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1巻
1-1
しおりを挟む毎日、本当に嫌なことばかりだ……。
「おい、またこんなくだらないミスをしてるのか!」
部長の怒号がオフィス内に響いた。怒られるのは本日二度目だ。
私――雨宮咲は、部長のデスクの前で縮こまっていた。
「……す、すみま」
「ああ? 何をボソボソ言っているんだ⁉」
部長がバンとデスクを叩く。
ただでさえ話すのが苦手なのに、ますます小さな声になる。
「……す、すみません」
やっと口にすると、部長がフンと鼻を鳴らす。
「まったく、一体いつになったらこんなミスをしなくなるのかね? やる気がないなら辞めたらどうだ」
「あ、あの……少し、寝不足で……」
昨日は同僚から仕事を押し付けられ、日付が変わる頃まで会社に残っていた。
それでも終わらず早朝に出勤したため、ほとんど寝ていない。
「言い訳は聞かんよ? 生活習慣を整えることくらい、社会人なら当たり前だろう。寝不足だなんて、まさか毎晩男と遊んでいるのか? ……いや、君みたいな容姿じゃ無理か」
部長が馬鹿にしきった様子で言う。周りの同僚からも、クスクスと嫌な笑い声が聞こえてくる。
パワハラ、セクハラ、モラハラ……こんな扱いは日常茶飯事だ。
部長からの説教が終わり、ため息をつきながら席に戻る。
すると同僚の女性――加納さんが話しかけてきた。彼女と仲の良い関田さんをはじめ、他の女の子たちもニヤニヤとこちらを窺っている。
「ねー、雨宮さん。ちょっと今日用事があってさー。私たちの仕事もやってくれない?」
「え……」
でも、昨日だって……。そう思うけど、口に出せない。
私と違って自信たっぷりで、華やかな彼女たちを前にすると、引け目を感じてしまう。
「お願い! どうしても外せない用事があるの! 雨宮さんならやってくれるよね?」
「……わ、わかった」
「ほんと? ありがとう! 雨宮さんみたいな人がいて助かるわー」
デスクに分厚いファイルが何冊も積まれる……これはまた残業かな、残業代なんて出ないのに。
――私の人生は、こんなことばかりだ。
小さな頃から、酒癖の悪い親に虐待されてきた。
小学校から高校までは、クラスメイトにイジメられた。原因は親の暴力でできた身体の痣だ。
地元を離れれば何か変わるかもと思い、実家を出て、自分で学費を稼いで大学に進学した。
けど、結局周りから避けられた。ようやくできた彼氏も、私の痣を気味悪がって、別れを切り出してきた……それ以来、自分の外見に自信がなくなった。
就職しても、扱いが変わることはなかった。
こんな人生、終わらせたほうがいいのかな……。
何度も考えるくらい辛かったけど、結局怖くてできなかった。
そして今日も、同僚にこき使われている。
自分の業務さえこなしきれないブラック企業だというのに、こんな仕打ちをされたら深夜まで残業になる。
私に仕事を押しつけることに成功した同僚たちは、今夜会う男性たちの話題で盛り上がっていた。きっと今日もデートや合コンへ向かうのだろう。
はぁ……嫌になる。今日中に終わるかな?
私はみじめな気持ちになりながらも、仕事にとりかかった。
ようやく片づいたところで時計を見ると、午前零時を過ぎていた。
またこんな時間だ。終電に間に合うかな……。
本当は会社の制服を着替えたいところだけど、そんな暇なさそうだ……。
帰ろうとして会社を出ると、突然大雨が降りだした。
……最悪。
私は鞄を頭に載せ、駅までダッシュすることにした。
ヒールとはいえ、十分か十五分で着けるはずだ。
びしょ濡れになりながらも走っていると、ようやく駅が見えてくる。
その瞬間だった。
光が私を包み、全身に激しい痛みが走る。同時にすさまじい音が耳をつんざいた。
何が起きたのか理解できないまま、気づくと地面に倒れていた。
え……何……?
薄れていく意識の中で、周りの声が聞こえてくる。
「おい! そこに雷が落ちたぞ!」
かみ……なり? まさか、私に……当たっ……た?
私、雷で感電して……死ぬの……?
何、その人生――バカみたい。
神様は、私にひどい人生を与えたもんだね。
せめて少しくらい、楽しいことがある人生を送りたかった。神様に文句の一つも言いたくなる。
でも、そうか……これで、終わっちゃったんだ――
「いやぁ、ほんっとそれなー、これで終わりとかないありえなくない⁉ って思うよねー」
と、思ったのに……なんか、軽そうな口調の声が聞こえてきた。
……私は死んだんじゃないの? というか、なんで私が考えていることがわかるの?
しかも文句に相槌を入れてくるなんて、まさか――本当に神様?
でも、こんな適当な話し方する神様がいていいわけ⁉
「そんなこと言われると耳が痛いなぁ。まあ、とりあえず目を覚ましなよ」
私はゆっくり目を開け、立ち上がった。
「何、ここ?」
なぜか身体の痛みが消えている。辺りは何もない、真っ白な空間だ。
そして目の前には――見るからにチャラそうな男の人が立っていた。
明るいミントグリーンの髪の毛は、ワックスで整えたような無造作ヘアーだ。服装はダボッとしたパーカーにスキニージーンズ、ごついスニーカー。
喋り方といい、外見といい……パリピっぽい。
「やぁ、雨宮咲さん」
気安い感じで話しかけられて、後ずさる。
「……あ、あの……お会いしたこと、ないと思うんですが……」
おかしい。私はこの人に見覚えがない。でも、この人は私のことを知っているみたい。
ただでさえチャラそうなのに、怪しすぎる……。私は思わず身構えた。
「そんなに警戒しないで。服とかもこの世界に合わせてるんだし、怖くないっしょ⁉ ボクはこの世界を担当してる神の一人、ラスダっていうんだ」
神様……本当に神様? こんな人が⁉ 変な髪色の、パリピな大学生にしか見えないけど……。
疑いの目でじろじろ見てしまう。だけど、神様は気にした様子もなく続ける。
「いやー、実は咲さんが落雷で死んじゃったのって、ボクの手違いなんだよね」
「て、手違い?」
「そ、実は世界を管理するために、定期的に試練みたいなものを与えてるんだ。そうしないと、世界のバランスが悪くなるんだよね~。キミのいた世界でいえば、台風とかの自然現象かな。今回は雷を落としたんだけど、たまたまというか、やっぱりというか、その位置にキミがいてさー」
何? じゃあ、私が死んだのは神様のせいだったの⁉ というか、「やっぱり」って何?
何がなんだかわからないでいると、神様がパンッと手を合わせて頭を下げてきた。
「いやー、マジでごめん」
か、軽いな⁉ 神様からすれば私一人の命なんてどうでもいいんでしょうけど!
そんな心のツッコミに応えるように、声が響く。
「ラスダ! あなた、その態度はなんなの⁉」
ふいに女の人が現れた。女の人は、神様――もう呼び捨てでいいや、ラスダの頭を後ろから思いっきりひっぱたいた。
突然の登場にびっくりしたけど、よく見るとすごくきれいな女性だ。
ラスダと同じ明るいミントグリーンの長い髪に、透き通るような水色の瞳――まるで教会で目にする聖母様みたいに神々しい姿をしている。
「いって! 何すんだよ姉貴!」
ラスダが頭を押さえる。姉貴ってことはつまり、ラスダのお姉さん? この人も神様なのかな。
むすっとしたラスダを、女神様らしき人が叱りつける。
「これはあなたの責任なのよ⁉ 神は全ての人に平等、それをあなたは――」
二人が揉め始めた。
一体どういうこと……? 当事者の私には、全然わかってないんだけど……。
そもそも、全ての人に平等なんて……そんなわけない。
ラスダは世界を管理しているとか言ってたけど、私の人生は苦しいことばっかりだった。みんなが私みたいに、苦しみばかり受けているわけがない……。
すると、女神様が気の毒そうな様子で言う。
「そうなのです。咲さん」
この人も、私の考えていることがわかるみたいだ。
それよりも、さっきから「やっぱり」とか、「そうなのです」って……、どういうこと?
事情が呑み込めないでいると、女神様が話し始める。
「私はこの世界を担当しているもう一人の神、ナーティといいます。この世界で生まれる人が皆、平等に幸福を手にできるよう管理していました。しかし、私の愚弟――このラスダが職務をサボりました。その時に生まれてしまったのがあなたなのです」
「えっと……つまり?」
ナーティ様は口ごもる。そのあと、重苦しい表情で告げた。
「申し訳ありません。手違いにより、あなたに幸福は一切存在しなかったのです」
私は言葉を失った。
なんだ、それ……。私、神様のせいで不幸になるよう生まれたってこと……?
もう死んでいるんだから関係ないかもしれない。でも、たとえ謝罪されたって、わざわざ神様からそんな事実を聞きたくなかった。
ショックのあまり、呆然としてしまう。
辛い人生が当たり前で、もう泣くことなんて忘れたと思ってたのに……涙が出てきた。
ナーティ様は気の毒そうに言う。
「本当に申し訳ございませんでした……。生きている間、あなたがどのように生活していたのかはわかっています。どれだけ苦しく、辛い思いをしてきたのか……。そこで、私からの提案です」
「提案……?」
「私たちが管理している世界は他にもあります。その世界で、もう一度人生をやり直していただきたいのです。咲さんが幸福になるよう、この愚弟に代わって私があなたを再構築します。いかがでしょうか?」
今まで散々ひどい目に遭ってきたのに、そんな話、信じられるわけない……。
でも、辛い人生だったからこそ、一度でもいい、幸せになってみたい気持ちもあった。
悩んだ末に……口にする。
「そこでは、幸せになれますか……?」
「はい。あなたがこの世界で苦しんだ分、多くの幸福がもたらされることを、神の名のもとにお約束いたします」
「でも……」
私なんかが本当に幸せになれるのかな……やっぱり信じられない。
そう思って俯いていたら、ナーティ様に抱き寄せられる。
「咲さん、あなたはこれから幸せになれるのです。幸せになるのは、人としての当然の権利です。望む形で、好きに生きていいんですよ」
あったかい……。人に抱きしめられるって、こんな感じなんだ。
親にさえ、こんな風に優しくされたことなかった……。
ナーティ様から、あたたかさが伝わってくる。その温もりで、次第に私の目頭が熱くなる。
私のことを助けようと……幸せになれるって言ってくれて……。
何もかも、初めての出来事だ。私の目からはたくさんの涙が溢れた。
今まで知らなかった。嬉しさでも、泣いちゃうことってあるんだね。
「よろしく……お願いします……」
ひとしきり泣いた後、ナーティ様が優しく聞いてくれる。
「では次の世界での幸福のために、何か希望はありますか?」
「……えっと、せっかくやり直すなら、できれば若くしてもらって、最初は森なんかで読書とかしながらのんびりしたいです……。それと……少し、可愛い子になりたい……かな?」
人と接するのは苦手だ。今まで利用されるか、怒られるかのどちらかだった。
だからしばらくは誰にも会わず、一人でのんびりしたい。
それに今より少しでも見た目がよければ、トラブルが減るかもしれないし……。
「わかりました。では、この子をあなたに」
ナーティ様が両手を広げると、その間に小さな子猫が現れた。
子猫は真っ白で、ふかふかな毛並みをしている。動物は飼ったことないけど、テレビで見た優雅なもふもふの猫ちゃん――ペルシャ猫に似ているかも。
「この子はあなたのために作りました。あなたに尽くし、命令に従います。そして、【ブック】の魔法が使えます」
「ブック?」
「はい。今から行く世界には、魔法があるのです。ブックと声をかけてもらえれば、この子は本に変身します。色々な本に変われるので、新しい世界での物語や歴史書、なんでも好きな本を読めますよ。加えて、咲さんが知りたいことを尋ねれば、本の上で文字にして答えてくれます」
そう言いながら、ナーティ様は子猫を私に抱っこさせた。
ふわふわして、あったかい……私は笑顔になった。
「ちなみに、魔法についても咲さんに不利益がないよう考慮するのでご安心ください」
「何から何まで……すみません……」
「いえ、当然のことです。それだけの苦しみを、あなたは受けていたのですから……。では、そろそろ転生させます。最後に、何か気になることはありませんか?」
「不安がないって言ったら、嘘になりますけど……困った時は、この子を頼ります。ナーティ様、ありがとうございます。私……これから幸せになります」
「お礼などいいのです。全てはこの愚弟のせいなのですから」
ナーティ様がもう一度ラスダを力強くひっぱたいた。
「痛っ!」
「あなたも、少しはまじめに謝ったらどうですか!」
「……ご、ごめんなさい。次の世界では幸福になってよね~。ボクも祈ってるからさ!」
……まだチャラいけど、ラスダはいちおう頭を下げてくれた。
「では、あなたに幸福があらんことを。これからは望むままに、自由に生きてください」
「……はい」
私は白い光に包まれ、眩しさに目を閉じた。
そして次に目を開けると――知らない森に立っていた。
1 異世界生活の第一歩
光が顔に当たり、眩しさで目の上に手をかざす。
辺りを見回すと、私はたくさんの木々に囲まれて立っていた。
緑に溢れ、木漏れ日が降り注ぐきれいなところだ。
「ほんとに、森にいる……」
呟いて気づいた。なんだか、声が高い……というより、幼い感じがする。
側に川が流れていたので、近づいてみる。覗き込むと、見覚えのない顔が映っていた。
「これが、私⁉」
見た感じ、年齢は五歳くらいかな?
肩くらいの長さの、キラキラ輝く銀の髪……それに、幼いけど整った顔。ちょっとたれ目でのんびりしてそうな――自分の顔だからこんなことを考えるのは恥ずかしいけど、庭で微笑みながら紅茶を飲んでるお嬢様ってとこかな?
少し可愛くとはリクエストしたけど……少しどころか、ものすごく可愛い顔になっている。
なんだか照れるけど、こんな可愛い女の子になれたのは嬉しい。今の服装は白いワンピースだけど、こんなに可愛くなれたなら、色んな服を着てみたいかも……。
でも、ちょっと若くしすぎじゃないかな?
まだ見慣れない顔を両手でムニムニしていると、鳴き声が聞こえた。
「にゃあ」
そっちを見ると、ナーティ様に渡された猫ちゃんが座っていた。
ふさふさの尻尾をぱたん、ぱたんと左右に動かしている。
「あ、ごめんなさい。あなたのこと忘れてたね」
私が抱っこすると、まったくですと言わんばかりに「なぅ」と鳴く。
か、かわいいよお。この猫ちゃんをもらえたことも、かなり幸せ……。
「そういえば、本になれるのよね? 確か……ブック!」
ナーティ様の言っていたように、子猫に声をかけてみると、空中に浮かび、本に変身した。
「おお~! 猫が変身するなんて、魔法の世界って感じ!」
私は初めて見た魔法に感動しながら、その本――もとい、本になった子猫を手に取った。
大きさは雑誌くらい。ページをめくってみると、全てが白紙だった。
「あ、そっか……」
ナーティ様が、知りたいことを文字にして教えてくれるって言っていたよね。
「何か聞いたらページに出てくるのかな。えっと……。猫さん、この世界のことを教えて?」
なんだか、スマートスピーカーみたい……。
そんなことを考えていると、ページにじわじわと文字が現れた。
《ここは魔法の世界、シャルズ。この世界では誰もが魔力を持ち、魔法の技能が全て。魔法に優れた人たちが、王族や貴族として国を治めています》
魔法に、王様や貴族かぁ……。元の世界では考えられないね。
そんな世界に転生したってことは、この猫さんだけじゃなく、私にも魔法が使えるのかな?
幸福になるように再構築するって言われたけど……特に今までと違う感じはしない。
ともかく、この子の使い方はわかった。
「あなた、名前は?」
またページの上にじわじわと文字が浮かぶ。
《女神ナーティ様より、ネルの名を賜りました》
「ネルっていうのね。じゃあ、ネル。この近くに落ち着ける場所はある?」
《ここからまっすぐ進んだところに、居住に適した洞窟があります》
ナビ機能もあるなんて、高性能……。
「洞窟ね。わかった、もう猫に戻っていいよ」
私が言うと、ネルは本からふわふわの子猫の姿に戻った。
五歳くらいの私としては、両手で抱えるとちょうどいいサイズだ。ネルを抱っこしたまま、洞窟を目指して歩き始める。
五分ほど進むと、目的の洞窟に着いた。
確かに、入り口が木々に覆われていて、ここならゆっくりできそうかも!
「うん……いったんここにいようかな」
私は中に入ると、目についた大きな石に腰かけた。
さて……これからどうしよう?
ネルと一緒に、しばらくまったりと読書生活を楽しむつもりだけど……そういえば、森で暮らしたことなんてない。
まずは、お家を作る? でも、家を作るのって、地面をならして、基礎を作って、木を切って……って、考えるだけで大変そう。
幸せな引きこもりライフを送るつもりだったのに、早くも不安になってしまった。
いやいや、でも慌てない。私にはネルがいるもん。
「ブック! ネル、私、これからどうしたらいいかな?」
《食糧と住環境の確保が最優先事項であると推察します。そのためにはまず、魔法の習得が必要となります》
「魔法の習得……」
そっか、私も魔法を覚えられるんだ。
魔法……想像したらわくわくしてきた。
ナーティ様は私が幸せになれるように考慮してくれるって言ってたし、もしかしたら他の人は使えないような、すごい魔法を使えるようになっちゃったりして!
《……サキ様》
「はっ……」
何も聞いてないのに、ページの上にツッコミが浮かんでいる……。
は、恥ずかしい。つい妄想にふけってしまった。
浮かれている場合じゃないね。今はお家も、布団も、ごはんもない。
まじめに魔法を覚えなきゃ、私は幸せどころか、ここで骨になっちゃうよ!
「じゃあ……まずは魔法を覚えよう。ネル、魔法について教えてくれる?」
《魔法とは魔力を用いた能力全般を指します。魔力には属性があり、生まれ持った属性の魔法しか行使することはできません》
「ふーん、どんな属性があるの? あと、私の属性も知りたいな」
《属性は炎、水、風、雷、土、草、光、闇、空間、治癒、特殊の十一種類があります。サキ様の属性は全てです》
「全て……って、全部ってこと⁉」
さらっと言われたけど、ものすごいことのような……。
「それって、普通のことなの?」
《普通ではありません。生まれ持つ魔法の属性は、平均で三つほどです。サキ様に自由に魔法を覚えてもらいたいという、女神ナーティ様のご配慮です》
「そうなんだ……」
ナーティ様、ありがとう。
心の中で呟くと、ページをめくってネルの解説を読み進める。
《魔法には、十段階の威力のランクが存在します。これに該当する魔法は【ナンバーズ】といい、この世界の魔法の基本となっています。一番下のランクで、生活で役立つ程度の威力のものを【第一】と呼びます。この他、ナンバーズに特性を付与する【ワーズ】、属性を付与する【エンチャント】、ナンバーズ以外の【オリジナル】と呼ばれる魔法も存在します》
うわあ……急にいっぱい文字が出てきた。
「え、えっと……。とりあえず、ナンバーズの第一ランクから魔法を覚えていけばいいのね?」
《はい。さっそく使ってみましょう》
「え? 急に言われても……」
いくら魔法の世界でも、そんなに簡単に使えるものなの?
戸惑う私にはおかまいなしで、本に文字が浮かぶ。
《まずは右手で私に触れてください》
促されるまま、白紙のページに手を置いてみた。
あれ……、少しあったかい……。
というか、あったかい何かが、ページから流れ込んでくるみたい。
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