前世で辛い思いをしたので、神様が謝罪に来ました

初昔 茶ノ介

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番外編

episode R & L 11

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目を覚ましたら見覚えのない白い天井があった。
起き上がって周囲を見回すと医務室だった。リリアを送っていたから覚えている。

試合はどうなった…?
俺は情けねぇがあいつの魔法で戦闘不能になって…。
とにかくここを出るか。

回復魔法をかけられているのか体に特に痛みはない。
俺がベットから降りたところでちょうど医務室の扉が開いた。

「失礼します…」

声からして…リリアか?

「……!ラロックさん!」

リリアが俺のそばに駆け寄ってきた。

「お体は平気なんですか?」

「あ、あぁ…たぶん、回復魔法がかかってたんだろうな。痛みはない」

「そうですか…」

「あぁ…リリア、試合は終わったんだ。すまなかったな…かっこ悪い終わり方で」

「そんな!!あれは相手が悪かったんです!まさか四学年で第五クイル級魔術を使えるなんて誰も思いません」

「それでも…相手は同学年。勝てない理由はなかった…」

「それは…そうかもしれませんが…」

しばらくの沈黙…。

「はぁ…リリア、試合の前にあのジェルノに俺とどっちがお前にふさわしいか決めようと言われた。あいつは俺に勝てるだけの強さを持ってる。安心してあいつといてもいいと思う」

「…本当にそう思っているんですか?」

「え?」

「ラロックさんとは…まだ少しかいませんが、分かります。ラロックさんは本当に私があのジェルノさんと一緒になることを望んでいるのですか?」

俺が望んでいること…それは…。
いや、あいつに喧嘩を売られた時から心のどこかで思ってたんだ…。

「本当は…あいつに勝って、俺が認められてやるって…思ってたんだ…。俺が神童を倒して、落ちこぼれと馬鹿にしてきた連中を見返してやるって思ってたんだ!それでお前とこれからも一緒に魔法を磨いていきたいって思ってたんだ!でも…俺じゃダメだったんだよ…あれだけやったのにダメだったんだよ!勝てなかったんだよ!力のない俺じゃお前といても…守ってやることもできねぇんだよ…」

女の前で情けないと思うが…俺の目からは涙が出てきた。
あれだけ努力した。魔法も体術も、自分なりに頑張った。でも、あいつに負けた。
それは自分の心を折るには十分すぎる結果だった。

「では、君は諦めるのかね?」

大人の男性の声が聞こえて顔を上げると、医務室の扉の前に貴族の服を着た人が立っていた。

「お父様…?」

リリアの父様?それじゃあ…。
俺は慌ててひざまずき、頭を下げる。

「カトリー侯爵様、このような場で申し訳ございません。私は」

「いつもの口調で構わないよ、ラロック君。君のことはリリアとセニアから聞いている。先ほど君が言っていた通り、ブローニュ家からリリアに縁談の申し立てがあるのは確かだ。しかし、私はその申し立てをすぐに聞き入れるつもりはない。というより、先ほどの君の戦いを見てそう思った」

……?なんでだ?俺はあいつに勝てなかったし、強い魔法を使えるやつといるのが一番いいんじゃないのか?

「無茶をすることもあったが、君の最後まで諦めない精神は見ていて心を揺さぶられるものがあった。そして、今回の戦いは相手が魔法でうまく勝つことができたが、周囲の警戒の甘さや心の未熟さを感じた。それと、リリアに言われたのも少しはあるがな。君が落ちこぼれと言われつつも努力をしているのは、セニアとリリアの話で知っている。だからこそ、私は君に少し期待しているのだよ」

「期待…」

「そうだ。私は子供たちに魔法を教える際に必ず言っていることがある。それは『最後まで諦めることは許さない』ということだ。命さえ残っていれば負けることは自分を磨くための糧になる。しかし、負けて諦めるというのは何も生まない。私は君の戦い方がとても気に入っているのだよ。しかし、先ほどの発言はあまり感心しないな。君はまだ四学年。まだまだ諦めることはないと思うのだが?」

「俺は…いや、そんなことを言っても、あいつは神童。そういう奴の方がリリアのことを守ってやれるではないでしょうか?」

俺がそう言うと、リリアが俺の前に立って両手を握る。

「ラロックさん。私は愛する人の後ろで守られる女になりたいんじゃありません。愛する人の隣にいられる女でいたいんです」

「リリア…」

「私は、ラロックさんとの特訓が本当に楽しくて、勉強になって、ずっと一緒にいたいって思ってたんです…だから、もう少しだけ頑張りましょう。今度は最初から私も一緒に頑張りますから…ね?」

リリアが俺に微笑んで言った。その顔を見て、また涙がこみ上げてきた。
誰かと一緒に強くなる…そんなこと考えたことはなかった。自分を守るため、自分の存在を認めさせるため、一人で頑張ることは当たり前だと思っていた。でも、そんなことなかったんだ…俺と一緒に頑張ってくれると言ってくれる人がいたんだ…。
嬉しい…嬉しいのに涙が出てくる。
リリア…最初は変な奴だと思っていたけど…こんなにも俺はこいつを大切な存在だと感じていたんだ…。

俺は涙を拭いて、カトリー侯爵様の方を向く。

「カトリー侯爵様」

「なんだね?」

「1年。俺に1年だけ時間をください。来年の代表戦前には目に見える成果をお見せします。そして、来年の代表戦であいつが出てきた際には必ず勝利してみせます」

「……いいだろう。期待しているよ、ラロック君」

「はいっ!」

俺が返事をして頭を下げると、カトリー侯爵様は医務室を出て行った。
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