魔法の数字

初昔 茶ノ介

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2章:学園生活

ありがとう…はじめまして

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「これが、リンちゃんが気絶したあとのこと」

ママからクレアちゃんの話を聞いて、私は涙が止まらなかった。
クレアちゃんはきっと辛かっただろう…。記憶を失くすなんて想像するだけで怖い。
私のためにそのリスクを背負ってキメラを退治してくれたのは複雑な感じだった。

何が学年1位だ…何が英雄の娘だ…何がクレアちゃんの友達だ…。
何も…何も守れてないじゃないか…。
情けないなぁ…悔しいなぁ…。

私は涙が止まらなかった。
何かに胸の奥がぐしゃぐしゃっと押しつぶされそうな感覚がした。

「リンちゃん…」

「ママ…私…ダメな子だね…」

「そんなことないわ…」

「私が…もっと…強かったら…クレアちゃんは…そんな悲しいこと…言わなかったかもしれないのにね…」

「自分をせめないで…リンちゃんはよくやったよ?」

「何もできなかった…私なんて…ダメな子だよ…」

「そんなことないわ!」

ママがそう言って抱きしめてくれた。

「リンちゃんはよくやったわ…リンちゃん達のおかげで、キメラによる被害はほとんどなかった。それに、リンちゃんがいなかったらハナちゃん達だって怪我をしてたかもしれないのよ?だから…リンちゃんは悪くない。私の自慢の娘。それでも相手が強すぎた。クレアちゃんが頑張りすぎちゃっただけなの。だから…リンちゃんは胸を張りなさい。クレアちゃんもリンちゃんも頑張ったの。今回はしかたがなかったの。だから…次はリンちゃんが守ってあげたらいいの。」

「ママ…私、強くなるね…強くなって…みんなを守れるくらい…強くなる…」

「そう…それでいいの。あなたはまだまだ小さいんだから…これからもっともっと強くなれるの。リンちゃんはパパとママの子なんだから」

ママの温もりを感じながら…自分の無力さを痛感しながら…私はただただママの胸の中で泣いていた。
絶対にもっと強くなる。
次は私一人でキメラを倒せるように。
誰も傷つけさせないために。


泣き止んだ私を見てから、ママは学園に戻った。
なんでもやることがあるんだとか。
私は、中庭にいき、クレアちゃんに会いに行った。

クレアちゃんはさっきの椅子で気持ちよさそうに日向ぼっこをしていた。
クレアちゃんが私に気がついてこちらを向く。

「あ、さっきの…えっと…」

「となりに座っても…いい?」

「もちろんにゃ」

了解を得て、私はとなりに座る。
いつも私のとなりの席にいたから、このままいつものように話をしてしまいそうだ。

「えっと、あなた、なんて名前だったかにゃ?」

その質問に少し胸が痛かったけど、私は笑って答える。

「はじめまして、リン・セルフィアっていいます」

「クレアはクレア・キャンディハートって言うにゃ!よろしくお願いするにゃ」

まるで…最初に教室で会った時みたい…。
ダメだ…泣かないって決めたのに…。
さっきたくさん出して、出し尽くしたと思ってたのに…涙がまた溢れてしまう。

「にゃ!?ど、どうしたにゃ?どこか痛いのかにゃ!?早く先生に…」

慌てるクレアちゃんの手を握って首を横に振る。

「大丈夫…気にしないで…ありがとう…よろしくね。クレアちゃん…」

「そ、そうかにゃ?それならいいけど…あ、あれ?」

涙を拭ってクレアちゃんを見ると、クレアちゃんの目からつーっと涙が零れる。

「な、なんでかにゃ…あなたの事、知らないはずなのに…今はじめてあったはずなのに…あなたが泣いてるのを見たら…心が辛くて…涙が止まってくれないにゃ…」

クレアちゃんはそのまま下を向いた。

「リンちゃん…ちょっとだけ…抱きついてもいいかにゃ?」

「……うん、いいよ」

「ありがとにゃ…」

クレアちゃんは近づいて私に抱きつく。

「なんでかにゃ…とっても懐かしい感覚がするにゃ…」

いつも私を抱きついていたもんね…。

「声を聞くだけで落ち着くし…」

毎日お話してたもんね…。

「ありがとうにゃ…」

「ううん、いいよ」

クレアちゃんが私から離れてお礼を言う。

「私も…ありがとう…」

助けてくれて…私と友達になってくれて…ありがとう。

「なんのお礼にゃ?」

「暖かかったから」

ほんとうの気持ちは心に閉まって、適当に答える。

「そうかにゃ?じゃあこれからいっぱい抱きつくにゃ!」

「ほどほどに…ね」

クレアちゃんはにゃははといつものように笑い、私もそれを見てふふふと笑っていた。
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