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3巻

3-1

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 私――雨宮咲あめみやさきの人生は散々なものだった。
 幼い頃は酒癖の悪い親に虐待ぎゃくたいされ、学生時代にはイジメられ、社会人になったらセクハラ・パワハラの連続。そしてしまいには雷に撃たれて死ぬという酷すぎる幕引き……。
 しかし、死んだはずの私の目の前に現れた女神ナーティ様が言うにはどうやらその不幸な人生は手違いだったらしい。ナーティ様にたくさん謝られた後、お詫びとして私はチート能力を与えられ、銀髪美少女サキ・アメミヤとして異世界に転生させてもらえることになった。
 こうして異世界で始まった第二の人生は、家族の愛情に恵まれた、とても幸せなものだった。
 身寄りのない私を養子候補として迎えてくれたのは王都エルトの貴族であるアルベルト公爵家こうしゃくけ。前世の経験から人を信じられなくなっていた私は、そこで温もりを知ったの。当主であるフレル様をパパ、その奥さんのキャロル様をママと呼ばせてもらっていて、二人の息子でクール系イケメンなフランや小さくてかわいい娘のアネットとも仲良し。たまにちょっと過保護かもしれないと思う時があるけど、すごく大切にされているってわかるんだ。
 また、家族の後押しもあって私は魔法を学ぶためにフランやアネットとともに学園に通い始めた。
 そこで、ブルーム公爵家の養子で炎魔法と風魔法を使いこなす赤髪の女の子アニエちゃん、実家が服屋を営んでいて青髪とメガネがトレードマークのミシャちゃん、ムードメーカーで強力な雷魔法が使える金髪の男の子オージェと仲良くなり、学園生活を謳歌おうかしている。
 この前は学園の課外授業でアクアブルムっていうところに行ったんだけど、あの時はちょっと大変だったなぁ。暴走する巨大海洋生物クラーケンが現れて、それをみんなで倒したんだよね。でもそのお礼に、魔力を込めれば魔物を従魔じゅうまとして召還しょうかんできるアクセサリーをもらったの。
 そんな騒動からしばらくして、学園代表戦が行われた。
 学園代表戦っていうのは王都エルトの魔法学園と、交友のあるバウアの魔法学園の優秀者を集めて模擬戦を行うイベントのこと。
 その選手に選ばれた私は、同じく代表に選ばれたクロード公爵家次男のレオン先輩や他の先輩と代表戦に臨んだんだけど、そこに国家反逆組織リベリオンの邪魔が入った。でも、レオン先輩と一緒にリベリオンの幹部と戦ってなんとか退けることができた。とはいえリベリオンの目的や組織の規模など、まだまだわからないことだらけなんだよね。
 不安なこともあるけれど、頼もしい家族や友達、先輩のおかげで、私は今日も幸せに生きています!



  1 魔術師の理想の戦闘


 学園代表戦が終わって二週間がち、学園は長期休暇、春休みに入った。
 私が王都に来てからもう一年かぁ……なんだか感慨深いなぁ。
 私は朝の日課であるネルとの魔法の修業を終え、お風呂に入って部屋でくつろいでいた。ネルはナーティ様からもらった特別な猫。色々なことを教えてくれる、頼れる家族だ。

「はぁ、それにしても最近は武術も魔法もマンネリ化してきちゃって……新鮮味がないよぉ」
『仕方ありません、サキ様はすでにネル流武術を自分のものにしていますので。魔法やスキルにしても、そう簡単に新しいものは作れません。サキ様の【習得しゅうとく心得こころえ】は原理を理解しなくてはいけないのですから。そもそも魔力解放の会得えとくが早すぎたのです……』

 私がベッドにごろんと横になりながらつぶやくと、ネルも自分のクッションの上でくつろぎながら、頭の中に直接話しかける魔法【思念伝達】で答えた。
 この世界には炎、水、風、雷、土、草、光、闇、空間、治癒、特殊の十一種類魔法属性があって、生まれつき魔法が得意だと言われている貴族ですら五、六種類しか使えない。だが、ナーティ様からチート能力を授けられた私は全種類の魔法が使えるのだ。
 また、魔法は繰り返し使用して経験を積むことでスキル化し発動過程を簡略化したり、オリジナルの魔法を生み出したりもできるんだけど……今ある魔法はもうだいぶ極めてしまっている。
 さらに、スキル化した魔法は強さや難しさによって第一シグルから第十デキャルまであるナンバーズに分類され、どのランクの魔法も一度発動できればその後もずっと使えるようになるのだ。
 それだけでなく魔法の飛距離を伸ばす【ア】、速度を速くする【ベ】、効果時間を伸ばす【セ】、操作性を高める【デ】といったワーズや、魔法に複数の属性を付与するエンチャントなど、魔法を構成する要素は様々だ。
 これだけ色々な技を覚えられたのはやっぱり、習得の心得のおかげだろう。習得の心得は魔法や武術のスキル化を簡単にしてくれる常態スキル。常態スキルは無意識かつ恒常的に発動するスキルだ。
 ネルの持つ膨大な知識を活かし、数ある武術の型の中から私に合うものだけを組み合わせて作り上げた戦い方であるネル流武術や、体の魔力を増加させて、身体能力に加え、脳の機能を向上させる技、魔力解放も既にモノにしてしまっていた。
 そんなこんなで今はやれることがないから、完全に目標を見失っている状態なんだよね。

「うーん、それはそうなんだけどさぁ。レオン先輩は私の武術を自分の戦い方に組み込んでどんどん強くなっていっているのに私は成長できていないっていうか……」

 私は大きくため息をついた。脳裏に浮かんだのは学園でよく一緒に修業をしているレオン先輩のこと。
 先輩はネル流武術の型を教えた翌日には新しい技を生み出して私との修業で試してくるんだよね。
 それに比べて私は、現在ある武術スキルを磨くことと、使いどころや組み合わせなんかを考えることくらいしかできていない。
 新しい魔法に関するアイデアもないし。
 レオン先輩に置いていかれてるみたいで、なんか嫌だな……。

『……では、増やしてみますか? 新しい魔法』
「え? できるの?」

 ネルの言葉を聞いて、私はがばっと起き上がった。

『はい。しかし、サキ様が思っているようなものではないかもしれませんが』
「それでもいいよ! 教えて!」
『では、庭へ行きましょう』
「うん!」

 私はネルと一緒に、庭へ向かう。
 朝の特訓が終わった後にお風呂に入っちゃったけど、そんなのは些細ささいな問題だ。
 新しい魔法にワクワクしながら私は庭に出た。

『サキ様、魔術師にとって最も理想的な戦闘とは何かわかりますか?』

 ネルに急に聞かれて私は少し考え込む。今までの戦いを思い返しても『理想の戦闘』ができていたとは思えない。っていうかそもそも魔法使いの戦い方なんて十人十色なのに、たった一つの理想なんてあるのだろうか。

「うーん、すっごい魔法をどかーんって出して圧勝! みたいな?」

 私が身振り手振りを交えて伝えると、ネルにあきれたような顔をされた。

『魔術師としての最も理想的な戦闘、それは相手に気付かれない位置、もしくは相手が攻撃できない位置から強力な魔法を放つことです』

 え? それだけ?
 いや、でも今までの戦闘を思い返してみよう。
 リベリオンの幹部ミシュリーヌやグレゴワル、学園代表戦で戦ったロイさんも、最初は必ず距離のあるところから攻撃をしていた気がする。

『武術や剣術など、近距離においての戦闘ができないと、一対一の戦いでは不利になってしまいます。ですから私はサキ様に魔法と共に武術の訓練をしてきました。しかし、最近のサキ様はレオン様との訓練により武術にばかり目がいっています』
「う、それは……」
『張り合うのは良いことですが、もっと魔術師としてのスキルアップを目指して……』

 図星を指されてたじろいでいるとネルがお説教を始めそうだったので、私は無理やり話を切る。

「じゃ、じゃあどうするの? フランや代表戦で一緒に戦った時のリンダさんみたいに姿を隠すとか?」
『確かにあの二人の闇魔法、特にフラン様の召還従魔であるウィムによる【姿眩ましクリアブラインド】は魔術師の理想と言っても過言ではありません。姿を消して一方的に魔法をてるわけですから』
「なるほど。でも、私の従魔のクマミは闇魔法を使えないし……」
『はい、ですからサキ様には別の方法を使ってもらいます』
「別の方法? 何するの?」

 ネルは一拍おいて、私を見つめながら告げる。

『空を飛ぶのです』
「へ?」

 私はあまりにも唐突な内容に変な声を出してしまった。

『今からサキ様に覚えていただく魔法は、【空中浮遊くうちゅうふゆう】。つまり空を飛ぶ魔法です』

 空を飛ぶって、鳥みたいに? 何それ、そんなことが可能なの?
 いや、でも空を飛べれば、ネルの言っていた魔術師の理想に近づける。
 それに、空を飛ぶなんて楽しそう!

『サキ様。今、空を飛べたら楽しそうとか考えてませんでしたか?』
「え⁉ そ、そんなことないよ! それより、早くやり方を教えてよ!」

 またもネルに図星を指されたので話題を変える。

『……一口に空中浮遊と言っても様々なアプローチがあります。空を飛ぶという結果は変わりませんが、その方法によって原理は大きく変わるのです』
「飛ぶなら一緒じゃないの?」
『まったくと言っていいほど違いますよ。例えばサキ様は先ほど、空を飛ぶという言葉を聞いて、何を想像されましたか?』
「うーん……鳥かな。あとは蝶々ちょうちょうとか?」
『では、鳥のように飛んでみましょう』
「え? でも、私につばさなんてないし……」
『魔法で翼を作るのです。どの属性かはサキ様のイメージにお任せいたします』
「えぇ? うーん、とにかくやってみるね……」

 翼……イメージできるのは天使みたいな白い羽だけど、どの属性かと言われると難しい……。
 やっぱり風の属性なんかいいんじゃないかな? 

第五クイルウィンド」

 天使の羽みたいな翼を風魔法で背中に作るイメージ……。
 すると、背中にウィンド属性の魔力でできた白い翼が生えた。
 なんかほんのちょっと体が軽くなった気がする! 意外と上手くできたかも!

「やあ」
「サキー」
「お姉さまー」

 私が試しに翼をパタパタとさせていると、フラン、アニエちゃん、アネットが庭に出てきた。
 アニエちゃんは今だけアルベルト家で生活しているんだ。
 というのも、彼女が養子として身を寄せているブルーム前当主のベルニエ家は、実子であるアンドレが違法な薬を使ってしまったことが問題になって公爵家から降格させられてしまったの。そのゴタゴタにアニエちゃんが巻き込まれないよう、パパがアルベルト家に一時的に引き取ったのだ。

「お姉さま、おはようございます。その翼は?」
「サキ、もしかして空を飛ぶ魔法を覚えようとしてるなんて言わないわよね……?」

 アネットとアニエちゃんが尋ねてくる。

「うん、そうだよ。ネルがやってみる? って言うから……」
「はぁ……あのねサキ、空を飛ぶ魔法は世界中の魔術師が知恵を絞っても成しえていない、魔術難問まじゅつなんもんの一つなのよ?」
「魔術難問?」

 初めて聞く言葉だ。まぁ、なんとなくわかるけど。
 フランが説明してくれる。

「魔術難問っていうのは発動したくても、何かしらの欠陥けっかんがあって魔法として成立しない魔法のことを言うんだ。例えば、サキがやろうとしている空を飛ぶ、つまり空中浮遊の魔法なんかがそれに当てはまるね」

 そうなの? 意外と簡単そうなんだけど。だって実際、翼は作れたし。
 後はこれをパタパターって動かし続ければいいだけでしょ?

「空中浮遊の定義は『一時間以上空中に留まること』だからね。学園対抗戦でラロック先輩は風魔法で空中を動き回っていたけど、あれを一時間続けるのは難しいだろうね」

 さらに詳しく教えてくれるフランに、私は頷く。

「とりあえずやってみる……」

 イメージはこの翼を鳥さんみたいに……。
 私はウィンド属性の翼をバサッバサッと大きく羽ばたかせてみる。
 体がさらに軽くなったような?
 それから私は膝を曲げて、大きくジャンプした。

「わ、わわわ……」

 翼を動かしていると、私の体は五十センチほど浮かび上がる。


 でも、体が安定しないから手足が少しバタバタしちゃう……。

「ま、まさかほんとにできちゃうの?」
「いくらサキでも魔術難問はさすがに……」
「お姉さま、飛んでますわ!」

 アニエちゃんとフランは信じられないものを見たような表情をし、アネットは目を輝かせている。
 でも、これなら一時間くらい……うっ。
 そこで、なぜだか急に気持ち悪くなって集中力がたもてなくなってしまう。翼が消えて地面に落ちてしまった私を心配して、三人が駆け寄ってくる。

「お姉さま⁉」
「サキ!」

 私は戻しそうになり、片手で口を押さえながら下を向いた。

「うぅ、気持ち悪い……」
『このように翼で飛ぼうとすると体が何度も揺れるので、気分が悪くなってしまう人もいるのです』

 冷静に解説するネルを、私はジトーと見つめた。
 そういうことは早く言って!


 その後、私はアニエちゃんに肩を貸してもらってなんとか自室に戻ることができた。

「サキ、大丈夫?」
「うん、だいぶ楽になったよ」

 心配そうに尋ねてくるアニエちゃんに、私は答えた。
 ベッドでしばらく横になっていたので、かなり楽になった。なんとか笑顔を作ると、アニエちゃんは大きなため息をつく。

「まったく……いつも無茶ばかりして」

 その時、扉がノックされてパパの声が聞こえてくる。

「サキ、ちょっといいかな」
「はい」

 部屋に入ってきたパパはアニエちゃんを見て言う。

「アニエもいたのか。お邪魔だったかな?」
「いえ、大丈夫です。私はもう魔法の練習に行くので」
「そうか、すまないね」
「それじゃあ、失礼します」

 アニエちゃんが部屋を出ていった後、パパは彼女が座っていた椅子に腰を下ろす。

「サキ、体調でも悪いのかい?」
「えっと、魔法で翼を作って空を飛ぼうとしたら、気持ち悪くなっちゃって……」
「翼? 空を飛ぶ? あはは! そうか、魔術難問を解こうとしたのか!」

 私の話を聞いて、パパは楽しそうに笑った。

「懐かしいな。僕たちも昔、空中浮遊の魔術難問を解こうとしたんだ。僕とキャロルとミシュでね。風魔法を使える僕が二人に迫られて挑戦してみたんだけど、僕も気持ち悪くなって五分と持たなかったよ」

 昔を思い出したのか、パパは苦笑して言った。
 そういえば、ミシュ――私が戦ったリベリオンの幹部のミシュリーヌとパパたちはもともと仲良しな同級生だったんだよね。

「私は一分もできなかった……」
「サキはまだいい方さ。気持ち悪くなったら友達がベッドまで運んでくれるんだからね」
「……? パパは?」
「二人にもう少し頑張りなさいよ! 情けないわね、って言われながら蹴られたよ」

 ママとミシュリーヌ、公爵子息に何してるの⁉
 驚いている私を見て、パパはまた笑った。しかし、すぐに真剣な表情を浮かべて尋ねてくる。

「サキ、今の生活は楽しいかい?」
「え? うん、みんな優しくて……楽しいよ」
「それはよかった。サキ、今から話すことはとても大事なことだ。だからこそ、サキの意思で判断してもらって構わない」

 パパはさらに続ける。

「サキ、実は今、いろんな侯爵家が君のことをさぐっているという情報が入っているんだ。おそらく、君を自分の家の養子にするためにね」
「え?」
「ブルーム家が問題を起こして降格させられたために、今その分の公爵の枠がいているだろう? 一つ格下の侯爵家こうしゃくけはその枠を狙って動いている。基本的に高い爵位には、保有する戦力や国に対する貢献度が大きい家から順についていくもの。そこで目をつけられたのがサキ、君だ」
「私?」
「そう、ここ最近のサキの国に対する貢献は、正直言って僕の想像を超えるほどのすごいものだ。もちろん、僕は報告を聞くたびに誇らしい気持ちだった。でも、その働きは他の貴族にまで広まってしまった……仮にどこかの侯爵家が君を養子にできたなら、その家は公爵に一歩近づくと言えるほどにね」
「……」

 そうか、私は気が付かないうちにこの国に影響を及ぼしていたんだ……。

「パパ、私のせいで迷惑をかけてしまってごめんなさい……」
「サキ、君はこんな時まで僕のことを心配しているんだね。君は賢く、優しい子だ」

 そう言ってパパは私を抱きしめる。

「僕は君を守りたい。だからサキ、僕の娘になってくれるかい?」

 私はまだ正式にアルベルト家の養子になっていない。
 パパからすれば今の私は一年前の私よりも面倒な存在になっているだろう。
 それでもパパは私に、「家族になろう」と言ってくれているんだ。
 一緒に過ごしてきた今なら、パパを心から信じられるよ。でも、だからこそ聞かなきゃいけないことがある。

「パパ……私を森から連れてきた責任を果たさなきゃいけないって、考えてない?」
「そんなこと考えるものか。僕は君を屋敷に迎えた時から、フランやアネットと同じ、自分の子供のように思っている。だが結果、君を政治の道具のように扱うやからに狙われることになった。そんなことは絶対に許さない。絶対に……」

 私を抱きしめるパパの手に込められた力が強くなる。
 こんなにも優しい人に拾われて、私は幸せ者だなぁ……。
 私はパパの体から少し離れて、彼の顔を見つめた。

「どうか私を娘にしてください……パパ」
「サキ!」

 一年前は戸惑いが大きかったけど、今は違う。私は微笑ほほえんで返事をすることができた。
 パパは再び、私を抱きしめる。
 家族になることに大きな心配はない。今回のパパの言葉を聞いたことで、私はよりアルベルト家の一員になりたいと思えた。
 将来、貴族家として公務にけるような人間になれるかはわからないけど、この人の家族でいられることは、本当に光栄で幸せなことだと思うから……。



  2 アニエの目的


 私がアルベルト公爵家の養子になると決めた次の日の夜。

「それではみんな、今日は盛大に盛り上がってくれ。乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」

 パパの音頭でみんな手に持っていたグラスを掲げ、拍手をした。
 今日はお屋敷の関係者だけで、パパの家督継承のお祝い会が開かれている。
 いつも私が魔法の練習をしている広い庭には机が並び、美味おいしそうな料理や飲み物がいっぱい載せられていた。
 普段はキリッとしている警備の兵士さんも、忙しいメイドさんも、今日は一緒に飲んだり食べたりしている。
 アニエちゃんに聞いたけど、他の公爵家はこんなにぎやかにお祝いをすることはないそうだ。
 一週間後、王様の前で行われる公爵家家督継承の儀を以て、パパは正式にアルベルト家当主として公務にあたることになる。
 そして、その後に私はパパの養子として、正式にアルベルト家に迎え入れられる。
 昨日の話を聞いて、この人の娘になれるなら頑張れる……そう思ったけど、養子になって変わることもあるのだろうか。
 少しだけ不安になってきた……。

「何浮かない顔してるの」

 両手に飲み物を持ったアニエちゃんが歩いてきて、私の隣に座った。

「飲み物持ってきたわよ。オラジとプーグレ、どっちがいい?」

 アニエちゃんはそう言って、手に持っている飲み物を私に差し出してきた。オラジがみかん、プーグレがぶどうだ。私はお礼を言いながらオラジのジュースを受け取る。

「養子になるのが不安?」
「え?」

 アニエちゃんに考えていることを当てられてドキッとする。
 まさかアニエちゃんは相手の考えを読める魔法を……。

「サキ、今私が魔法で考えを読んだんじゃないかって思ったでしょ?」
「えぇ⁉」

 やっぱり魔法だよ! 全部バレてるもん!

「ふふふ、そんな魔法使えるわけないでしょ。相手の思考を読む……【超高度読心術】は空中浮遊に並ぶ魔術難問よ」
「そ、そうなんだ……。じゃあ、なんでわかったの?」
「私と同じ顔をしてたから……かな」
「え?」
「ほら、私も養子の身でしょ? ブルーム家の養子になるって決まって、さぁ明日からは立派なお屋敷で暮らすんだ! って日の夜に、自分の顔を鏡で見てびっくりしたわ。お化け⁉ って思うくらい顔は真っ白。表情も暗いし、こんな私が公爵家でやっていけるのかなぁって不安だった」

 そう言って苦笑するアニエちゃんに、私は尋ねる。


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