7 / 145
1巻
1-3
しおりを挟む
「ネル、聞いて。明日から、魔法や武術の練習ペースを上げたいの」
『サキ様がそうおっしゃるなら。ですが、なぜですか?』
「もしウィンドウルフが現れたら、クマノさんがまた傷ついちゃう……だから、私が強くなって、クマノさんたちを守りたいの」
『かしこまりました。では現在習得を進めているナンバーズの他、ワーズの習得に着手いたしましょう』
「わ、わーず?」
そういえば、これも最初に魔法を覚える時に言われたような……。
ネルが私の腕の中で解説を始める。
『ワーズとは、ナンバーズに特性を付与する魔法スキルです。非常に高度な技術のため、全てのワーズを使いこなせる者はシャルズにもあまりいません。【魔力操作】の練習により、サキ様も体得可能です』
ま、魔力操作……? 聞いたことのない技術が出てきた……。
「例えば、どんなことができるの?」
『ワーズは【ア・ベ・セ・デ】に分類され、四つの意味と特性が存在します。【ア】は飛距離、【べ】は速度、【セ】は持続性、【デ】は操作性をつかさどります。例えば、第一フレアをより遠くへ飛ばしたい時は【ア】のワーズを付与し、【第一・ア・フレア】として発動することで、飛距離が伸びます』
ってことは、より遠くから安全に敵を倒せたりするってことだよね!
「なんかすごそう! さっそく教えて!」
食いつく私に、ネルが冷静に答える。
『ただし、ワーズは最低でも第三ランクのナンバーズを使用できないと、獲得は難しいと考えられています。また、体得するためには魔力操作の練度が必要になります。魔力操作とは、魔力を精密に、かつ自在に操る技術です。身につけるには、イメージ力や精神力を相当鍛錬しなければなりません』
「な、なんか難しそうだね……」
『はい。しかもワーズはナンバーズと異なり、ランクによって威力が固定される性質の魔法ではありません。同じワーズを使っても、術者の力量により性能は大きく異なるのです』
う、ものすごく大変そう……。今まで覚えたナンバーズは低ランクだったし、習得の心得があるからほぼ一瞬でスキル化できていた。だけどワーズはスキル化できたとしても、頑張らなきゃ上手く使いこなせないってことだよね……。
私は、今後のことを改めて考える。
だけど、やっぱりこのままじゃダメだ……。
第二ランクのナンバーズまで習得したところで生活に不自由がなくなったから、これで十分だと思ってた。
でも、今日わかった。シャルズで生きていくには力がないといけない。私自身のことも、大切な存在も、自分の力で守らなきゃ。だから、これから頑張っていこう……。
決意する私の隣で、ネルは説明を続ける。
『ワーズを付与すると通常のナンバーズを使うよりも魔力を消費します。また、ナンバーズのランクが上がるごとに使用が困難になっていき……』
ありがとうネル……。でも、魔物のことで疲れたから、眠気に襲われる。もう限界かも……。
今日はとりあえず、おやすみ……。
3 私の成長
――シャルズに来てから、三年が経とうとしている。
私は……ネルに聞いたところ、これで八歳になったらしい。ちょっとは、背が伸びたかな?
ちなみにネルは魔法の猫だからか、ずっと子猫のままだ。やろうと思えば大きくなれるみたいだけど、可愛いからこのままでいいかなって思ってる。
ウィンドウルフに襲われてから三年――私はネルの指導のもと、ひたすら魔法の修業と研究を重ねた。
「にゃーん」
「うん、ありがとう。もう行くから」
私はネルを抱っこして、洞窟から森へ向かう。
そこには以前と変わらず、クマノさんとクマタロウくんがいる。
クマノさんのお腹には、治癒に時間がかかったせいか傷痕が残ってしまった……でも組み手での手ごわさは変わっていないし、とても元気だ。
クマタロウくんも三年で立派になった。最近ではクマノさんとの組み手の後に、クマタロウくんとも組み手をしている。これが、なかなか強いのだ。
「クマノさん、今日もよろしくお願いします」
私がいつものように頭を下げると、クマノさんもお辞儀を返す。
私はふぅと息をついて、意識を体内の魔力に集中した。
「……いくね」
魔力を足に込め、走る。
私はクマノさんの背後を取っていた。
――魔力とは、単に魔法を発動させるためのエネルギーではない。
三年の研究と練習で、私はそれを知った。
魔力は身体能力の一つであり、魔力を込めるというのは、手を握る時に力を込めるのと同じことなのだ。だから、魔力を込めるとその部分の身体能力が強化される。
足に込めれば、こんな風に瞬時に移動することだってできる。
跳び上がり、クマノさんの頭を後ろから突く。しかし、読まれていたのか、右前脚で防がれる。
地面に着地すると、クマノさんに足払いをかけられる。よけて、距離をとる。
「第二ウィンド」
私は自分の後ろに風を起こして加速し、クマノさんに迫る。クマノさんは、左前脚を振りかざす。
「にゃーん」
ネルの鳴き声で、私とクマノさんはぴたっと動きを止めた。
あれ、まだ組み手終了の時間じゃないはずだけど……?
ネルのほうを見ると、深刻な様子で伝えてきた。
『森の先に複数の個体反応があります。狼の群れのようですが、普通とは違う大きな反応が出ています』
「ウィンドウルフ……?」
『はい、サキ様のお見込みの通りです』
「懐かしいなぁ…」
私は三年前を思い出す。思えばウィンドウルフのおかげで、ここまで強くなれた気がする。
『サポートは必要でしょうか?』
「ううん……大丈夫だよ。いつも通り、私の動きを見てて」
『承知いたしました』
さて――三年前のリベンジだよ。
ネルに教えてもらった場所で、狼たちを待ち構える。すると森から群れが飛び出してきた。
すごいスピードで、三匹が飛びかかってくる。
「もうあの時の私じゃないんだよ!」
私は手に魔力を込めて、三匹の顔に掌底を打ち込む。三匹は一撃で倒れ、動かなくなった。
私の戦闘スタイルは、ネルが考案してくれたものだ。ネルは膨大な知識から様々な武術を取り入れ、一番適した戦い方を編み出してくれた。だから私はこの戦い方を【ネル流】と名付けた。
三匹がやられたせいか、他の狼たちは立ち止まり、警戒した様子でこちらを窺っている。
その一番後ろに控えているのは――ウィンドウルフだ。目に映る光景が、三年前と重なる。
あの時は敵わなかったけど……今なら戦えるよ!
ウィンドウルフが駆け出す。唸りながら口を開き、巨大な牙で私の首元を狙う。
私はよけずに立ち向かう。ウィンドウルフに掌底を繰り出す。が、よけられた。
さすが魔物化したウィンドウルフ……他の狼たちとは速さが違うみたいだね。
後方に下がったウィンドウルフは右前脚を持ち上げた。
すると緑色の風が起き、尖った爪に集まっていく。
きた! ウィンドウルフのオリジナル魔法スキル――【風爪】!
この三年間、徹底的に魔法を研究した。ナンバーズ、ワーズ、エンチャント……そして、オリジナル。
オリジナルは魔物や人間が独自に生み出した魔法のことだ。風爪は爪に風属性の魔法を纏わせて鋭くし、攻撃力を増す効果がある。
ウィンドウルフへの対策を練るうちにわかった。三年前、私の第二ライト・バリアを破ったのは、この風爪だ。
だけど、その対策はしっかりしているよ……。
オリジナル魔法スキルが使えるのは、あなただけじゃない。
「【飛脚】!」
飛脚は、ネルと私が考案したオリジナル魔法スキルだ。風属性の魔法を足に集中し、瞬時に移動する。
ウィンドウルフの特性は高い機動性で近づき、強力な爪で近接攻撃を繰り出してくること。だからそれを上回る速度で距離を取る。
「二重付与・エアロバリア」
迫ってくるウィンドウルフと私の間に、薄緑のバリアが出現する。ウィンドウルフが触れた瞬間、風が巻き起こり、身体を吹き飛ばす。
しかし同じ風属性だからか、ウィンドウルフは空中で体勢を立て直した。むしろ風を利用して加速し、私に襲いかかる。
でも……作戦通り。
「四重付与・【悪魔ノ檻】」
爪を私に突き刺す寸前で、ウィンドウルフは黒いバリアに閉じ込められた。
悪魔ノ檻――四重付与によって、相手を光属性のバリアに捕らえ、さらに炎・土・雷属性の魔法をバリア内に起こす技だ。
捕まった者は三属性の攻撃を同時に受ける。風属性の魔法しか使えないウィンドウルフは、対応できないはずだ。
攻撃がやみ、バリアが解除される。体のあちこちに傷を負ったウィンドウルフが、息を荒くしてこちらを睨んでいた。
だけど……まだ戦意は失っていないみたい。
ウィンドウルフが憎々しげに吠え、風爪を振りかざして襲ってくる。
「いくよ……」
これが、私の三年間の成果……。
「第四・ベ・フレア!」
べは、魔法のスピードを上げるワーズ。
――この三年で、私はナンバーズを第九、ワーズを全種類使いこなせるまで特訓を重ねた。
超高速の炎の弾を連続して放つ。ウィンドウルフはよけようと動くが、間に合わない。
いくつもの火の玉が、ウィンドウルフを撃ち抜いた。
フレアを受けて、ウルフが倒れる。燃え盛る炎が消えると、焦げた死体が転がっていた。
ボスを倒された狼の群れは、怯えた様子で森の奥へ逃げていく。それを見届けて、私は大きく息をついた。
「…………勝った、勝ったよ‼」
ついに私の力で、魔物を倒せるようになったんだ。これでもう、大切なものを傷つけられることなんてないね。
「勝てたよ、ネル‼」
見守ってくれていたネルを振り向くと、私をねぎらうように頷いてくれた。
『お見事でした。サキ様の完勝でございます』
「……やったぁ!」
そのあと、ネルに教えられ、ウィンドウルフの死体を処理して体内の魔石を回収した。魔石を放置すると、影響を受けて新しい魔物が生まれやすくなるらしい。
作業を終えて一息ついていると、クマノさんとクマタロウくんが近寄ってきて、顔を舐めてくれる。
「くすぐったいよぉ」
舐められながら二匹の頭に手を置く。今回はクマノさんもクマタロウくんも無事でよかった……。
「ここまで強くなれたのはネルと、クマノさんたちのおかげだね……」
クマノさんは撫でられて気持ちよさそうな顔だ。クマタロウくんも『僕も僕も』と言わんばかりに頭をすり寄せてくる。
「ふふ……これからは私がクマノさんたちを守るからね。さてと……一緒に帰ろう!」
今日はお祝いに、クマノさんたちと美味しいものを食べないとね。
前世ではやったことないけど……BBQとかしちゃおうかな。
ウキウキしていると、クマノさんが私を背中に乗せてくれた。ネルは私の肩に乗り、クマタロウくんは隣を歩く。
こうして私と三匹は一緒に洞窟に向かったのだった。
4 三年ぶりの遭遇
ウィンドウルフを倒して、一週間が経った。今日は森に出て狩りをしている。
お祝いのBBQで、けっこうお肉を消費したのだ。
クマノさんもクマタロウくんも喜んで食べてくれたので、私もいっぱい食べちゃった。
ネルに『肉の備蓄が底を突きました』と言われ、慌てて狩猟に出ることにした。
でも狩りといっても武器は使わず、森の動物を雷属性魔法で倒すだけなんだけどね。
「ふぅ…こんなもんかな」
一時間ほどで、猪二頭、野鳥四羽を捕獲し、解体した。
「【収納空間・食糧】」
唱えると、何もない空中に丸い穴が現れる。私はそこへお肉をしまっていく。
これも修業中に作ったオリジナル魔法スキルだ。空間属性と特殊属性をかけあわせ、自由に物を出し入れできる亜空間を生み出した。空間属性で生み出した収納スペース内は、特殊属性で時間を止めており、しまった肉や野菜は新鮮なまま……贅沢な冷蔵庫ってところだね。
ちなみに食糧の他に【武器】【素材】【アイテム】の収納空間も作ってある。
「よし、これでしばらくは……」
「うわああああああ‼」
私はビクッと身体をすくませた。
な、何……? 今の悲鳴、人間だよね? 今までこの森で、人間に会うことはなかったのに。
久しぶりに聞く人の声が、叫び声だなんて……。何があったんだろう。
同行していたネルが呟く。
『北西の方向ですね』
「場所……わかる?」
『把握しています。向かわれますか?』
「……いちおう、ね」
こうしてネルの案内で、声のしたほうへ向かってみると、そこでは――
「何、あれ……⁉」
燃えるように赤い毛並みをした猪が、馬車を襲っていた。
『あれは猪が魔物化したもので、炎属性を得た【フレアボア】と思われます』
フレアボア……。どうやら魔物化すると、属性に応じて毛並みの色が変わるみたいだね。
ウィンドウルフのように普通の個体より大きく、馬車をなぎ倒せそうなほどの巨体だ。赤い牙を何本も生やしていて、鼻を鳴らしながら脚を踏み鳴らしている。ものすごく獰猛そうだ。
馬車に穴が開いているのは、赤い猪の仕業だろう。赤い猪は再び突進を仕かけようと、後ろ脚で地面を蹴り、助走をつけている。
対して馬車の前には、剣を持った兵士らしき人たちが三人で立ち塞がっている。
「ネル、やばそうだよ。あの人たちだけで対処できる?」
『難しいでしょう。馬車の外にいる兵士は、見たところそれほど魔法に長けてはいない様子ですから、フレアボアには敵いません。またここからでは視認できませんが、馬車の陰に負傷者が一人、馬車の中に非戦闘員が一人いると推察されます』
人と関わるのは避けてたけど、ここは助けるしかない……。
「ネル、私の魔法では何が有効?」
『フレアボアは炎属性の毛皮で覆われ、硬い皮膚を持つのが特徴です。防御力が非常に高いですが、水属性が弱点です。第四ランクの特殊属性の【バレット】スキルを推奨します』
「わかった。第四ユニク・バレットオープン」
私は手を銃の形にして、人差し指でフレアボアの頭に狙いを定める。
バレットは特殊属性の魔法だが、付与すれば別属性の魔力の弾を撃ち出せる。
弾数は込める魔力が多ければ多いほど増やせる。さらに、付与を増やすほど、様々な属性で攻撃が可能だ。
「二重付与・アクアバレット」
水色の球体が二つ、ふわんと浮かぶ。
「第四ユニク・バレットショット!」
指から水の弾が発射され、フレアボアの頭を貫通する。
フレアボアは大きな身体をぐらつかせる。ずしんと倒れると、動かなくなった。
ふぅ……と息をつく。すると、兵士の一人がこちらのほうを見ていた。
か、隠れてたつもりだったのに、ばれた⁉ 私は慌てて逃げようとする。
「お、お待ちください! あなたがフレアボアを倒してくださったのですか⁉」
背後から声をかけられ、つい足を止めてしまった。
そのまま立ち去るつもりだったのに……なんでだろう。自分でもよくわからない。
「危ないところを助けていただき、感謝する! せめて、姿だけでも見せていただきたい!」
思わず駆けつけただけで、人と会うつもりなんてなかった。こ、心の準備が……。
だけどこんな風に感謝されたら、黙って行っちゃうのも失礼だろうし……。
私はしぶしぶ、木の陰から顔を出した。
「……女の子?」
兵士さんは、目を丸くしている。
「……あ、……う。…………はぃ」
いちおう返事はしたけど……や、やばい……。うまく話せないどころか、声が出ない。
もともとのコミュ障に加えて、三年間も人に会ってなかったせいだ。
「君が助けてくれたのですか?」
「そ、そう……で、す……」
うう、挙動不審すぎる……。
だけど兵士さんは私に向き合うと、立て膝をついて礼をとった。
「改めて、助けていただいたことを感謝します。怪我人が出ていましたし、馬車の中には主人がいたのです」
「たいしたことは……してないので……」
会話が終わり、沈黙が流れる。き、気まずい……。私がコミュ障すぎて、呆れたのかな?
そう思っていると、兵士さんが口を開いた。
「……助けていただいた立場で図々しいとは思うが、この森にある集落の場所を教えていただきたい。負傷した仲間を治療したいのです。できれば回復薬を分け与えていただくか、もしくは治癒属性の魔法を使用できる者がいると助かるのだが……」
しゅ、集落? そんなこと言われても、森には私一人だし……。
「私、一人、なので……集落、ない……」
「一人? この森に一人で住んでいるのですか⁉」
兵士さんは驚いたみたいで、大きな声を出す。
そ、それもそうか。私くらいの年の子が、単身森でサバイバルしてるなんて、普通ありえないもんね。怪しまれたかな……だけど、言ってしまったものはしょうがない。第一、本当だし。
「はぃ……」
兵士さんは信じられないという顔をした。
「そ、そうですか……」
兵士さんは下を向いて、また黙ってしまう。
怪我人がいるって言ってたし、困っているんだろうなあ……。
「あの……」
人と関わるなんて、しばらくは無理だと思っていたのに……気づくと口を開いていた。
「近くに……私の家、あるので……よければ、手当て、とか……」
「本当ですか⁉ 助かります!」
兵士さんが顔を輝かせた。今気づいたけど、よく見るとイケメンさんだなぁ。赤茶の髪に、彫りの深い顔立ち……PPGの主人公みたい。
「お待ちください。今、主人を呼んでまいります!」
兵士さんはそう言って馬車の中に入る。すぐに後ろに誰かを伴って出てきた。
「私たちを助けてくださり、ありがとう」
兵士さんの後ろから現れたのは、二十代後半くらいの男の人だった。
きれいな金髪の前髪を半分アップにしていて、爽やかさと男の人らしさが半々という感じでとても好印象だ。緑色の瞳に、整った顔立ち……前世だと絶対、モデルや俳優になっていそう。
ずっと一人で過ごしていたのに、急にイケメンだらけ……私は、緊張でかちこちになる。
「申し遅れた。私はアルベルト公爵アノル・アルベルト・イヴェールの子息、フレル・アルベルト・イヴェールだ」
私は一瞬耳を疑った。
こ、公爵子息……? 公爵って確か、めっちゃ偉い人じゃない⁉
シャルズのことを勉強していた時に読んだことがある。
この森が位置している国――グリーリア王国では、魔法の実力に応じて王様から貴族の位に叙され、領地を与えられる。爵位は上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。中でも公爵位は王家に認められた四つの家にのみ与えられ、王都の区を治めることを許されているんだとか……。
とにかく、この人は王様の次に偉い人の息子ってことだよね……?
そんな人の兵士さんにキョドって、失礼な奴だと思われたかも⁉
無礼だって首をはねられちゃったり……⁉
「し、し、失礼いたしました……」
ただでさえで緊張しているのに、公爵とか……気絶しそうになりながらも、慌ててネルを地面に下ろし、ひざまずく。
「公爵家の方々、とは知らず、お……お許しください」
フレル様が笑いかけてきた。
「そんなにかしこまらなくて大丈夫だ。それよりも、兵士を手当てする場を提供いただけるとか」
とてつもない、爽やかスマイル……。目をちかちかさせながら返事をする。
「はい……」
「大変ありがたい。では、案内を頼めるだろうか」
「わかり、ました。怪我を、した人は……?」
「それなら、担架を作ってある!」
先ほどの赤茶髪の兵士さんが答えた。見ると、木の枝や手持ちの布で使った担架に、すでに怪我人を乗せていた。
洞窟は森の中だ。木に邪魔されて馬車は入れないので、いったん置いていくことになった。
洞窟に着き、ひとまずリビングへ通す。
『サキ様がそうおっしゃるなら。ですが、なぜですか?』
「もしウィンドウルフが現れたら、クマノさんがまた傷ついちゃう……だから、私が強くなって、クマノさんたちを守りたいの」
『かしこまりました。では現在習得を進めているナンバーズの他、ワーズの習得に着手いたしましょう』
「わ、わーず?」
そういえば、これも最初に魔法を覚える時に言われたような……。
ネルが私の腕の中で解説を始める。
『ワーズとは、ナンバーズに特性を付与する魔法スキルです。非常に高度な技術のため、全てのワーズを使いこなせる者はシャルズにもあまりいません。【魔力操作】の練習により、サキ様も体得可能です』
ま、魔力操作……? 聞いたことのない技術が出てきた……。
「例えば、どんなことができるの?」
『ワーズは【ア・ベ・セ・デ】に分類され、四つの意味と特性が存在します。【ア】は飛距離、【べ】は速度、【セ】は持続性、【デ】は操作性をつかさどります。例えば、第一フレアをより遠くへ飛ばしたい時は【ア】のワーズを付与し、【第一・ア・フレア】として発動することで、飛距離が伸びます』
ってことは、より遠くから安全に敵を倒せたりするってことだよね!
「なんかすごそう! さっそく教えて!」
食いつく私に、ネルが冷静に答える。
『ただし、ワーズは最低でも第三ランクのナンバーズを使用できないと、獲得は難しいと考えられています。また、体得するためには魔力操作の練度が必要になります。魔力操作とは、魔力を精密に、かつ自在に操る技術です。身につけるには、イメージ力や精神力を相当鍛錬しなければなりません』
「な、なんか難しそうだね……」
『はい。しかもワーズはナンバーズと異なり、ランクによって威力が固定される性質の魔法ではありません。同じワーズを使っても、術者の力量により性能は大きく異なるのです』
う、ものすごく大変そう……。今まで覚えたナンバーズは低ランクだったし、習得の心得があるからほぼ一瞬でスキル化できていた。だけどワーズはスキル化できたとしても、頑張らなきゃ上手く使いこなせないってことだよね……。
私は、今後のことを改めて考える。
だけど、やっぱりこのままじゃダメだ……。
第二ランクのナンバーズまで習得したところで生活に不自由がなくなったから、これで十分だと思ってた。
でも、今日わかった。シャルズで生きていくには力がないといけない。私自身のことも、大切な存在も、自分の力で守らなきゃ。だから、これから頑張っていこう……。
決意する私の隣で、ネルは説明を続ける。
『ワーズを付与すると通常のナンバーズを使うよりも魔力を消費します。また、ナンバーズのランクが上がるごとに使用が困難になっていき……』
ありがとうネル……。でも、魔物のことで疲れたから、眠気に襲われる。もう限界かも……。
今日はとりあえず、おやすみ……。
3 私の成長
――シャルズに来てから、三年が経とうとしている。
私は……ネルに聞いたところ、これで八歳になったらしい。ちょっとは、背が伸びたかな?
ちなみにネルは魔法の猫だからか、ずっと子猫のままだ。やろうと思えば大きくなれるみたいだけど、可愛いからこのままでいいかなって思ってる。
ウィンドウルフに襲われてから三年――私はネルの指導のもと、ひたすら魔法の修業と研究を重ねた。
「にゃーん」
「うん、ありがとう。もう行くから」
私はネルを抱っこして、洞窟から森へ向かう。
そこには以前と変わらず、クマノさんとクマタロウくんがいる。
クマノさんのお腹には、治癒に時間がかかったせいか傷痕が残ってしまった……でも組み手での手ごわさは変わっていないし、とても元気だ。
クマタロウくんも三年で立派になった。最近ではクマノさんとの組み手の後に、クマタロウくんとも組み手をしている。これが、なかなか強いのだ。
「クマノさん、今日もよろしくお願いします」
私がいつものように頭を下げると、クマノさんもお辞儀を返す。
私はふぅと息をついて、意識を体内の魔力に集中した。
「……いくね」
魔力を足に込め、走る。
私はクマノさんの背後を取っていた。
――魔力とは、単に魔法を発動させるためのエネルギーではない。
三年の研究と練習で、私はそれを知った。
魔力は身体能力の一つであり、魔力を込めるというのは、手を握る時に力を込めるのと同じことなのだ。だから、魔力を込めるとその部分の身体能力が強化される。
足に込めれば、こんな風に瞬時に移動することだってできる。
跳び上がり、クマノさんの頭を後ろから突く。しかし、読まれていたのか、右前脚で防がれる。
地面に着地すると、クマノさんに足払いをかけられる。よけて、距離をとる。
「第二ウィンド」
私は自分の後ろに風を起こして加速し、クマノさんに迫る。クマノさんは、左前脚を振りかざす。
「にゃーん」
ネルの鳴き声で、私とクマノさんはぴたっと動きを止めた。
あれ、まだ組み手終了の時間じゃないはずだけど……?
ネルのほうを見ると、深刻な様子で伝えてきた。
『森の先に複数の個体反応があります。狼の群れのようですが、普通とは違う大きな反応が出ています』
「ウィンドウルフ……?」
『はい、サキ様のお見込みの通りです』
「懐かしいなぁ…」
私は三年前を思い出す。思えばウィンドウルフのおかげで、ここまで強くなれた気がする。
『サポートは必要でしょうか?』
「ううん……大丈夫だよ。いつも通り、私の動きを見てて」
『承知いたしました』
さて――三年前のリベンジだよ。
ネルに教えてもらった場所で、狼たちを待ち構える。すると森から群れが飛び出してきた。
すごいスピードで、三匹が飛びかかってくる。
「もうあの時の私じゃないんだよ!」
私は手に魔力を込めて、三匹の顔に掌底を打ち込む。三匹は一撃で倒れ、動かなくなった。
私の戦闘スタイルは、ネルが考案してくれたものだ。ネルは膨大な知識から様々な武術を取り入れ、一番適した戦い方を編み出してくれた。だから私はこの戦い方を【ネル流】と名付けた。
三匹がやられたせいか、他の狼たちは立ち止まり、警戒した様子でこちらを窺っている。
その一番後ろに控えているのは――ウィンドウルフだ。目に映る光景が、三年前と重なる。
あの時は敵わなかったけど……今なら戦えるよ!
ウィンドウルフが駆け出す。唸りながら口を開き、巨大な牙で私の首元を狙う。
私はよけずに立ち向かう。ウィンドウルフに掌底を繰り出す。が、よけられた。
さすが魔物化したウィンドウルフ……他の狼たちとは速さが違うみたいだね。
後方に下がったウィンドウルフは右前脚を持ち上げた。
すると緑色の風が起き、尖った爪に集まっていく。
きた! ウィンドウルフのオリジナル魔法スキル――【風爪】!
この三年間、徹底的に魔法を研究した。ナンバーズ、ワーズ、エンチャント……そして、オリジナル。
オリジナルは魔物や人間が独自に生み出した魔法のことだ。風爪は爪に風属性の魔法を纏わせて鋭くし、攻撃力を増す効果がある。
ウィンドウルフへの対策を練るうちにわかった。三年前、私の第二ライト・バリアを破ったのは、この風爪だ。
だけど、その対策はしっかりしているよ……。
オリジナル魔法スキルが使えるのは、あなただけじゃない。
「【飛脚】!」
飛脚は、ネルと私が考案したオリジナル魔法スキルだ。風属性の魔法を足に集中し、瞬時に移動する。
ウィンドウルフの特性は高い機動性で近づき、強力な爪で近接攻撃を繰り出してくること。だからそれを上回る速度で距離を取る。
「二重付与・エアロバリア」
迫ってくるウィンドウルフと私の間に、薄緑のバリアが出現する。ウィンドウルフが触れた瞬間、風が巻き起こり、身体を吹き飛ばす。
しかし同じ風属性だからか、ウィンドウルフは空中で体勢を立て直した。むしろ風を利用して加速し、私に襲いかかる。
でも……作戦通り。
「四重付与・【悪魔ノ檻】」
爪を私に突き刺す寸前で、ウィンドウルフは黒いバリアに閉じ込められた。
悪魔ノ檻――四重付与によって、相手を光属性のバリアに捕らえ、さらに炎・土・雷属性の魔法をバリア内に起こす技だ。
捕まった者は三属性の攻撃を同時に受ける。風属性の魔法しか使えないウィンドウルフは、対応できないはずだ。
攻撃がやみ、バリアが解除される。体のあちこちに傷を負ったウィンドウルフが、息を荒くしてこちらを睨んでいた。
だけど……まだ戦意は失っていないみたい。
ウィンドウルフが憎々しげに吠え、風爪を振りかざして襲ってくる。
「いくよ……」
これが、私の三年間の成果……。
「第四・ベ・フレア!」
べは、魔法のスピードを上げるワーズ。
――この三年で、私はナンバーズを第九、ワーズを全種類使いこなせるまで特訓を重ねた。
超高速の炎の弾を連続して放つ。ウィンドウルフはよけようと動くが、間に合わない。
いくつもの火の玉が、ウィンドウルフを撃ち抜いた。
フレアを受けて、ウルフが倒れる。燃え盛る炎が消えると、焦げた死体が転がっていた。
ボスを倒された狼の群れは、怯えた様子で森の奥へ逃げていく。それを見届けて、私は大きく息をついた。
「…………勝った、勝ったよ‼」
ついに私の力で、魔物を倒せるようになったんだ。これでもう、大切なものを傷つけられることなんてないね。
「勝てたよ、ネル‼」
見守ってくれていたネルを振り向くと、私をねぎらうように頷いてくれた。
『お見事でした。サキ様の完勝でございます』
「……やったぁ!」
そのあと、ネルに教えられ、ウィンドウルフの死体を処理して体内の魔石を回収した。魔石を放置すると、影響を受けて新しい魔物が生まれやすくなるらしい。
作業を終えて一息ついていると、クマノさんとクマタロウくんが近寄ってきて、顔を舐めてくれる。
「くすぐったいよぉ」
舐められながら二匹の頭に手を置く。今回はクマノさんもクマタロウくんも無事でよかった……。
「ここまで強くなれたのはネルと、クマノさんたちのおかげだね……」
クマノさんは撫でられて気持ちよさそうな顔だ。クマタロウくんも『僕も僕も』と言わんばかりに頭をすり寄せてくる。
「ふふ……これからは私がクマノさんたちを守るからね。さてと……一緒に帰ろう!」
今日はお祝いに、クマノさんたちと美味しいものを食べないとね。
前世ではやったことないけど……BBQとかしちゃおうかな。
ウキウキしていると、クマノさんが私を背中に乗せてくれた。ネルは私の肩に乗り、クマタロウくんは隣を歩く。
こうして私と三匹は一緒に洞窟に向かったのだった。
4 三年ぶりの遭遇
ウィンドウルフを倒して、一週間が経った。今日は森に出て狩りをしている。
お祝いのBBQで、けっこうお肉を消費したのだ。
クマノさんもクマタロウくんも喜んで食べてくれたので、私もいっぱい食べちゃった。
ネルに『肉の備蓄が底を突きました』と言われ、慌てて狩猟に出ることにした。
でも狩りといっても武器は使わず、森の動物を雷属性魔法で倒すだけなんだけどね。
「ふぅ…こんなもんかな」
一時間ほどで、猪二頭、野鳥四羽を捕獲し、解体した。
「【収納空間・食糧】」
唱えると、何もない空中に丸い穴が現れる。私はそこへお肉をしまっていく。
これも修業中に作ったオリジナル魔法スキルだ。空間属性と特殊属性をかけあわせ、自由に物を出し入れできる亜空間を生み出した。空間属性で生み出した収納スペース内は、特殊属性で時間を止めており、しまった肉や野菜は新鮮なまま……贅沢な冷蔵庫ってところだね。
ちなみに食糧の他に【武器】【素材】【アイテム】の収納空間も作ってある。
「よし、これでしばらくは……」
「うわああああああ‼」
私はビクッと身体をすくませた。
な、何……? 今の悲鳴、人間だよね? 今までこの森で、人間に会うことはなかったのに。
久しぶりに聞く人の声が、叫び声だなんて……。何があったんだろう。
同行していたネルが呟く。
『北西の方向ですね』
「場所……わかる?」
『把握しています。向かわれますか?』
「……いちおう、ね」
こうしてネルの案内で、声のしたほうへ向かってみると、そこでは――
「何、あれ……⁉」
燃えるように赤い毛並みをした猪が、馬車を襲っていた。
『あれは猪が魔物化したもので、炎属性を得た【フレアボア】と思われます』
フレアボア……。どうやら魔物化すると、属性に応じて毛並みの色が変わるみたいだね。
ウィンドウルフのように普通の個体より大きく、馬車をなぎ倒せそうなほどの巨体だ。赤い牙を何本も生やしていて、鼻を鳴らしながら脚を踏み鳴らしている。ものすごく獰猛そうだ。
馬車に穴が開いているのは、赤い猪の仕業だろう。赤い猪は再び突進を仕かけようと、後ろ脚で地面を蹴り、助走をつけている。
対して馬車の前には、剣を持った兵士らしき人たちが三人で立ち塞がっている。
「ネル、やばそうだよ。あの人たちだけで対処できる?」
『難しいでしょう。馬車の外にいる兵士は、見たところそれほど魔法に長けてはいない様子ですから、フレアボアには敵いません。またここからでは視認できませんが、馬車の陰に負傷者が一人、馬車の中に非戦闘員が一人いると推察されます』
人と関わるのは避けてたけど、ここは助けるしかない……。
「ネル、私の魔法では何が有効?」
『フレアボアは炎属性の毛皮で覆われ、硬い皮膚を持つのが特徴です。防御力が非常に高いですが、水属性が弱点です。第四ランクの特殊属性の【バレット】スキルを推奨します』
「わかった。第四ユニク・バレットオープン」
私は手を銃の形にして、人差し指でフレアボアの頭に狙いを定める。
バレットは特殊属性の魔法だが、付与すれば別属性の魔力の弾を撃ち出せる。
弾数は込める魔力が多ければ多いほど増やせる。さらに、付与を増やすほど、様々な属性で攻撃が可能だ。
「二重付与・アクアバレット」
水色の球体が二つ、ふわんと浮かぶ。
「第四ユニク・バレットショット!」
指から水の弾が発射され、フレアボアの頭を貫通する。
フレアボアは大きな身体をぐらつかせる。ずしんと倒れると、動かなくなった。
ふぅ……と息をつく。すると、兵士の一人がこちらのほうを見ていた。
か、隠れてたつもりだったのに、ばれた⁉ 私は慌てて逃げようとする。
「お、お待ちください! あなたがフレアボアを倒してくださったのですか⁉」
背後から声をかけられ、つい足を止めてしまった。
そのまま立ち去るつもりだったのに……なんでだろう。自分でもよくわからない。
「危ないところを助けていただき、感謝する! せめて、姿だけでも見せていただきたい!」
思わず駆けつけただけで、人と会うつもりなんてなかった。こ、心の準備が……。
だけどこんな風に感謝されたら、黙って行っちゃうのも失礼だろうし……。
私はしぶしぶ、木の陰から顔を出した。
「……女の子?」
兵士さんは、目を丸くしている。
「……あ、……う。…………はぃ」
いちおう返事はしたけど……や、やばい……。うまく話せないどころか、声が出ない。
もともとのコミュ障に加えて、三年間も人に会ってなかったせいだ。
「君が助けてくれたのですか?」
「そ、そう……で、す……」
うう、挙動不審すぎる……。
だけど兵士さんは私に向き合うと、立て膝をついて礼をとった。
「改めて、助けていただいたことを感謝します。怪我人が出ていましたし、馬車の中には主人がいたのです」
「たいしたことは……してないので……」
会話が終わり、沈黙が流れる。き、気まずい……。私がコミュ障すぎて、呆れたのかな?
そう思っていると、兵士さんが口を開いた。
「……助けていただいた立場で図々しいとは思うが、この森にある集落の場所を教えていただきたい。負傷した仲間を治療したいのです。できれば回復薬を分け与えていただくか、もしくは治癒属性の魔法を使用できる者がいると助かるのだが……」
しゅ、集落? そんなこと言われても、森には私一人だし……。
「私、一人、なので……集落、ない……」
「一人? この森に一人で住んでいるのですか⁉」
兵士さんは驚いたみたいで、大きな声を出す。
そ、それもそうか。私くらいの年の子が、単身森でサバイバルしてるなんて、普通ありえないもんね。怪しまれたかな……だけど、言ってしまったものはしょうがない。第一、本当だし。
「はぃ……」
兵士さんは信じられないという顔をした。
「そ、そうですか……」
兵士さんは下を向いて、また黙ってしまう。
怪我人がいるって言ってたし、困っているんだろうなあ……。
「あの……」
人と関わるなんて、しばらくは無理だと思っていたのに……気づくと口を開いていた。
「近くに……私の家、あるので……よければ、手当て、とか……」
「本当ですか⁉ 助かります!」
兵士さんが顔を輝かせた。今気づいたけど、よく見るとイケメンさんだなぁ。赤茶の髪に、彫りの深い顔立ち……PPGの主人公みたい。
「お待ちください。今、主人を呼んでまいります!」
兵士さんはそう言って馬車の中に入る。すぐに後ろに誰かを伴って出てきた。
「私たちを助けてくださり、ありがとう」
兵士さんの後ろから現れたのは、二十代後半くらいの男の人だった。
きれいな金髪の前髪を半分アップにしていて、爽やかさと男の人らしさが半々という感じでとても好印象だ。緑色の瞳に、整った顔立ち……前世だと絶対、モデルや俳優になっていそう。
ずっと一人で過ごしていたのに、急にイケメンだらけ……私は、緊張でかちこちになる。
「申し遅れた。私はアルベルト公爵アノル・アルベルト・イヴェールの子息、フレル・アルベルト・イヴェールだ」
私は一瞬耳を疑った。
こ、公爵子息……? 公爵って確か、めっちゃ偉い人じゃない⁉
シャルズのことを勉強していた時に読んだことがある。
この森が位置している国――グリーリア王国では、魔法の実力に応じて王様から貴族の位に叙され、領地を与えられる。爵位は上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。中でも公爵位は王家に認められた四つの家にのみ与えられ、王都の区を治めることを許されているんだとか……。
とにかく、この人は王様の次に偉い人の息子ってことだよね……?
そんな人の兵士さんにキョドって、失礼な奴だと思われたかも⁉
無礼だって首をはねられちゃったり……⁉
「し、し、失礼いたしました……」
ただでさえで緊張しているのに、公爵とか……気絶しそうになりながらも、慌ててネルを地面に下ろし、ひざまずく。
「公爵家の方々、とは知らず、お……お許しください」
フレル様が笑いかけてきた。
「そんなにかしこまらなくて大丈夫だ。それよりも、兵士を手当てする場を提供いただけるとか」
とてつもない、爽やかスマイル……。目をちかちかさせながら返事をする。
「はい……」
「大変ありがたい。では、案内を頼めるだろうか」
「わかり、ました。怪我を、した人は……?」
「それなら、担架を作ってある!」
先ほどの赤茶髪の兵士さんが答えた。見ると、木の枝や手持ちの布で使った担架に、すでに怪我人を乗せていた。
洞窟は森の中だ。木に邪魔されて馬車は入れないので、いったん置いていくことになった。
洞窟に着き、ひとまずリビングへ通す。
85
お気に入りに追加
11,612
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。