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5巻

5-1

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 私――雨宮咲あめみやさきは雷に打たれて、生涯を終えた。
 だけど、神様であるナーティ様のおかげで、魔法の世界――シャルズに転生することに。
 前世ではいじめ、虐待ぎゃくたい、パワハラなどを受け続けた不幸な日々を送っていたんだけど、それはナーティ様の弟であるラスダ様の手違いだったみたいで、おびとしてたくさんの才能と、頼れる子猫の従魔じゅうまネルをもらった私は、サキ・アメミヤとして第二の人生をスタートさせたの!
 転生後に私が養子として身を寄せたのは、王都エルトにあるアルベルト公爵家こうしゃくけ
 当主であるフレル様、その奥さんであるキャロル様、そして二人の子供であるフランとアネットが私のこの世界での新しい家族だ。今ではフレル様とキャロル様をパパ、ママって呼ばせてもらっているし、アネットは私のことを『お姉さま』ってしたってくれてるんだよね!
 そして私は魔法を学ぶために学園にも通わせてもらっているんだけど、そこではブルーム公爵家の一人娘で努力家な赤髪の女の子アニエちゃん、水魔法が得意で青髪とメガネがトレードマークの女の子ミシャちゃん、おっちょこちょいだけど誰よりも元気な金髪の男の子オージェと仲良くなって、一緒に勉強も遊びも頑張っているんだ! 
 後、最近は学園一強いクロード公爵家次男のレオン先輩とも魔法や体術の勉強をしていて、以前にも増して強くなっていけてるような気がする。
 そして最近、友達や先輩だけじゃなくて初めての弟子ができたの!
 その弟子っていうのはなんと、王都のお姫様のプレシア! 最初は私に家庭教師なんて務まるのかなって不安だったんだけど、プレシアは回復魔法の才能がすごくある上に、とっても慕ってくれるので、もう一人妹ができたみたいだったんだ。
 だけど、そんなプレシアが急にさらわれてしまって、王都は大混乱!
 フラン、アニエちゃん、ミシャちゃん、オージェ、そしてパパと王様と協力して行方ゆくえを追ってたどり着いた先は、国家反逆組織・リベリオンの基地。リベリオンの幹部であるロンズデールが私たちの前に立ちはだかった。
 それでもなんとかプレシアを助け出すことには成功したんだけど、ロンズデールはプレシアの持つ膨大な魔力を、魔力が宿っていない魔石――からの魔石に封じ込めて逃げていってしまった。
 その魔力を何かに使おうとしているみたいだけど……詳しいことはわかっていないんだよね。
 ロンズデールとの戦いの中で、精神干渉の魔法を乗り越えたことで、私も前のようにオドオドしなくなったし、何があっても絶対に仲間を傷つけさせないんだから!



 1 クレールさんのため息


「はぁ……」

 自室で宿題をしていると、部屋の窓ガラスを拭いていた専属メイドさん――クレールさんが、小さくため息をついた。
 最近クレールさんのため息が多い気がする。
 プレシアを助け出してから一ヶ月が経ったけど、その間私は四学年代表として代表戦に出場したり、テストに追われたりと、忙しくも平和な学生生活を送っていた。
 楽しみはそれだけじゃない。私はプレシアを助けたご褒美ほうびとして、空の魔石をアクアブルムの魔石研究所からたくさんもらった。
 空の魔石にはあらゆる属性の魔力を込めることができる。それによって、魔法陣などを使って魔石のいろんな使い方を研究する学問――魔石工学の研究範囲はアクアブルムの研究員にも負けないくらい広がった。
 そんな順風満帆じゅんぷうまんぱんな私の最近の悩みがこのクレールさんのため息なのだ。
 クレールさんは、ちょっとドジっ子だけど気が利くし私のことを身をして守ろうとしてくれる、大事な人。
 そんな優しくて可愛いクレールさんの悩みを解決してあげたい。でも、人の悩みを無遠慮ぶえんりょに聞き出すのもよくないし……ってこの数日間、ぐるぐると考えている。

「「はぁ……」」

 そんな私のため息と、クレールさんのため息がちょうど重なるのだった。


 次の日、みんななら何かわかるかもと、私はお昼休みにこの話題を出してみた。
 すると、まずフランが少し考えた後に口を開く。

「クレールの悩みかぁ……ちょっと思い当たらないな。お腹でもいてたんじゃないかい?」
「そんな単純な……」

 私はびっくりしてしまうけど、アニエちゃんもフランの意見に同意する。

「でも確かにあのクレールさんの悩みってなかなか思いつかないわね。なんとなくフランの言うお腹空いてたっていう推理がしっくりきちゃうもの」
「アニエちゃんまで……」

 苦笑いする私に、ミシャちゃんが聞いてくる。

「最近クレールさんに何か変わったことはなかったんですか?」
「変わったことかぁ……あ、そういえばこの前、庭で――」

 私は数日前の庭でのクレールさんの様子を思い出す。


「もうちょっと……もう少しでうまくいきそうなんですの‼」
「アネット、頑張って!」

 私はアネットが新しい炎魔法を体得したいということで、訓練に付き合ってあげていた。
 フランも新しい魔法を思いついたらしく、その開発にいそしんでいる。
 この世界にはフレアアクアウィンドエレクトグランドウィードライトダクネ空間ディジョン治癒ヒール特殊ユニクという十一種類の魔法属性がある。それらの魔法は繰り返し使用して経験を積むことでスキル化し、発動過程を簡略化したり、オリジナルの魔法を生み出したりもできるのだ。
 スキル化した魔法は、強さや難しさによって第一シグルから第十デキャルまであるナンバーズに分類され、どのランクの魔法も一度発動できればその後もずっと使えるようになる。
 それだけでなく、魔法の飛距離を伸ばす【ア】、速度を速くする【ベ】、効果時間を伸ばす【セ】、操作性を高める【デ】といったワーズや、魔法に複数の属性を付与するエンチャントなどと組み合わせてさらに強化できるの。
 まぁ魔法にも属性ごとに向き不向きがあるから、一般的には生まれつき魔法が得意だと言われている貴族ですら五、六種類の属性しか使えないんだけど……私は生まれつき全ての属性への適性があるんだ。
 フランはダクネ属性の魔法が得意だから、それを生かした新たな魔法スキルを開発しようとしているんだけど、どうやら苦戦しているみたい。

「サキ、どうもうまくいかないんだ。何か解決策はないかな?」
「うーん、一回空からの視点を見てみるとか?」
「それはいいかもしれないね。ウィムも一緒に行こう」

 私はアネットに「ちょっと待っててね」と告げる。
 そしてダークスワロウのウィムがフランの肩に止まったのを見て右手をフランに出すと、フランが私の手を握った。

「それじゃあ、いくよ」
「よろしく頼むよ」
二重付与ダブルエンチャント・【空中浮遊フロート】」

 私とフランの体がふわっと浮かび、段々お屋敷が小さくなる。
 今回フランが開発しようとしている魔法は、従魔であるウィムと視覚を共有することで上空から偵察ていさつする闇魔法――【視覚共有しかくきょうゆう】。言葉を介さず意思疎通する魔法である【思念伝達しねんでんたつ】の応用なんだって。
 ちなみにウィムと聴覚を共有するスキル【聴覚共有ちょうかくきょうゆう】はついこの間開発に成功した。
 上空からの眺めを知ることで何かつかめるといいけど……。

「やっぱり空中浮遊はすごいね。眺めがいい!」

 笑みを浮かべながら言うフランに、私は聞く。

「参考になりそう?」
「うん。ウィムはいつもこんな景色を見ているんだね。ちょっとうらやましいよ」

 そう言ってフランはウィムの頭をでた。

「ずっと見ていたらきちゃうんじゃない?」
「そんなものかな?」

 気のせいかもしれないけど、ウィムもうんうんとうなずいているように見える。
 そして、フランが言う。

「ありがとう。もう降りよう」
「うん………あれ?」

 降りていく途中で、屋敷の陰にいるクレールさんがチラッと見えた。
 地面に着いたけど、どうやらフランは気付かなかったみたいでまたウィムと一緒に魔法の練習を始めた。アネットもまだ自主練にはげんでいるみたいだ。
 私はなんとなく気になって、クレールさんがいたところに歩いて行った。
 クレールさんは何をするでもなくただぼーっと立っていて、近づく私に気が付く様子がない。

「クレールさん?」
「ひゃあ!」

 私が急に声をかけたから、クレールさんをびっくりさせてしまったようだ。

「さ、サキ様。どうされたのですか?」
「あ、特に用事があったわけじゃないんだけど……空からクレールさんが見えたから」
「そうだったんですね」

 言いながらこちらを向いたクレールさんの手には、赤い花が握られていた。

「そのお花は?」
「えっと……そう! サキ様のお部屋に飾ろうかと思いまして」

 クレールさんは少し焦っているように見えた。びっくりさせちゃったから、そのせいかな?

「そうなの? 綺麗きれいなお花だね。えっと確か……ゼラニウムだったかな。こんな寒い時期には珍しいお花だよね。あ、そういえば、ゼラニウムって色によって花言葉が違うの知ってる?」
「え? そうなんですか?」
「うん。この赤いゼラニウムの花言葉は……『君ありて幸福』だった気がする」

 ママは草魔法が得意で、その影響で小さな時から花をたくさん調べたり育てたりしていたらしい。今でもお屋敷の中の花はママが育てているんだけど、私もお花の水やりを手伝っている。その中で花の知識を得たのだ。

「君ありて……幸福……」

 私の雑学を聞いたクレールさんの顔が、ゼラニウムみたいに赤くなっていく。

「クレールさん?」

 私が聞くと、クレールさんは明後日あさっての方向を向いて叫びだす。

「はっ……わ、私……私……心の準備がぁー!!」
「あ、クレールさん! ……行っちゃった」

 クレールさんはそのまま走り去っていった。


「――ってことがあったの」

 学校で、私は庭であったことをアニエちゃんとミシャちゃんとフラン、オージェに話した。
 フラン以外の三人も、よく家に来るからクレールさんのことは知っているのだ。
 すると、アニエちゃんとミシャちゃんとフランはキリッとした顔で呟く。

「恋ね」
「恋ですね」
「恋だね」

 お昼ご飯のサンドイッチを食べながらオージェは不思議そうに声を上げる。

「えー、なんでわかるんすか?」

 私も、オージェに賛同するようにコクコクと頷く。

「屋敷の誰の目にもつかない場所で、ぼんやりとした表情で殿方にもらった花を持っている……はぁ、メイドさんの隠れた恋、素敵……」

 ミシャちゃんのうっとりとしながらの発言に、アニエちゃんも同意する。

「顔を赤くして走り去ってくなんて、クレールさんらしいあせり方よ。それに『君ありて幸福』の花言葉にちなんでのアピールなんて、相手の人もなかなかクレールさんがわかっているじゃない」

 確かにクレールさん、そういうロマンチックなアピールに弱そう……。

「そうなると、一番の問題があるね」

 フランは人差し指をぴっと立てる。そしてニヤリとして言う。

「屋敷の誰がクレールさんに花を渡したかってことさ」

 屋敷の誰か? え? そんなことまでわかるの?
 そう戸惑う私の横で、オージェも驚いている。

「なんで屋敷の人だってわかるんすか?」
「お花を渡されたばっかりだからぼーっとしていて、そこをサキに話しかけられて焦っちゃったって考えるのが自然じゃない?」

 アニエちゃんの言葉に、フランも頷く。

「それに、屋敷の敷地内で働いてるクレールさんに花を渡せるのは、当然屋敷で働いている人に決まっているしね」

 みんなすごいなぁ。ネルにクレールさんの悩みについて聞いても『見当がつきません。空腹感の増大が原因である可能性が高いと思われます』とか言っていたのに……。

「これはもう一つ二つアプローチがあってもおかしくないね」
「えぇ、これは確認しなくてはいけませんね……」

 フランとミシャちゃんが目をキランと輝かせてそう言い出したものだから私は口を開く。

「え? 別にそこまでしなくても私は悩みがわかればそれで……んぐ!」
「そうね、これはクレールさんの個人的なことでも……むぐ!」

 私とアニエちゃんの口をフランとミシャちゃんが手でふさぐ。

早速さっそく今日学園が終わったらクレールの様子を見に行こう」
「えぇ、フランくんの【姿眩ましクリアブラインド】があれば尾行びこうなんて余裕です!」

 フランとミシャちゃんがそう言い出す。確かにウィムが使う姿を見えなくする闇魔法・姿眩ましクリアブラインドを使えば気付かれないように調べられるだろうけど……。
 口を塞がれている私とアニエちゃんに代わってオージェが反対しようとして――

「でも、本人に聞けばそれでいいことなん……んぐむ!」

 オージェの口も、ミシャちゃんの空いている手によって封じられた。
 こうして私たちは学園が終わったら、クレールさんの尾行作戦を決行することとなった。


 学園が終わって、私とフランはアネットとともに屋敷に戻る。

「おかえりなさいませ。フラン様、アネット様、サキ様」

 いつものように専属のメイドさんたちが迎えてくれて、私たちはそれぞれの部屋に戻った。
 私は着替えを終えると、私が脱いだ服を片づけるために部屋を出て行こうとするクレールさんを呼び止める。

「クレールさん。今日この後、みんなで一緒に研究所に行くから」
「かしこまりました。それでは馬車を用意いたしますね」
「うん、ありがとう。フランと一緒に行くから、クレールさんは屋敷に残ってても大丈夫だよ」
「え? わかりました」

 不思議そうに首を傾げて部屋を出るクレールさんと、すれ違うようにフランが部屋に入ってきた。

「サキ、わざわざあんなこと言わなくてもよかったのに」
「あんなこと?」
「クレールは屋敷にいてもいいよって。僕と一緒に研究所に行く時はクレールはいつも屋敷に残っているからね」
「あ……」

 私は口を押さえる。だから不思議そうにしてたのか……。

「さて、とにかく研究所に向かおう。みんなもう来ているはずだよ」

 クレールさんに怪しまれないように、一度研究所に集合してから屋敷に戻ることになっている。
 研究所に行くと、三人とも到着していたのですぐに歩きで屋敷まで戻る。
 研究所から屋敷までは徒歩で二十分くらいだから、歩きでも行き来できなくはないんだよね。

「それじゃあ、クレールさんの様子を見に行きましょう!」
「まずは屋敷の近くまで行って、そこから姿眩ましクリアブラインドで屋敷に潜入。クレールを尾行する流れでいいね」
「えぇ! その作戦でいきましょう!」

 テンション高めなミシャちゃんとノリノリのフランが二人で作戦を練る。
 うちの冷静作戦担当ブレーン二人……大丈夫かな。
 そんな二人をアニエちゃんとオージェも無言で眺めていた。二人も私と同じ気持ちなんだよね。


 そんなこんなで屋敷に着くと、私たちは作戦通り姿眩ましクリアブラインドで姿を隠しつつクレールさんを捜す。
 姿眩ましクリアブラインドを発動していると、お互いの姿も見えなくなってしまうので、一列になって前の人の服を掴みつつの移動だ。ちなみに並びは前からフラン、ミシャちゃん、アニエちゃん、私、オージェ。

『さて、潜入作戦だから思念伝達を使って会話をしよう』

 フランが早速思念伝達を使って言う。
 魔法をこんな使い方してもいいのかなぁ……なんて思っちゃうけど、ここまできたらそんなことも言ってられないか。

『クレールさんは一体どこにいるんでしょうか』

 ミシャちゃんの言葉に、私は答える。

『いつもならだいたい私の部屋にいるか、他のメイドさんと一緒に洗濯や掃除をしてるけど……』
『じゃあまずは洗濯場から見に行こうか』

 フランの言葉に頷いて、私たちは洗濯場に移動するけど、クレールさんはいない。

『じゃあ、屋敷を回って捜してみ――』

 そうフランが言いかけるけど、そこで一人のメイドさんが興味深いことを口にする。

「ねぇ、聞いた? クレールの話」

 それに対して他のメイドさんも言う。

「最近クリフさんと仲がいいって話? お似合いの二人ではあるわよね」
「クレールもここ数日様子がおかしいじゃない? もしかして何かあったんじゃないかしら」

 それからすぐに話題が変わってしまい、これ以上情報は得られなかったけど、それでも大収穫だ。

『皆さん、一旦サキちゃんの部屋で話をしましょう』

 ミシャちゃんは、たかぶる気持ちをなんとか抑えつつ、移動することを提案したのだった。


 私の部屋に入ると、フランは一旦姿眩ましクリアブラインドと思念伝達を解いた。

「フランくん、まずクリフさんについて説明を」

 ミシャちゃんはフランに話を振る。

「クリフはうちの護衛騎士の一人で、確かクレールと同じくらいの年齢だったはずさ」

 クリフさんは森で馬車が魔獣に襲われた時に助けを呼んでいた人。その時森に住んでいた私はクリフさんの叫び声を聞いて、居ても立っても居られずに助けに入ったんだけど……そのおかげでパパたちと出会うことができたんだよね。言われてみれば結構イケメンさんでモテそうな雰囲気がある。

「なるほど……つまり、メイドと騎士の隠れた恋なんですね!」

 ミシャちゃんは嬉しそうな表情で立ち上がりながら叫ぶ。

「いや、別に隠れては……んぐ!」

 またしてもアニエちゃんの口をミシャちゃんが塞ぎ、続ける。

「次はその騎士さんのところへ行きましょう! あのクレールさんをとりこにした方法を聞き出さなきゃ私、今日の夜眠れません!」
「そんなに?」

 私が聞き返したタイミングで、フランが人差し指を口に当てて、姿眩ましクリアブラインドを発動させながら言う。

「しっ……みんな静かに。ウィム」

 ガチャという音の後に、部屋の中にほうきを持ったクレールさんが入ってきた。

「……?」

 扉を開けてから首を傾げるクレールさん。
 ひとまず箒で床を掃除し始めるが、二、三回箒で掃いて手を止める。

「……なんだか、視線を感じる……?」

 私たちはビクッと体を震わせる。

『みんな、とりあえず庭へ出よう。足音をなるべく立てないように』

 フランが念話で出した指示に頷いて、私たちはクレールさんにバレないように部屋をなんとか脱出した。
 そのまま屋敷の庭へ行き、フランが姿眩ましクリアブラインドを解く。

「この時間だと、そろそろ騎士たちが訓練から戻ってくる頃だと思うんだけど……」

 すると、フランの読み通り訓練から戻ってきたたくさんの騎士さんたちが歩いてきた。
 私たちが話を聞くべく歩いて行くと、騎士さんの一人が声をかけてくる。

「これはこれは、フラン坊ちゃんにサキお嬢ちゃん……とそのご学友までお揃いで」
「みんな、訓練お疲れ様。クリフはいるかな?」
「え? 俺ですか?」

 フランに名前を呼ばれて、クリフさんはちょっと緊張した様子で前に出てきた。

「ごめんクリフ、ちょっと話があるんだ。他のみんなは行っていいよ」

 クリフさん以外の騎士さんが帰ったのを確認してから、クリフさんは口を開く。

「それで、話っていうのはなんですか?」
「あぁ、大したことじゃないんだ。一週間くらい前に、クレールに花を渡さなかったかい?」
「花……ですか?」

 クリフさんが首を傾げるのを見て、ミシャちゃんは追撃する。

「そうです! 赤いゼラニウムですよ!」
「赤い……あぁ! はい、確かに渡しました」
「そ、それは! なんでクレールさんに渡したんですか⁉」

 ミシャちゃんはテンションが爆上がりで、転びそうなくらい前のめりだ。
 そんなミシャちゃんとは対照的にクリフさんはあごに手を当て、冷静な口ぶりで言う。

「えっと、確か遠征訓練の帰りにあまり見かけないあの花を見つけたんです。それでキャロル様にどうかなと思いまして、んできたって流れだったかと」
「え? キャロル様……?」

 ミシャちゃんの表情がくもる。
 クリフさんは頷く。

「はい、キャロル様はお花が好きなので。でも王都の外にはなかなか出られないですから、もし外で珍しい花があったら持ってきてほしい、と言付ことづかっているんです。でも、戻ってきてからキャロル様のフラワールームを確認すると、すでに同じものが咲いていたので持て余しまして。その後、屋敷の裏の井戸に、ちょっと顔でも洗おうかと思って行ったらそこにクレールがいたんです。この間訓練で負った怪我を魔法で治してくれたお礼をできていなかったので、ちょうど良いかな、と……」

 えっと……それじゃあクリフさんはクレールさんへ特にアピールしたつもりはなかったけど、クレールさんはヤキモキしていると……。
 全員がそう理解したところで、ミシャちゃんは両手両膝を地についた。

「トキメキ殺し……」

 こんな感じで、私たちのクレールさんの尾行は肩透かしな感じで終了した。


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