女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

第一章

さてコック長、お覚悟を願います

私は自分の料理を皆さんの前に出していく。

「スノウ嬢…これは？」

「3種の野菜スティックとディップです」

私は前菜に簡単に食べられる野菜スティックを選んだ。
これならディップした調味料を食べてもらえるし…決して時間がなくて、短縮したかったとかではない。そう楽をしたかったわけじゃない…。
心で自分に言い聞かせて、皆様の反応を伺う。
グラスに入った棒状の野菜を、全員が凝視している。
ちなみに、用意した野菜とディップはキュウリ、ダイコン、ニンジンにマヨネーズ、ポン酢、甘辛味噌だ。

「なんだこれ？ほんとに食い物か？」

「こんな料理は初めて見た。スノウ、これはどうやって食べるんだい？」

ミラさんに聞かれ、皆様の視線が私に集まる。
私はにっこりと笑って、説明した。

「それは手に持って、お好みのディップをつけて召し上がってください」

「手で食べろですって！？そんなはしたないことできるわけがないわ」

エオイス様がキッと私を睨み、ちょっとたじろいでしまった。
だって怖いんだもの…。

「しかし、そうでなくては食べにくいと思いますよ、エオイス様」

ミラさんが私の様子を見てフォローしてくれた。

「そんなこと知りませんわ、所詮は野菜、珍しくとも変わりはないでしょう」

「そんなことを言わずに…その橙色のものだけでも食べていたたけませんか？」

私がエオイス様の近くに寄って、涙目で訴える。こうなったら女神様が可愛い女の子にしてくれた恩恵をフルに使っていくしかない。

「な、なんで橙色のだけ？」

さすがに泣かせたことに罪悪感を覚えたのか、理由を聞いてくるエオイス様。

「そちらの野菜はニンジンと言って、女性の皆様のために入れました。王妃様や側室の皆様、ミラさんの美しさに磨きがかかるよう、美肌効果のあるものです」

「この野菜にそんな効果がありますの？」

「はい、ですので是非、その橙色のものだけでも…」

「わ、わかりましたわ。ではこれだけ…」

褒められて悪い気を起こす人はいない。エオイス様は恐る恐る手でニンジンを持つ。

「これはどれをつけたらいいんですの？」

「そうですね…皆様は薄い味に慣れてらっしゃるので、薄黄色のものから、初めは付けすぎず、少しづつつけて召し上がってください」

「わかりましたわ…」

エオイス様はニンジンにマヨネーズをつけて、恐る恐る口に運ぶ。
カリッと心地いい音がして、しばらく噛んだ後、飲み込んだ。

「美味しい！こんな味、初めてですわ！」

やった！
美味しいと言われて心の中でガッツポーズを取る。
エオイス様を見て、他の人もどんどん野菜スティックに手をつける。

「これはしっかりと味がして本当に美味しいですね」

「うむ、これは味が濃くて、のどが渇いてしまうな…水を持ってきてくれ」

「あ、お待ちください！」

味噌を食べた王様がメイドさんに水を頼むところを止める。
きっと王様ならそう言うと思って、用意してましたとも…。

「王様、こちらをどうぞ」

「む？黄色の水？しかし、泡が出ている…なんとも不思議なものだ」

「これはビールと言って、お酒の一種です」

「おさけ？」

王様がそう聞き返してきたのに私は驚愕だった。
まさか…お酒すらないなんて…。みんなまさか水を飲んでるの…？

「えっと…簡単に言うと、飲んで気分がよくなる飲み物…らしいです」

「ほう？スノウ嬢は飲んだことがないのかね？」

「はい…大人になってからでないと飲んではいけないという決まりが私の前の世か…国ではあったのです。子どもは飲むと成長に影響が出ると。しかし、私の父は毎晩、仕事を終えてこれを飲むのが楽しみと言うほど、美味しいものだそうです。その野菜をつまみに召し上がってください」

「なるほど…では、いただくとしよう」

「あ、口の中で味わうのではなく、ぐいっと飲んで、喉で楽しむものだと、父が言っていました」

「うむ？なかなか難しいのだな。では…」

王様は言われた通りぐいっとビールを1口飲んで、グラスを置いた。

「これは美味い！口の中で不思議な感覚が味わえる。さらに、この野菜とも相性がいいようだ。どんどん食べたくなる」

そう言って野菜スティックをまた食べ始める王様。
よしっ！掴みは完璧…さぁ、コック長。完膚無きまで叩きのめしてあげます！