魔法の数字

初昔 茶ノ介

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3章:中等部編

船の中でちょっと

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私達は村近くの港へ向かう船に乗っている。
毎度毎度思うのはこの船、なんでも色々ありすぎていつも回りきれないんだよね…。

今は船酔い中のゴウくんをママに任せて、クレアちゃんと船の中を散策中。

「いやぁ、この船ほんとにいろいろあるにゃぁ。さっきのレストランなんて寮の食堂よりも豪華だったにゃ」

「たしかに…」

「あ、あっちも面白そうにゃ!」

「あ…クレアちゃん待って…」

さっきからこんな感じでクレアちゃんの後をついていってばかりだ。

「ここはなんにゃ?みんなカードを見たり、転がっているボールを見たりしてるにゃ」

周りを見渡してみるとたしかに、大人の人たちが難しそうな顔や、まるで神樹様に祈りを捧げるようなポーズをとったりしていて、いまいちよくわからなかった。

「クレアちゃん…ここ…ママが近づいちゃダメだって…」

「むむむ…それは何やら大人なもしろそぉーな臭いがするにゃ!」

「えぇ…」

心なしかクレアちゃんの目がキラキラ…いや、ギラギラしているように見えた。

「お嬢ちゃんたち、なんだ迷子かい?」

立ち止まっていると、一つのテーブルのウェイターのような格好をしたおじさんに話しかけられた。

「おじさん、これどうやって遊ぶにゃ?」

「これかい?これは転がしたボールがどの穴に入るかを当てるのさ。当たったら、賭けた分だけのお金に合わせてお金がもらえるってゲームだよ」

「お金が増えるのかにゃ!?それは楽しそうにゃ!」

「クレアちゃん…」

私はクレアちゃんの袖を引っ張りここから出ていくように促す。

「せっかくだからリンちゃんもやってみるにゃ!あ、でもクレアは今少ししかお金持ってないから、自分の分は出して欲しいにゃ」

こうなったらクレアちゃんは止まらないのはわかってる…あぁもう…。

「わかった…」

「やったにゃ!」

「そのかわり…私がクレアちゃんより多く当てれたら…ここから出て行く…約束して」

「むっふっふ…久しぶりにリンちゃんとの勝負にゃ…クレアが勝ったら、何してくれるにゃ?」

「私が負けたら…うーん…クレアちゃんのこと…お姉ちゃんって…呼んであげる…」

最近クレアちゃんと過ごしててわかったのは、クレアちゃんは家族に対して…特に姉妹に対してすごく憧れを抱いているということ。
この前も「クレアのこと、お姉ちゃんって言ってもいいにゃ」って言ってたし。
さて、これでいいかな…。
クレアちゃんはちょっと下を向いてから顔をあげた。

「絶対勝つにゃ…」

まさかの本気モード!?
ま、まぁ意気込みはともかく、これで私が勝てばここから出られるし…。

「お、どっちもやる気だねぇ。じゃあお金をチップに変えるから、お金を出してくれるかい?」

おじさんに言われたので、クレアちゃんと私はカバンからお金を出した。

「…え?」

おじさんが私たちの出したお金を見て絶句していた。
いまいちいくら出していいかわからなかったので、クレアちゃんと同じくらいの束を出したんだけど…おかしかったのかな。

「お、お嬢ちゃんたち…パパとママは何のお仕事をしてるのかな?」

「パパとママ…?パパは…研究で…ママは…先生…」

「んークレアのパパとママは死んじゃったからにゃぁ」

私とクレアちゃんのパパとママのことを聞いておじさんは考えるように手を口元へ持っていく。

(学者と教師の娘に、こっちは死んだ親の遺産か何かか?どちらにせよ、これは儲けるチャンスだぜ、こいつらからしぼれるだけしぼってやる!)

しばらく考え事をしていたおじさんが笑顔になって私たちを見る。

「よし!それじゃお嬢ちゃんたちのお金をチップに変えるから、預かるよ」

「うん…」

「いいにゃ!」

おじさんはそういって大事そうに私とクレアちゃんのお金を持っていく。
そしてチップが100枚返ってきた。

「じゃあルールを説明するよ。まず、投げるボールは全部で3つ。どこに入るかを予想してこの机の黒か赤の数字のところにお金を置くんだ。見てわかるように、賭け方は2種類あって、色だけを当てるか、数字も当てるのか、それはお嬢ちゃんたちの自由だけど、色だけの場合は全部当てれて⒈5倍、入る順番も当てれて⒈75倍だから、数字を当てにいって方がお金はたくさん入るねぇ」

「一番たっくさんもらえるのはどんな当たり方にゃ?」

「色と数字と順番が一致する場合だね。賭けた3つのお金を普通は足すんだけど、掛け算して、それに20倍にした分が返ってくる」

「なるほどにゃ…」

「わかった…」

「お、それじゃ始めるかい?」

ルールを聞いて私とクレアちゃんはさっそくチップを置いた。










「リーンちゃーん、クレアちゃーん」

ゴウくんくんが眠ったから退屈になって二人とお茶しようと思ったんだけど…全然見つからないなぁ。
あの子たちのことだからちょっとやそっとのことじゃ襲われても平気だと思うけど…。
甲板にもいなかったし、レストランにもいなかったし…どこにいったのかしら。

「おぉー!」

廊下を歩いていると急に横から大きな歓声が聞こえて、私は驚きで足を止めた。

「何かしら…?カジノ?」

まさか…いや、リンちゃんに近づいちゃダメよって伝えてあるし…でもクレアちゃんが一緒か…意外とリンちゃんは押しに弱いから…将来が不安だわ。
私はいないといいなと思いながらカジノの中に入っていった。
一つの机に大勢の人が集まっていたので、そこに行ってみる。

「あぁ…予想が当たったわ…嫌な方の…」

机に座っていたのは暗い顔をした二人だった。
私がいることに気がついたリンちゃんは慌てて私に走ってきて抱きついた。

「マ、ママぁ…」

あぁ…あのリンちゃんが涙目に…きっとぼろ負けしちゃったから取り返そうとしたけど、取り返しがつかなくなったのね…。

「リンちゃん、ここに近づいちゃダメって言ったでしょ?」

「ご、ごめんなさ…」

「おぉー!」

リンちゃんの謝る声が搔き消えるほどの歓声が周りの人たちからあがる。

「にゃー!なんでにゃー!なんで当たんないにゃー!」

クレアちゃんの高い声が聞こえる。
これはクレアちゃんも大負けかな…いくらになるかしら…。
私はあまりお金に困ったことはないのだけど、賭け事で苦労した人をたくさん知っているので、少し不安になった。とりあえず、現状確認を…。

「リンちゃん、いくら負けちゃったの?」

「負け…?」

「あぁ…えっと、あのおじさんにいくらあげなきゃいけないの?」

私の『いくら』という単語にビクっと怯えるリンちゃん。そしてじわぁと涙がにじむ。
これはとんでもない金額かなぁ…。まぁ、お母様に借りれば問題ないでしょう。

「ママ…違うの…」

「うんうん…怒らないし、お金は大丈夫だから正直に言ってみて?」

「ちがうのぉ…」

そう言ってリンちゃんが指差す。
指をさす方を見ると、一面に広がったチップのタワーがあった。

「えっと…あのチップは?」

「私がぁ…当たったのぉ…」

「え…えぇ!?」

あれ全部リンちゃんの!?でもあれだけあったら何万…いや何億…?
でも、それならなんで泣いてるのかしら?

「じゃあなんで泣いてるの?」

普通は喜ぶところでは…?

「怖くてぇ…ママが…お金は大人が…苦労してお仕事して手に入る…大切なものだから…大事にしなきゃだめよって…でも…私ちょこっと予想しただけで…いっぱい…きっと私…悪いことしてる…悪い子だと…パパとママ…私のこと嫌いに…なるからぁ…!」

そういってからリンちゃんはとうとう大泣きしてしまった。
なるほど…急によくわからない大金が手に入ってしまって、その罪悪感で混乱しちゃったのか。
リンちゃん…天使!大金を楽に手に入れて悪いことしてるなんて普通は考えないわ!

「リンちゃん、たしかにこれは良くないお金の稼ぎ方よ」

私がそういうと、リンちゃんの涙がさらに大粒になって落ちていく。

「でもね、リンちゃんはこれは悪いことだってわかってるから悪い子じゃないのよ」

「ぐす…私…悪い子じゃ…ない…?ママとパパ…嫌いに…ならない…?」

「大丈夫よ。むしろママはリンちゃんがいい子ですごく嬉しいわ。だから泣かないで、ね?」

「ぐす…うん…」

「よし!いいこいいこ!」

リンちゃんの頭を撫でると、まだ少し涙がでていたが、嬉しそうににっこり笑った。
さてと…。

「クレアちゃん?」

私の声に反応してビクッとして、ゆっくりこちらをむく。

「クレアちゃんはどのくらい負けたのかしら…?」

「い、いやぁ…それは秘密にしたいというか、なんというかにゃ…?」

「…あとでおしおきね」

「ゆ、ゆるしてほしいにゃぁ!」

けっきょくクレアちゃんの損失分はリンちゃんがクレアちゃんを止められなかったという責任で、儲け分から払った。それでも充分すぎる金額があったけど…。
リンちゃん曰く「お金で…パパが来てくれるなら…欲しいけど…そうじゃないなら…いらない」とのことらしかったので返済に使わせてもらった。
しかし、私はあえてリンちゃんの拡張カバンにしまって、いつでも使いなさいと言った。
お金の使い方も知らないといけないし…。

そんなことがあって、港までのこり時間がせまってきたので、私は予定通り二人でお茶をしにいくことにした。
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