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2巻
2-3
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私たちはお昼を食べて街を散策した後、時間が来たので宿へ戻った。
宿と言ってもさすが観光地。前の世界のホテルのような施設だった。
大きな一室に十人、クラスごと男女別で振り分けられている。
私のいる部屋のベッドの並びは、アニエちゃん、私、ミシャちゃんの順番だ。
晩ご飯までもう少し時間があるかな。
お風呂はご飯の後だから、それまでは歩き疲れた足を休ませよう。
「はぁー、今日は歩きすぎて疲れました」
ミシャちゃんはそう言って、ベッドに背中からぼふっと倒れた。
「ミシャ、お行儀悪いわよ。まあ、気持ちはわかるけどね」
アニエちゃんはミシャちゃんをたしなめつつ、自分のベッドにゆっくりと座る。
私はアニエちゃんに小言を言われるのを承知で、ミシャちゃんと同じように勢いよくベッドにダイブした。
「もう、サキまで……」
「ね、ねぇ! サキさん!」
その時、アニエちゃんの反対側のベッドにいた女の子が私の名前を呼んできた。この子は同じクラスのレリアさんだ。
「何? レリアさん」
「今日の馬車で、フランくんの好きな人の話をしてたわよね?」
「うん、してた」
すると、私たちの話題に興味を持ったのか、他の子も寄ってくる。
レリアさんが続けて質問してくる。
「やっぱり、フランくんって好きな人がいるの?」
「うん、いるみたい……だよ?」
「誰か聞けた?」
う、うーん……答えにくい。聞いてはいないけど、わかっちゃったんだよね。
私はごまかしつつ、ふわっと説明することにした。
「誰かはわかんないけど……頑張り屋さんで、すごく好きだって」
「「「きゃー! それでそれで!?」」」
色めき立つ周囲の女の子たち。
これはあれだ。女子トークというやつだ。
やっぱり女の子は恋バナに興味があるんだね。
確かにフランはイケメンだし、性格もいいし、頭もいいし、貴族だし……うん、悪いところがない。
そりゃ、女の子はみんな気になるか。
「誰なんだろ、フランくんの好きな人」
「やっぱり、同じ貴族の子とか?」
「三組のエミリさんとかじゃないかな?」
「あー! ありそう! ね、アニエはどう思う?」
レリアさんや他のみんなに尋ねられ、アニエちゃんが困惑している。
「え? 私? うーん……まあ、あいつの話を聞く限り気が強い子みたいだし、大人しそうなエミリさんじゃないと思うけど」
「確かに……ミシャは誰だと思う?」
レリアさんがミシャちゃんに話を振ると、ミシャちゃんは慌てて答える。
「え? う、うーん……ちょっとわからないですね」
「そうなんだ。そういえばオージェの話もしてたよね。オージェって好きな子いたの?」
「そういうの興味なさそうだよね」
女の子たちの話題がオージェに移ると、ミシャちゃんはほっとしたように答える。
「いるって言ってましたよ。優しくて面倒見のいい人がどうとか」
「へぇ……望み薄ね」
レリアさん、辛辣!? フランとオージェの差がひどいよ!?
「そういえば、ミシャはオージェと幼なじみだったわね」
アニエちゃんの言葉に、私は思わず聞き返してしまう。
「え? そうだったの?」
それは初耳。でも、確かにいつも一緒に登校してるかも。
待って、それじゃあ、オージェの好きな人ってもしかして……。
ミシャちゃんが感慨深そうに言う。
「オージェくんも恋をする歳になったんですね……なんだか感動します」
「ミシャ、なんかそれ、おばあさんみたいよ」
アニエちゃんがそう言うと、みんなが笑う。
ダメだ、アニエちゃんもミシャちゃんも、自分が誰かに好かれているとは微塵も思ってない。
私はみんなに合わせて笑いながらも、心の中で男子二人を応援するのだった。
◆
「ふぅ……今日は歩き疲れたね」
僕、フランがそう呟くと、隣のベッドにいるオージェが大きく伸びをする。
「ほんとっすよ。サキの報告があれだったせいで、お昼ご飯選びで歩き回ったっすからね……フランもお疲れ様っす」
オージェはそう言うけど、僕は報告を聞く前からなんとなくわかっていた。
アニエは知っているが、屋敷にいる時のサキは、天才的な魔法の才能の持ち主とは思えないほど抜けているんだ。
よく転ぶし、朝はすごく眠そうな顔をしているし、ぼーっとしていることも多い。
まあ、そんなサキにあれこれ手を焼くアニエとアネットを見るのは楽しいからいいんだけどね。
突然、隣の部屋からきゃーという黄色い声が聞こえてきた。
「隣はずいぶんと盛り上がってるんだね」
「なんとなく話題はわかるっすけどね」
僕がオージェと話をしていると、隣のベッドにいた同じクラスのガデットが話しかけてくる。
「なぁ、フラン」
「なんだい、ガデット」
「前から気になってたんだけど、サキちゃんと一緒に住んでるんだよな?」
「そうだね」
僕が頷くと、ガデットは少し遠慮がちに尋ねる。
「……やっぱり、家の中のサキちゃんも可愛いのか?」
サキはクラス対抗戦の活躍から、男女問わず人気を集めている。噂じゃ、先輩や後輩の間でも有名になっているんだとか。
話題につられて他の男子も集まってきた。
僕は笑いながらガデットに答える。
「まあ、可愛いんじゃないかな」
「やっぱりかー! いいなぁ、俺もサキちゃんと一緒の家に住みたいぜ」
盛り上がる男子を見て、なんというか……有名人も知らないところで盛り上がられて大変なんだなと思った。
「オージェもそう思うだろ?」
ガデットはオージェに話を振った。
「いやぁ、俺はいいっす……」
「なんだよ、サキちゃんが転校してきた時に、あの子可愛いっすねって言ってたじゃんか。それにクラス対抗戦も今回も同じチームだろ? 羨ましいぜ。毎日一緒に特訓だってしてるみたいだし」
「そうでもないっすよ。いつも宙を舞ってるっす……」
僕は苦笑いしてしまった。まあ、実際オージェは毎日投げ飛ばされているしね。
最近は僕らが特訓していることが広まって、放課後、訓練場に見に来る人もいる。
それで、特訓中のサキの姿が可愛いとかかっこいいとかいう噂がさらに広まっているらしい。
「俺もサキちゃんに投げ飛ばされてー!」
「それに、アニエもミシャも最近じゃ可愛いって人気が高まってるし、フランたちが羨ましいよ」
変な欲望を言い出したガデットに続いて、他の男子の一人がそう言ってうらめしそうにこちらを見てくる。
確かにアニエもミシャも可愛いけど、そんな評判になっているとは知らなかった。
いや待てよ、前にアネットから聞いたことがあったかもしれない。
アネットが通う初等科一年の生徒には、サキやアニエの対抗戦の勇姿を見て、憧れにしている子が多いんだとか。
アネットはサキに魔法を習っていることもあり、羨ましがられているらしい。
「そういえば、アニエも今はフランのところのお屋敷に住んでるんだろ? お前の家、可愛い子だらけじゃねーか!」
ガデットが詰め寄ってくる。
「まあ、おかげで魔法の練習は捗ってるけどね」
僕はそう返答してごまかしておいた。
アニエと一緒に毎日練習できるのは確かに嬉しい。彼女はセンスがあるから、僕も置いていかれるわけにはいかないしね。
アニエの横にいられる男にならないと。
女の子の話をしているとすぐに時間が過ぎていき、晩ご飯になった。
◆
私――サキは、目の前に広がる晩ご飯の料理が並ぶ光景にとても感動している。
並んでいるのは、お刺身に焼き魚!
そして極めつきは……白いご飯!
「これが、水の豊富なアクアブルムだから作れる『コメ』ね……初めて見たわ」
「不思議な食感です……粒々していて、噛むたびにほんのり甘いですね」
「こ、この魚……生で食べるんすか? 大丈夫なんすか……?」
「こっちにある黒いソースをつけるのかな?」
アニエちゃんもミシャちゃんもオージェもフランも、ここの食事――日本食には馴染みがないようで色々困惑していた。
でも、まさか醤油まであるなんて……あぁもう、アクアブルムに住みたい。ここまできたら味噌もあるんじゃないかな? 久しぶりに味噌汁が飲みたくなってきた。
森にいた時に米を作れないか試し、水の供給が難しくて失敗したことがあった。それだけに、このご飯はすごく嬉しい。
「サキは生の魚、平気なのね。美味しい?」
「昔食べたことあるからね。美味しいよ」
私はアニエちゃんに答えつつ、刺身を醤油につけて、ご飯の上に載せてから一緒に食べる。
美味しい……美味しいよ!
はぁ、これが故郷の味。
普通に食べる私を見て、みんなも恐る恐る刺身を口に入れた。
「あ、意外と美味しいかも」
「うぅ……私はちょっと苦手です」
美味しそうに食べるアニエちゃんに、顔をこわばらせるミシャちゃん。
「俺もちょっときついっす」
「僕は普通かな。この醤油は美味しいけどね」
オージェもあまり好きではないみたいだけど、フランの表情は変わらない。
やっぱり生魚は好みが分かれるようだ。
「サキちゃん……私の分、よかったら食べてください……」
「俺のもっす」
「いいの!? 食べる!」
私はミシャちゃんとオージェの刺身をもらう。
久しぶりの和食に、私は大満足だった。
晩ご飯を終えると、学年主任の先生が前に出てきて明日の説明が始めた。
「皆さん、明日は予定表にも書いてある通り、朝、船に乗ってアクアブルムの離島でレクリエーションをします。今からそのことについて話しますので、しっかりと聞いてください」
先生の説明を簡単にまとめると、離島で行うレクリエーションとは、チームごとに配られるカードにヒントが出されるので、それを解いて文章を完成させるというものらしい。
ヒントは勝手に出てくるわけではなく、一つ解いたらまた別のものが出てくる仕組み。解き終わったらまた船まで戻ってきて、先生のチェックを受けてクリアとのこと。
上位三チームのチームメンバーにポイントがもらえるらしく、みんなやる気を見せていた。
ちなみにポイントとは、学校内限定ながら学食や購買での買い物に使えるものだ。
レクリエーションの説明後は、明日の起床時間の確認などをして、私たちは部屋へ戻った。
そこからは部屋ごとにお風呂の時間だ。
「おぉ……!」
お風呂はきれいな露天風呂だった……私、絶対またアクアブルムに来る。この宿を覚えておこう。
私はタオルを湯船につけないように、ゆっくりお湯に浸かった。
「はぁ……」
「サキ、ずいぶん表情が明るいわね。そんなにアクアブルムを気に入った?」
アニエちゃんに聞かれ、私は頷いた。
「うん、絶対また来る……」
ミシャちゃんが私を見て笑う。
「そんなに気に入ったんですか。また来る時は私も誘ってくださいね」
「あら、それじゃあ私も」
「うん……ミシャちゃんもアニエちゃんも一緒に来ようね」
三人で湯船に浸かりながら笑い合う。
前の世界の宿泊学習では寂しい思いしかしなかったけど、この世界ではお友達が一緒だからとても幸せだ。
これからもみんなで楽しい思い出を作れたらいいな。
お風呂を終え、部屋に戻ってベッドに入る。
さすがに歩き疲れたのか、睡魔がすぐに襲ってきた。
明日も楽しい一日になるように願って、私は眠りについた。
「サキちゃん……すみません、サキちゃん。起きてください」
「ん……?」
私の名前を呼ぶ声に目を覚ます。先生が、他の生徒を起こさないように静かに私の体を揺さぶっていた。
「しぇんしぇい……おはようございます……」
寝ぼけ眼をこすりながら挨拶をすると、先生は笑って頷く。
「はい、おはようございます。すみません、サキちゃん。魔石研究所の方が会いたいと、お越しになっています。ついてきていただいてもいいですか?」
「……!」
私はすぐに起き上がって、先生についていく。
廊下の窓から外を見ると、まだ薄暗い。起床時間の少し前くらいだろうか。
宿の前には、マリオンさんと知らない白衣のおじさんがいた。
「サキ君。こんなに朝早くごめんね。あ、こちらは僕らの研究所の所長だよ」
マリオンさんが隣にいるおじさんを手で指し示すと、おじさんは軽く頭を下げた。
「はじめまして、所長のレイモンという。昨日マリオン君から、君の魔石のことを聞いてね。気になってついてきたんだ」
「はじめまして……」
挨拶が済むと、マリオンさんが箱を取り出して、私の目の前で開ける。
「それで、これが今のアクアブルムの技術を集めて加工したサキ君の魔石だ」
「……きれい」
箱の中を見ると、緑色の魔石が金属にはめこまれていた。
アクセサリーのようで、それは熊みたいな形をしていた。
「これは、『風の熊飾り』とでも言おうかな。この魔石になった動物は熊だって聞いていたからこの形にしてみたんだ。使い方はまず、これを手に持つ。そして風属性の魔力を込める」
私は箱から熊飾りを受け取って、マリオンさんに言われた通り魔力を流し込む。
すると、魔石の部分が光り出した。
マリオンさんは説明を続ける。
「そして、熊をイメージしてスキルを唱える。スキル名は【召還】。その後に名前を呼ぶんだけど、最初の召還だから今回はスキル名だけで大丈夫だよ」
私は、手に取った熊飾りに魔力を込めながら、クマノさんを思い浮かべる。
お願い、クマノさん……また一緒に組み手をしたいよ。
でもその時、私は同時にこうも考えてしまった。
……クマノさんはクマタロウくんがいないところに帰ってきて嬉しいのかな、と。
「……召還」
私がスキルを唱えると、魔石の光が強くなって中から何かが飛び出した。
光が収まって、飛び出したものを見る。
「……クマノさん?」
目の前には、クマノさんそっくりの小さな熊がいた。
しかし、私がクマノさんと呼んでも、目の前の熊は首を傾げるばかり。
「マリオンさん、この子に記憶は残ってる?」
私が尋ねると、マリオンさんは首を横に振った。
「ごめん、そこまではわからないんだ。でも、記憶を司る脳の部分は一度消えているから、生前の記憶が魔石に残っている可能性は低いと思う」
「そう、なんだ……」
私はゆっくりとその熊に近づく。
やっぱりクマノさんは帰ってこなかった。
呼び出す時に、私がクマタロウくんのことを考えてしまったからかもしれない。
クマノさんが生き返っても、ここにはクマタロウくんはいない。そして、クマノさんに記憶が残っているのなら、クマタロウくんを殺してしまったことだって覚えているはずだ。
そんな辛いことは、クマノさんに味わわせたくない。
だって、クマノさんを倒した私も、辛い思いをしているのだから……。
辛い思いをするのは、私だけで十分だ。
そう思うのに、未練が残ってしまっている。
ダメだなぁ、私……クマノさんに魔法を放つ時、覚悟したはずだったのに。
目に涙を浮かべる私に、呼び出した熊が心配そうに近づいてきた。
「あなたに、名前をつけてあげないとね……」
あぁ、声が震えちゃう。
この子、クマノさんにそっくりなんだもん。森にいた時を思い出しちゃうよ……。
私はしゃがんで、熊さんを抱っこする。
「それじゃあ、あなたの名前は……クマミ。クマノさんとクマタロウくんの分も、私とたくさん楽しいことをしようね……」
私がそう言うと、クマミは私の頬を舐めた。
しばらくして、クマミは魔石の中に戻った。
マリオンさんの話によると、魔石から復元した魔物は自身で魔力を生み出すことが難しいらしい。
だけど、召還者が魔力を供給してあげることで上手く動けるようになり、また、供給した魔力量に応じて、召還時間や大きさなんかも変わるんだとか。
冗談だと思うけど、やろうと思えば魔力量次第で建物よりも大きくなるとまで言われた。
私は熊飾りを大事にしまうと、マリオンさんとレイモンさんと色々話してから部屋に戻った。
睡魔が襲ってきていたからもう一度眠ろうと思ったが、帰ってきた時にはみんな起きていたので、仕方なくそのまま一日をスタートさせることとなった。
4 レクリエーション
「ふわぁ~……」
私は船から降りると、大きなあくびをした。
「サキ、眠そうね」
「うん……」
アニエちゃんの言葉にうつらうつらしながら応えると、ミシャちゃんも心配そうに覗き込んできた。
「寝不足はいけませんよ。先生も眠そうでしたけどね」
あの後、結局睡魔に負けて二度寝を試みたが、アニエちゃんによって起こされてしまったのだ。
おかしいなぁ。森にいた時は、このくらい寝なくても問題なかったはずなんだけど。
「大丈夫かい? 一位を目指さず、のんびり回っても僕は構わないよ」
フランはいつも通り優しい微笑みを浮かべている。
でもそんなこと、負けず嫌いのアニエちゃんが許さないだろう。
「何言ってるの、一位を目指すに決まってるじゃない」
やっぱりね。フランは苦笑いしている。
「いやぁ……でも、僕たち、今最下位だからね」
このレクリエーションは、クラス対抗戦の順位が低いチームからスタートする。
つまり、対抗戦でトップだった私たちは、出発するのが最後なのだ。
「だから、その分スピードと知恵で勝負するのよ。ほら、ヒントのカードを見ましょう」
そう言ってアニエちゃんは、配られたカードを取り出す。
オージェが尋ねる。
「なんて書いてあるっすか?」
『海と空の境界が見える丘にて待つ。日に負けぬ光が我に再び当たるその時まで』
「なんすかそれ? なんかの詩っすか?」
「わかんないけど、そう書いてあるのよ。ほら」
アニエちゃんはカードの文章をみんなに見せる。
確かにそう書いてある。
フランは取り出した地図の島の端を指差して言う。
「日の出側に広場があるみたいだから、まずはここに行ってみるかい?」
「そうね」
「まずはそうしてみましょうか」
アニエちゃんとミシャちゃんが納得している中で、オージェだけがわからないようだった。
「え? なんでここなんすか?」
「あんた……本当にわかんないの?」
アニエちゃんが呆れたようにそう言い、腰に手を当てる。
「『空と海の境界』はわかるっすよ! 水平線のことっすよね! でも、アクアブルムなら水平線が見えるところなんて他にもたくさんあるっすよ?」
「……はぁ。とりあえず急いで向かいましょう。【魔力操作】で行くわよ。フラン、案内よろしく」
「わかったよ」
魔力を体の一部分に集めて身体能力を上げる魔力操作は、私との特訓でみんなマスターしているため、私たちのチームは素早く移動できる。
「え? ちょっと? 俺の質問には答えてくれないんすか!?」
慌てるオージェにアニエちゃんが言う。
「いいから行くわよ! 走りながら答えてあげるから! あ、サキ。転ばないように気をつけてね? 辛くなったら言うのよ?」
私は頷いた。
「うん……わかった」
「やっぱり扱いの差がひどいっす!?」
「ほら、行くよ」
フランの声を合図に、私たちは島の端の広場へ向けて出発した。
「だから! ここの文章がこうでね!」
「あぁ……なるほどっす」
アニエちゃんがオージェに色々説明している間に、他の生徒をかなり追い越した。
私たちと最初に出発したチームとでは一時間ほど差がある。
それでも、今向かっている広場はスタート地点である港とは反対側にある。けっこうな距離を移動しなければならないので、移動速度の速い私たちなら逆転できるはずだ。
それにしてもこのレクリエーション、最初のヒントから厳しいな。主に体力的にだけど……。
そして、私たちは広場に到着した。
「えっと、着いたのはいいけれど……何があるのかな」
フランにそう言われて、私は辺りを見渡す。
広場といっても、ベンチが数個と海に落ちないための柵があるだけ。
強いて言えば、変わった形の岩が三つあるくらいだ。
遊具の代わりかな? 子供がその岩に登って遊んでいるけど……。
先に到着していたチームも数組いたが、謎は解けていないようだ。
すると、オージェが口を開いた。
宿と言ってもさすが観光地。前の世界のホテルのような施設だった。
大きな一室に十人、クラスごと男女別で振り分けられている。
私のいる部屋のベッドの並びは、アニエちゃん、私、ミシャちゃんの順番だ。
晩ご飯までもう少し時間があるかな。
お風呂はご飯の後だから、それまでは歩き疲れた足を休ませよう。
「はぁー、今日は歩きすぎて疲れました」
ミシャちゃんはそう言って、ベッドに背中からぼふっと倒れた。
「ミシャ、お行儀悪いわよ。まあ、気持ちはわかるけどね」
アニエちゃんはミシャちゃんをたしなめつつ、自分のベッドにゆっくりと座る。
私はアニエちゃんに小言を言われるのを承知で、ミシャちゃんと同じように勢いよくベッドにダイブした。
「もう、サキまで……」
「ね、ねぇ! サキさん!」
その時、アニエちゃんの反対側のベッドにいた女の子が私の名前を呼んできた。この子は同じクラスのレリアさんだ。
「何? レリアさん」
「今日の馬車で、フランくんの好きな人の話をしてたわよね?」
「うん、してた」
すると、私たちの話題に興味を持ったのか、他の子も寄ってくる。
レリアさんが続けて質問してくる。
「やっぱり、フランくんって好きな人がいるの?」
「うん、いるみたい……だよ?」
「誰か聞けた?」
う、うーん……答えにくい。聞いてはいないけど、わかっちゃったんだよね。
私はごまかしつつ、ふわっと説明することにした。
「誰かはわかんないけど……頑張り屋さんで、すごく好きだって」
「「「きゃー! それでそれで!?」」」
色めき立つ周囲の女の子たち。
これはあれだ。女子トークというやつだ。
やっぱり女の子は恋バナに興味があるんだね。
確かにフランはイケメンだし、性格もいいし、頭もいいし、貴族だし……うん、悪いところがない。
そりゃ、女の子はみんな気になるか。
「誰なんだろ、フランくんの好きな人」
「やっぱり、同じ貴族の子とか?」
「三組のエミリさんとかじゃないかな?」
「あー! ありそう! ね、アニエはどう思う?」
レリアさんや他のみんなに尋ねられ、アニエちゃんが困惑している。
「え? 私? うーん……まあ、あいつの話を聞く限り気が強い子みたいだし、大人しそうなエミリさんじゃないと思うけど」
「確かに……ミシャは誰だと思う?」
レリアさんがミシャちゃんに話を振ると、ミシャちゃんは慌てて答える。
「え? う、うーん……ちょっとわからないですね」
「そうなんだ。そういえばオージェの話もしてたよね。オージェって好きな子いたの?」
「そういうの興味なさそうだよね」
女の子たちの話題がオージェに移ると、ミシャちゃんはほっとしたように答える。
「いるって言ってましたよ。優しくて面倒見のいい人がどうとか」
「へぇ……望み薄ね」
レリアさん、辛辣!? フランとオージェの差がひどいよ!?
「そういえば、ミシャはオージェと幼なじみだったわね」
アニエちゃんの言葉に、私は思わず聞き返してしまう。
「え? そうだったの?」
それは初耳。でも、確かにいつも一緒に登校してるかも。
待って、それじゃあ、オージェの好きな人ってもしかして……。
ミシャちゃんが感慨深そうに言う。
「オージェくんも恋をする歳になったんですね……なんだか感動します」
「ミシャ、なんかそれ、おばあさんみたいよ」
アニエちゃんがそう言うと、みんなが笑う。
ダメだ、アニエちゃんもミシャちゃんも、自分が誰かに好かれているとは微塵も思ってない。
私はみんなに合わせて笑いながらも、心の中で男子二人を応援するのだった。
◆
「ふぅ……今日は歩き疲れたね」
僕、フランがそう呟くと、隣のベッドにいるオージェが大きく伸びをする。
「ほんとっすよ。サキの報告があれだったせいで、お昼ご飯選びで歩き回ったっすからね……フランもお疲れ様っす」
オージェはそう言うけど、僕は報告を聞く前からなんとなくわかっていた。
アニエは知っているが、屋敷にいる時のサキは、天才的な魔法の才能の持ち主とは思えないほど抜けているんだ。
よく転ぶし、朝はすごく眠そうな顔をしているし、ぼーっとしていることも多い。
まあ、そんなサキにあれこれ手を焼くアニエとアネットを見るのは楽しいからいいんだけどね。
突然、隣の部屋からきゃーという黄色い声が聞こえてきた。
「隣はずいぶんと盛り上がってるんだね」
「なんとなく話題はわかるっすけどね」
僕がオージェと話をしていると、隣のベッドにいた同じクラスのガデットが話しかけてくる。
「なぁ、フラン」
「なんだい、ガデット」
「前から気になってたんだけど、サキちゃんと一緒に住んでるんだよな?」
「そうだね」
僕が頷くと、ガデットは少し遠慮がちに尋ねる。
「……やっぱり、家の中のサキちゃんも可愛いのか?」
サキはクラス対抗戦の活躍から、男女問わず人気を集めている。噂じゃ、先輩や後輩の間でも有名になっているんだとか。
話題につられて他の男子も集まってきた。
僕は笑いながらガデットに答える。
「まあ、可愛いんじゃないかな」
「やっぱりかー! いいなぁ、俺もサキちゃんと一緒の家に住みたいぜ」
盛り上がる男子を見て、なんというか……有名人も知らないところで盛り上がられて大変なんだなと思った。
「オージェもそう思うだろ?」
ガデットはオージェに話を振った。
「いやぁ、俺はいいっす……」
「なんだよ、サキちゃんが転校してきた時に、あの子可愛いっすねって言ってたじゃんか。それにクラス対抗戦も今回も同じチームだろ? 羨ましいぜ。毎日一緒に特訓だってしてるみたいだし」
「そうでもないっすよ。いつも宙を舞ってるっす……」
僕は苦笑いしてしまった。まあ、実際オージェは毎日投げ飛ばされているしね。
最近は僕らが特訓していることが広まって、放課後、訓練場に見に来る人もいる。
それで、特訓中のサキの姿が可愛いとかかっこいいとかいう噂がさらに広まっているらしい。
「俺もサキちゃんに投げ飛ばされてー!」
「それに、アニエもミシャも最近じゃ可愛いって人気が高まってるし、フランたちが羨ましいよ」
変な欲望を言い出したガデットに続いて、他の男子の一人がそう言ってうらめしそうにこちらを見てくる。
確かにアニエもミシャも可愛いけど、そんな評判になっているとは知らなかった。
いや待てよ、前にアネットから聞いたことがあったかもしれない。
アネットが通う初等科一年の生徒には、サキやアニエの対抗戦の勇姿を見て、憧れにしている子が多いんだとか。
アネットはサキに魔法を習っていることもあり、羨ましがられているらしい。
「そういえば、アニエも今はフランのところのお屋敷に住んでるんだろ? お前の家、可愛い子だらけじゃねーか!」
ガデットが詰め寄ってくる。
「まあ、おかげで魔法の練習は捗ってるけどね」
僕はそう返答してごまかしておいた。
アニエと一緒に毎日練習できるのは確かに嬉しい。彼女はセンスがあるから、僕も置いていかれるわけにはいかないしね。
アニエの横にいられる男にならないと。
女の子の話をしているとすぐに時間が過ぎていき、晩ご飯になった。
◆
私――サキは、目の前に広がる晩ご飯の料理が並ぶ光景にとても感動している。
並んでいるのは、お刺身に焼き魚!
そして極めつきは……白いご飯!
「これが、水の豊富なアクアブルムだから作れる『コメ』ね……初めて見たわ」
「不思議な食感です……粒々していて、噛むたびにほんのり甘いですね」
「こ、この魚……生で食べるんすか? 大丈夫なんすか……?」
「こっちにある黒いソースをつけるのかな?」
アニエちゃんもミシャちゃんもオージェもフランも、ここの食事――日本食には馴染みがないようで色々困惑していた。
でも、まさか醤油まであるなんて……あぁもう、アクアブルムに住みたい。ここまできたら味噌もあるんじゃないかな? 久しぶりに味噌汁が飲みたくなってきた。
森にいた時に米を作れないか試し、水の供給が難しくて失敗したことがあった。それだけに、このご飯はすごく嬉しい。
「サキは生の魚、平気なのね。美味しい?」
「昔食べたことあるからね。美味しいよ」
私はアニエちゃんに答えつつ、刺身を醤油につけて、ご飯の上に載せてから一緒に食べる。
美味しい……美味しいよ!
はぁ、これが故郷の味。
普通に食べる私を見て、みんなも恐る恐る刺身を口に入れた。
「あ、意外と美味しいかも」
「うぅ……私はちょっと苦手です」
美味しそうに食べるアニエちゃんに、顔をこわばらせるミシャちゃん。
「俺もちょっときついっす」
「僕は普通かな。この醤油は美味しいけどね」
オージェもあまり好きではないみたいだけど、フランの表情は変わらない。
やっぱり生魚は好みが分かれるようだ。
「サキちゃん……私の分、よかったら食べてください……」
「俺のもっす」
「いいの!? 食べる!」
私はミシャちゃんとオージェの刺身をもらう。
久しぶりの和食に、私は大満足だった。
晩ご飯を終えると、学年主任の先生が前に出てきて明日の説明が始めた。
「皆さん、明日は予定表にも書いてある通り、朝、船に乗ってアクアブルムの離島でレクリエーションをします。今からそのことについて話しますので、しっかりと聞いてください」
先生の説明を簡単にまとめると、離島で行うレクリエーションとは、チームごとに配られるカードにヒントが出されるので、それを解いて文章を完成させるというものらしい。
ヒントは勝手に出てくるわけではなく、一つ解いたらまた別のものが出てくる仕組み。解き終わったらまた船まで戻ってきて、先生のチェックを受けてクリアとのこと。
上位三チームのチームメンバーにポイントがもらえるらしく、みんなやる気を見せていた。
ちなみにポイントとは、学校内限定ながら学食や購買での買い物に使えるものだ。
レクリエーションの説明後は、明日の起床時間の確認などをして、私たちは部屋へ戻った。
そこからは部屋ごとにお風呂の時間だ。
「おぉ……!」
お風呂はきれいな露天風呂だった……私、絶対またアクアブルムに来る。この宿を覚えておこう。
私はタオルを湯船につけないように、ゆっくりお湯に浸かった。
「はぁ……」
「サキ、ずいぶん表情が明るいわね。そんなにアクアブルムを気に入った?」
アニエちゃんに聞かれ、私は頷いた。
「うん、絶対また来る……」
ミシャちゃんが私を見て笑う。
「そんなに気に入ったんですか。また来る時は私も誘ってくださいね」
「あら、それじゃあ私も」
「うん……ミシャちゃんもアニエちゃんも一緒に来ようね」
三人で湯船に浸かりながら笑い合う。
前の世界の宿泊学習では寂しい思いしかしなかったけど、この世界ではお友達が一緒だからとても幸せだ。
これからもみんなで楽しい思い出を作れたらいいな。
お風呂を終え、部屋に戻ってベッドに入る。
さすがに歩き疲れたのか、睡魔がすぐに襲ってきた。
明日も楽しい一日になるように願って、私は眠りについた。
「サキちゃん……すみません、サキちゃん。起きてください」
「ん……?」
私の名前を呼ぶ声に目を覚ます。先生が、他の生徒を起こさないように静かに私の体を揺さぶっていた。
「しぇんしぇい……おはようございます……」
寝ぼけ眼をこすりながら挨拶をすると、先生は笑って頷く。
「はい、おはようございます。すみません、サキちゃん。魔石研究所の方が会いたいと、お越しになっています。ついてきていただいてもいいですか?」
「……!」
私はすぐに起き上がって、先生についていく。
廊下の窓から外を見ると、まだ薄暗い。起床時間の少し前くらいだろうか。
宿の前には、マリオンさんと知らない白衣のおじさんがいた。
「サキ君。こんなに朝早くごめんね。あ、こちらは僕らの研究所の所長だよ」
マリオンさんが隣にいるおじさんを手で指し示すと、おじさんは軽く頭を下げた。
「はじめまして、所長のレイモンという。昨日マリオン君から、君の魔石のことを聞いてね。気になってついてきたんだ」
「はじめまして……」
挨拶が済むと、マリオンさんが箱を取り出して、私の目の前で開ける。
「それで、これが今のアクアブルムの技術を集めて加工したサキ君の魔石だ」
「……きれい」
箱の中を見ると、緑色の魔石が金属にはめこまれていた。
アクセサリーのようで、それは熊みたいな形をしていた。
「これは、『風の熊飾り』とでも言おうかな。この魔石になった動物は熊だって聞いていたからこの形にしてみたんだ。使い方はまず、これを手に持つ。そして風属性の魔力を込める」
私は箱から熊飾りを受け取って、マリオンさんに言われた通り魔力を流し込む。
すると、魔石の部分が光り出した。
マリオンさんは説明を続ける。
「そして、熊をイメージしてスキルを唱える。スキル名は【召還】。その後に名前を呼ぶんだけど、最初の召還だから今回はスキル名だけで大丈夫だよ」
私は、手に取った熊飾りに魔力を込めながら、クマノさんを思い浮かべる。
お願い、クマノさん……また一緒に組み手をしたいよ。
でもその時、私は同時にこうも考えてしまった。
……クマノさんはクマタロウくんがいないところに帰ってきて嬉しいのかな、と。
「……召還」
私がスキルを唱えると、魔石の光が強くなって中から何かが飛び出した。
光が収まって、飛び出したものを見る。
「……クマノさん?」
目の前には、クマノさんそっくりの小さな熊がいた。
しかし、私がクマノさんと呼んでも、目の前の熊は首を傾げるばかり。
「マリオンさん、この子に記憶は残ってる?」
私が尋ねると、マリオンさんは首を横に振った。
「ごめん、そこまではわからないんだ。でも、記憶を司る脳の部分は一度消えているから、生前の記憶が魔石に残っている可能性は低いと思う」
「そう、なんだ……」
私はゆっくりとその熊に近づく。
やっぱりクマノさんは帰ってこなかった。
呼び出す時に、私がクマタロウくんのことを考えてしまったからかもしれない。
クマノさんが生き返っても、ここにはクマタロウくんはいない。そして、クマノさんに記憶が残っているのなら、クマタロウくんを殺してしまったことだって覚えているはずだ。
そんな辛いことは、クマノさんに味わわせたくない。
だって、クマノさんを倒した私も、辛い思いをしているのだから……。
辛い思いをするのは、私だけで十分だ。
そう思うのに、未練が残ってしまっている。
ダメだなぁ、私……クマノさんに魔法を放つ時、覚悟したはずだったのに。
目に涙を浮かべる私に、呼び出した熊が心配そうに近づいてきた。
「あなたに、名前をつけてあげないとね……」
あぁ、声が震えちゃう。
この子、クマノさんにそっくりなんだもん。森にいた時を思い出しちゃうよ……。
私はしゃがんで、熊さんを抱っこする。
「それじゃあ、あなたの名前は……クマミ。クマノさんとクマタロウくんの分も、私とたくさん楽しいことをしようね……」
私がそう言うと、クマミは私の頬を舐めた。
しばらくして、クマミは魔石の中に戻った。
マリオンさんの話によると、魔石から復元した魔物は自身で魔力を生み出すことが難しいらしい。
だけど、召還者が魔力を供給してあげることで上手く動けるようになり、また、供給した魔力量に応じて、召還時間や大きさなんかも変わるんだとか。
冗談だと思うけど、やろうと思えば魔力量次第で建物よりも大きくなるとまで言われた。
私は熊飾りを大事にしまうと、マリオンさんとレイモンさんと色々話してから部屋に戻った。
睡魔が襲ってきていたからもう一度眠ろうと思ったが、帰ってきた時にはみんな起きていたので、仕方なくそのまま一日をスタートさせることとなった。
4 レクリエーション
「ふわぁ~……」
私は船から降りると、大きなあくびをした。
「サキ、眠そうね」
「うん……」
アニエちゃんの言葉にうつらうつらしながら応えると、ミシャちゃんも心配そうに覗き込んできた。
「寝不足はいけませんよ。先生も眠そうでしたけどね」
あの後、結局睡魔に負けて二度寝を試みたが、アニエちゃんによって起こされてしまったのだ。
おかしいなぁ。森にいた時は、このくらい寝なくても問題なかったはずなんだけど。
「大丈夫かい? 一位を目指さず、のんびり回っても僕は構わないよ」
フランはいつも通り優しい微笑みを浮かべている。
でもそんなこと、負けず嫌いのアニエちゃんが許さないだろう。
「何言ってるの、一位を目指すに決まってるじゃない」
やっぱりね。フランは苦笑いしている。
「いやぁ……でも、僕たち、今最下位だからね」
このレクリエーションは、クラス対抗戦の順位が低いチームからスタートする。
つまり、対抗戦でトップだった私たちは、出発するのが最後なのだ。
「だから、その分スピードと知恵で勝負するのよ。ほら、ヒントのカードを見ましょう」
そう言ってアニエちゃんは、配られたカードを取り出す。
オージェが尋ねる。
「なんて書いてあるっすか?」
『海と空の境界が見える丘にて待つ。日に負けぬ光が我に再び当たるその時まで』
「なんすかそれ? なんかの詩っすか?」
「わかんないけど、そう書いてあるのよ。ほら」
アニエちゃんはカードの文章をみんなに見せる。
確かにそう書いてある。
フランは取り出した地図の島の端を指差して言う。
「日の出側に広場があるみたいだから、まずはここに行ってみるかい?」
「そうね」
「まずはそうしてみましょうか」
アニエちゃんとミシャちゃんが納得している中で、オージェだけがわからないようだった。
「え? なんでここなんすか?」
「あんた……本当にわかんないの?」
アニエちゃんが呆れたようにそう言い、腰に手を当てる。
「『空と海の境界』はわかるっすよ! 水平線のことっすよね! でも、アクアブルムなら水平線が見えるところなんて他にもたくさんあるっすよ?」
「……はぁ。とりあえず急いで向かいましょう。【魔力操作】で行くわよ。フラン、案内よろしく」
「わかったよ」
魔力を体の一部分に集めて身体能力を上げる魔力操作は、私との特訓でみんなマスターしているため、私たちのチームは素早く移動できる。
「え? ちょっと? 俺の質問には答えてくれないんすか!?」
慌てるオージェにアニエちゃんが言う。
「いいから行くわよ! 走りながら答えてあげるから! あ、サキ。転ばないように気をつけてね? 辛くなったら言うのよ?」
私は頷いた。
「うん……わかった」
「やっぱり扱いの差がひどいっす!?」
「ほら、行くよ」
フランの声を合図に、私たちは島の端の広場へ向けて出発した。
「だから! ここの文章がこうでね!」
「あぁ……なるほどっす」
アニエちゃんがオージェに色々説明している間に、他の生徒をかなり追い越した。
私たちと最初に出発したチームとでは一時間ほど差がある。
それでも、今向かっている広場はスタート地点である港とは反対側にある。けっこうな距離を移動しなければならないので、移動速度の速い私たちなら逆転できるはずだ。
それにしてもこのレクリエーション、最初のヒントから厳しいな。主に体力的にだけど……。
そして、私たちは広場に到着した。
「えっと、着いたのはいいけれど……何があるのかな」
フランにそう言われて、私は辺りを見渡す。
広場といっても、ベンチが数個と海に落ちないための柵があるだけ。
強いて言えば、変わった形の岩が三つあるくらいだ。
遊具の代わりかな? 子供がその岩に登って遊んでいるけど……。
先に到着していたチームも数組いたが、謎は解けていないようだ。
すると、オージェが口を開いた。
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