69 / 70
3章:中等部編
船の中でちょっと
しおりを挟む私達は村近くの港へ向かう船に乗っている。
毎度毎度思うのはこの船、なんでも色々ありすぎていつも回りきれないんだよね…。
今は船酔い中のゴウくんをママに任せて、クレアちゃんと船の中を散策中。
「いやぁ、この船ほんとにいろいろあるにゃぁ。さっきのレストランなんて寮の食堂よりも豪華だったにゃ」
「たしかに…」
「あ、あっちも面白そうにゃ!」
「あ…クレアちゃん待って…」
さっきからこんな感じでクレアちゃんの後をついていってばかりだ。
「ここはなんにゃ?みんなカードを見たり、転がっているボールを見たりしてるにゃ」
周りを見渡してみるとたしかに、大人の人たちが難しそうな顔や、まるで神樹様に祈りを捧げるようなポーズをとったりしていて、いまいちよくわからなかった。
「クレアちゃん…ここ…ママが近づいちゃダメだって…」
「むむむ…それは何やら大人なもしろそぉーな臭いがするにゃ!」
「えぇ…」
心なしかクレアちゃんの目がキラキラ…いや、ギラギラしているように見えた。
「お嬢ちゃんたち、なんだ迷子かい?」
立ち止まっていると、一つのテーブルのウェイターのような格好をしたおじさんに話しかけられた。
「おじさん、これどうやって遊ぶにゃ?」
「これかい?これは転がしたボールがどの穴に入るかを当てるのさ。当たったら、賭けた分だけのお金に合わせてお金がもらえるってゲームだよ」
「お金が増えるのかにゃ!?それは楽しそうにゃ!」
「クレアちゃん…」
私はクレアちゃんの袖を引っ張りここから出ていくように促す。
「せっかくだからリンちゃんもやってみるにゃ!あ、でもクレアは今少ししかお金持ってないから、自分の分は出して欲しいにゃ」
こうなったらクレアちゃんは止まらないのはわかってる…あぁもう…。
「わかった…」
「やったにゃ!」
「そのかわり…私がクレアちゃんより多く当てれたら…ここから出て行く…約束して」
「むっふっふ…久しぶりにリンちゃんとの勝負にゃ…クレアが勝ったら、何してくれるにゃ?」
「私が負けたら…うーん…クレアちゃんのこと…お姉ちゃんって…呼んであげる…」
最近クレアちゃんと過ごしててわかったのは、クレアちゃんは家族に対して…特に姉妹に対してすごく憧れを抱いているということ。
この前も「クレアのこと、お姉ちゃんって言ってもいいにゃ」って言ってたし。
さて、これでいいかな…。
クレアちゃんはちょっと下を向いてから顔をあげた。
「絶対勝つにゃ…」
まさかの本気モード!?
ま、まぁ意気込みはともかく、これで私が勝てばここから出られるし…。
「お、どっちもやる気だねぇ。じゃあお金をチップに変えるから、お金を出してくれるかい?」
おじさんに言われたので、クレアちゃんと私はカバンからお金を出した。
「…え?」
おじさんが私たちの出したお金を見て絶句していた。
いまいちいくら出していいかわからなかったので、クレアちゃんと同じくらいの束を出したんだけど…おかしかったのかな。
「お、お嬢ちゃんたち…パパとママは何のお仕事をしてるのかな?」
「パパとママ…?パパは…研究で…ママは…先生…」
「んークレアのパパとママは死んじゃったからにゃぁ」
私とクレアちゃんのパパとママのことを聞いておじさんは考えるように手を口元へ持っていく。
(学者と教師の娘に、こっちは死んだ親の遺産か何かか?どちらにせよ、これは儲けるチャンスだぜ、こいつらからしぼれるだけしぼってやる!)
しばらく考え事をしていたおじさんが笑顔になって私たちを見る。
「よし!それじゃお嬢ちゃんたちのお金をチップに変えるから、預かるよ」
「うん…」
「いいにゃ!」
おじさんはそういって大事そうに私とクレアちゃんのお金を持っていく。
そしてチップが100枚返ってきた。
「じゃあルールを説明するよ。まず、投げるボールは全部で3つ。どこに入るかを予想してこの机の黒か赤の数字のところにお金を置くんだ。見てわかるように、賭け方は2種類あって、色だけを当てるか、数字も当てるのか、それはお嬢ちゃんたちの自由だけど、色だけの場合は全部当てれて⒈5倍、入る順番も当てれて⒈75倍だから、数字を当てにいって方がお金はたくさん入るねぇ」
「一番たっくさんもらえるのはどんな当たり方にゃ?」
「色と数字と順番が一致する場合だね。賭けた3つのお金を普通は足すんだけど、掛け算して、それに20倍にした分が返ってくる」
「なるほどにゃ…」
「わかった…」
「お、それじゃ始めるかい?」
ルールを聞いて私とクレアちゃんはさっそくチップを置いた。
・
・
・
・
・
・
・
・
「リーンちゃーん、クレアちゃーん」
ゴウくんくんが眠ったから退屈になって二人とお茶しようと思ったんだけど…全然見つからないなぁ。
あの子たちのことだからちょっとやそっとのことじゃ襲われても平気だと思うけど…。
甲板にもいなかったし、レストランにもいなかったし…どこにいったのかしら。
「おぉー!」
廊下を歩いていると急に横から大きな歓声が聞こえて、私は驚きで足を止めた。
「何かしら…?カジノ?」
まさか…いや、リンちゃんに近づいちゃダメよって伝えてあるし…でもクレアちゃんが一緒か…意外とリンちゃんは押しに弱いから…将来が不安だわ。
私はいないといいなと思いながらカジノの中に入っていった。
一つの机に大勢の人が集まっていたので、そこに行ってみる。
「あぁ…予想が当たったわ…嫌な方の…」
机に座っていたのは暗い顔をした二人だった。
私がいることに気がついたリンちゃんは慌てて私に走ってきて抱きついた。
「マ、ママぁ…」
あぁ…あのリンちゃんが涙目に…きっとぼろ負けしちゃったから取り返そうとしたけど、取り返しがつかなくなったのね…。
「リンちゃん、ここに近づいちゃダメって言ったでしょ?」
「ご、ごめんなさ…」
「おぉー!」
リンちゃんの謝る声が搔き消えるほどの歓声が周りの人たちからあがる。
「にゃー!なんでにゃー!なんで当たんないにゃー!」
クレアちゃんの高い声が聞こえる。
これはクレアちゃんも大負けかな…いくらになるかしら…。
私はあまりお金に困ったことはないのだけど、賭け事で苦労した人をたくさん知っているので、少し不安になった。とりあえず、現状確認を…。
「リンちゃん、いくら負けちゃったの?」
「負け…?」
「あぁ…えっと、あのおじさんにいくらあげなきゃいけないの?」
私の『いくら』という単語にビクっと怯えるリンちゃん。そしてじわぁと涙がにじむ。
これはとんでもない金額かなぁ…。まぁ、お母様に借りれば問題ないでしょう。
「ママ…違うの…」
「うんうん…怒らないし、お金は大丈夫だから正直に言ってみて?」
「ちがうのぉ…」
そう言ってリンちゃんが指差す。
指をさす方を見ると、一面に広がったチップのタワーがあった。
「えっと…あのチップは?」
「私がぁ…当たったのぉ…」
「え…えぇ!?」
あれ全部リンちゃんの!?でもあれだけあったら何万…いや何億…?
でも、それならなんで泣いてるのかしら?
「じゃあなんで泣いてるの?」
普通は喜ぶところでは…?
「怖くてぇ…ママが…お金は大人が…苦労してお仕事して手に入る…大切なものだから…大事にしなきゃだめよって…でも…私ちょこっと予想しただけで…いっぱい…きっと私…悪いことしてる…悪い子だと…パパとママ…私のこと嫌いに…なるからぁ…!」
そういってからリンちゃんはとうとう大泣きしてしまった。
なるほど…急によくわからない大金が手に入ってしまって、その罪悪感で混乱しちゃったのか。
リンちゃん…天使!大金を楽に手に入れて悪いことしてるなんて普通は考えないわ!
「リンちゃん、たしかにこれは良くないお金の稼ぎ方よ」
私がそういうと、リンちゃんの涙がさらに大粒になって落ちていく。
「でもね、リンちゃんはこれは悪いことだってわかってるから悪い子じゃないのよ」
「ぐす…私…悪い子じゃ…ない…?ママとパパ…嫌いに…ならない…?」
「大丈夫よ。むしろママはリンちゃんがいい子ですごく嬉しいわ。だから泣かないで、ね?」
「ぐす…うん…」
「よし!いいこいいこ!」
リンちゃんの頭を撫でると、まだ少し涙がでていたが、嬉しそうににっこり笑った。
さてと…。
「クレアちゃん?」
私の声に反応してビクッとして、ゆっくりこちらをむく。
「クレアちゃんはどのくらい負けたのかしら…?」
「い、いやぁ…それは秘密にしたいというか、なんというかにゃ…?」
「…あとでおしおきね」
「ゆ、ゆるしてほしいにゃぁ!」
けっきょくクレアちゃんの損失分はリンちゃんがクレアちゃんを止められなかったという責任で、儲け分から払った。それでも充分すぎる金額があったけど…。
リンちゃん曰く「お金で…パパが来てくれるなら…欲しいけど…そうじゃないなら…いらない」とのことらしかったので返済に使わせてもらった。
しかし、私はあえてリンちゃんの拡張カバンにしまって、いつでも使いなさいと言った。
お金の使い方も知らないといけないし…。
そんなことがあって、港までのこり時間がせまってきたので、私は予定通り二人でお茶をしにいくことにした。
0
お気に入りに追加
239
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。
サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。
人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、
前世のポイントを使ってチート化!
新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
虚弱高校生が世界最強となるまでの異世界武者修行日誌
力水
ファンタジー
楠恭弥は優秀な兄の凍夜、お転婆だが体が弱い妹の沙耶、寡黙な父の利徳と何気ない日常を送ってきたが、兄の婚約者であり幼馴染の倖月朱花に裏切られ、兄は失踪し、父は心労で急死する。
妹の沙耶と共にひっそり暮そうとするが、倖月朱花の父、竜弦の戯れである条件を飲まされる。それは竜弦が理事長を務める高校で卒業までに首席をとること。
倖月家は世界でも有数の財閥であり、日本では圧倒的な権勢を誇る。沙耶の将来の件まで仄めかされれば断ることなどできようもない。
こうして学園生活が始まるが日常的に生徒、教師から過激ないびりにあう。
ついに《体術》の実習の参加の拒否を宣告され途方に暮れていたところ、自宅の地下にある門を発見する。その門は異世界アリウスと地球とをつなぐ門だった。
恭弥はこの異世界アリウスで鍛錬することを決意し冒険の門をくぐる。
主人公は高い技術の地球と資源の豊富な異世界アリウスを往来し力と資本を蓄えて世界一を目指します。
不幸のどん底にある人達を仲間に引き入れて世界でも最強クラスの存在にしたり、会社を立ち上げて地球で荒稼ぎしたりする内政パートが結構出てきます。ハーレム話も大好きなので頑張って書きたいと思います。また最強タグはマジなので嫌いな人はご注意を!
書籍化のため1~19話に該当する箇所は試し読みに差し換えております。ご了承いただければ幸いです。
一人でも読んでいただければ嬉しいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる
シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。
そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。
なんでも見通せるという万物を見通す目だった。
目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。
これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!?
その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。
魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。
※他サイトでも連載しています。
大体21:30分ごろに更新してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる