼうぎょ回避かいひと様々な場面で使える重要な技術です。それに加えて戦闘訓練もしっかり行うので頑張っていきましょうね!」

 そんな先生の言葉と共に、授業は始まった。


 あっという間に学校が終わった。
 昨年から科目も増えたし、勉強も楽しくなりそうだ。
 私は荷物をまとめつつ、アニエちゃんに聞く。

「今日も研究所で特訓するよね?」
「えぇ、もちろんよ」

 すると、ミシャちゃんがうっとりしたように言う。

「今日はアリスちゃんにどんな服を着てもらいましょうか……」

 それを聞いて思い出したのだろう、オージェがフランに確認する。

「そういえば今日だったっすよね。二人に魔法を教えるの」
「そうだったね」

 アリスが魔力判別水晶を使った時に魔力が溢れすぎてちょっと危なかったので、キールとアリスには、まず魔力操作からしっかりと教えていこうってなったんだよね。
 でも、二人には魔法を使う楽しさもそろそろ味わってほしい。
 そういうわけで、今日は二人に魔法を使わせてみようってことになったのだ。
 私たちがいれば、うまくいかなくてもフォローできるだろうし。
 ……二人はどんな魔法を使うんだろう。楽しみだなぁ。


 研究所に着くと、キールとアリスが出迎えてくれた。
 二人ともわくわくしているのが見て取れる。
 アニエちゃんがそんな二人に向かって笑いかける。

「こんにちはキール、アリスちゃん」
「おう! アニエ姉!」
「アニエお姉ちゃん、こんにちは!」

 二人はアニエちゃん以外の三人とも楽しそうに挨拶を交わしている。
 すっかりみんなと仲良しになったなぁ。
 それから私たちは荷物を置いて、地下の実験場へ向かう。

「さてと、今日はいよいよ魔法の練習だね。二人とも魔力操作はしっかりできるようになった?」

 魔力操作は魔力を精密せいみつに、かつ自在に操作する技術。二人には魔力を意図した場所に集める特訓をさせているのだ。

「みんなみたいに速くはできないけど、ゆっくりならできるようになったぜ!」
「自信はないけど……私も一応」

 報告してくれたキールとアリスに私は言う。

「十分だよ。なんなら魔力操作って、私たちの学年から学ぶ技術だったみたいだし……」

 さっき馬車の中でその話になったんだよね……魔力操作の技術って五学年から習うんだぁ、どうりで授業でやっていなかったよなぁって……。
 とはいえ、早めにできるようになってそんなことはないだろう。
「え?」ってキールが聞き返してきたけど、私は誤魔化ごまかすようにせき払いを一つして、話題を変えることにする。

「そうそう、そういえば、私が教えたイメージトレーニングもちゃんとやってる?」
「おう!」
「はい!」

 キールとアリスは、そう元気に返事した。

「サキ、イメージトレーニングって?」

 アニエちゃんの質問に答えるべく、口を開く。

「私が魔法を覚えたての時によくやってたの。ほら、魔法ってイメージが重要になるじゃない? だから、魔法を使って何がしたいかを考えておいてって宿題を出していたんだ」
「なるほどね」

 魔法に必要なのは魔力・媒体ばいたい・イメージだって、かつてネルが言っていた。魔力によって作り出したいものの形を明確にイメージする力が向上すれば、それは魔法の技術の上達にも繋がるのだ。
 私は魔法の概念を理解するだけで、経験がなくともスキルを使えるようになる【習得しゅうとく心得こころえ】を持っているから、よりイメージ力が大事だったってこともあるんだけど。
 とはいえ、そうでなくともイメージ力によってどんな魔法が得意かが変わってくる。
 オージェとミシャちゃんがいい例だ。
 ミシャちゃんは、普段から服を作ったり、新作の服のデザインを考えたりと、明確な形を頭の中でイメージする習慣があるから水魔法を自在な形に変化させられる。
 それに対してオージェは形をイメージすることがとても苦手だ。
 だけどその反面、感覚に関するイメージ力はミシャちゃんよりも高い。そのため、電気をまとう魔法【雷電纏エレクトウェア】を習得できたのだろう。
 それじゃあ早速、実践じっせんだ。
 私はキールとアリスに言う。

「さて、それじゃあ二人とも、誰もいない方に手を向けてみて。まずはゆっくりでいいから、しっかりと魔力を手に集める。そうそう……力まず自然な呼吸でね」

 二人は深呼吸しながら、魔力を両手に集中させた。
 キールは器用だから心配していなかったけど、以前魔力を暴発させたアリスも今は落ち着いている。

「そのまま魔法のイメージを固めて、使いたい魔法を唱えてみるの。はい、キールから!」
「……グランド!」

 キールが唱えると、キールの掌から少し離れた空中に土のかたまりが現れる。
 それは段々と大きくなり――やがて、レオン先輩の像ができ上がった。
 近くまで寄ってみると、かなり精巧せいこうだとわかる。髪の毛や服の細かい装飾に至るまで、作り込まれているのだ。

「はぁはぁ……どうだ?」

 相当集中していたのだろう、キールは息を切らしている。
 そんなキールの肩を、オージェが叩く。

「キール、すごいっす! こんなリアルな像、そうそう作れないっすよ!」

 アニエちゃんも、うんうんと頷く。

「驚いた。キール、土魔法の才能があるかも!」
「そ、そうか? へへっ!」

 キールは嬉しそうに笑った。
 土はすぐに成形しないといけないため、土魔法を使う上で最も重要なのは、イメージを細かく素早く固めることだ。そう考えると、器用なキールと相性がいいのかもしれない。
 するとそんなキールに対抗するように、アリスが一歩前に出る。

「次は私!」

 私たちは気合十分のアリスの後ろに立って、見守ることにした。

「イメージ……おっきい炎……炎……」

 アリスは深呼吸を二回した後、大きな声で言う。

「フレアっ!」

 アリスの目の前に巨大な赤い魔法陣が出現し、そこから大きな炎が飛び出した。
 そんなタイミングで後ろの扉が開く音がする。

「サキはいるかい?」

 現れたのは、レオン先輩。
 先輩の目の前で、アリスの炎が先ほどキールの作り出した土の像を呑み込む。
 そしてそれは一瞬でちりと化した。
 その光景に、その場にいた全員が驚きのあまり固まる。
 魔法を発動したアリス自身もまさかこんなに威力いりょくが出ると思っていなかったのか、何も言えずにいた。
 そんな中、レオン先輩が複雑な表情で言った。

「……えっと僕、何かうらまれることでもしたかい?」

 ……この状況、説明難しいなぁ。


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