女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介

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第一章

この世界のことを聞きました

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「もう落ち着いたかい?」

「はい…」

私が泣き止むと、王子様は胸ポケットからハンカチを出して涙を拭いてくれました。

「ところで、どうしてこんなところに?1人できていたのかい?」

「えっと…気がついたらここにいて…」

「気がついたら?よかったら私に事情を話してごらん」

私はここまでのいきさつを王子様に説明することにした。
ただ、男だったのが女になったとか、異世界にいただとかは話がややこしくなりそうだったので割愛させてもらった。
あと、おばあさんに会ったところまでは記憶にはっきり残っているが、その前の記憶は曖昧になっているということにしておいた。

「なるほど…では、君はその謎のおばあさんによってここに転移させられたと」

「そういうことになりますね…」

「ふむ、それは困った。どこの街から来たかがわかれば送ってあげたいが、それも曖昧では…」

「ごめんなさい…」

私が謝ると、王子様は笑顔で首を振った。

「いや、困っているのは君の方だし、私こそ力になれなくて申し訳なく思っている。とりあえず、私の街まで行こう。この森は魔獣や先ほどのような盗賊がたくさんいるからね」

そういって王子様が口笛を吹くと、馬が走ってきた。白くはなかったけど。
先に王子様がまたがり、私に手を伸ばした。

「お手をどうぞ、お嬢様」

う…王子スマイルがまぶしい!
私は王子様の手に掴まって、引っ張ってもらいながら馬に乗った。
ちなみにスカートなので、またがるのではなく横向きに座った。
王子様が手綱を軽く振ると、馬が再び動き出した。
私を乗せているせいか、登場した時よりもゆっくりと動いている。

「そういえば、まだ名乗ってなかったね。私はミラルド・ヴァン・レインバルト。周りからはミラとよく呼ばれている。君は…名前は憶えているかい?」

「え、えっと…」

どうしよう…名乗ったほうがいいのはわかるけど冬樹幸なんてこんな、いかにも西洋~みたいな人に通じないよね…。
ここは適当に偽名を…。

「ス、スノウです。スノウ・ウィンターウッド…」

うわっ、我ながら安直…。

「それで、スノウ。スノウはどんな異能が使えるのかな?」

「異能…?」

異能ってなんだろ…魔法みたいなものかな。
でもさっきの人たちは使わなかったし、使える人と使えない人がいるのかな。

「異能のことも知らないのかい?」

「ごめんなさい…」

「あぁ、記憶が曖昧だから忘れていてもおかしくはないのか。じゃあ、基本的なことを教えてあげよう。私たちは5歳になると、教会で刻印の儀をするんだ」

そういえば盗賊も刻印がどうこういってた気が…。

「刻印の儀を終えると、一人一人にあった異能が与えられる。その証拠として、心臓の上、左胸のやや上あたりに刻印を刻まれるんだ。こんな風に」

ミラさんは服を少し引っ張り、刻印を見せてくれた。
ミラさんの刻印は黒い色の剣の形をしていた。

「形は人それぞれ違うけど、色は異能の種類を表しているんだ」

「種類?」

「そう。赤は火、青は水、緑は風、黄は雷、茶は土を表している」

へぇ…あれ?でもミラさんは…。

「ミラさんの黒色は、何なんですか?」

「あぁ…たまに、その5色以外の色になる人がいるんだ。黒はそんなにたいしたものじゃないよ」

そう言ってミラさんは苦笑いしていた。

「スノウの刻印は何色なんだい?」

「えっと…ないんです。刻印」

「え?本当かい?それはまた珍しい…」

「そうなんですか?」

「この辺の国や村なら刻印の儀はだいたい行っているからね。相当遠くから転移させられたのかもしれない」

そりゃ…異世界だしね…。
今の日本でそんな儀式してたら確実に宗教団体と勘違いされるよ。

「このあたりではどんな国があるんですか?」

「そうだね…まずは今向かっているレインバルト。北には宗教国家テレーザ、南に軍事国家ワホン、東に妖精の国フェリー、西に獣人国ビースが大きいね」

そんなに国があるんだ…。それにさすが異世界、妖精や獣人なんて人もいるんだ。

「あ、見えたよ。あれがレインバルトだ」

ミラさんの指さす方を見ると、まだ遠いけど、大きな壁らしきものが見えた。
最初は襲われて怖かったけど、優しい人に助けて貰えてよかった。
あの街には盗賊のような人たちがいないことを祈りながら、馬は街に一歩一歩近いていった。



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