女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介

文字の大きさ
上 下
121 / 127
第四章

あなたにはもっと……

しおりを挟む
 檻を見ると、ウルルはボロボロの服を着ていて、横にしていた体を起こし力のない目でキョロキョロと私を探しているようだ。
 私は姿が見えるように手を叩く。
 私とライラの姿が見えるようになり、ウルルと目が合った。

「ウルル、よかった……生きてた……」

 ウルルのことは檻に捕えていると聞いていたけど、今こうして姿を見るまで気が気じゃなかった。
 生きているということしか聞いていないし、どのくらい怪我をしているのか、お腹を空かせていないか、こうやって確認するまでは安心できなかったが、檻の中に入れた私の手を掴むウルルの手から冷たいけどしっかりと無事であることをわからせる温もりを感じることができた。

「スノウの匂い……スノウのちっちゃな手……幻じゃない……」

 ちっちゃなはちょっと引っかかるが……その手を握るウルルは私の顔を見てポロポロと泣き出した。

「ばか……どうしてきちゃったの……これであなたも巻き込まれてしまうわ……。最初の予定とは比べ物にならないほどの危険があなたを襲うの……あなたの身に何かあったら……んぐっ」

 私はそんな心配事を話すウルルの口の中にポケットから取り出した金平糖を突っ込んだ。

「そんなの、友達だからに決まってるじゃない。あなたは私の料理を美味しいって言ってくれたの。ウルルにはもっともっと美味しいもの食べてほしいの。だから、ここから出てまたお店に来てよ」

「スノウ……でも、私……怪我しちゃって……こんな状態じゃ逃げるのは……」

「こんな状態? どんな状態?」

「え……?」

 ウルルは私の手を離して、手錠のついた手で自分の体をペタペタと触る。
 
「怪我が……治ってる」

 私がウルルの口に入れたのは、舐めている間、体に異常があれば治癒するというおまじないチャームをかけた金平糖だ。
 こんなこれ一粒で病気も怪我も、超速で治ってしまう。まぁ、効果が絶大すぎて王妃様から使用するのを禁止された秘薬に扱いされてるものだけど……。

「スノウ! これはあなたのお菓子の能力ね!? もう一つ私にちょうだい!」

「え? でもウルルの体はもうどこも……」

「私じゃない……パパはもう体が限界なの……!」

「え!?」

 ウルルの後ろをよく見ると、壁についている手錠に繋がれた男性がぐったりとしている。

「は、早くこれを……」

「……っ! お嬢様!」

 ウルルに金平糖を渡そうとした時、ライラに押され私の体は横へと倒れる。
 その数秒後、緑色の風が襲い掛かり膝をつくライラのメイド服がボロボロになり、ウルルも檻の奥へ吹っ飛ばされた。

「ライラ! ウルル!」

「まったく……城内に嫌な雰囲気がしているから見に来てみれば、やはりネズミが紛れ込んでたみたいだな」

 男の声がする方を見ると、檻と反対の方から背中に翼が生えた男が歩いてきた。
 
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

処理中です...