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4巻

4-2

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「やぁ、サキ」
「なんだ。レオン先輩か」

 気合を入れて立ち上がったのに、いつも学園で会うレオン先輩だったのでちょっと拍子抜けしてしまった。

「なんだとはひどいなぁ。君の憧れの先輩だろう?」
「先輩ですけど、私がいつ憧れているなんて言いましたっけ?」
「……? サキ? 本当にサキだよね?」
「はい、あなたの可愛い後輩のサキですよ」

 いつもなら少し話すだけで緊張してしまう先輩相手でも、精神耐性発動中の私ならこんな冗談だって言えちゃうのだ。
 それを見てレオン先輩はすっごく困った顔をしている。
 これはこれで面白いね。あのレオン先輩に一泡吹かせてやった気分だ。

「レオン、何固まっているんだ」

 私が内心喜んでいると、レオン先輩の後ろから声が聞こえてくる。レオン先輩が一歩横に移動すると、そこにはレオン先輩に負けず劣らずのイケメンが立っていた。
 どことなくレオン先輩に似ているけど、髪形が違う。
 先輩と同じ黒髪だけど前髪を後ろに流して、全体に少しウェーブがかかっている。身長もレオン先輩より少し高いかな?

「あぁ、ごめん兄さん」

 お兄さん? じゃあこの人がクロード家長男、レガール・クロード・ライレン様か。
 噂程度でしか知らないけど、クロード家にしか伝わらない剣術を歴代クロード家で最年少で体得したとかなんとか。
 魔法のセンスがずば抜けているレオン先輩とは対照的に、体術においてレガール様の右に出る者はいないと言われているのだと、前に学園で誰かから聞いた気がする。
 年齢はレオン先輩の二つ上だったかな?
 そんなことを考えている私の横から、アニエちゃんがレガール様に挨拶した。

「レガール様、こんにちは」
「ん? あぁ、アニエスか。何やら大変だったようだな。なんでもリベリオンにさらわれていたとか」
「えぇ、でもこうして両親や友達のおかげで無事に戻ってこられました」
「そうか。とにかく無事で本当によかったよ」

 二人の会話が一段落したタイミングで、アネットが声を上げる。

「レ、レガール様! ご機嫌よう!」

 あのアネットがガチガチに緊張してる⁉
 何? レガール様に何かあるの⁉

「アネット。相変わらず元気だな」
「はいですわ! レガール様! また今度私に体術の稽古けいこをつけてください!」

 えぇ⁉ アネットって、レガール様に体術を習っていたの⁉
 でも、言われてみれば、私がアネットに魔法を教えることはあっても、体術を教えたことはなかったかも……模擬戦の時に、体の動きがやけにいいから気にはなってたんだよね。

「あぁ、ではまた時間ができた時に」
「はいですわ!」
「フラン、君もその時はぜひ。最近面白い武術を特訓していると聞いたぞ」
「そんな、レガール様に見せられるほど上達していません。サキに比べればまだまだです」

 フランがそう言うと、レガール様は私の方を見る。
 確かに最近フランには弓と体術を組み合わせた戦い方を教えている。レガール様はそれをどこかで聞いたかな?
 あ、挨拶しないと。

「お初にお目にかかります、レガール様。このたび、フレル様のお心遣いによりアルベルト家の養子になりました、サキ・アルベルト・アメミヤと申します。よろしくお願いいたします」

 私は先ほどのアネットのお辞儀を真似て、スカートの端を少し上げて頭を下げる。
 緊張していないと、こんな綺麗な挨拶だって余裕だ。
 すると、レガール様も右手を胸に当て、お辞儀を返してくれた。

「こちらこそ。僕はレガール・クロード・ライレン、レオンの兄だ。君が、アクアブルムの英雄か。噂はかねがね聞いているよ。レオンからも、他のところからもね。君も変わった武術を体得していると聞いている。ぜひ、今度手合わせ願いたい」
「えぇ、ぜひ。私もレガール様の噂をお聞きしておりました。ぜひ、私にも稽古をつけていただきたいです」

 ニコニコしながら答えると、レガール様も微笑み返してくれた。
 この人、大人! 一緒にいて落ち着くタイプのイケメン!
 こういう人は真面目で、きっと休日は庭で読書とかしちゃうんだろうな~!
 横にいるレオン先輩は、まだ驚きと恐怖が交ざったような表情をしている。
 レオン先輩、何その顔! そんなに私が普通に話してるのが変に見えるの?
 すると、二人の後ろから鈴を転がすような綺麗な声が聞こえてきた。

「ちょっと、クロード兄弟。邪魔よ。早くどきなさい」

 レガール様の後ろには、綺麗なドレスを着た、明るいブラウンのウェーブがかった髪を揺らす女の人と、その女の人と同じ髪の色の男の子が立っていた。

「あぁ、メイリーか。すまない」
「まったく、何か面白いものでもあるの?」
「いや、少し挨拶をね」
「挨拶? ってあぁ!」

 レオン先輩とレガール様の間に割って入ってきた女性は、私を見ると大きな声を出した。

「あなた! アクアブルムをクラーケンから救った英雄サキでしょ⁉」

 すごいハイテンションで声をかけられたけど、たぶんお会いしたことないよね……?

「え? あの、どちら様でしょうか……?」

 メイリーと呼ばれていた女性は、目を輝かせて私の前に来ると、私と視線を合わせるようにしゃがんだ。

「私はメイリー。メイリー・カルバート・ハレアス。今日はあなたに会えるって聞いて楽しみにしていたの!」

 勢いに押されてちょっとたじろいだが、よく見るとすごく美人さんだ。
 しかも、髪をふわりと揺らしながら楽しそうにしゃべる姿からは天真爛漫てんしんらんまんな雰囲気が出ていて、親しみやすい。
 そう言えば、農畜区を預かるカルバート家の長女、メイリー様は現公爵家の子供の中で最も魔力量が多いってパパが言っていたような……。

「そ、それはありがとうございます。改めまして、私はアルベルト家の養子になりました、サキ・アルベルト・アメミヤといいます」
「えぇ! 噂は聞いているわ! あぁ、私の可愛い妹がまた一人増えたわ!」

 へ? 妹?
 その言葉に、レガール様が呆れた声を出す。

「メイリー、まだそんなことを言っているのか」

 メイリー様はしゃがんだまま、レガール様の方を向く。

「何よ、私たち公爵家は仲良くするべきと王様が言ったのよ。これから先、長い付き合いになるんだから兄弟姉妹のようにしなさいと。つまり、上から二番目の年の私は、みんなの長女ということよ。よろしいかしら? レガールお・に・い・さ・ま?」
「誰がお兄様だ」

 そんな二人の間に入ったのは、レオン先輩だ。

「まぁまぁ、兄さんも姉さんも落ち着いて」
「レオン、だいたいお前が姉さんなどと呼んでいるから、調子に乗るんだ」
「えぇ? 僕のせい?」

 メイリー様はレガール様の一つ下の年齢だそう。きっと小さい頃から一緒にいるんだろうな。幼なじみみたいな感じだったのかな。
 メイリー様はレガール様とレオン先輩を放っておくと、私に向き直る。

「ということで、今日から私はあなたの姉になったも同然よ。仲良くしてくれると嬉しいわ」

 そう言って微笑むメイリー様は天使のような綺麗さで、なんというか甘えたくなるオーラが出ていた。
 ママとは違う雰囲気……これが姉力あねりょくか……。

「はい、お姉ちゃん」
「お姉……ちゃん?」

 私の言葉にメイリー様が固まる。
 はっ、ついメイリー様の姉力に引っ張られて、「お姉ちゃん」とか言っちゃった⁉
 こんな公爵家新人の私が、様もつけずに「お姉ちゃん」と呼ぶなんて調子乗ってると思われる⁉
 そう思って口を押さえたけど、返ってきた反応は予想外のものだった。

「か、可愛い~!」

 言いながらメイリー様は私にぎゅっと抱きついてきた。

「私、お姉ちゃんと言われるのが憧れだったのよ! お姉様や姉さんじゃなくて、『お姉ちゃん』がよかったの!」
「姉貴、いい加減にしろよ」

 嬉しそうに私を抱きしめながらくるくる回るメイリー様の横から、冷たい声が聞こえた。しかし、メイリー様はからかうように笑う。

「何よ、リック。嫉妬しっとしているの?」
「はぁ⁉ するわけねーだろ⁉」

 リックってことは、あの男の子がカルバート家長男のリック・カルバート・ハレアス様か。
 確かアネットと同い年だ。
 メイリー様にでられながらリック様を見ると、リック様はアネットの方へと視線を向けた。

「よう、アネット」
「えぇ、リック。ご機嫌よう」

 二人の声にはどこかとげがある。
 え? 何この雰囲気? 二人って仲悪いの?
 そんなことを考えていると、そっとフランが私に耳打ちした

「二人はライバルみたいにいつも張り合っていてね。仲は悪くないと思うんだけど……」

 なんだ、ライバルか。いつもニコニコのアネットにそんな存在がいるなんてちょっと意外かも。
 でも、確かに魔法の特訓の時とか結構悔しがっていたし、負けず嫌いだもんね。
 アネットは挨拶の後、イライラした口調のまま続ける。

「公爵家だというのに、ちゃんとした挨拶ができないんですの? レディに対してそのような不躾ぶしつけな挨拶をして」

 そんなアネットに、リック様も負けじと小馬鹿にした態度で応戦した。

「レディにはちゃんとやってるよ、レディにはな」

 うわぁ、バチバチだなぁ。最近アネットから授業で調子が良いって報告されることが多かったけど、それもリック様と張り合ってるからかなぁ。
 すると、後ろから頓狂とんきょうな声が聞こえる。

「お前ら、何してんだ? 入り口で固まって」

 声のした方を向くと、いつの間にか王様が少し呆れ顔で立っていた。お話しに夢中で全然気付かなかったよ……。


 私たちは王様に挨拶をしてからそれぞれ席につく。
 それからしばらくして、目の前に美味しそうな料理が運ばれてきた。
 料理が運ばれている間はみんな静かにしている。
 王様の方を見ると、横には男の子と女の子が座っていた。
 男の子の方はアネットやリック様と同じくらいの年かな? 女の子の方はもう少し下に見える。たぶん、男の子が第二王子のウィルヘイム様。女の子はお姫様のプレシア様かな。
 あれ? でも第一王子がいない……?
 私は王様に尋ねる。

「王様、今日はエルヘイム様はいらっしゃらないんですか?」
「あぁ、エルのやつは今日はフィリスのとこだ。まぁ、エルもフィリスも真面目だかんなぁ。たまには息抜きしなきゃいけねぇってのに」

 第一王子のエルヘイム様は王妃のフィリス様のところか。お会いしてみたかったのに、お仕事かな?
 それにしても王様……言っていることは正しいかもしれないけど、王様はいつも息抜きばかりしてるってパパが愚痴ぐちっていたよ。
 ほどなく料理が揃い、王様はみんなに向かって話し始める。

「さて、料理も揃ったことだし始めようじゃねーか。まずは報告からだ。最初にここにいるサキの話をしたいと思う」

 え? 私?
 驚く私を置き去りに、話が始まる。

「こいつはアルベルト家の養子として、新たに公爵家に名を連ねることになった。皆に負けることのない才能と技術を持った者だ。互いに切磋琢磨せっさたくませよ」

 おぉー王様っぽい! いつもの気の抜けた感じとちがーう。

「では、サキ。皆に挨拶を」
「え?」

 挨拶⁉ 何それ、そんなの聞いてない!
 あ、なんか王様がニヤニヤしてる⁉ 私に無茶振りして面白がってるな⁉
 でも、甘かったね。今日の私は一味違うんだから!
 私は立ち上がって一礼する。

「先ほどご挨拶をさせていただいた方もいらっしゃいますが、改めてご挨拶いたします。このたび、アルベルト家養子となりました、サキ・アルベルト・アメミヤです。栄光あるこの国の公爵家として、皆様と共に名を連ねられることをほまれに思っています。ただ、皆様と違い、私は元々平民。才があろうと、公爵家としての品位やしきたりについては至らぬところばかりでしょう。此度こたびのこの茶会という機会を大切にし、学ばせていただきたく存じます。今後ともよろしくお願いいたします」

 私は再び一礼し席に座ってから、王様にドヤ顔する。
 ふふふ、驚いた表情しちゃって。それに悔しそうだね。
 これは研究所の魔石のお返しなんだから。




 私の挨拶の後、みんなで食事をいただくことになった。
 通常のお茶会は文字通り紅茶やお茶菓子をたしなむものだけど、このお茶会は食事会のようなものらしい。
 運ばれてきた料理はさすが王城のシェフが作るだけあってどれも美味しい。何が入っているのかわからないけど、高級な味がする!
 食事をしながら、王様はみんなからの近況報告を聞いている。

「メイリー、前に言っていたプーグレの品種改良とやらはどうなったんだ?」

 今報告をしているのはメイリー様のようだ。メイリー様は得意げに答える。

「王様、品種改良をして、すぐに物ができるわけではないのですよ? 植物は生き物なのですから」
「そうなのか? じゃあできたらすぐに俺のところに持ってこい! お前のとこの果物はどれもうまいからな!」
「ふふふ、収穫時期が来たらすぐに持っていきますわ」

 そう言って笑うメイリー様。
 そうか、カルバート家は農畜を預かる公爵家。果物や野菜、小麦なんかを作っているのかな?
 いいなぁ、私にも果物を作ってくれないかな? 私の【収納空間しゅうのうくうかん】の中にある、ネルの情報をもとに作ったいちごとか。
 そんなことを考えていたら、レガール様とレオン先輩が王様から話を聞かれる番になっていた。

「お前ら、魔法と剣術の調子はどうだ? 兄弟で得意なものが違うからそれぞれ教え合えんだろ?」
「それが王様、レオンは最近剣術ではなく、魔術や他の分野に精を出しているので、僕の練習相手がおらず困っているんですよ」
「いやいや、そんなことないですよ。そもそもこれまで一日四回も訓練をしていたのがおかしいんです。今でも一日に二回は手合わせをしていますから」

 えぇ⁉ そんなに訓練しているの⁉
 レガール様とレオン先輩は仲がいいんだなぁ。
 でも、体術の腕が立つレガール様を相手に訓練をしていたなら、私が教えたネル流武術をすぐにものにできたのも納得できる。
 王様との話を聞いていると、みんなのことがわかるのでとてもありがたいなぁ。
 そんな風に他人事のように思っていたら、王様は次に私の方を見た。

「サキ、研究所の魔石はどうなった」

 なんか楽しそうな表情がちょっとむかつく。

「このお茶会に関して気を揉んでいましたので、何も思いついていません」
「そう言うと思ってな、新しい魔石採掘ができる場所の情報を集めといた」
「え?」

 何その情報⁉ 欲しい……。
 雷の魔石じゃなくても、いろんな魔石があれば研究の幅が広がるし。

「あ、その情報なら私も……うぐむ⁉」

 メイリー様が何か言おうとしていたみたいだけど、王様に口をふさがれている。でもごめん、メイリー様、今は王様の情報の方が大事なの! 早くその情報をちょうだい!

「早く聞かせろって顔してんな。だがなサキ、物事ってのはそんなに甘くない。欲しいものがあったらそれ相応の働きをしないとな」
「つまり、私に何かしてほしいことがある……と?」
「そうだ。なぁに、大したことじゃない。詳しい内容は後で教えてやる。どうだ?」

 内容の説明もせずに、先に条件を呑むっていう言質げんちを取りたいってこと? 何それ! 半分ぐらい詐欺さぎじゃん! でも魔石の情報は欲しいし……うぅ~。
 さてはこうなることを見越して、魔石を用意しなかったんじゃないの?

「どうした? ちなみに、この情報が出回っているのはごく一部だ。なんならお前が行きたい時に採掘許可を出せるようにしてやるぞ」
「だからその許可も私の家で……ぐむむむ⁉」

 メイリー様、後にして!
 しかしどうしよう……?
 さすがにまたリベリオンと戦わせるようなことはしないと思うけど、条件の内容がわからないって怖すぎる。でも、魔石への手がかりが一切ないんだよなぁ……。

「わかりました。後ほど詳細をお教えください」
「よぉし! 交渉成立だ。詳細を説明する時に情報も渡そう」
「はい」

 はぁ、何をやらされるんだろう。
 口ぶりから、あんまりいいことだとは思えないなぁ……。

「そんなことより、お前そんなスムーズに話できたっけか?」

 王様が急にそんなことを言い出すので、私はドキッとした。それも一瞬で精神耐性によって収まったけど……。
 でもここで作戦がばれると、アニエちゃんがせっかく考えてくれたのに無駄になっちゃう!

「それはどういう意味ですか?」

 王様の言葉を不思議に思ったのか、レガール様が王様に聞いている。王様は眉をひそめて私の方を向く。

「いや、こいつ、人と話す時だいたい……」

 その先を言わせまいと、アニエちゃんが言葉をさえぎってくれる。

「あーあー! 王様! 前にパパが王様に本当に感謝したいと言っていましたよ?」
「ん? あぁ、ロベルスのやつは生真面目だかんな。気にすんな、今後の働きに期待してると言っとけ」
「は、はーい」

 アニエちゃんがなんとかごまかしてくれた。
 私が涙目で感謝の視線をアニエちゃんに向けると、ウィンクが返ってくる。
 やっぱり持つべきものは頼りになる友達だよぉ!


 その後はアニエちゃん、フラン、アネットのアシストもあってお茶会は何事もなく終了し、私はなんとか無事屋敷に帰り着いた。
 自分の部屋に入り、安心した私はベッドにボフッとダイブする。

「あぁ……もう疲れたよぉ」

 するとネルが言葉を介さず意思疎通する魔法――【思念伝達しねんでんたつ】でねぎらってくれる。

『サキ様、お疲れ様です』
「うん。でも、公爵家の人たちはみんな優しそうでよかったよ」
『そうでしたか。精神耐性はうまく発動していたようですね』
「そうだけど……いつまでもフランに頼るわけにもいかないし、何か策を考えないと」

 はぁ、王様の頼み事や今後のお茶会対策、魔石に研究所に……考えなきゃいけないことが山積みだ。
 でも、こんなにいろいろ考えているのは森にいる時以来かもしれない。
 忙しいのは大変だけど、なんだか楽しくもある。
 私はそんなことを考えながら、お茶会の疲れと緊張から来る睡魔に、なすすべなく負けてしまうのだった。



 2 王様の頼み事


 お茶会の次の日。
 私は王様からの呼び出しで、王城に向かっていた。
 ネルを腕輪に変身させて連れてきてはいるが、一人で出歩くのは未だに怖い。
 私は馬車の中で大きくため息をついていた。

「ネル、私、何させられるんだろう」
『グリーリアの王の考えは私にも予想がつきません。無茶なことは言わないでしょうが、魔石の採掘場に関する情報の価値はかなりのものかと思います。それに見合う働きだと考えると……』
「もう、いつもそうやって私を不安にさせようとするんだから」
『最悪を想定しておくのは、戦闘において重要な――』
「はいはい。最悪を踏まえ、それを避けつつ優位な状態を維持することが大事、でしょ?」

 ネルは腕輪のままだけど、満足げな顔をしているのが目に浮かぶよ。
 なんかリベリオンの襲撃を受けてから、ネルの先生感が増してきた。
 すきあらば私に指導をしたり、復習をしろと口うるさく言ってくるのだ。……こんなの嫌でも強くなるよ。
 ネルとお話ししている間に、馬車は王城前に到着した。

御者ぎょしゃさん、ありがと」
「では、お嬢様。帰りの時間にまた迎えにあがりますので」

 馬車はそのまま進んでいく。
 門の前には、メイドさんが立っていた。

「えっと、ミリアナ……さん?」
「はい。覚えていてくださり、ありがとうございます。ではご案内いたします」

 私はミリアナさんについていく。
 前は庭園に向かうために屋外を歩いていったけど、今日は王様の部屋に用事があるので城内に入る。
 それにしてもこの王城、本当に広いよね。
 何回来ても道を覚えられる気がしないんだけど。
 周りをキョロキョロ見ながら歩いていると、ミリアナさんが止まる。


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