女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介

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第四章

作戦の最終段階

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王宮の料理人になって3日が経った。
私はレインバルトにいる時のようにブルダに朝昼晩の三食の食事を作っている。

この3日でなんとなく情報収集をしてみた。
ゲイルさんやゲイルさんの集めた仲間の人達によると、三獣士の登場によってガルル王が負けたことはやはり事実なようだ。
ウルルはガルル王と一緒に地下の牢に捕らえられているらしい。

今日も作りたくもない朝食を作り、食べ終わった食器を片付けているところだ。

「今日も素晴らしい料理だった。スノウよ」

「お褒めにあずかり光栄です」

「余はそなたを気に入った。今までの料理人は皆、毒を入れていたからな。暖かい料理など久方ぶりだった」

「そうなのですか…」

そうか…たしかにそれなら毒味をさせるのも仕方ないことなのかも。
いや、だからってウルルとかガルル王にしたことは許さないけどね。

「うむ、これからも頼む。この3日の働きでそなたに褒美をくれてやりたいのだが、何か欲しいものはあるか?」

きた!これを待っていた!この褒美のタイミングを!

「欲しいものはないのですが…一つお願いをしてもよろしいでしょうか」

「ほう?なんだ、そのお願いとは」

「レインバルト近くの村にいる人へ、手紙を書きたいのです」

「手紙?」

私はここで食器を一度置き、しみじみとした空気を作る。
演劇部の部長曰く、役になりきるには気持ちを作るところから始めるそうだ。そして、そのコツはその劇のシナリオの設定を心を込めて口にするといいそうだ。

「はい…私はレインバルトの近くの村で育ち、そこから料理に興味が出てレインバルトで料理のお店を出せたらなって思い、村を出たのです。出るときは村の皆さんに暖かく送り出してもらいました。しかし、レインバルトではうまくいかず、レインバルトと同盟を組んでらっしゃるビースで再起を図ろうと思っていたのです。幸にも私はブルダ様に選んでいただき…もう安泰でございます。だから、その旨を村のみんなに伝えたいのです」

はい、全部嘘です。レインバルトではお店を出して順風満帆です。
でも、多少は私を信用しているのだから、寂しそうな雰囲気を出せば行けるだろう。

「そうか…わかった。しかし、条件がある」

「条件ですか…?」

「そうだ。余の名前を書かぬこと。書いた内容を余に見せること。この2つだ」

「承知いたしました。では、書いてブルダ様の元に持ってまいります」

「うむ。では次の食事も楽しみにしているぞ」

「はい、腕によりをかけます」

私は薄く涙を浮かべながら笑いを作り、食器を片付けて部屋を出た。
演技がどんどんうまくなっていく気がする。
もし、現実世界に戻ったら演劇部に入ろうかな。
そんなことを考えながら、私は厨房に戻っていった。
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